プロローグ
ここに邪な思いを抱いたスレイブがいる。
彼女はご主人様である冒険者の事が大好きである。
好き過ぎてもうどうしようもないんである。
しかし、冒険者は大変にストイックな性格で、スレイブの事を相棒として大事にはしてくれるが、恋愛対象として見てはくれなかった。そもそも、恋愛ごとに興味がなく、自分を鍛えて冒険者として名をあげることしか考えていないのだ。
スレイブは切ない思いをもてあましたあげく、バレンタインにかこつけて、チョコレートを作る事にした。
愛のこもったチョコレートである。甘いのがそれほど好きではない冒険者のために、甘さを控えてラム酒を入れて。一生懸命チョコレートを作るのだ。
そして、彼女はあやしい露店の薬屋から手に入れた『惚れ薬』を数滴入れた。
無味無臭のその薬品は、惚れ薬を飲んで最初に見た人間と永遠の恋に落ちてしまうとのことである。
(ああ、マスター! いけないスレイブをお許しください。でもこうでもしないと、マスターは私の気持ちにも気づいてくれないじゃないですか……)
本当に邪なスレイブもいたものである。
そして、そんなスレイブを信じ切った生真面目でストイックな冒険者は、彼女が一生懸命作ったと知って、平気でチョコレートを喰ってしまったのであった……。
解説
※シチュエーションは本文通りでなくてもかまいません。
※スレイブが作った惚れ薬入りチョコレートを冒険者が食べてしまうエピソードです。
※惚れ薬 本当に効いてしまって、スレイブを恋人だと思い込み、平気でハグしたりキスしたりし始めます。普段では考えられないようなお花畑な口説き文句を言ったり、手を握りたがったり、くっつきたがったり……。
(公序良俗にはくれぐれも気をつけてください。キスまでです!)
効果は大体24時間。24時間過ぎると自動的に正気に返ります。
※スレイブが惚れ薬をチョコに入れる動機も本文通りでなくても構いません。冗談で入れても構いませんし、何かの事故で入ってしまった事もあるでしょう。
・どんなシチュエーションで惚れ薬チョコを渡すか
・食べた後、冒険者とスレイブはどんな行動を取るか
・24時間経って正気に返った後、どうするか
大体これぐらいをプランに書いてください。
字数めいっぱいだと嬉しいです!
ゲームマスターより
べたべたなネタですが、バレンタインの時期には是非見たいネタです。
甘甘から切ないもの、コメディまで、さまざまなプランをお待ちします!
Vd:危ないチョコを渡しましょう エピソード情報
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担当 |
森静流 GM
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相談期間 |
5 日
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ジャンル |
コメディ
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タイプ |
ショート
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出発日 |
2018/3/6 0
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難易度 |
とても簡単
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報酬 |
なし
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公開日 |
2018/3/16 |
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是呂( 零鈴 )
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ケモモ | ナイト | 35 歳 | 男性
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午後の散歩 零鈴がバレンタインの手製チョコを渡すので一つ食べた(不思議な香りがするな?) 零鈴もたべおいし!とはしゃいでる 可愛いものだなと言葉が漏れた 零鈴がびっくりしたようにこっちを見た え?今何を言ったんだ私は 零鈴が「今可愛いって言いました?」と追及してくる 顔が近づきドキドキするので景色の話で逸らす 零鈴がむくれつつもチョコをまた一つくれる (可愛い…) 受取る時指か触れ心臓がドッキン (少女に対して何を意識しているんだ私は) 零鈴が具合が悪いのかと触れてきて私の心が爆発 何か夢中で言った
切れた後は恥かしくて顔を合わせられず彼女から逃げ回った 零鈴が香りが良いと買って媚薬と知らずに使ったと知ったのは大分後の事
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朝 依頼明けで気晴らしとルゥ労うつもりで「今日は君のしたい事に付き合ってあげるよ」て言ったら喜ぶ彼女が惚れ薬を出してきた そんな物どこで?!
