†死したる者に安らぎを(春夏秋冬 マスター) 【難易度:普通】




プロローグ


 身体の芯が凍るような、冷たい日のことだった。
「貴女も亡くした人に会えるのよ」
 青白くやつれた顔で、彼女は言った。
「聞いたわ。お婆さまが、亡くなられたそうね」
 私の祖母が死んだのは、2日前だ。
 死因は風邪だ。早くに亡くなった両親の代わりに育ててくれた祖母は、私を育てるために無理をして働いてくれていた。
 私が育ち、冒険者として稼げるようになり、ようやく楽をさせてやれると思った矢先に、祖母は死んだのだ。
 正直、心が折れた。
 それが立ち直る前に、彼女は私の家にやって来たのだ。
「私も、あの人に会えたのよ」
 村でも評判の、仲の良い夫婦。
 けれど一か月前に夫を亡くした筈の彼女は、やつれた顔に異様な熱を持った目を見開き、亡くした筈の夫の名前を口にする。
「動いたの。動いたのよ、ケイン。まだまだぎこちないけれど、これからもっともっと動けるようになるの。貴女のお婆さまも、きっと同じになれるわ。だから――」

 貴女のお婆さまが居る墓地から、掘り起こすのを手伝ってあげる

 混じり気の無い善意で、彼女は言った。
 それに応えられないでいた私を、彼女は手を引いてある場所に連れて行った。
 連れて行かれた先は、村の外れにある打ち捨てられた屋敷。
 かつて豪商の別荘として使われていたそこは、今は見る影もない。
 その屋敷の中に、私は招かれた。
「見て。みんな、動いているのよ」
 屋敷のエントランスホール。
 広々としたそこに蠢くモノを見て、私は血が冷たくなっていくのを感じた。
「ケイン。ほらケイン。彼女よ。ミネルバが会いに来てくれたわ」
 死体の一つが蠢く。
 その動きは緩慢で、所々崩れている。
 けれど確かに、それは動いたのだ。
「見て。ケイン、動いているでしょ。みんな、あの人のお蔭なの」
 視線の先に目を向ければ、そこに居たのは銀色のローブを纏った人物。
 エルフだ。
 けれど、言いようのない違和感がある。
 温和な笑みを浮かべ、慈愛に満ちているように見えながら、耐えがたい気配を纏っている。
 腐り果てた邪悪の匂いを、そいつは漂わせていた。
「ようこそ、お嬢さん。貴女も、愛する人と、また出会いたいのですか?」
 応えられない私に、そいつは続けて言った。
「安心して下さい。叶えられますとも。また会えるのです。ここに居る、全ての人と同じように」
 応じる声が、周囲から上がる。
 それは、蠢く死体に付き添う誰か。
 きっと皆、愛する者を亡くしてしまったのだろう。
 蠢く死体に向けるまなざしには、温かな物があった。
「分かったでしょう、ミネルバ。私、貴女にも幸せになって欲しいから。だから教えてあげたの。だって、悲しいもの。愛する人と、2度と逢えないなんて」
 自分で自分を騙すように彼女は、私の親友は、どこか懇願し縋るように言った。
「一緒に、幸せになりましょう」
 その言葉に、私は悲鳴を上げそうになる。
 けれど、吐き出しそうなそれを飲み込む。
 だって私は、冒険者なのだ。
 恐怖と嫌悪に、潰れる訳にはいかない。
「どうすれば、良いんですか?」
 私は、銀色のローブを纏ったエルフに尋ねる。
 時間稼ぎをするために。
 それに、そいつは変わらぬ温和な笑みを浮かべたまま返した。
「死体を、ここまで持って来て下さい。そうすれば、後は私が処置をします」
 それに頷き、私はその場を後にする。
 向かう場所は、冒険者ギルド。
「ノーライフキング……倒さないと」
 うわ言のように口にしながら、私は走り出した。

