Vd:チョコの木フェアリーズをどうにかしよう(春夏秋冬 マスター) 【難易度:普通】




プロローグ


 ゴブリンとオークという魔物が、この世界には居る。
 魔物といっても千差万別だが、この2種類の魔物は人の言葉を理解する知性ある魔物だ。
 ゴブリンは好奇心が強く純朴ではあるが、同時に臆病で騙され易い。
 そのため他の魔物にいいように使われている、なんてことも数多い。
 オークは、個体としての能力は高い種族だ。
 けれど集団で固まっている時に恐怖を感じると、それが周囲に伝播するように広がり、その恐怖を消し去ろうと粗暴になり暴れてしまい易いという性質を持っていた。
 ゴブリンもオークも、ディナリウムに服従していない亜人であり蛮族だと言われている。

 ではゴブリンもオークも、全てが全く話の通じない相手かというと、そんなことはない。
 例えばオーク。親人間派のオークが存在している。
 ハーフオークのボル・ボーリーが族長を務める、ボーリー族が良い例だ。
 そしてゴブリン。ゴブリンは個体差が大きいため、必ずしも言葉が通じるとは限らないのだが、能力の高い者は別だ。
 特に数百人を従える者や、噂の域を出ないが、万人単位のゴブリンを従える者さえいるというのだから、条件さえ整えば話し合うことは可能だろう。
 けれど、現実はそう容易いものじゃない。
 人と生存域が重なる場所では、争いは日常茶飯事だ。
 それを避けるためには、暴力で片付けるのが一番手っ取り早いだろう。
 けれど、それ以外の方法を取ろうとしているデモニックの女性が、ここに居た。

「みんな、用意は出来た?」
 亜麻色の髪の毛をしたデモニックの女性が、ゴブリンやオークの子供達に問い掛けた。
「できたー」
「へへー。準備万端」
 わいわいがやがや。
 賑やかな応えが返ってくる。
 ここにいるゴブリンやオークの子供達は、全員が孤児だ。
 その全員の面倒をみているのが、亜麻色の髪の毛をしたデモニックの女性であるセレナ。
 元冒険者であり、『知性ある魔物との友好』を目的とする彼女は、孤児院のようなことをしているのだ。
 夢想家のようではあるが、元冒険者だけあってリアリストでもある。
 無条件での友好ではなく、あくまでもお互いを尊重し合える間柄での友好を前提としていた。
 そうなるように、子供達を育てていこうとしている。
 今日もその一環として、子供達を連れてある場所に向かおうとしていた。
「セレナー。ウボーにいちゃんの故郷に行くんだよなー」
 ゴブリンの子供の1人が、セレナに問い掛ける。
 それに彼女は、笑顔で応えた。
「そうよ。そこで何をするのか、ちゃんと覚えてるわね?」
「あったりまえじゃん! 悪いことするフェアリーズをやっつけるんだろ?」
「少しだけ、正解。フェアリーズを鎮めるんであって、やっつけるってのとは、ちょっと違うわ」
「えー、そうなのかー?」
「そうよ。なにしろ御神木のフェアリーズですもの。出来るだけ納得して、大人しくして貰わないと」
「でもさー、イタズラばっかするんだろ。大人しくならなかったら、どうすんだよ」
「その時は、決まってるわ」
 にっこり笑顔で応える。
「鉄拳制裁よ」
「暴力主義だー!」
「なにごとも暴力で解決するのが、一番手っ取り早いのよ。でも、それだけじゃいつか、行き詰るから。そうならないために、頑張りましょう」
「うー、でもどうやってー」
「大丈夫。助っ人を頼むから。冒険者の人達に協力して貰うわ。言うことをよくきいて、行動してね」
 この言葉に、元気良く応える子供たち。
 セレナは子供達の頭を撫でると、自分のスレイブであるアルテアの元に。
「巧くいくと思う?」
 いつも眠たそうな目をしているアルテアは、いつものように、とろんとした目つきでセレナに問い掛ける。
 これにセレナは、笑顔で返した。
「なるようにしか、ならないわね」
「無計画ねぇ」
「計画通りに行くなら、苦労いらないもの。今回のフェアリーズの騒動だってそうよ」
「御神木の、チョコの木のフェアリーズ、だっけ?」
「そうよ。あの街の危機を救ってくれたチョコの木。そのフェアリーズね」
「敵に囲まれて食料が乏しくなった時に、沢山の実を成らせて、それをフェアリーズが与えてくれたんだっけ?」
「ウボーから聞いた話だと、そうよ。その前から、そのチョコの木は親しまれていたらしいけど、街の人達は助けられてからは、御神木として大切にしてきたらしいわ。フェアリーズも街の人達に友好的だったらしいんだけど、ここ最近暴れるようになったみたいね」
「暴れるっていっても、ちょっとしたイタズラレベルなんでしょ? 放っておけば良いんじゃない?」
「そういう訳にもいかないのよ。チョコの木の実を使って商売しようとしてるんだから」
「そうなの?」
「ええ。チョコの木の実は人間が食べても美味しいけど、スレイブが食べてもすごく美味しく感じられることが分かったのよ。だから、それを一つの売りにしてイベントをして商売をしようとしたんだけど、チョコの木の実を取ろうとするとフェアリーズに邪魔をされるようになったってわけ」
「自分達でどうにかすれば良いじゃない」
「御神木のフェアリーズを、自分達でどうこうするのは気が引けるそうよ」
「だからよそ者の私達に話が回って来た、と」
「好い事じゃない。お蔭で、ウチの子達の社会勉強になるんですもの。お互い、利用し合えるのは良い事よ」
「そこまで割り切れるなら、確かに良いことかもね。それじゃ、ウチの子達のためにも、冒険者に依頼に行きましょう」
 そう言って、アルテアとセレナはギルドに依頼を持ち込みました。
 内容は、チョコの木のフェアリーズが、チョコの木の実を取ろうとするのを邪魔するので、それをどうにかして欲しいという物でした。
 その時には、ゴブリンとオークの子供達が同行するので、協力して手伝わせて欲しいとの事です。
 この依頼に、アナタ達は?


