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◆プロローグ◆


◆軋む時空に、復活を願う


 時折、目の前の景色が揺れる事がある。
 いや、歪むと言った方が正しいだろうか。
 それは砂漠で見つけたオアシスのように。それは夢から醒めた瞬間の幻想のように。
 この世界の人間ならば誰もが感じた事のある違和感。
 その理由を知る者は少ない。
「約束された滅び……今回はどんな結末を迎えると?」
 ディヘナ中心部に聳え立つ塔の最上部にある広い空間。
 そこへたどり着いた神の手の幹部、【リゴレット】は問いかける。
(それを決めるのは我々ではない。我々に出来る事は神の選ぶ運命をどう受け止めるか、というだけの事)
 その問いに【スローベイン博士】は淡々と答えた。
 といっても、そこに実際のスローベインの姿はない。
 何故なら、かの伝説的な魔法博士スローベインは、既に十年以上も前にその肉体を失っているのだから。
「神が運命を選ぶというならば……貴公こそが運命である、そう言いたいか」
(私は魔石に宿る力を知り、その使い方を見つけたに過ぎない。それを神と崇め自身の力にしようと考えたのは君達だ)
 リゴレットは、目の前に輝く大粒の魔石を見据える。
 そこから聞こえて来る彼の声色からは迷いや、喜びといった類の感情というものが微塵も感じられない。
(私が神とは思わない。だが生前の記憶を持つこの魔力思念体を魂と呼ぶのなら、魂となり魔石に定着している私は最早人間ではない)
 なぜだろう。
 リゴレットは自分と、並び立つスレイブ【ジルダ】が値踏みをするように見られているような気がした。
(だが少なくとも、肉体を持っていた頃の私は魂を消させない事に執着し、その結果を神の御業と呼んでいた事実に変わりない)
 その時、輝く大粒の魔石の影から、二体のスレイブが姿を現した。
 どちらもうら若き少女のような風貌であり、およそ戦闘には向かないであろう。
 彼女達を人間と呼べるのか。
 それを決めるのは各々の仕事だ。
 だがリゴレットには、彼女達の瞳が人間らしい迷いを持っているように感じられた。
「……くっ、くくくくくっ……」
 一体自分は何を気にしているのだろうか?
 目の前のスレイブなどどうだっていい。
 自分の妹がこのまま生き続けられるのならば。
「ならば精々……その御業に魅入られてしまった哀れな道化として、この世界の最後を見届けるとしよう」
 

◆輝く光に、栄光を願う


 帝都ディナリウム。それは魔石により繁栄を極めた小さき村。
 そして今、その魔石が放つ光によって、この村から人々は消え去った。
 そこに一人残った皇帝【マクシミリアン】は、その光の中に溶け込むようにして存在していた。
(この力があれば……世界は、私の前に跪く)
 父は、初代皇帝には実力があった。
 対外的交渉力。内部統制、軍事力と新規兵器の運用。
 それは所謂カリスマというやつだ。
 技術を磨くことは出来たとしても、天性の才もまた大きな要因である。
 マクシミリアンにはそれが欠けていた。
 幼い頃より兄弟たちより身体が弱く、頭脳でも到底父には叶わない。
 病床に伏せる時、近くで拾った輝く石ころの温もりだけが、彼の心を癒していた。
 そうしたときの流れの中で、彼はふと理解した。
 日に日に、自身の病状が和らいでいく。
 日に日に、頭がすっきりと冴えわたる。
 きっとこれは、僕の持っている石が持ち得る力なのだろうと!
 なんて素晴らしい!
 幼心に、それを人々に伝えたかった。
 それだけは確かな心であった。
 そしてそれすらも、彼は思い出せなくなっていた。
(私が、導くのだ……! 父を超える皇帝として、この力で人々を、更なる高みへとっ……!!)
 光に包まれた都市は、徐々にその光へと溶け込んでいく。
 道路も、城壁も、人々が住んだ歴史も、魔石に出会うまで元気であった愛犬の首輪も。

 やがて人であった彼は光と同化し、その姿を変える。
 人という種族の形をそのままに、光が広がるように30m程に膨張した彼の肉体は、遠くに点在する小国家へと進軍を始めた。
 (私ガ……導ク……!)