 それを、銀色のローブを纏ったエルフ、いやダークエルフが笑みを浮かべ見詰めていた。
「そろそろ、潮時ですねぇ」
 にちゃりと、腐った笑みを浮かべ、屋敷の外に出たそいつは呟く。
「それなりにデータは手に入りましたしぃ。あとは、実験体の後始末も兼ねて、戦闘でもさせましょう。せいぜい、強い冒険者を連れて来て下さいねぇ」
 くつくつと笑いながら、そいつはそこから逃げ出す準備を始めた。

 それからすぐに、ギルドで1つの依頼が出されました。
 内容は、ある屋敷に居る動く死体、ノーライフキングを倒して欲しいという物です。
 倒すべきノーライフキングには、それぞれ元となった人物の家族が居り、戦闘の際は彼らを引き離す必要があります。
 依頼者である冒険者のミネルバが、村人と共に協力をするとのことです。
 この依頼に、アナタ達は?



解説


詳細

ある屋敷に居るノーライフキングをすべて倒して下さい。

それに加えて、ノーライフキングの傍に居る一般人を安全に引き離せるかなどで成功度が変わります。



ノーライフキング。死体に感染し動かす死招菌に支配された死体。本来は、生きている者が居ればすぐに襲い掛かるが、現在は大人しい。ただし、異変があれば動き出す可能性が高い。

今回出て来るノーライフキングは、能力は下級ですので戦闘力自体はそれほどでもありません。攻撃手段も近接のみです。ただし、かなりタフです。

数は6体。それぞれ一人、ノーライフキングになった人物の家族が寄り添っています。

NPC

クレリックのミネルバと村人が協力してくれます。冒険者の指示で動きますので、どう動いて貰うか考える必要があります。

村人の人数は、参加して頂けた人数によって変わります。参加人数が多いと村人は少なく、逆だと多くなります。

戦闘舞台

屋敷のエントランスホールは、大人数で立ち回るには、やや狭いです。屋敷の外は、十分な広さの平地が広がっています。

依頼開始時間

朝の9時から依頼開始です。外は雪が積もっているので、移動などで多少支障が出ます。

銀色のローブを纏ったダークエルフ

依頼開始時には、すでに逃げて遠方から観察しています。

PL情報

ダークエルフは、今後も私が出すエピソードで出てきます。今回の結果で、次にこいつが出て来るエピソード内容は変わってきます。
結果が大成功以上だと、リザルトの最後辺りで、「大物食い」と呼ばれる一団に守られながら、ちょろっと出て来ます。

以上です。
それではご参加をお待ちしています。


ゲームマスターより


おはようございます。もしくはこんばんは。春夏秋冬と申します。

桂木SD主催のホラー企画の参加エピソードになっています。

ホラー? よし、ゾンビ物にしよう。

そんな感じに作っています。

死者の尊厳を汚された彼らを安らかに終わらせてあげて下さい。

では、ご参加を願っております。



†死したる者に安らぎを エピソード情報
担当 春夏秋冬 GM 相談期間 6 日
ジャンル 恐怖 タイプ ショート 出発日 2018/3/2 0
難易度 普通 報酬 通常 公開日 2018/3/12

コーディアスルゥラーン
 デモニック | シャーマン | 23 歳 | 男性 
ミネルバさん達には家族の引き剥がしとエントランスから避難できそうな部屋への避難頼みたい

クロストさんの説得は隠れて伺ってよう
ノーライフが攻撃に転じそうなら問答無用で引き剥がしにかかる
ルゥは家族の保護を手伝ってくれ
僕はノーライフを薙刀の柄で押えたりして引き離し、家族の目がある所では派手な攻撃は控えとく
厄介な状況なら不動金縛りでノーライフ拘束しよう「今の内に連れて行け

避難が進んだらジョブレしてノーライフ誘導し外へ
ダメージ入ってるヤツ優先で火界咒で攻撃だな
こんな事早く終らせなくては
近接は柄で殴る(無惨にしたくないから斬らない

終ったら
遺体のカタチ整え手を組ませてから家族呼びに行きたい
ジーン・ズァエールルーツ・オリンジ
 ヒューマン | ウォーリア | 18 歳 | 男性 
今回の仕事はムカつく要素しかねえ依頼だな
ともあれきっちり果たして懐を潤させてもらおうか