解説


詳細説明

チョコの木の実の収穫を邪魔するフェアリーズを、ゴブリンとオークの子供達と協力してどうにかして下さい。

方法としては、大きく分けて2つです。

1 フェアリーズを全員倒す。
2 フェアリーズが暴れている理由を解明する。

1は単純に、数だけは多いフェアリーズを全滅させるだけです。フェアリーズは大元であるチョコの木がある限り、また復活します。

2は、色々と考える必要が出てきます。街の人間に訊き込みをしたり、フェアリーズとどうにかしてコミュニケーションを取るなど、色々と考えられます。

1と2、どちらの方法でも、ゴブリンとオークの子供達を指示して動かして下さい。

ゴブリンとオークの子供たち

基本、お子ちゃまの集まりです。割と素直に言うことは聞きますが、それでもお子ちゃまなので、難しい事は理解できなかったり飽きて遊び出そうとしたり色々します。

チョコの木

ふんだんに魔力の含まれた木の実を成らせる木です。スレイブが食べると、非常に美味しく感じます。それを使って何か商売をしようとしているらしいです。親木である大木と、その

刺し木から育った物が何本もあります。

フェアリーズ

今回のフェアリーズは、チョコの木を大元とする妖精のような存在。手の平に乗るサイズの人型。チョコの木の実で商売をしようとした途端に暴れるようになった。スレイブを危険視しているらしい? 言動はお子ちゃまです。

NPC

セレナ。元冒険者のデモニックの女性。ウボーという人物と共にデーモンとパーティを組んでいたらしい。
アルテア。セレナのスレイブ。

この2人のNPCも同行し、冒険者の要望に可能な限り応えます。

舞台

そこそこの規模の街と、そこに隣接する森。森にチョコの木はあります。
森の中は、比較的動き易い程度には整備されています。

以上です。
では、ご参加をお待ちしております。


ゲームマスターより


おはようございます。もしくはこんばんは。春夏秋冬と申します。

今回のエピソードは、今の所は幻カタには無い「バレンタイン」にまつわるエピソードとして繋がっていく予定のシナリオになっています。ですので今回以降も続いていくエピソード群になっています。関連する物は【始まりのバレンタイン】と題しまして、進めていく予定です。

ご参加頂いた皆さまの活躍で、色々とバレンタインの風習が出来あがっていく事になると思います。

もっとも、今の所は「バレンタインの風習の起源となる物の一つ」という形になりますので、私の方で進める以外にも、色々なバレンタインの風習が出来あがっていくかもしれません。

そして【始まりのバレンタイン】はエピソードタイトル頭に『Vd』が付きますので、後でタイトルから探し易くなっています。興味を持って頂けましたら幸いです。

それと、桂木SD主催の【真冬のホラーエピソード】に私も近い内に参加する予定です。そちらも興味を持って頂ければ幸いです。

では、ご参加頂けることを願っております。



Vd:チョコの木フェアリーズをどうにかしよう エピソード情報
担当 春夏秋冬 GM 相談期間 7 日
ジャンル 日常 タイプ ショート 出発日 2018/2/16
難易度 普通 報酬 通常 公開日 2018/2/26

