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  リザルト

●紋章

 夜の闇にひらめくマント、それは月光を受けて鈍く光る。
 怪しい者達、祭典の裏で動く者達、彼らがよい存在であるわけがなかった。現にその行いを確認して『アンネッラ・エレーヒャ』は真っ先に迎撃されている。
「っ!」
 頬にかすったナイフ、僅かに浮き上がる血をぬぐってアンネッラは路地裏をかけた。
「私は私の出来ることを為しましょう」
 そんなアンネッラを送り出すために『カーリー』が前にでた。
 本当であれば出店を回るつもりが、信徒と遭遇することで戦いの祭りが始まってしまう貧乏くじをひかされたのだ。
 と言っても力と力のぶつかり合いを好むのであながち悪い展開でもないかもしれないが。
 カーリーは両側から迫る斧使いの使徒を迎撃する。片方の信徒に一撃加え、返す一撃で逆サイドの信徒を鎮める。
 さらに目の前に信徒たちが集まってくるがここは通すわけにはいかない。
 敵のナイフが月光を写す。
 背後で仲間たちが散っていく気配を感じてほくそ笑んだカーリーは敵の集団の中に喜々として突っ込んでいった。
 敵と認識した相手には容赦なく、命を助けるということはない。
 戦いとは他者を屠るためにあり、それ故に手加減はなしだ。
「神の手に逆らう者がいるとは」
 怪しい人物たちは神の手を名乗った。そのマントの男たちを迎撃するのは味方にまかせ、アンネッラ達は紋章の調査に乗り出した。
 建物の窓のさんを掴んで駆け上がり大跳躍。屋根を飛び越えてそのまま着地、目の前に設置されていた紋章へと手を触れた。
 次の瞬間、物陰から飛び出してくる敵兵。斧を持つ者が前衛、ダガーを持つ者が後衛のようだ。
 狭い路地裏。敵は一直線に並ばざるをえない。
 ならば。こちらの独壇場だ。
 そうアンネッラは魔術を放つ、爆炎に包まれる神の手の構成員。
 その背後から突貫してきたダガー使いの腕をとって背負い投げ、壁に叩きつけて気を失わせた。
「これはどのような仕掛けがあって、設置されているのでしょう」
 検証好きの性が表に出かけるが、触れた瞬間危険なものだという事を察知。
 すぐさま魔力を注ぎ込んで破壊する。
「まだまだあるみたいだよ」
 トュルーがそうつぶやき操作を再開するアンネッラ。そんな彼女に、
「アンネッラさんですね、マッピングが完了しました、これを確認してください」
 と、『ニルス・フェルプ』が地図をみせて状況を伝える。
「どうやらこの都市を三重の丸で囲うように紋章が撃ち込まれているようです。それを意識して破壊してください、あとは再設置にも注意です」
「他の人には?」
 少し人見知りを発揮するアンネッラ。そんな彼女の問いにニルスは答える。
「なるべくチームを組んでことにあたるようにお願いしています。アンネッラさんは私と」
 そしてニルスは背後を振り返る、その視線の先のから現れたのが『イチイバル・フェルプ』 だ。
 その腕から発される膨大な魔力を空に投げると、上空から襲いかかろうとしていた神の手の物を一撃で焼き払った。
「敵が集まってきた、いったん移動しよう」
 その場にいた全員が一意バルの言葉に頷いた。
「第一に優先するのが生存、そして、第二に紋章の破壊です」
 そして冒険者たちの長い夜が始まる。


●神の手とは

「我らが教義の前にひれ伏せ、愚か者ども!」
 そうパレードの喧騒にも届きそうな金切り声が響き煌々と光がともされる。
 魔石由来のエネルギーが杖からほとばしり。それを受けて『コトト・スターチス』は吹き飛んだ。
 木箱の群の中に頭から突っ込み 全身に擦り傷を作る。
 コトトは歯噛みする。
 敵の数が意外に多いからだ。
「コトトお嬢様は、この身に代えてでもお護りします」
 そんななか『リテラチャ』は主であるコトトの目の前に立った、襲いくる銀色のローブたちの前に立つ姿は勇ましい。
 だが、多勢に無勢。
「祭りの盛り上がりに水を差そうってのはいただけんな。 お前さんがたの神様ってのは風流を解さんのか?」
 その時である、月光を背景に『ワイアット・R・ジェニアス』が屋根の上に姿を見せた。
 その手の刃を振りかぶって、上空からの切りおろす。
 それを間一髪でよける神の手。
 その時暗がりから唐突にダガーを手にしたローブの男が襲いかかってきた。
 その奇襲をコトトが防ぐ。
「大丈夫ですか!?」
 そう振り返るコトト、その隣を疾風のように駆け抜ける者がいた。
 暗闇に潜むのは敵ばかりではない。
『ステラ・ザクセン 』は集まってきた神の手構成員と立ち回りを演じる。
「祭りの日に無粋な連中ね」
 祭りに参加する予定だったが邪魔されたので不機嫌なご様子、そのイライラを込めた片手剣で敵を切り裂き、振り返りざまに小型盾を押し付けるように音を防御。放たれた魔法弾をワイヤットが切り裂いて、その隙にと突貫したステラが杖持つ神の手を切り伏せた。
 一瞬攻防に隙ができればステラはバックステップ、敵から距離をとり『エノン・ザクセン』と背中合わせに立つ。
「二時の方向から魔力反応」
 エノンが告げると各員散開、新たに招きよせられた敵を迎撃する。
 その一撃に杖を断ち切られた神の手の者は這いつくばって許しを乞うた。
「ひっ。助けてくれ。俺はまだ死にたくない」
 そんな男を冷静に見下ろしてワイアットは相棒である『クーサモラエスクワックェルクラントーム』に告げる。
「クー、悪いが遠くからの攻撃に警戒してくれ。 ワシは正面からこいつらを抑え込む。 あまり広くは見渡せんからな」
「はいはい、ワイアット。 おじーちゃんなんだから無理しないでね」
「ワイアットさん! 怪我してるじゃないですか」
 そうコトトは歩み寄り、助けてもらったお礼にと治療を始める。
「助かるぜ」
「あまり単独行動はしない方が良いかもしれません」
 そうワイアットと話をしているコトトの背後で、リテラチャーは杖を持っていた神の手の衣服をまさぐる。
 紋章に手を触れて破壊し、魔力の残滓をたどる、周囲にまだ異様な気配がある。紋章は数多く設置されているのだろう。
 リテラチャーは分析結果をコトトに告げる。
「担当箇所の割り当て表みたいだね」
「他の紋章の場所も記されてます、行ってみますか?」
 そうコトトが尋ねると、ワイアットは意気揚々と一歩踏み出す。
「でも、老眼って近くのものが見えなくなるんじゃなかったっけ?」
「余計なことを言うんじゃない」
 そうワイアットはおしゃべりな相棒を嗜めて次の獲物を探す。
「さっさと終わらせて、今度こそお祭りを楽しむんだから! あ、リンゴ飴食べたいかな」