どうしてこうなった 手作りハートチョコを「さあ召し上がれ♪これで私達恋人です」とあーんしてくる 「媚薬とか…どうなっても知らないよ?」最後に念押すも笑顔の圧力に…食べた …君がキラキラ光って目が離せないよ
この時期の花を見にデートへ 内容お任せ
朝 目覚めて清々しい気分 腕の中の目覚めた彼女の額にキス「楽しかったかい? 幸せそうな笑みはとても美しいと思った もしかしたら彼女にこうしてやりたい気持がどこかにあったのかな…?とぼんやり思う 効果は切れたけど暫く二人でこのまま過ごしたい
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*シチュエーション 街で「特別な甘味料」と騙されて買った媚薬をジーンのおやつ用に作ったチョコに入れたルーツ 何も知らずにジーンはホイホイと食べてしまう
*食べた後 口調と態度は変わらないのに、突然後ろから抱擁してきたり、媚薬入りチョコを口移しで食べさせたりと普段と違いすぎる行動をするジーンに終始困惑するルーツ 勢いのまま押し倒され……たところでルーツがオーバーヒートして気絶して終了
*正気に戻ったら 自分の不可解な行動理由は置いといて、何故ルーツは抵抗しなかったのかと問いかけるジーン 答えようとしないルーツを唐突に抱き寄せ……そのままベアハッグへと移行。じわじわルーツを締めながらからかうように尋問をする
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参加者一覧
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是呂( 零鈴 )
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ケモモ | ナイト | 35 歳 | 男性
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リザルト
●是呂(零鈴)編
その日、『是呂』とそのスレイブの『零鈴』は、午後の散歩をしていた。もっさりおっとり35歳の是呂には、意識して歩く事も大事なのである。体力を維持するために。
行き先は大抵、近所の土手の上の遊歩道である。
散歩の最中は二人でよくお喋りをする。
そこで零鈴が言った。
「聞いたんですけど、バレンタインっていう風習があって、愛し合う二人が一緒にチョコレートを食べると幸せになれるみたいな?」
好奇心旺盛でバリバリなんでも吸収する零鈴は、こういう話題も大好きであるらしい。
是呂は丸眼鏡をかけ直しながら、首を傾げた。
「そんなものは聞いた事が無いよ。変な話を真に受けるんじゃない」
しかし、零鈴はめげなかった。
「素敵じゃないですか♪ という事でじゃじゃーん! 作りましたチョコレート! 一緒に食べましょマスター」
零鈴は鞄の中から準備してきたチョコレートを取り出した。透明の袋に可愛らしくラッピングしている。行動派の零鈴、興味を持ったと思ったらもう実行しているらしい。
是呂は彼女らしいなあと思いながら、少し困惑してしまった。
(いや愛し合う二人じゃないし……)
是呂はそう突っ込みを入れたかったが、にこにこと笑っている彼女を無碍にすることも出来ず、袋から一つチョコレートを取り出して食べた。
(不思議な香りがするな?)
しかし、是呂はそういうものなんだろうと思って気にしなかった。
「おいし!」
零鈴も一つ取り出して食べてはしゃいでいる。
「可愛いものだな」
是呂は思わずそんな言葉を漏らした。
それを聞いて零鈴がびっくりしたように是呂の方を振り返った。
「マスター?」
是呂はそんな自分の言葉に驚いた。
(え? 今何を言ったんだ私は……)
零鈴は是呂の顔を身を乗り出してのぞきこんできた。
「今、可愛いって言いました?」
瞳を大きく瞬かせながら追及してくる。
「あ、小鳥が飛んでるなあ。零鈴、ちょっと見てみろよ。もう春だな」
是呂は、大袈裟に零鈴から顔をそらして、たまたま目に飛び込んできた、空を飛ぶ春の鳥の事を話題にした。
「むー」
大事なマスターに可愛いと言って欲しかった零鈴は、ちょっぴりむくれてしまった。
「はい、どうぞ、マスター」
それでも袋からチョコレートを一粒取り出して渡してくれる。
(可愛い……)
是呂はそう思いながらチョコレートを受け取ろうと手を伸ばし、零鈴と指が触れ合った。
すると息が止まりそうなぐらい心臓が大きく高鳴った。
(少女に対して何を意識しているんだ私は!)