まずノーライフキングの傍にいる奴らをどうにかするのが先決。そこはクロストが説得するというので傍観
無理そうならミネルバや村人に協力してもらい引き剥がす
その後、敵を外まで誘導して戦闘を開始する

外は動きにくい環境なのと、敵が接近戦しかできねえという事なんで、戦闘時は【ファデルタ】を使っての【ソニックブーム】による遠距離攻撃を主体に攻める
それでも接近された時は【セラフィムツイスト】を叩き込んで対処する

戦闘後はミネルバに今回の発端となった銀髪エルフについて話を聞きだす。おそらく今後も関わる事になりそうだしな
クロスト・ウォルフシルキィ
 ヒューマン | クレリック | 27 歳 | 男性 
事前準備、打合せをしておきたい
よろしくお願いします皆さん

初動、俺はシルキィを伴いミネルバさんとエントランスでご遺族へノーライフキング(以降遺体)の動向に留意しつつ説得を試みたい
成功なら、遺族に遺体からゆっくり離れて貰い仲間に合図
猶予が無いと感じたら、すぐ仲間を呼び遺族の強行保護に切替える

有事にはジョブレし避難を助けたい
遺族の前で遺体を傷付ける事はできるだけ避けたいので必要時には遺体に体当たりで引き剥がし村人に遺族の避難を託す

避難完了見届け戦闘に加わる
仲間の背後を守るサポート優先で魔法弾(不可なら物理)で攻撃
怪我人には適宜回復スキル使用

戦闘後、コーディアスさん手伝い弔いの祈りを捧げたい

参加者一覧

コーディアスルゥラーン
 デモニック | シャーマン | 23 歳 | 男性 
ジーン・ズァエールルーツ・オリンジ
 ヒューマン | ウォーリア | 18 歳 | 男性 
クロスト・ウォルフシルキィ
 ヒューマン | クレリック | 27 歳 | 男性 