◆澄み渡る空に、未来を願う


 謎の巨人が立ち上がったのは、このズール低地に位置する各国家からも良く見えていた。
「あれが……魔石の力なのか……?」
 帝都ディナリウムの崩壊から冒険者達の活躍によって逃れることが出来たディナリウムの将校【ディオニソス】は、現在デールという国に身を寄せていた。
 彼がいるこの国の他に、ゼヒト、カイナム、オールサン、キム、アーテ、ソノマの六カ国は【英雄連盟レーヴァテイン】という同盟を組んでいる。
「ふみゅ~……。また変な事になってるねぇ~」
「なっ、誰だ君は?」
 驚く彼の横に突然姿を現した少女は、眠たげに目を擦る。
「ん~? アタシは【マリア=フラジャイル】~。一応皆には武神様って呼ばれてるよ?」
「ぶ、武神だと!?」
 その言葉に彼は思わず飛びのいた。
 それは魔石が現れるよりも遥か昔の旧時代、魔族を滅ぼし世界に平和をもたらしたという伝説の存在七英雄。
 そんな彼らの力と武器を受け継ぐ者を、英雄連盟では武神として崇めていた。
「まぁ別にアタシ普通の人間だけどネ~。色々カラダはイジられちゃってるかもだけど! ニャハハ~」
 それに神様の友達だっているんだよ! と胸を張る彼女。
 その体は未成熟ではあるものの、立ち振る舞いから感じられるオーラは、彼女が見た目通りの存在ではない事を彼に知らせていた。
「き、君ならあの化物を止められるというのか!?」
「ん~どうだろ。多分無理じゃないかなぁ~」
「そんな!? 君は伝説の武神なのだろう?! やってみもしないで……」
「やったよ? もう何度も」
 食い気味に、けれど冷静に。
 その当たり前だと言うような態度に思わずディオニソスは言葉を失った。
「最初の1回は何とか相打ちで済んだんだけどね~。その後はゼナンとかいう感じの悪いエルフのお兄ちゃんに大地引き裂かれちゃったりでさ~」
 彼女は自身の覚えている限りの歴史を話す。
 冒険者達と協力し辛くもマクシミリアンに勝利、しかしその戦いで自身が力を失い、その隙をついてリゴレットやアルゴーが暗躍し魔石の光が世界を包んでしまう歴史。
 魔石を滅ぼすことが出来ても、ゼナンというダークエルフによって大地は崩壊し、生者は全てノーライフキングへと変えられゼナンに支配される歴史。
「アタシけっこーバカだけど、これでも色々考えてやってみたんだからねっ!」
 ぷくーと頬を膨らませるその様子は、本当にただの少女そのものだ。
「でもでも! 今回はいい感じだよね!」
 そう、しかし今回は違った。
 冒険者達や妖精、その妖精を守護する者達の活躍によって、既にゼナンは滅び、ディナリウムの崩壊に巻き込まれた人々もいない。
オマケにセイントクロスの技術を比較的早く取り込むことが出来た。
「大抵の人は魔石の光に飲まれちゃうと、倒さないといけなくなっちゃうしさ。ゼナンの方まで手が回んないからそっちが間に合わなかったりだったけど、これならやりたかった事が出来そうだよ~!」
「やりたかった事?」
 ディオニソスの問いに、彼女は低地の中でも広く広がる土地を指さした。
 すると何かの魔法が解けるように、7つの船が姿を現す。それは巨大な飛空艇のように見えた。
「どうどう!? 国の皆に頼んで作ってもらったの! セイントクロスさん達の空飛ぶソリを見てさ、 地面が割れちゃうなら空に逃げれば取り敢えず何とかなるかなぁ~って思って!」
「そ、それはすごい考えだな……」
 えへへ~と笑う彼女だが、彼は彼女を褒めたというよりあまりに突拍子もない考えに驚いただけである。
「でも動力はどうする? あれだけのサイズ、浮き続けるだけでもかなりの燃料が必要となるはずだ」
「うん、それなら~……」
 彼女は胸に手を当てると、そこから魔力の剣を作り出す。
 そしてそれを飛空艇の方向へ投げ放つと、剣は7つに分かれ飛空艇へと溶け込んだ。
「ほら! これで内部にアタシの武器とそれに込められた魔力が宿るから暫くはダイジョブ!」
「とすると……君はどう戦う?」
「……あ」
 暫しの沈黙が彼らの間を流れる。
「ま~どうにかなるなる~! 後の事は【ナナシー】に任せるとするよ!」
 彼女は友達の名前を呼ぶと、ディオニソスに頭を下げた。
「後はアナタにもお願い! アイツ止めるの手伝ってほしいの! 後は皆の船までの誘導ね? それから~……」
「ああちょっと待った! 順番に整理させてくれっ!」
 なんてハチャメチャな神様だ。内心そう悪態をつくディオニソスであった。

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 これは滅びを迎える世界の物語。
 間違った滅亡(おわり)を回避し、正しき終末(おわり)を迎えるために。
 あなたはこの世界に、何を残すのでしょうか?


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