アンネッラ・エレーヒャトゥルー
 エルフ | メイジ | 16 歳 | 女性 
目的
フェアリーズと和解する

動機
復活するとはいえ、今まで友好関係だったフェアリーズたちと戦うのは間違っておりますわ…!
何とか和解できるようにしたいですわね

行動
オークとゴブリン…と一言で言っても、その接し方はその時々によって違うようですわね
普通の子供と接するように話して手伝っていただきましょう

街での情報取集
子どもたちを数人で一組に、ばらばらに質問してもらいます
聞くことは「いつからフェアリーズが暴れるようになったのか」
私自身はフェアリーズの好きなものを聞きます

フェアリーズに好きなものを渡して、お話を聞きます
なぜチョコの木の実を取ると邪魔するようになったのかなど理由メインに
妥協しあえる点を探ります
コーディアスルゥラーン
 デモニック | シャーマン | 23 歳 | 男性 
セレナさんの志しについて
難儀な事を…とは思うが邪魔しない位は心掛けよう
まずは挨拶、自己紹介しようか

次に
この依頼に関わる街の人集め事情を詳しく聞き解決策考えたい
子供達にも気になる事の質問促す
そして可能性をあげ心当たりを聞きたい
・商売に熱が入るあまり実を採り過ぎてないか
・それが親木の生命の危機に及んでる
・以前の様な関係が崩れた事を悲しんでる
討伐の一時的な解決より先の為に両者が納得する道を探すのが賢明と思うよ

距離取りつつ街の人の前に立ちフェアリーズと交渉したい
話で出た可能性を問いかけてみる
街の人には悪いと感じたなら謝罪の言葉を促す

状況が合えば解決案
刺し木を果樹園にし親木は憩いの場、とかどうかな
クロスト・ウォルフシルキィ
 ヒューマン | クレリック | 27 歳 | 男性 
和解させたいですね

子供達、セレナさん達と挨拶しておこう
子供達の暴走の止め方などあったら聞いておきたい
暴走しないに越したことはないが、身体能力的に子供と侮れないだろうし
いざという時は止めますよ体張って

街の人達と話しがしたいな
いさかいは大抵相互理解の欠如からのすれ違いで起こるもの、なので必要なのは情報だ
どんな些細な事でもフェアリーズの様子について話して欲しいと話を促します
子供達にも話を聞いてどう感じたか聞きたい

フェアリーズとの交渉にはシルキィも連れて行く
彼女を俺の後ろに控えさせて(いざという時は守る!)フェアリーズとは距離を取っておこう
シルキィには子供達の様子を見てて貰おう
不穏な時は知らせてくれ

参加者一覧

アンネッラ・エレーヒャトゥルー
 エルフ | メイジ | 16 歳 | 女性 
コーディアスルゥラーン
 デモニック | シャーマン | 23 歳 | 男性 
クロスト・ウォルフシルキィ
 ヒューマン | クレリック | 27 歳 | 男性 