そんな自分に慌ててしまう是呂。
「マスター?」
そんな是呂が挙動不審に見えたのだろう。
零鈴は、是呂の額に大きく手を伸ばして、掌で熱を測ろうとした。
「具合でも悪いんですか?」
零鈴は是呂が風邪を引いて熱でもあるのかと思ったらしい。
冷たい零鈴の手に触れられて、是呂はついに爆発してしまった。
(くおお! 私は地獄に堕ちるかもしれない)
そう思いながらも、是呂は零鈴をがばりと腕の中に抱き締めた。
「零鈴! 私の可愛い天使! 君との出逢いを神に心から感謝するっ」
もう夢中で熱い愛を告げてしまう是呂。
すると零鈴は無邪気に喜んだ。
「マスター! 嬉しい! 本当にバレンタインの力ってあったんだね。あたしもマスターに嫁げて幸せだよー」
零鈴は自分からも是呂の胸に抱きついてきた。
屋外、土手の上だというのに人目も気にせず抱き締め合う是呂と零鈴。
「マスター……私は元々、是呂さんのところに来る子だったんだよ……」
チョコレートの効果もあるのか、零鈴は普段よりも積極的な態度で彼の胸に頬を寄せながら言った。
「嬉しいよ、零鈴。そう言ってくれて……本当に幸せだ……」
是呂は、より強く零鈴を抱き締めてしまった。零鈴の体は細くて柔らかくていい匂いがして、ますます是呂の心臓は高鳴った。
「ま、マスター! 嬉しいんですけど……く、苦しい!!」
大の男に強く抱き締められた零鈴はそう叫んでもがいた。
「あ、す、すまん!!」
是呂は大慌てで零鈴から腕を放した。零鈴はぜえはあと大きく胸で息をしながら、是呂の事を見上げた。
「是呂さん、私も……マスターとの出会いを、神様に感謝してます。いつだって……!」
潤んだ目で頬を上気させながら零鈴はそう言った。
もう犯罪的に可愛らしかった。
是呂はまた理性がぷっつんと行きそうになるのを必死にこらえ、ただ口で零鈴の可愛らしさを褒め称えた。もっさりおっとりタレ目の35歳のおっさんが、少女の可愛らしさを口を極めて褒め称えたのであった。
「マスター! ……マスター、起きてくださいよう……」
果たして、24時間後……。
正気に返った是呂は、もう、頭から布団をかぶって全く外に出てこられなくなってしまった。昨日、自分が零鈴を抱き締めて、何を口走っていたのか、彼は全て覚えているのである。
「是呂さん、私は嬉しかったですよ。是呂さんにあんなに言ってもらえて。私が言った事は全て本心ですよ。私は、是呂さんに会えた事が一番の幸運だったって信じてます!」
「……」
しかし、是呂は布団の中から出てこない。まるっきりの無言である。
(わ、私は、私は……少女になんてことをしてしまったんだ! もしかして私は、しょ、少女趣味なのかーッ!?)
薬の効果の事を知らない是呂は、ただただ自分の性癖が信じられなくて、布団をかぶって落ちこみ反省し続けるのであった……。
●コーディアス(ルゥラーン)編
ある朝の事であった。
『コーディアス』がスレイブの『ルゥラーン』を呼んだ。
依頼明けであるし、気晴らしとルゥを労うつもりで彼はこう言った。
「今日は君のしたい事に付き合ってあげるよ」
「本当ですか!?」
主人のその言葉を聞いて、ルゥは目を輝かせて喜んだ。
「コーディ、私、あなたに食べてもらいたいものがあるんです」
「? 食べ物? 別にいいけれど、一体なんだい?」
「媚薬入りのチョコです!」
「び、媚薬!?」
コーディアスが呆気に取られているうちに、ルゥは早速、準備していた手作りハートチョコを彼の前に持って来た。満面の笑みでコーディアスに差し出す。
「媚薬なんてそんなもの、一体どこで手に入れたんだ」
「以前、買い物の途中に脇道で、知らない商人の方から……」
「いつの間に。てか、危ないだろ!」
「でもこうして、チョコレートが作れたんです。さあ召し上がれ♪ これで私達恋人です」
ルゥはコーディアスに「あーん」でチョコレートを差し出してくる。
「媚薬とか……どうなっても知らないよ?」
最後に念を押したが、ルゥはとびきりの笑顔でコーディアスにチョコを向ける。笑顔の圧力に負けて、コーディアスはチョコを……食べた。
「……君がキラキラ光って目が離せないよ、ルゥ」
コーディアスはルゥの髪の毛を撫でて一房盗り、髪先にキスを落とした。