リザルト


○避難誘導
 その日は、身を切るような冷たい日だった。
 打ち捨てられた屋敷にいるノーライフキングの排除と、それに寄り添うようにしている遺族の保護。
 その依頼を成し遂げるため、冒険者たちは依頼人であるミネルバと十数人の村人達と共に、件の屋敷に訪れていた。
「私はクレリックです。皆さんのお嘆きに寄添いに来ました」
 屋敷のエントランスホールに集まっている、ノーライフキングの肉体と化した被害者たちの家族。
 彼らと彼女達に向け、【クロスト・ウォルフ】が慎重に語り掛けていく。
 それに合わせるようにして、村人や依頼人であるミネルバは動いていた。
 全ては、事前の話し合いのお蔭だ。
 クロストは、被害者の家族たちの説得を提案し、それを潤滑に行えるよう、事前準備の話し合いをしていたのだ。
 それもあり今回の依頼では、まず最初にノーライフキングに寄り添う遺族の引き離しのため、クロストに全任されている。
 他の冒険者たちも同意し、それぞれ動き出すために、慎重に配置に就いていた。
「残念ながら、貴方がたの愛した人は、ここには居ません」
 一言一言を、しっかりと相手に届くように。
 想いを乗せるようにして、クロストは語り掛けていく。
 それが、被害者の家族たちに動揺を走らせる。
「なにを、言ってるんです……ここに、居るじゃないですか」
 縋るように、ミネルバの友人でもある、ノーライフキングに寄り添う遺族の1人であるレアが歪んだ笑みを浮かべ反論する。
「ほら、見て。動いているわ……動いているもの」
「その方の魂は、そこには居られません」
 クロストは迷いを断つように、良く通る声で言った。
「今、空の上で貴方の身を案じています。分っているのでしょう? そこに、貴方の愛した人は居ないことは」
 クロストの言葉に、レアの表情から、張りつけるようにして浮かべていた歪んだ笑みが消える。
 代わりに浮かぶのは恐怖。
 認めたくない現実に戻らなければならない、恐怖だった。
「ちが……違うの、そんな……だって、そんな……」
 必死に否定する。
 それはレアだけでなく、他の被害者の家族も同じだった。
 それに呼応するように、ノーライフキングたちの動きに変化が生まれる。
 ほとんど動かず、横たわっていただけだというのに、ゆっくりと身体を起こし始めたのだ。
 それに危機感を覚え、少しでも問題なく引き離すため、クロストのスレイブである【シルキィ】は、必死に言葉を届けようとする。
「私達は皆さんと、皆さんの愛する人達を解放するために来たんです。だから、ゆっくりとこちらに来て頂けますか?」
 けれどこの言葉に、被害者の家族たちは従わない。
 むしろ、ノーライフキングを守るように動こうとしていた。
「大丈夫……なにも心配する事なんて、ない……いま、今だけなの……もっと時間が経てば、もっともっと良くなる筈なの……そう、教えて貰ったもの……」
 自分で自分を騙すように、レアは呟く。
 そんな彼女に、シルキィは必死に呼びかけた。
「ダメです! そんなのは嘘です! そんなことを言う悪い相手の言うことを信じてはダメです!」
 この言葉に、レアは固まる。
 けれど振り払うように、ノーライフキングを庇うように動こうとしていた。
(ここまでか)
 クロストは状況を見極め、仲間の冒険者たちに呼び掛ける。
「保護に動いて下さい! 私もシルキィとジョブレゾナンスして動きます!」
 これに、待機していた【コーディアス】と彼のスレイブである【ルゥラーン】、そして【ジーン・ズァエール】と彼のスレイブである【ルーツ・オリンジ】が動き出す。
「恨み言はいくらでも聞くよ、だから今は避難しててくれ」
 コーディアスは必死に呼びかけるように声を掛け、ルゥラーンは相手の想いを受け止めるように声を掛けていく。
「貴方と、貴方の愛する人の話を聞きたいんです。その為にも、こちらへ避難して下さい」
 そうして、言葉で誘導を促そうとするコーディアスとルゥラーンに対し、ジーンは半ば力付くで引きはがそうとしていた。
「離れろ。邪魔だ」
 村人達が引き連れて行きやすいよう、ジーンは鋭く声を掛ける。
 だが、それでも動こうとしない相手に、自らの信条を込めた言葉をぶつけた。
「人が生きて死ぬのは当たり前だろうが」
 ただ苛立ちをぶつけただけではない芯のある言葉に、相手は動きが止まる。
 そこに、更に言葉をぶつけた。
「死体は墓の下に置いとくもんだ。そいつを掘り起こして弄ぶんだから、てめえら全員墓荒らしにも劣る屑のろくでなしだぜ」
「ぁ……」
 小さく言葉を上げ、ジーンを前にした男性は崩れ落ちるように座り込む。
 心のどこかで自覚している想いを刺激され、何かをする気力もなくなるほど、うなだれていた。
 そんな彼らを、村人達は必死にノーライフキングから引き離していく。
 だが、中にはそれでも抵抗する者も。
「やめて!」
 ノーライフキングから引き離そうとするミネルバに、レアは必死に抗う。
「何でこんなことをするの!」
 暴れるレアに、覆いかぶさるようにしてミネルバが抱き着く。
 その瞬間、ノーライフキングの拳がミネルバの背中を強打する。
「ミネルバ!」
 レアは恐慌をきたしたような声を上げる。
 そこにノーライフキングは、更に一撃を叩き込もうとする。
 けれど、コーディアスがそれを防ぐ。
 不動金縛りが、ノーライフキングの動きを止めた。
「今の内に避難して!」
 コーディアスの言葉に従い、ミネルバはレアを抱きしめるようにして、屋敷の内部にある空き室へと向かっていく。
 避難させられているレアは、今まで一度も流していなかった涙をボロボロと流しながら、ひたすらにミネルバに謝っていた。
 そんなレアを大事に抱きしめながら避難していくミネルバに、クロストは祈りを込めたスキルを贈る。
「神のご加護を」
 スキル、神の御加護を受けたミネルバは、礼を一つ返し避難をスムーズに行った。
 そうして少しずつ、避難が完了していく。
 だが、それに伴いノーライフキングの動きが活発になる。
 それを引きつけたのは、ジーンだった。
「マスター! 右から来ます!」
 ルーツのサポートを受けながら、ジーンはノーライフキングの攻撃を捌いていく。
 時にバックステップで距離を取ったかと思えば、一転して鋭い踏み込みを見せ体当たりを食らわせる。
「来いよ。こんなせまっ苦しい場所じゃ、思う存分殺り合えねぇだろ」
 ジーンは戦いの喜びに笑みを浮かべ、けれど同時に、仲間の冒険者の意向も汲み取り、今この場でノーライフキングたちを傷つけることは可能な限り避ける。
 そうして少しずつノーライフキングは屋敷の外へと誘導されていく。
 そこへ、コーディアスも加勢に加わる。
「コーディ、避難は村の人達に任せても大丈夫です」
 避難誘導しながら周囲の状況を見ていたルゥラーンの呼び掛けに、コーディアスはノーライフキングの誘導に動く。
「ルゥ、行くよ」
 コーディアスの呼び掛けに応え、ルゥラーンはジョブレゾナンスし、1人でノーライフキングの相手をしていたジーンの助けに向かう。
 ノーライフキングに出来る限り傷が残らないよう気を付けながら、薙刀の柄で打撃を与え注意を引くと、屋敷の外へと移動していく。
 同様にジーンもノーライフキングを外に引き付け、全てのノーライフキングが屋敷の中から居なくなる。
 その瞬間、避難誘導に集中していたクロストが、屋敷の扉を閉め仲間の冒険者たちに声を掛けた。
「避難は終わっています! 戦闘に集中して下さい!」
 これにジーンとコーディアスは、本格的な戦闘へと意識を切り替えた。