リザルト


○まずは挨拶から
 依頼を受けた街の、統治者のお屋敷。
 依頼人に指定された場所に来た冒険者たちは、ゴブリンとオークの子供達に対面した。
「こんにちはー!」
 まず最初に挨拶から。
 子供達に会うなり、向こうからしてきた挨拶に、最初に返したのは【クロスト・ウォルフ】のスレイブである【シルキィ】だった。
「こんにちは。みんな挨拶できて、えらいね」
 ディナリウムの基準で言えば魔物であるゴブリンとオークだったが、クロストが最初から依頼人と共に子供達にも挨拶をしておこうと考えていたので、シルキィもそれに従い挨拶を返したのだ。
 これに子供達は、褒められたと思ったのか照れたように喜ぶ。
 それを目の端で捉えながら、クロストは依頼人であるセレナに挨拶する。
「こんにちは。よろしくお願いします」
「はい。今回は皆さん依頼を引き受けて頂き、ありがとうございます」
 和やかに言葉を交わし、子供達には聞こえないよう小声でクロストは続けた。
「今回の依頼で、何か気を付けることはありますか? たとえば、子供達の扱いとかで」
 子供達が暴走しないよう、場合によっては身体を張ってでも止めるつもりでクロストが尋ねると、セレナは静かな笑顔で返した。
「人の子供と同じです。ちゃんと言い聞かせれば、言うことことを聞いてくれます。ただちょっと、元気があり過ぎますから――」
 少し言いよどむセレナに、彼女のスレイブであるアルテアが続けて言った。
「お子ちゃまだから。言うことは聞くけど、難しすぎると理解できないし、飽きたら遊び出そうとするから、そこだけ気をつけて」
「お子ちゃま、なんですね」
 危機感とは違う嫌な予感を感じながらクロストが訊くと、アルテアは返す。
「うん。お子ちゃまは、率直に言っておバカだから。突拍子の無いこともするかもしれないから、気をつけてね」
「……なるほど。分かりました」
 クロストは小さく頷いて返すと、どうしたら良いかを考える。
(魔物としてより子供として気を付けないといけないってことか。依頼人の希望からすると、一緒に行動させた方が良いみたいだけど、どうするかな? まずは街の人達から情報を集めて、その時に子供達にも話を聞かせて、どう思ったか聞きたい所だけど……どうするかな?)
 クロストが悩んでいると、依頼に参加した他の冒険者である【アンネッラ・エレーヒャ】は、スレイブの【トゥルー】と共に、子供達に言うことを聞いて貰うための行動を取っていた。
「お菓子ー? お菓子くれるのー!」
「ええ。みんなに上げますわ」
 バスケットに入れた飴玉を差出し、アンネッラは言う。
 ゴブリンとオークと一言に言っても、その接し方は相手によって変わるようだと考えたアンネッラは、普通の子供達と変わらぬように接している。
 のだが、相手はお子ちゃまである。
 大人数のお子ちゃまパワーに押され気味になる。
「飴ー!」
「食べるー!」
「ちょっと待って下さいですのっ。慌てなくても大丈夫ですわっ」
 一斉に駆け寄ってくる子供たち。
 喧嘩はしないが、遊ぶように我先にと飴玉を取っていく。
「俺いちばーん!」
「おいらこれー。赤くてきれいなのー」
「にーちゃー。わたし、そっちの方が良いー」
「またかよー。ほら」
「へへー。にーちゃ、すきー」
 飴玉一つで大騒ぎな子供たち。
 そのパワフルさに振り回され気味なアンネッラが、ここからどう言うことを聞かせるべきか悩んでいると、トゥルーが口を開く。
「あらあら、みんな元気ね」
 穏やかな声で、子供達に呼び掛ける。
 普段から、アンネッラの保護者役として動いているからか、どこか子供たちに対して慣れた気配がある。
 子供はそういった気配には敏感なので、自然とトゥルーの声に耳を傾ける。
 そこにトゥルーは続けて言った。
「美味しい?」
「んー」
 飴玉を口に入れているので、手を上げて返事をする子供たち。
 その様子に苦笑しながら、トゥルーは続けて言った。
「今日は、みんなに手伝って欲しいことがあるの。詳しくは、このお姉さんが教えてくれるから、よく聞いてね」
 そう言ってアンネッラにバトンタッチ。
 じーっと好奇心一杯な眼差しで見詰めてくる子供達の視線を受けながら、アンネッラは言った。
「これから街の人達に、フェアリーズについて話を聞こうと思いますの。だからみんなには、それを手伝って欲しいんですわ」
「んー!」
 飴玉を舐めながら、元気良く手を上げる子供たち。
 そこにアンネッラは、続けて言った。
「そのあとに、フェアリーズにもお話を聞こうと思っているんですの。それをみんなで手分けするために、組み分けしようと思っているんですわ。みんな、今から出来ますか?」
 これに子供達は、わちゃわちゃ騒ぎながら数人一組のグループを作っていく。
 それが出来あがった所で、やる気を出させるために、アンネッラは言った。
「それじゃ、この後みんなで一緒に出発しましょう。頑張ったら、みんなにご褒美をあげますけれど、すごく頑張った子達には特別なお菓子を上げますから、頑張って欲しいんですわ」
 これに喜ぶ子供たち。
 一連のアンネッラの提案は、巧くいっている。
 子供達のやる気を出させると同時に、協力させる巧いやり方だった。
 そうしてやる気を見せた子供達に、最後に注意事項を言い聞かせるように口を開いたのは【コーディアス】だった。
「みんな、やる気を出したみたいだね。良いことだよ。でも、気を付けなきゃいけないこともあるから、それは忘れちゃダメだよ」
 ゴブリンの討伐依頼のあるコーディアスは、どうしても子供達に対して不信感を拭い去ることは出来なかったが、それだけに言い聞かせておこうと思ったのだ。
 とはいえ、その口調は柔らかな物にしてある。
 クロストとアンネッラ達のやり取りもあり、ただ上から押さえつけるように言うのは逆効果だと判断し、柔軟に対応していた。
「みんな好い子にしていないとダメだよ。悪いことをしたら、僕たち冒険者が、懲らしめに来るからね」
「んー」
 神妙に手を上げて応える子供たち。
 そこにコーディアスは続けて言った。
「分かってくれるなら良いよ。悪ささえしなければ、みんなニコニコでいられるんだ。この街の人とフェアリーズ、両者がニコニコする方法を僕は皆と探したい。君達がセレナさんから学ぶ『お互いを尊重し合う事』。これがニコニコの為には必要なんだ。分かるかな?」
「んー!」
 元気一杯に手を上げて、力強く返す子供たち。
(これなら、大丈夫かな?)
 子供達の様子に、一先ずは安堵するコーディアス。
(思わず途中から力が入っちゃったけど、その甲斐はあったか)
 一息つくように思い、自然と自分のスレイブである【ルゥラーン】に視線が向く。
 すると、自分を見詰めていたルゥラーンと目が合う。
 ルゥラーンは、コーディアスを笑みを浮かべ見つめていた。
 それにコーディアスは照れ臭くなりながら、ルゥラーンの元に。
「お疲れさま。コーディ」
「ありがとう。今の所、問題は無さそうだから良かったよ」
 そこに依頼人であるセレナが近付き言った。
「ありがとうございます。あの子達に、言い聞かせて貰って」
 これに、すでにセレナには挨拶をしていたコーディアスだったが、改めて言葉を交わした。
「どういたしまして。そうした方が良いと思ったから」
 これにセレナは返す。
「ええ、本当に。それも皆さんに依頼をした、理由の1つですから」
「どういうことなのかな?」
 聞き返すコーディアスに、セレナは返した。
「あの子達に、現実を知って貰うことも目的でしたから。だから、ゴブリンやオークの討伐をすることもある、冒険者のアナタ達に協力をお願いしたんです。仮に嫌悪感や敵対心を示されたとしても、それが現実ですから。でも今回、来て頂いた皆さんは優しい方で、嬉しいんですよ。恐怖も必要ですけれど、それ以上に優しさは、あの子達には必要なものですから」
 穏やかな笑みを浮かべながらセレナは言った。
 その眼差しに、夢想家ではない確たる現実主義者の意志を込めながら。
「本気なんだね」
 セレナの眼差しに、コーディアスは自然と思った事が口に出る。
 セレナの志を、難儀な事と思っているコーディアスだが、それ以上にセレナは本気だと思ったからだ。
 これにセレナは、自分と同じデモニックであるコーディアスに何か思う所があるのか、どこか思慮深い眼差しを向け返した。
「ええ、心から。別に、博愛主義という訳じゃないんですよ。ある意味、自分のためでもありますから」
「どういうことなの?」
 コーディアスの問いに、セレナは返していく。
「いつか自分が、狩り立てられる側になりたくないと思っているからです」
「そんなこと、ある訳ないと思うけど」
「分かりませんよ。魔物と言われる者全てを狩り尽くしたあとに、何が起こるかなんて。人は魔物を狩り立てるように、人を迫害できますから。でも――」
 セレナは、スレイブであるルゥラーンと自然に寄り添うコーディアスを見詰めながら言った。
「生まれがどうであっても、寄り添い合うことはできると信じていますから。皆さんを見ていると、そう思えるんです。だから今回の依頼、よろしくお願いします。あの子達に、皆さんの在りようを学ばせてやって下さい」
 そう言って、頭を下げた。