そこからはコーディアスは完全にルゥの恋人になっていた。
もう、ルゥが何をやっても可愛い。
笑っていると可愛い。喋っていても可愛い。髪の毛をかきあげても可愛い。振り向いても可愛い。そっぽ向いていても可愛い。
「……可愛い」
そのたびに抱き締めてしまうコーディアス。
部屋の中はもちろん、買い出しに出た外出先でも、ルゥの何気ない仕草を見る都度、可愛い可愛いと抱き締める。
市場へと日用品の買い出しに言ったのだが、その途中は、ルゥの左側に立って、彼女の指に指を絡めて恋人繋ぎ。
歩くペースも彼女に合わせ、退屈しないように、かといって過剰ではないように控えめな声で話しかけ続けた。
買い出しから帰ってきて、お茶の時間だとルゥが茶菓子を並べれば、彼女の隣、間近に座る。
「コーディ、口を開けて」
そして再び、ルゥから「あーん」で食べさせてもらうのだ。
「うん、美味しいよ。ルゥ」
「ふふ、嬉しいです。コーディ」
ルゥが2個、3個と食べさせていると、その手をコーディアスが止めた。
「次は僕が」
そう言ってコーディアスは市場で買った甘い茶菓子を自分の指でルゥの口元に運んでいく。
「……っ」
恥じらいつつもぱくりとそれを食べるルゥ。
「そんなところも可愛いよ」
コーディアスはルゥを褒めちぎった。
「ルゥは本当によくやってくれている。ルゥが普段、どんなに僕の事を考えて尽くしてくれているか、分かっているよ。なかなか言葉に出せなくてすまなかったね。ルゥ、君は僕の理想のスレイブだよ。そして今は理想の恋人……」
日頃からは全く考えられないような口調でルゥを口説くコーディアスであった。
そんなこんなで夜も更けると、コーディアスはベッドの中でルゥを抱き締めて眠った。ルゥはもう完全にコーディアスにめろめろである。元々、彼女はコーディアスの事を愛しているのだ。だからこそ、惚れ薬なんてものを買ってきて、チョコレートの中に入れたのである。それを分かっていて食べるコーディアスもコーディアスだが。
隣にルゥの震える吐息を感じながら、コーディは彼女の細いしなやかな体を抱き締め、考え込む。
(時折覗かせるルゥの好意を察しても僕はいつも軽く流す。だって応えてやれる気がしないから。ルゥも分ってると思ってたのに……。こんな薬買ってしまうのがなんだかいじらしい。これが労いになるんなら、それで……)
コーディアスは幸せが信じられないのか目を伏せているルゥに顔を近づけ、その瞼と睫毛にそっとキスをした。
そしてそのまま時間が過ぎていき、朝になり、二人は目を覚ました。
コーディアスは妙なぐらい清々しい気分だった。腕の中でそっと目を見開いたルゥの額にまたキスをする。
「楽しかったかい?」
ルゥはゆっくりと笑った。それは本当に満ち足りた人間の微笑みだった。その笑みを、コーディアスはとても美しいと思った。
(もしかしたら彼女にこうしてやりたい気持ちがどこかにあったのかな……?)
ぼんやりとそう思う。
「幸せ過ぎて、息が止まりそうです……」
ルゥはそう言うと、思い切ったように自分から、コーディアスの頬に控えめな触れるだけのキスをした。それがなんだかくすぐったくて、コーディアスも笑った。
効果は切れたけれど、しばらくはこのままで過ごしたい。ずっと、二人きりで。
●ジーン・ズァエール(ルーツ・オレンジ)編
その日、『ジーン・ズァエール』のスレイブ『ルーツ・オリンジ』は、街で特別な甘味料と勧められ、騙されて媚薬を買ってしまった。しかもそれをジーンのおやつ用に作ったチョコにひょいっと入れてしまった。
「マスター! おやつですよ!」
そして何にも気がつかないで、ルーツはジーンにおやつのチョコレートを持って行った。
「オウ、気がきくな」
ジーンの方も全く気がつかず、ホイホイとその媚薬入りチョコレートを食べてしまった。
「マスター、僕は午後からこの部屋を片付けますけど、マスターは何か予定は……」
ルーツの方はそこらに散らかっているものに手を伸ばしながらそう言った。
その途端、ジーンが突然後ろからルーツに抱きついてきた。
「なっ!? マスター!?」
あまりに唐突な出来事で、ルーツは対応出来ない。
裏返った変な声を立てるだけで硬直してしまう。