○死者に終わりを
「こっちだ! まとめて掛かって来い!」
 戦いの喜びに獰猛な笑みを浮かべ、ジーンは積極的に攻撃を重ねていく。
 遺族のことを考え、顔には傷跡が残らないよう配慮はしているが、その攻撃は苛烈だ。
 一撃一撃が、重く鋭い。
 それは、サポートに集中するルーツの援護も大きい。
「左後方に一体、回り込もうとしています。死角に踏み込まれないよう気をつけて下さい」 
 目前の敵に集中するジーンに、ルーツの声が届く。
 ジーンは即座に右へと跳ぶと、死角に移動しようとしていたノーライフキングを視界にとらえ、手にしたミドルソード、ファデルタを振りかぶる。
 同時に重心を落とし、一気に踏み込む。
 降り積もった雪を抉るほどの勢いの突進は、ノーライフキングに反応させる余裕など与えず間合いを侵食。
 斬撃の間合いに到達するや、ソニックブームを放った。
 真空波を伴う斬撃は、狙いを付けた一体のみならず、傍に居たもう一体すら同時に切り裂く。
「歯応えがねぇな! もっと殺す気で掛かって来い!」
 戦いの喜びに声を上げるジーンに、切り裂かれたノーライフキングが一気に突っ込んでくる。
 それは防御など考えていない突撃。
 本来ならば、それは油断できない速さだっただろう。
 だが、今この場には雪が積もり、足場は決して良くは無い。
 しかし、ろくに知能の無い下級のノーライフキングは、そんなことは知らぬとばかりに真っ直ぐに突っ込んでくるだけ。
 それをジーンは巧みに避け、カウンターの一撃を叩き込む。
「鋼と暴力の天使のお迎えだ、ありがたく食らっとけや!」
 ファデルタを捻り込みながら、体重の乗ったセラフィムツイストを叩き込む。
 それは深々と胸を貫き、まさしく一撃必殺の威力を見せた。
 これで残り五体。
 その内の一体、さきほどソニックブームで切り裂かれたノーライフキングが、ジーンに襲い掛かる。
 だが、それは炎の大蛇に防がれた。
「出来るだけ、傷跡は見える場所に残したくない。細かい制御が必要になるから、力を貸して」
「はい。任せて下さい、コーディ」
 コーディアスに応え、ルゥラーンは火界咒の制御をサポートする。
 それにより、火界咒の炎の大蛇は精緻な動きを見せる。
 ジーンに襲い掛かろうとしたノーライフキングの動きを防ぐような軌道を見せると、心臓に当たる場所に命中。
 そのまま崩れるように地面に倒れ伏すと、二度と動かなくなる。
 これで、残りは四体。
 確実に倒し切るために、それぞれが分担する。
「こっちの二体は、僕が引き受けるよ」
「ならこっちの二体は任せろ!」
 コーディアスとジーンは、それぞれ死角を庇い合うように動きながら、戦いを重ねていく。
 数の上で不利もあり、無傷という訳にはいかなかったが、クロストの援護がそれを癒す。
「癒しの御業よ」
 クロストの回復魔法が、傷付いたジーンとコーディアスを癒していく。
 これにより、ジーンとコーディアスは戦闘のみに集中できる。
 また、同時にクロストは、ジーンとコーディアスの2人が不意を突かれないよう、常にノーライフキングの動きを見ながらサポートを重ねている。
 それが冒険者たちの優位につながる。
 それぞれの役割を全うしながら戦い続ける冒険者たちの戦闘は終始優勢で、危なげなく戦い続けた。
 そして、最後の一撃をコーディアスが叩き込み、全てのノーライフキングは倒されたのだった。