 こうして準備が整い、街に皆で情報収集のために繰り出すのだった。

○街のみんなに話を聞こう
「神木との交流は、どうなっていますか?」
 皆で手分けして情報収集をする中、クロストは街の住人に問い掛ける。
(今まで好意的だった相手が、突然態度を変えて実の採取を邪魔するようになったのは、実を採って欲しくない。又は、自分に構って欲しいがゆえのパフォーマンスの可能性もあるかな?)
 幾つかの可能性を考えながら、住人に応えを促すべく、あえて大きな括りで問い掛ける。
 これに住人は返した。
「そりゃ、大事にしてるよ。うちの街のご当主さまも、きっちりして下さってるからな」 
「なるほど。なら、普段から感謝はしているんですね?」
「もちろんだよ。御神木さまの助けがなきゃ、今頃この街はディナリウム本国に好き勝手されてただろうからな」
「ディナリウム?」
「おう。うちも今はあの国の一部だけど、元々は別でな。それが併合されることになって、向こうから派遣されたのが今のご当主さまの一族だ。それが良くしてくれてな。元の住人と流入してきた住人で仲良くやってたわけよ。それが気に喰わんって軍まで派遣しやがって。それで徹底的に戦ったってわけさ」
「なるほど。歴史があるんですね」
「ああ。その前から御神木さまには、木の実を貰ったりしてよくして貰ってたからな」
「随分と好意的な御神木ですね。そのフェアリーズが木の実を採るのを邪魔してるそうですが、怪我なんかはないんですよね?」
「ないない! 邪魔っつっても、悪戯な感じでな。大事にはなってないよ」
 こうして話を聞き出す中、シルキィが具体的な質問をする。
「チョコの実を採るのを邪魔する時どんな顔してた? 怒ってた? 悲しそうだった? それとも苦しそうだった?」
 これに住人は考え込んだ後、苦笑するように言った。
「ガキの時分に、お袋に叱られた時みたいだな」
「どういうこと?」
 シルキィに訊き返され、住人は返した。
「怒る……っていうよりは嗜めるだな。そんな感じだよ」
 これにシルキィとクロストは言葉を交わす。
「これって、ひょっとしてこっちに問題があるんじゃ?」
「そんな気がするな。大人の意見だけだと偏見が入るかもしれないし、子供達の意見も聞いてみるか」
 クロストは聞いて回っていた子供達にも聞くが、皆口々に、フェアリーズは悪い子じゃないと口にした。
「これは、擦れ違いが原因かも。となると――」
 こうしてクロストが情報を集めているのと同様に、他の冒険者たちも動いていた。

