プロローグ
「こ、ここが、例の廃墟……なのですが」
時は丑三つ時。君たちは、一人の老人に連れられてとある廃墟の前に立っていた。
「ど、どうかこの廃墟を…… どうにか……」
老人は目に涙を浮かべながら、君たちにそう告げる。
その目の前には、綺麗な一軒家が建っていた。
時は12時間ほど巻き戻る。
「あの廃墟は…… 本当に何かが住み着いているんです……! そいつを、どうにか……!」
なんでも、十数年前に持ち主が謎の死を遂げたと言うその一軒家は、管理する人間がいなくなったにもかかわらず、十数年経った今でも当時と同じ、いや、当時以上に綺麗に保たれていると言う。
「し、しかも夜になると、謎の声と言いますか、鳴き声と言いますか、謎の音が聞こえてくるのです……」
その言葉には嘘は一切無いらしく、周囲の人々に聞き込みをしてみるとその通りらしい。
「このままでは恐怖のあまり安心して生活が出来ません…… こういう現象が起きないようにして頂けないでしょうか」
その廃墟に関して恐怖を感じた人々が、君たちにこの依頼を持ってきたというのである。
……時はまた戻る。
「それでは、朝日が昇る頃にお迎えに伺います。宜しくお願い致します」
そうして、君たちは見送りの人々を背に、丑三つ時にその館に入っていった。
解説
【主な目的】
このシナリオでは、皆様に、この綺麗すぎる廃墟の秘密を探って頂きます。
この廃墟は、もう数十年前から誰も住んでいないはずなのに、「新築同様の美しさ」を保っています。
それと同時に、夜になると何か甲高い笑い声、や甲高い話し声が聞こえると言うのです。
この廃墟の秘密を探り、周辺住民が安心して暮らせるようにしてあげて下さい。
【状況確認】
この廃墟は、怪しい部屋がいくらかございます。その部屋は以下の通り。
・厨房 シンク周りはもちろん、冷蔵庫の中も新しい食材が揃っているようです
・寝室 ふかふかのベッドにはしわ一つ無い。枕元のライトには異様に長い紐がくくりつけられている。時折、窓から大きな耳のある巨大な動物の影が見えるとの噂
・子供部屋 少しおもちゃなどが散らばっているものの、綺麗に整頓された子供部屋。時折、甲高い笑い声や話し声が聞こえると言う。
また、全ての部屋に置いて「ネズミと同等、もしくは少し大きめ程度の穴」が空いております。ネズミ程度のサイズであれば自由に移動が出来るようです。
また、廃墟の中に入った人の話によると、無駄にネズミを見た、と言うことと、二回りほど大きいネズミが二匹いるという事、その二匹が通り過ぎた直後に謎の甲高い声が聞こえてきた、と言う事のようです。
調査開始は丑三つ時。制限時間は朝日が昇る朝6時頃でしょう。それまでに解決できるでしょうか。
ゲームマスターより
どうも、今までとは違う空気のOPですみません、おじやしげきです。
と言うことで、今回はホラーです。ホラーと言いましても、本当に心霊なのかどうか疑わしいかもしれませんね。
ココに書かれていない情報に関しては想像して下さい。面白ければ採用すると想います。
それでは、皆様丑三つ時の廃墟にてお待ちしております。
あ、最後に一言。ネズミってきれい好きらしいですよ。
†ぼくの廃墟へようこそ エピソード情報
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担当 |
おじやしげき GM
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相談期間 |
8 日
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ジャンル |
恐怖
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タイプ |
ショート
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出発日 |
2018/2/28
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難易度 |
簡単
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報酬 |
通常
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公開日 |
2018/3/10 |
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心情 誰も居ないのに綺麗…とは本当に不思議な現象ですわね 私の家もそうなればよろしいのに…とは言っても幽霊とかがやっているのだとしたらごめんですが 恐ろしいものでないことを祈りつつ、捜索いたしましょう
行動 依頼者からの情報で怪しい部屋があるようですわね…早く終わらせるためにもそこから調べていきましょう 厨房、寝室、子ども部屋の順番で…甲高い声が怖いとかではないですわよ!