ジーンは力ずくで無理矢理ルーツの事をこちらに向かせると、口移しでチョコを流し込んだ。
「んっ、むーっ……!!」
そのときになってルーツは逃れようと暴れるが、ジーンの力にはかなわない。
そうやってしばらく二人でジタバタしているうちに、ルーツの体からだんだん力が抜けていった。
「お前甘い匂いがするんだな。チョコのせいか?」
後ろから羽交い締めにして、ジーンはルーツの耳たぶに向かって囁いた。
「マスター!? ダメですよ男同士でそんな……」
ルーツはうろたえてもがきながら、次第に赤面していく。
何故に突然、ジーンが豹変したかが分からない。
男同士でこんなことをしてはいけない。
ルーツは自分の事を男だと認識しているのだ。
「ぼ、ボクは男で……」
「男同士? お前みてぇな男がいるかよ。仮にお前が男だろうと俺は全く構わねえんだぜ?」
熱い息を耳に吐きかけながら、獰猛な笑みを浮かべてジーンは言った。
「チョコ食わせただけで甘そうな姿見せやがって……味も確かめたくなるじゃねえか。じっくり、時間かけてな……」
そう言って音を立てながら自分の唇を舐める。目の前にあるルーツの体の味を想像しているようだ。
ルーツは目の前がぐるぐるしてくる。何故だか抵抗する気になれない。ついされるがままになってしまう。そんな自分が信じられない。
そしてジーンは突き飛ばすようにしてルーツを床に転がすと、自分がその上にのしかかった。
完全に押し倒された体勢になるルーツ。
「僕の味って、あの、その……はうぅ……」
そこでルーツは完全に頭がショートしてしまった。
完全に目を回して気絶してしまい、その場に伸びてしまった。
丸一日、ルーツは気絶していた。その間に、片付けはジーンがやってくれたようだった。
ルーツがやっと目を覚ました時には、二人とも薬の効果は切れていた。
「起きたか」
気まずそうにベッドから起きてきたルーツの顔を見て、ジーンは首を傾げた。
「ど、どうしましたか?」
ジーンは、自分の不可解な行動の理由については、深く考える事をしなかった。それよりも気になる事があった。
「お前、なんであんなことされて、抵抗しなかったんだよ」
「…………」
ルーツは真っ赤になってしまい、何も答えられなかった。
自分が何故抵抗しなかったのか、ルーツにも分からないのだ。
ただ、前々から、ジーンの事を考えると妙な感覚を覚える事があった。今回も、その感覚のせいで、何も出来なかったのだと思う。
だけど、どうしても、そのことをジーンの前で口にすることは出来なかった。
「なあ、なんでなんだよ」
ジーンはそう言って、ルーツの前に一歩進んで来た。
間近にジーンの顔がある事を意識して、ルーツは顔を伏せた。
その隙に、ジーンはルーツを自分の腕の中に抱き締めた。
「わっ……マスター、ちょ、ちょっと……!!」
「しょうがねえやつだなあ」
そんな事を言ってジーンはルーツを抱き締め、……そのままじりじりとベアハッグへと移行していった。
「ま、マスター! やめてください!!」
「言え」
明らかにからかってる口調で、じわじわとルーツを締めていくジーン。
「い、言えって、僕だって分からないんですぅ!」
「そんな訳ないだろ、自分の事じゃないか、言えよ」
締めるようにして抱きつきながらジーンはもう、普段のジーンに戻っていた。
強者にも弱者にもこだわらない、自分のルールにだけ従うジーン。
その彼に締められて……こんなにも体を密着させているのだと思うと、ルーツは再び頭が熱くなってくる。
(マスター……マスターにとって僕って……)
薬の効果の事も何も分からないけれど、ルーツはジーンに聞きたかった。なんで僕にあんなことしたんですか……と。
だけどそれは、今は聞いてはいけないことだと、彼は心の奥でよく分かっていて、何も言わなかった。
「強情張ってると、こうだぞ!」
締める力を緩めて、今度はそのままぐるぐる回転を始めるジーンであった。楽しそう。
「マスター! 危ないですー!!」
振り回されながら悲鳴を上げるルーツ。
そうしていながら、二人とも笑い出した。……これはこれで、幸せ。
冒険者達が百人いれば、百通りの幸せがあるのである。
依頼結果