「チョコの実を使って商売をしようとしたのが原因みたいですわ」
 数人一組で情報収集した子供達から聞いた話を統合し、アンネッラは考えを口にした。
「そうかもしれないわね」
 トゥルーは、あえて肯定も否定もせず、アンネッラの考えに任せていた。
(商売というよりは、スレイブに食べさせようとしているのが問題な気もするけれど……ここは任せましょう)
 アンネッラの成長を見守るように、トゥルーは静かに従う。
 そしてアンネッラは問題を解決するべく、聞き込みを続けた。
「フェアリーズの好きなものを、知っていませんか?」
 話し合いをするために、なにか相手の好きな物を贈ろうと考え尋ねるアンネッラに、年かさの女性は笑顔で返した。
「好きな物といったら、何よりも遊んであげることねぇ。私も小さい頃は、一緒に遊んだものよ」
「フェアリーズと遊ぶ、ですか? どんなことをされていたんですの?」
「鬼ごっことか、好きねぇ。そうそう、あの子達みたいな子どもと一緒に遊ぶのは、大好きだと思うわ」
 そう言って女性は、話を聞いて回っているゴブリンとオークの子供達に視線を向ける。
「御神木さまも、子供が好きだから。人も魔物も関係なく、喜ばれると思うわ」
「そんなんですの……」
 女性の応えに、アンネッラは考え込む。
「話し合いのためには、それが必要なのかもしれませんけれど、子供達の安全を考えると……」
 可能な限りの最善を見つけようと、アンネッラは悩む。
 それをトゥルーは見守りながら、いつでもアンネッラのために動けるよう準備していた。

 そうして情報を集めているのは、コーディアスも同じだった。

「実を採り過ぎたりしてる訳じゃないんだね?」
 御神木を弱らせるほど無茶をしているのではないかと思い尋ねるコーディアスに、果物屋のオヤジは応える。
「そんな罰当たりな事しねぇって。ちゃんと採る量は考えてるさ」
「なら、前と関係が変わって悲しんでいるってことは無い?」
「いや、実を使って商売しようって以外は、変わりはねぇな。そもそもそれも、御神木さまを守るためにしようとしてるんだしな。ほら、最近なんか物騒だろ? 聞いた話じゃ、銀色のローブ着た怪しい奴らを御神木さまの周りで見たっていうしな。そういうのから守るためにも、先立つものが要るからなぁ」
 続けて同様のことを聞いていくが、御神木を大事にしていることが分かるだけで、それ以上が分からない。
(これ、何が原因なのかな?)
 質問に行き詰ったコーディアスは、別の視点からの意見が聞けないかと思い、子供達に質問をさせてみる。
(大丈夫かな?)
 子供とはいえ魔物ということで、住人が警戒しないか注意するコーディアスだが、そういった物は見られない。
 どうやら話を聞いていると、この街は元々が異なる文化の住人が入り混じって出来た街らしく、たとえ魔物が相手だろうと話が通じさえすれば気にしないようだ。
 自分達と違う相手が居るのは当たり前、ということらしい。
 逆に、話が通じなければ、本国であるディナリウムだろうと徹底的に戦うという気質らしい。
 そんな住人に、子供達は質問した。
「チョコの実って美味しいのー?」
 違う、そうじゃない。
 思わずツッコミを入れそうになるコーディアスの前で、質問された果物屋のオヤジは笑いながら返す。
「ははっ、美味いぞ。去年採ったのが残ってるから、食べてみるか?」
 そう言うと店の奥に行き、チョコレート色の丸い木の実を持って来る。
「食べるー!」
 速攻で食べる子供たち。止める暇さえない。
「美味しー!」
 目を輝かせて喜ぶ子供たち。
 それを楽しそうに果物屋のオヤジは見ていたが、コーディアス達にも勧めてくる。
 一瞬迷うが、情報収集をスムーズに進める事もあり食べてみる。 
「美味しいな、これ」
 思わずコーディアスが口にするほど美味い。
 食感はナッツ類。味はチョコレートなのだが、芳醇な味わいが口の中に広がり、僅かな余韻を残して消える。
 そこらのチョコなど目じゃないほど美味かった。
「本当に、美味しいですね、これ」
 ルゥラーンも、顔を綻ばせるほど。
 けれど味以上に、気になることをルゥラーンは口にする。
「気のせいでしょうか? なんだか、力が湧いてくるような」
「……そういえば、そうかも」
 コーディアスも食べたあとに、活力が湧きあがるような感覚が。
 これを情報収集が終わり冒険者たちが集まる中、伝える。
 確認のため、複数の住人に改めて訊くと、きょとんとした顔で口々にこう応えた。
「いや、知ってるよ。昔から食べてるし」
 あまりにも身近に在り過ぎて、凄さに全く気付いてないようだった。
「なんとなく、理由が分かってきた気がしますね」
 クロストの言葉に、アンネッラが返す。
「ええ。確かめるためにも、森に行ってフェアリーズに会いに行く必要がありそうですわ」
 これに皆は頷き、住人と子供達と共に森へと向かうことに。