不測の事態に備えてすぐにスパークフラッシュを撃てるようにしておきましょう もし襲ってくるようであれば、フォールダウン・ノーチェを…暗がりでの行動ですので、目立たないようにしなくてはいけませんからね
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住民が心穏やかに過ごせるようにしっかり正体を突き止めないと 夜なら灯りが必要だな、ランプを持参 それと懐中時計を所持し、仲間に適宜残り時間を知らせたい 各部屋見て回り寝室の長い紐の先はどこに続いてるのか、ライトつけて不思議な効果はないか調べたい(光を浴びると変調きたさないか等) 子供部屋に声の正体の可能性として声の出る玩具(魔法玩具?)はないか 大きなネズミは見つけたらこっそり様子を見たい シルキィの手を握ってやる事も忘れずに
正体が危険なものと判断できるなら排除したい 正体と話ができるなら依頼人達と話し合いを取り持つ
万一怪我人が出たら回復スキルを使おう そんな事態にならない事を祈るが
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動機 二人共好奇心
事前に 依頼人や周辺住民に聞き取りしておきたいな ・この辺で食料の盗難事件が頻発してたりはする? ・持主の家族構成や亡くなったのは持主だけ? 防寒着着用 ランプ持込む
中では 物音立てないよう心掛ける まずは怪しい部屋を入口から近い順に調査 僕は食料やベッド等触り実体あるか確認したい ルゥには主に何か事情の察せるメモとか探してもらう 情報は仲間と共有したい 大ネズミと遭遇したら後をつけ話し声の内容を聞き取りたいな
正体が 逃げるなら不動金縛りで拘束試す 襲ってくる奴なら少しダメージ入れてそこ等の物で縛る 可能なら聴取だな 何者だ?ここで何をしている?
必要なら依頼人に突き出すよ 調べた事は報告 処分の判断も任せたいね
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参加者一覧
リザルト
「食料盗難ですか……? ウチはそういうことはあまりないですけど……」
まだ太陽が空高く昇っている頃。ピンク髪の右サイドテールと、青紫の緩いウェーブの目の前にいる女性は申し訳なさそうにそう告げる。大丈夫ですよ、と答えつつも新しい情報を探すために、次の聞き込み相手を探す。
「なぁルゥ、ソロソロ休憩しないか?」
「そうですねぇ。ちょうど、カフェもある用ですよ、コーディ」
聞き込みも一度ストップし、目の前にあったカフェに二人は入っていった。
「マスター、コーヒー2杯。それとチーズサンドで」
【コーディアス】が、カウンターの向こうにいるカフェのマスターにオーダーを伝える。しかし、マスターの表情は暗い。
「悪いね。チーズ関係の商品は現在提供を停止してるんだよ……」
マスターは、申し訳なさそうにうなだれながら、大きく×が書かれているチーズサンドの張り紙を指さした。
「ここ最近、チーズの盗難が多くてね……。仕入れることすら難しい。運良く仕入れることが出来ても、仕入れたものを盗難に遭ってしまうんだよ……」
「……その話、本当か!?」
マスターのその言葉に、カウンターから飛び出さんばかりに身を乗り出すコーディアス。やっと手に入れた情報に少々興奮しているのか、マスターにつかみかからんとする勢いである。
「ほ、本当だとも……機会があればギルドに依頼を出そうと思っていたほどさ」
「それでは、詳しい話を教えて頂いてもよろしいでしょうか?」
「あ、ああ。それはだな……」
【ルゥラーン】の言葉にマスターは少しずつ答える。
「わたしはココに店を出してまだ半年ぐらいなんだがね、チーズがほぼ入ってこないんだ。話を聞いていると、十数年前ぐらいからそのような出来事が頻発しているらしい。チーズが何よりも好物なのか、チーズが真っ先に盗難に遭ってしまうようだ。他にも、食料品はいくらか盗難に遭うようなんだ……」
「十数年前……。ちょうど、あの屋敷が廃墟になった時期だな」
「状況証拠だけですけど、私達の予想はあながち間違っていないようですね」
「おお、君たちはなにを調べてるんだい?」
そう声をかけてきたのはこの地域に何十年も前に住んでいた老人。
「あの家は昔は本当に凄かったのでな……」