   *   *


『エルカ=ファンセ』は夜を走る。
「神の手ですか……我らが博愛の神はこのような人を傷つける行為を許す筈ないでしょう……」
 そうエルカは眉をひそめて暗闇から飛来するナイフを叩き落とす。
「その様な悪しき悪行、私が神の名の下に成敗致しましょう……」
 そう告げつつエルカは物陰に隠れる。
「しかし、これからどうしましょう」
 エルカは戦闘などは不得手だ。
 一人で戦況を動かすことはできない、ならば。
「私は癒して回るのみ、神よこの者達に癒しを」 
 直後物陰から躍り出たのは同じシルエット、双子の娘がまるで影法師のように解け合い、また左右に散った。 
 その動きに、エルカを殺せると思っていた男たちは驚き青ざめた。
「キヒヒッ……面白そうなのがこの祭り騒ぎに乗じて紛れ込んでるみたいじゃん……?」
「おやおやアーレさんは血の気が多いですねえ……楽しそうで何よりですよお……」
『セーレニア=シャゴット』そして『アーレニア=シャゴット』が暗闇で侍る。
 二人はまるで踊るように神の手の構成員たちの命を奪っていく。
 暗闇に肉のさける音、骨のひしゃげる音が響いて、やがて誰も動くものなど無くなった。
 先ほどまでこの双子は戦い過ぎで動けなくなっていたのだがエルカの治癒で動けるようになったのだ。
「じゃあワタシらも楽しもうじゃねえかァ……なァ?」
「私は紋章に興味があるのでそちらを探しますよお……」
 セーレニアは告げる。
「セーレニアァ…… ワタシはぶっ殺して回るぜェ……ヒヒッ……」
 アーレニアはそう笑いながら答えた。
「お互い楽しみましょうねえ……」
 告げると揺らりゆらりと双子は人の気配のする方へと潜っていく。


●暗躍阻止

 冒険者たちが動き始めて数時間、敵の出方がだいたいわかってきたころ。情報も集積され、それは今や『羽奈瀬 カイ』の手に逢った。
 ディヘナの地図を用意しそこに細かく紋章の位置を書き記していく、破壊した紋章についてはバツマークを刻んでいき、すぐにわかるようにする。
 それを仲間たちと共有し、ここから快進撃が始まるというところだ。
「まだこんなに数が……」
 だが敵も必死である、紋章の設置もままならずむしろ数を減らしているとあれば、お叱りは免れない。決死の覚悟で挑んでくる。
 『ヴァルター・フェルト』はナイフによる奇襲を間一髪のところでよけながらカイをリードして走った。
「背後に人の気配があります」
 そうカイの相棒である『アリア』が告げると、カイは会えて敵を泳がせる。
「鬼さんこちら、ってね!」
 そうヴィルターが悪戯っぽく告げるとさらに加速して路地裏を走る。
 だがやがて二人は袋小路に誘い込まれてしまう。
「さすがにきついねー…………傷も無視できなくなってきたなー」
 そうヴィルターは冷や汗をうかべながら、神の手の構成員を見た。
 だいぶ倒したはずなのに目の前には五人もいる。
 その五人の中の二人が杖を構えそして。石すら溶けそうな温度の火炎弾を放つ。それが着弾して爆発した。
 すると、空に光の粒子が飛び去っていく。
 カイは微笑む。
「自分たちで壊すなんて、ね」
 二人は間一髪で攻撃を避けていた。その攻撃が紋章にあたり、破壊されてしまったのだ。
 神の手の中に動揺が走る。
 次いで神の手の背後から『星野秀忠』が高速で迫った。
 一子相伝のタイキック。それでリーダーらしき男が吹き飛んだ。
「字が汚い人の『ス』と『ヌ』って分かりづらいですよね」
秀忠は魔法陣の中の一文字だけそっと書き換えていたのだが、こちらの動きに気が付いて合わせたのである。
「パレードに参加される方ですか? それとも…………迷子?」
「鬼ごっこはここまでだよー」
 告げたのはヴィクター。逆に退路を断たれた神の手たちはやっと自分たちが誘導されていたのだと気が付く。
「ここを突破して、紋章は全て破壊させてもらう」
 そうカイが告げると最後の戦いが始まった。

執筆: 鳴海GM