 それを、物陰に隠れていたフェアリーズたちは全て見ていた。
 子供達との関わり、街の住人への対応。
 そしてスレイブと冒険者のやりとり。
 全てを見ていたフェアリーズは、小さく呟く。
「いい子たちです?」
 そう呟くと、ふっと消え失せた。

○フェアリーズと話そう
「つかまったのです?」
 ぷるぷる震えるフェアリーズを掌に乗せ、冒険者たちは鬼ごっこで疲労困憊だった。
 なぜそんな事になっているかといえば、一番の理由はアンネッラがフェアリーズの好きなことを聞いていたお蔭だ。
「話を聞かせて貰えませんか? その代り、貴方達の好きな遊びをしてあげますわ」
 森で出会ったフェアリーズと話し合うために言ったのだが、これにフェアリーズは喜び、一斉に逃げ回った。
 そこに遊んで良いのだと思った子供達が加わり、騒がしさがアップ。
 放置も出来ず、冒険者達も鬼ごっこに参加し、さんざんに走り回ってようやく1人ずつ、一体のフェアリーズを捕まえ掌に乗せることが出来たのだ。
「なぜチョコの木の実を採ると邪魔するようになったんですの?」
 アンネッラの問い掛けに、フェアリーズはトゥルーに視線を向け言った。
「ちょこの実、たべると元気になるです? すれいぶ、こわい子です?」
 返ってきた応えは、いまいち要領を得ない。
 これに、トゥルーが自分の考えを口にする。
「スレイブにチョコの実を食べさせるのを問題にしてるんじゃないかしら?」
 これを聞いて、街で得た情報も合わせて、アンネッラは考えつく。
「危険だと思っているスレイブに、食べると力の湧いて出るチョコの実を食べさせるのを不安に思っているんですの?」
 こくこくと頷くフェアリーズ。
 これを聞いて、クロストが自分の掌に乗せたフェアリーズに問い掛ける。
「なら、街の人達が原因ではないんですね?」
 こくこくと頷くフェアリーズ。
「なるほど。フェアリーズとしては、スレイブがチョコの実を食べないようにすれば問題ないということですね。ですが――」
 クロストは、シルキィに視線を向け考え込む。
 シルキィは食べ物を口にすることは少ないが、甘味は別だ。
 街でチョコの実を勧められ食べた時、嬉しそうな顔をしたのが印象に残っている。
(シルキィが食べれないのは、勿体ないな。それに、街の人達は既にスレイブ用の商品も考えているようだし)
 どうすれば良いかとクロストが悩んでいると、コーディアスの掌に乗ったフェアリーズが彼の持つ薙刀に視線を向け言った。
「かくれんぼです? でてこないです?」
 寂しげな声に、フェアリーズを刺激しないよう姿を隠すために、ジョブレゾナンスし武器と同化していたルゥラーンが同化を解き姿を現す。
「ルゥ?」
 心配そうに声を掛けるコーディアスに、ルゥラーンは柔らかな笑みを浮かべ返した。
「大丈夫です、コーディ」
 そう言って、フェアリーズに視線を向け言った。
「スレイブは、怖くありませんよ」
 そう言って、フェアリーズに指をそっと差し出す。
 恐る恐るといった風にフェアリーズは手を伸ばし、ルゥラーンの指にちょんと触れる。
 そして見上げるフェアリーズに、笑顔で返すルゥラーン。
 これにフェアリーズは小首を傾げた後、ぴょんと掌から降り、他のフェアリーズと集まり話し合いを始める。
 それが終わると、2種類のチョコの実を持って冒険者たちの前に。
 色の薄い方を先に差し出すと、提案するように言った。
「こっち、さきに食べるです? ふたつめ、こっちです?」
 勧められるがままに、一つ目の薄い色の実を、まず食べる。
 それは非常に美味しい、けれどそれだけの木の実だった。
 しかし2つ目の実を食べた途端、鬼ごっこの疲労が消え、それどころかいつもよりも調子が良くなる。
 それを確認し、フェアリーズは言った。
「おいしい実、だけならいいです? げんきになる実は、めーです?」
「美味しいだけの木の実なら、使っても良いということですの?」
 アンネッラの問い掛けに、こくこくと頷くフェアリーズ。
 これにコーディアスが返す。
「だったら解決だね。でも、どちらの実なのか、誰でも判断できるのかな?」
 するとフェアリーズが返す。
「そばで、教えるのです? ほうしゅうは、あそんでもらうのです?」
「見極めを手伝ってくれるということですか。ひと手間増えてしまいますが、それでも構いませんか?」
 クロストの問い掛けに、付いて来ていた街の住人は、力強く返すのだった。