なんでも、あの家の家主が亡くなる直前は済んでいるのは家主のみで、誰にも看取られず亡くなったらしい。息子などがいるらしいのだが、家を出てしまい戻ってくることは考えにくいと言う。
「こんなものかな……」
しっかりと情報を収集した二人は、防寒具やランプなど、調査に必要なアイテムを用意して夜の調査開始を待つことにした。
時は、丑三つ時まで進む。一行は、その綺麗すぎる廃墟を前に、準備を整える。そのドアに手をかけるが、そのドアはスムーズに開き、整備されているという事がありありと分かる。そのドアノブにも埃一つ積もっておらず、ピカピカに光っている。
「ランプ持ってきて良かったな……」
確かに室内は綺麗になっているものの、誰もいないこの館には灯りは用意されておらず、辺りは真っ暗である。窓から月明かりが漏れているものの、その灯りは仄暗く、周囲を見渡すことは出来ない。
「……シルキィ、お前大丈夫か?」
【クロスト・ウォルフ】は、明らかに震えている【シルキィ】を見ながら心配の声を上げる。
「だ、だだだ大丈夫よ……!?」
シルキィはその言葉に対し、気丈に振る舞う……が、その声は細かく震えており、その顔は軽く引きつっている。しかし、しっかりと頷くシルキィの様子を見て、苦笑しながらも、この任務への覚悟が出来ていることを感じ、前に進んでいく。
「ここか……」
誰とも無く、扉を前にして独りごちた。その扉をランプで照らし、その中に入ると、そこに鎮座しているのは大きな食料庫と調理場。いわゆる厨房という奴である。
「ここには、なにも無いようですね……」
少々腰が引けているものの、確実に調査を進めていくシルキィ。食器棚も綺麗に整っており、それこそ誰かが住んでいると言われてもおかしくは無い様子である。
「まぁ、仕方が無いか……。よし、次はココを……」
そう言って、ウォルフはその壁に備え付けられている食器棚に手をかける。その扉の隅から黒い影が見え隠れしたものの、そこに気がつかなかったのか、その扉を大きく開け放す。
「んきゃぁあああぁぁぁあぁぁx!!?」
扉の開放と同時に飛び出してきた黒い影の集団に襲撃されるシルキィ。その急な襲撃に不意を突かれたのか、大きく叫び面食らってしまう。チュウチュウと謎の鳴き声のようなものをならしながら通り過ぎていったその黒い影の集団はシルキィの身体の上を通り過ぎてまた闇へと消えていく。
「お、おい大丈夫か!」
その声の元に一行が集まっていく。特にウォルフは襲撃に驚き尻餅をついてしまったシルキィに真っ先に駆け寄ってその肩を抱く。
だ、大丈夫……と口では言うものの、さっきのショックか少々ピクピクしている。が、それも込みであまり問題はなさそうである。それこそ、少々のショックを受けただけのようだ。
「もうむりぃ!」
そういって同化するシルフィも、しばらくするとまた復帰、調査を続けていった。
「ここも、本当に綺麗ですわね……」
【アンネッラ・エレーヒャ】は、【トゥルー】と共に寝室の調査を行っていた。
アンネッラのその声はわずかながらに……いや、盛大に震えていた。怖いものは怖い。それは致し方の無い事実である。
「そうですね。ほんとうに、誰かが手入れしているかのように」
トゥルーもアンネッラの様子を確認しながら調査を続けている。ベッドの下、戸棚の中など、アンネッラが調査を忘れているであろう場所を中心に、確実に調査箇所を潰していく。
「……私の家もこのようになってくれればよいのに」
アンネッラの軽いこの一言も、トゥルーは聞き逃さない。
「よいのですか? そうすると霊などが来てしまうかも知れませんよ」
「それは嫌です……」
その言葉にガクガクしながら、鞄の中、机の中、探したけれど見つからない。こんなところにいるのか、と言うツッコミは野暮である。
「こ、コレで終わりですかね……」
少々緊張の面持ちを浮かべながら、早く部屋から出ようとするアンネッラに対し、カーテンの長い紐を手に取ったトゥルーが無言で手招きをする。それは、暗に「ココを探していないでしょ? おいでおいで?」と言っているように見える。
「え、ええと……。た、確かに、ココは、探してませんね……」
内心(え、本当にそこまで調べないと行けないんですか……?)と思いながら、しかし指摘された以上確認しないわけにはいかない。
「引きますよ?」
トゥルーはその紐を持ち、アンネッラに確認を取る。無言でコクコクとその首を縦に振り、同意を示す。それを確認し、その紐を引っ張る。
「んきゃぁあぁぁ!?」