「手を組ませて、最後の別れをさせてあげよう」
 戦い終わり、避難させた遺族達を呼ぶ前に、コーディアスは提案する。
「ええ。それが良いでしょう」
 クロストも賛同すると、シルキィと共に、遺体を少しでも綺麗にするために動く。
「ボクも、手伝わせて下さい」
 ルーツも遺族のことを想い、遺体を移動させようとする。
 とはいえスレイブは、単純な腕力はそれほどある訳ではない。
 そのため苦労していると、ジーンが手を貸した。
「力仕事はしてやる」
 これにルーツは嬉しそうな笑みを浮かべ返した。
「ありがとうごさいます、マスター」
 こうして遺体の姿を整え、遺族を呼び寄せる。
 遺族たちは力なく、ふらふらと近寄ると、そのまま崩れるように座り込んだ。
 全員が声もなく涙を流し、悲しみに沈む。
 それを少しでも癒すべく、クロストは祈りを口にした。
「祈りましょう、皆さん」
 悲しみにくれる遺族に、寄り添うように語り掛ける。
「皆さんの愛する家族が、安らかであるように。皆さんの祈りを、届けましょう」
 クレリックであるクロストの祈りに、最初に応えたのは依頼人でもあるミネルバ。
 そして村人達も祈りを捧げ、やがて少しずつ、遺族達も祈りを口にし始めた。
 別れと安寧の祈り。
 それを見詰めながら、コーディアスは傍に寄りそうルゥラーンに想いを口にする。
「僕は愛する人に先立たれた経験はないけど、最近はふっと過るんだ。前に四肢を失くした状態でマスターを待ちながら機能停止したスレイブの姿を」
 それは、かつて受けた依頼で見た光景。
 喪失したまま在り続けた、1人のスレイブの姿。
 コーディアスはルゥラーンを見詰め、どこか恐れるように言った。
「君を重ねてぞっとする。亡くすって怖いね……この人たちが縋ってしまった気持ちがわかる気もするよ」
「コーディ……」
 ルゥラーンは、コーディアスの手をそっと握る。
 自分はここに居ると、ずっと傍に居ると言うように。
 それに応えるように、コーディアスも手を握り返す。
 ほっそりとした、けれど確かな温かさを握る手に感じ、コーディアスは安堵する。
 そしてその温かさを支えにするようにして、怒りを口にした。
「最悪なのは、つけ込んだヤツだ! 絶対に許さない!」
 その怒りの声に返すように、手を叩く音が周囲に響いた。