 こうして依頼は解決を見せる。
 フェアリーズに会いに行く前の街の住人への訊き方が悪かったり、連れていたゴブリンとオークの子供たちへの対応が悪かったりすると、こうはならなかっただろう。
 そしてスレイブとの関わり合いが悪くても、隠れて見ていたフェアリーズに警戒され巧くいかなかったに違いない。
 全ては、前準備からおろそかにせず、周囲にも配慮した結果である。
 巧く街の住人とフェアリーズの仲を取り持った冒険者達だった。
 そしてゴブリンとオークの子供達への対応も良かったといえた。その証拠に、全てが終わった後にクロストが感想を聞くと子供達は満面の笑顔で応えたのだから。
 みんなを争いもなく巧く導いた冒険者たちの活躍だった。



依頼結果

大成功

MVP
 アンネッラ・エレーヒャ
 エルフ / メイジ


依頼相談掲示板

[1] ソルト・ニャン 2018/02/06-00:00

やっほにゃ~ぁ
挨拶や相談は、ここでお願いにゃ~!
みんなふぁいとにゃにゃ~  
 

[6] クロスト・ウォルフ 2018/02/15-22:55

ひぃぃ
挨拶遅れました、クロストとシルキィです。よろしく。

俺も平和に解決して欲しいです。
意見出せず申し訳ない。ここの発言見て行動考えさせて貰ってます。
フェアリーズと会う時はスレイブを一緒に連れて行くつもりです。
解説には>危険視しているらしい?
と?がついてるのでそこまで危険と言う事もないのかな?
距離は取っておこうと思います。
 
 

[5] コーディアス 2018/02/14-03:02

>子どもたちに情報収集を頼む
僕も、聞き取りを手伝ってもらうのいいと思うよ。

えーと、解説にある
>チョコの木の実で商売をしようとした途端に暴れるようになった。
ていうの見ると、どうも街の人がやらかしてるくさいように思うから、最初にまず、今回の依頼に関わってる街の人達集めて詳細を聞き取りしたいな。
これで、問題点が露見してくれたら、街の人諭して和解案を持って街の人達連れてフェアリーズとの交渉に行けたらいいな。
て、考えてる。

子供達に関しては、終始僕等と行動して貰って、一緒に解決に持っていく感じを考えてる。

みんなと考えの摺合せできたら嬉しいよ。  
 

[4] アンネッラ・エレーヒャ 2018/02/13-20:38

メイジのアンネッラ・エレーヒャと申します。

元々友好関係だったのですから、円満解決したいですわね。
子どもたちには情報収集を頼もうと思ったのですが…駄目でしょうか…?
数人一組となれば、見守りやすいかと思ったのですが。  
 

[3] コーディアス 2018/02/11-00:54

≪つづき≫

気になったのが、
モンスターデータでフェアリーズを調べてみたんだけど
>魔力が膨大に宿る木や花が、その身の代理人として召喚する妖精たち
>魔石、特にスレイブなどには攻撃的
て、所かな。
フェアリーズの悪戯はこのご神木の意思って事なのかな?
それと、フェアリーズとの交渉の場にスレイブを同伴させる時は注意が必要かもしれないね。

後は、ゴブリンやオークの子供と言えど、もし人間との交渉の場に連れて行くなら、こっちも注意が必要そうだなって思った。

ちょっと、頭ひねってくる。
また。  
 

[2] コーディアス 2018/02/11-00:53

シャーマンのコーディアス、パートナーのルゥラーンだよ、よろしく。

関わる人物が多いね、さてどうするかな。
取りあえず僕の基本方針は話し合いの相互理解で円満解決になればいいな。
フェアリーズとの戦闘は最後の最後の最後くらいの手段と考えてるよ。