その紐を引いた瞬間に、驚きの声をあげる……が。
「……?」
なにも無く。空振りに終わる。少々拍子抜けに終わってしまった。
「ついに、ココか」
「ここは来たくなかったです……」
口々に、最後の部屋の前で自らの気持ちを口にする。その言葉は誰に聞かれるでも無く、暗闇の中に消えていく。
「……よし」
誰とも無く、その扉に手をかける。その扉は音も無く、スムーズに、手応えが無いかの如くその部屋の内部を一向に晒す。
その部屋の内部は、整然としていた。一般的な子供部屋と比較しても綺麗に整えられている。コレが一般的な子供がいる部屋であるとすると、それはかなり教育が行き届いている家庭であろう。むしろ、生活感が無い、とまで思えるほどである。
……まぁ、もう幾ばくも前から誰も住んでいない廃墟であるから当然と言えば当然なのだが。
「何か、メモ的なもの……」
ルゥラーンは、メモ的な何かを探していた。この騒動に関して、何か原因に繋がる何かが書かれたメモでも無いか、ヒントの一つでも無いか、と探していたのだった。
「あら? 君が探しているのは、コレじゃ無いかしら?」
トゥルーが、床に落ちていた一枚の紙をルゥラーンに差し出す。
「あら、ありがとうございます」
「どういたしまして。ところで、なにを探していたの?」
「そうですね、何か手がかりになるような……」
二人で話をしながら、そのメモに目を通す。そこには、文字らしき文字は書かれていなかったが、ネズミの足跡がのたうち回っているようである。
「外れ、なのかしら」
「……いえ、これ……」
その紙を透かしたり、いろいろな方向から見ていると、何か文字のようなものが煌めく。
透明な薬品で書かれているのだろうか。筆圧や、インクが古くなったのであろうかランプで照らすとわずかながらに文字が浮かび上がってくる。
「ふむ、これは、分かるかも知れない」
クロストはそのメモを確認すると、改めてそのメモを解析する。その背後では、暗い中調査を続けている為か、
「きゃぁぁあぁ!?」
どんがらがっしゃーん!
とか、
「な、何か踏んだ!? ぬ、ぬいぐるみ……?」
といったことが行われているようであるが、そのような騒音すらも耳に入らない集中力である。
「なるほど……」
周囲が一通り調査を終えた頃、一枚のメモはその言いたいことを露わにする。
そのメモには、簡単な地図と書物の名前が記されていた。
「ここに、何かがあるのかな……?」
シルキィが、そのメモに従って移動する。その目の前には、大きな本棚が広がっている。
「これだけの書物を……世界の真理に近づけるかも……」
シルキィに続いていたアンネッラは、その目の前の書物の数々にうっとりとしている。自分の追い求めるものにわずかながらにでも近づけるかも知れないと思っているのであろう。
「まずはどれを読みましょうか……」
もはや、当初の目的はどこへやら。目の前にある情報の海に飛び込まんとワクワクしているアンネッラに対し、シルキィは受け取った指示を確認している。その耳には、わずかながらではあるが、チューチューと甲高い声が聞こえてきている。しかし、それは気づくか気づかないかの声量で、それでいて確実に耳に入っている。
「よし、コレにしましょう」
そういって、一冊の本を手に取ろうと手を伸ばす。その本が絵本であることは気にしてはいけないのだろう。タイトルは、『ネズミの女房』。
「あっ……」
アンネッラがその本に手をかけた瞬間、シルキィは思わず声を上げる。そのタイトルが指示を受けた書物であったからなのだが、その声は次の瞬間に感嘆の声に変わる。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
その本を手に取った瞬間、目の前の本棚が音を立てて左右に開く。その先には、地下の漆黒へ向かう階段が広がっていた。
「こんなところがあったなんてねぇ」
コーディアスが、その階段を降りながらそう独りごちた。
「中々、賑やかになってきたようですしね」
その道中、ネズミの鳴き声が徐々に大きくなってきている。しかし、階段を降りる一行の目の前にその影が出て来ることも無い。その声は、歓迎しているのか、それとも。それは、一行には知りうる余地は無かった。
「しかし、これはなんなんでしょう……こんな、隠し部屋なんて……」
アンネッラが、ふと誰にでも無く問いかけた。
隠れて研究する研究所だったのだろうか?