○元凶現る
「誰だ、テメェ」
 獰猛な声を、ジーンは上げる。
 相手は、突如現れた銀色のローブに身を包んだダークエルフ。
 ダークエルフは拍手をしながら、口を開いた。
「元凶です。こんにちは」
 にこにこと、場違いな笑顔を浮かべている。
 ダークエルフに怒りを込め、依頼人であるミネルバが声を上げた。
「皆をたぶらかしたのはそいつです! 間違いありません!」
 ミネルバの言葉に、冒険者たちは村人たちを守りつつ、いつでも戦えるような体勢をとる。
 すると、ダークエルフは笑みを深めた。
「素晴らしい。良い手際です。そう思いませんか?」
 ダークエルフが同意を求めたのは、背後に佇んでいた三人組だった。
 2人は騎士姿をしており、残りの1人は薙刀を手にしていた。
(こいつら)
 ダークエルフを護衛するように居る三人組に、ジーンはかつての依頼で見た相手が思い浮かぶ。
(アイドル姿の女は居ねぇが、間違いねぇ。騎士姿の2人には、見覚えがある)
 それは神の手に属する、【大物食い】と言われる一団に間違いがなかった。
 歯応えのありそうな相手にジーンが笑みを浮かべる中、コーディアスが鋭い声でダークエルフに問い掛けた。
「なにが目的だ。なんで死者を冒涜するようなことをした」
「実験です」
 コーディアスの問い掛けに、ダークエルフは穏やかな声で応えた。
「簡単に言えば、ノーライフキングの養殖ですよ。そのためには、死体が必要ですから。それも、今回は穏やかに死んだ者の死体で試してみたかったんです。死に方でノーライフキングの性格や行動に差が出るのか? そういったものを知りたかったものですから」
 平然とした口調で、外道をダークエルフは口にする。
 そして更に、ふざけたことを口にした。
「私達の仲間になりませんか?」
 冒険者たちに向け、ダークエルフは言った。
「先ほどの手際の良さは、しっかりと拝見させて頂きました。実に、すばらしい。あの手際の良さなら、不要な実験体の処分も任せられる。十分な報酬は、お支払いしますよ」
 この物言いに怒りを感じながらも、コーディアスは少しでも情報を得るために問い掛けた。
「スカウトしたいなら、名前ぐらい言いなよ」
 これにダークエルフは、笑みを浮かべながら返した。
「確かに。失礼しました。私は、ダークエルフが氏族、腐海林の1人、ゼナンと申します。それで、私の申し出は受け入れて貰えるのでしょうか?」
「馬鹿か、テメェ」
 ゼナンと名乗ったダークエルフが言い終るよりも早く、間合いを詰めていたジーンが辛辣に返す。
「くだらねぇこと言う暇があったら、首の一つでも置いて行け!」
 斬撃の間合いから、ファデルタを振りかぶりソニックブームを叩き込む。
 だがその寸前、騎士姿の大物食いが立ちはだかり盾で受け止める。
 そして間髪入れず、もう一人の騎士姿の大物食いが、ジーンに向け攻撃を放とうとする。
 しかし、コーディアスがそれを防ぐ。
「させるか!」
 火界咒により生まれた、炎の大蛇が疾走。
 ジーンに攻撃をしようとしていた大物食いは、後方に跳び避ける。
 だが、コーディアスの真の狙いはゼナン。
 避けられないタイミングで、炎の大蛇が襲い掛かる。
 それをゼナンは、左手で掴み握り潰す。
「うふ。熱いですねぇ」
 笑みを浮かべながらゼナンは言うと、大きく後方に跳ぶ。
 同時に、騎士姿の大物食いも後方に跳び、残った薙刀を持った大物食いが炎の大蛇を生み出した。
「後方に下がって下さい!」
 村人達にクロストは声を上げ、避難を促す。
 だがすぐには動けない村人達を守るように、コーディアスとジーンが動く。
 その瞬間、炎の大蛇は積もった雪に跳び込み、一気に蒸発させる。
 周囲には、霧状の蒸気が立ち込め、ゼナンたちの姿を見えなくさせた。
「さようなら。残念ですが、これにて」
 冒険者たちが下手に動けない中、ゼナンたちは一気に逃げ出した。
「逃げやがった。つまんねぇことしやがる」
 苛立たしげに言いながら、ジーンは周囲を警戒していた。
 そして、クロストは村人達の様子を気遣う。
「怪我や気分のすぐれない方は居ませんか? もし居られたら癒します」
 それぞれが動く中、コーディアスは逃げ出したゼナンの顔と姿を、忘れないように記憶していた。
「あとで似顔絵を作っておこう。可能なら、ギルドが手配書を作れるように」
 許すべきでない相手を追い詰めるため、コーディアスは出来ることを惜しまなかった。

 こうして依頼は幕を下ろす。
 冒険者たちの活躍により、誰一人として死人は出なかった。
 そして遺族たちのことも考えて動いた事もあり、遺族たちのその後も良い方向に向かわせることが出来た。
 十二分の活躍を見せた冒険者達であった



依頼結果

大成功

MVP
 クロスト・ウォルフ
 ヒューマン / クレリック


依頼相談掲示板

[1] ソルト・ニャン 2018/02/21-00:00

やっほにゃ~ぁ
挨拶や相談は、ここでお願いにゃ~!
みんなふぁいとにゃにゃ~  
 

[6] ジーン・ズァエール 2018/03/01-08:52

OK。じゃあクロストの説得を先にして、それでダメならって流れでプランを考えておく

避難場所はそれで問題ねえと思う。下手に戦ってるところを見られると色々面倒そうだし
そういえば今更気付いたが、外は雪で動きにくいんだな。それなら近接オンリーじゃなくある程度遠距離スキルをぶち込んでおこうか

俺は二人みてえにフォローとか遺族の心象を慮って動くってのは難しいが、死体を無残に散らさないとか、出来る限りの事はしてみるぜ  
 

[5] クロスト・ウォルフ 2018/02/28-23:51

クレリックのクロストと相棒はシルキィです。よろしく。

出た意見に異議はないですが、最初は説得から入るのが自然かと思うので、俺は説得を試してみます。
それで反発されれば問答無用という流れかなと。
戦闘は役に立たないのでサポートや家族の方のフォロー等を考えています。  
 

[4] コーディアス 2018/02/28-18:39

≪つづき≫

スキルはいつもの火界咒と、1R準備が掛るけど2R相手を拘束する不動金縛りを持っていく予定。
万一、引き剥がしが上手くいかない時にノーライフキング押えるのに使えないかなって感じ。

終ったら、倒した死体は綺麗に並べたりしようかな。無惨なままなのは家族が辛いだろうから。
大成功要素かわからないけど家族の心を更に傷つけない配慮とか、僕はこの辺考えてみたい。  
 

[3] コーディアス 2018/02/28-18:38

シャーマンのコーディアスとパートナーはルゥラーン。
ジーンさん来てくれて嬉しいよ、今回もよろしく。

問答無用で引き剥がすでいいと思うよ
村人に頼むのも賛成。
少しでもいう事聞いてくれそうな言葉は並行して掛けたい所だ。

引き剥がした家族はどこに避難させようか?
エントランスホールって玄関だよね、なら別の部屋が近くにあるのかも。
ミネルバさんと村人にそこに家族を連れて避難して貰えばいいだろうか?
で、ノーライフキング引き連れて外で戦闘。
これで家族に戦闘の様子は多分分らないし、ダークエルフもどっかで観察してる、と。  
 

[2] ジーン・ズァエール 2018/02/28-08:54

ヒューマンでウォーリアのジーンだ
締切までほとんど日がねえのに二人とはなかなか面白い展開になりそうだな

ともあれさっさと話を進めよう
とりあえず解決すべき問題はノーライフキングのそばにいる一般モブをどうにかする事か
説得か問答無用で引き剥がすか。俺としては後者を推したいところだ
その辺りを村人達にやってもらいてえな。個人的には敵との戦いに集中してえから、その辺りの労力は出来るだけ少ないに限る

戦闘になったら接近してぶった斬る。タフ以外に取り柄はなさそうだし、それで問題ねえだろ

ガイドには大成功以上でリザルトのラストが変わるっぽいが、この人数で大成功までいけるか微妙なところだな……