ただ研究するのが目的なら、そこまで隠す必要は無い。わざわざ隠すという事は、何かやましいことがあるのだろうか……。
いや、案外不審者がアジトにしているのかも……と様々な意見が飛び出してくる。しかし、そのどの意見も確信を得ることは無かった。
「ここか……」
ただ一つ言えることは、今目の前にある扉、コレを開くことでその答えが分かる、と言うことである。そして、聞こえてきているネズミの鳴き声はかなり大きなものになっていた。
「……開けるぞ」
誰が言ったかは明らかでは無いが、その言葉に全員が無言で頷いた。そして、全員がその扉に手をかけ、押し込んだその瞬間。
「おっきゃくさまでチュー!」
「いらっしゃいませでチュー!」
目の前から、明るい声がする。正確に言おう。足下、普通のネズミより二回りぐらい大きなネズミであろうか、二匹のネズミが扉を開けた6人にそう語りかける。
「ここまで来てくれたお客様は久しぶりでチュー! ゆっくりしていって欲しいでチュー!」
「さぁさ、奥へどうぞでチュー!」
二匹のネズミは、目の前の六人を部屋の奥に招待する。
急な出来事にあっけにとられた六人であったが、少し冷静になると周囲を観察する余裕が出てきた。
明るくファンシーに装飾されたその部屋は、大人の人間が生活するのに十分な家具などに加え、ネズミサイズの家具なども用意されている。所々に少々場違いな実験器具や薬品棚が置いてあるが、それもインテリアと言えばインテリアとして成立すると言えなくも無い。
「あ、自己紹介が遅れたでチュー! ぼくはチュー太でチュー!」
「わたしはチュー子でチュー! 宜しくでチュー!」
目の前で律儀に自己紹介された6人は、律儀に自己紹介を返す。
「皆のことはよく分かったでチュー! それで、なにしに来たでチュー?」
「あ、あぁ…… 少々、聞きたいことがあってな……」
ココまでの道中との空気間の違い、そして目の前にいる無邪気な二匹のネズミに少々困惑しながらも、コーディアスが昼間に聞き込んだ食料盗難事件について問いかける。
「ご、ゴメンナサイでチュー……。前までは、パパが食事を持ってきてくれてたチュけど、いつからか持ってきてくれなくなってしまったでチュ……。お腹も空くし、子供たちも育てないと行けないから、ご飯をもらって言ってしまったでチュ……」
「パパ? パパって誰ですか?」
正直に白状したチュー太とチュー子の言葉に、シルキィが反応する。目の前で喋っているネズミを見て、自分の考えが正しいのか確認したかったのだ。
「パパはパパでチュー。わたしたちが生まれたときに、変なちゅーしゃ? をして喋れるようにしてくれたでチュー。それから、この部屋で過ごして良いって言ってくれたでチュー!」
「やっぱり……」
その考えは確信に変わった。二匹のネズミは、言葉を続ける。
「パパは、わたしたちに色々してくれたでチュー。友達になってくれて、一緒に遊んでくれたりしたでチュー。でも、昼間はお外に出ちゃダメって言われたでチュ。夜になったらお外に出ても良い、って言われたから夜にココで遊んでたでチュ。それでも、毎日来てくれたパパも、あるときにぱったり来なくなっちゃったでチュ、さびしかったでチュ……」
窓に映った巨大なネズミは、影の関係で大きく見えたのであろう。そして、ネズミが外に出たときに喋っていた声を誰かが聞いたのであろう。
「そうだったのですね……しかし、食料盗難に関しては……」
アンネッラは、一人考えていた。彼らは、自分たちのためにやっていること。しかし、怖がっている人もいる、盗難などの問題も出ている。どうすべきなのだろうかと。
「申し訳ないでチュー……わたしたちは、ここから出て行くでチュ……」
「あ、待って……」
出て行こうとする二匹(を初めとしたネズミ大家族)を引き留める。
「……とりあえず、一回依頼主に会わせてみない?」
「ん? 依頼主、チュ?」
コーディアスの提案に一同が同意する。状況を完全に理解していないのは二匹のネズミのみである。
「落ち着いて聞いて。君たちの言う、パパは、もう」
トゥルーは、二匹のネズミに、ただそう告げる。
「パパ、もういないでチュ……?」
「でも、君たちのことを話せば、キット依頼主は理解してくれると思うの。一回、話をしてみない?」
「……分かったでチュ! 僕たちも色んな人に会えるのはうれしいし、怖がらせたり迷惑をかけたいわけじゃないでチュ!」
「よし、それじゃあ、行こうか。もう、朝日も昇る」
開けっぱなしにしていた扉からは、夜の終焉を伝える光りが届いていた。
「いやー、この度はありがとうございました!」
数日後。六人の前には、依頼主のお爺さんが立っていた。
「ありがとーでチュー!」
その肩には、チュー太が乗っていた。
「いやー、最初にネズミが喋れる、と聞いたときは面食らいましたが……。よくよく話をしてみると中々に面白い。それこそ、招き猫ならぬ招きネズミじゃないですが、もうこの村のマスコットキャラみたいなものです」
「チュッチュッチュ、大人気でチュー! 今では皆と仲良く出来るのが楽しいでチュー!」
そのネズミの顔は、とてもすがすがしく、輝いていたのであった。
依頼結果