● 悲劇
先ず、最初に感じたのは埃臭さ、そして目に入ったのは瓦礫の山。
その赤茶けた光景はまるで荒野、しかし地面の底から響く声から連想するのは地獄。
君たちは今、ブロントヴァイレスによって破壊された街の、中枢にいた。
つまりもっとも被害が出た地域。
「ひどい……」
メンバーが誰ともなくつぶやく。
同じ言葉を飲み込んだ君は、乾いた唇をなめる。
その端が切れて血が滲んで、鉄臭い味がした。この場に満る大気と同じ香りがした。
感じるのは恐怖、圧倒的力に対する恐怖と。
滲むのは、この瓦礫の下の人々への畏れ。
君たちはこれからこの瓦礫の下の地獄と相対しなければいけない。
その覚悟があるか、君たちは自分自身に問いかける。次いで君たちは瓦礫に手を駆けた。
何かが焦げるにおいが鼻腔をくすぐる。嫌な臭いだ。きっとこの瓦礫の下には、その匂いの主が埋まっている。
● 状況説明
皆さんは混乱する状況の中、真っ先に被害箇所にたどり着いた探索者たちです。
ここから皆さんには救助活動を行っていただきますが。
かつては軒を連ねていた石造りの建物、茶色い石が敷き詰めてあった通路、噴水、そして広場。全てがめちゃくちゃで、瓦礫の山です。
この瓦礫の下にいる人々を助け出してください。
報告では、この地域には約百名の逃げ遅れがいるはずなのですが……。姿は見えません。
そこで皆さんには、要救助者を探すところから始めていただく必要があります。
・ 救助者を探す。
方法は聴覚に頼るのでしょうか? うまいスキルの使い方があれば救助ははかどるかもしれません。もしくはキャラクターの特徴によって救助がはかどる可能性もあります。
獣耳の方はいませんか? もしくは耳の良い方は。
・ 瓦礫をどかす。
瓦礫はとても重たいですし、へたに持ち上げようものなら崩れるかもしれません。
・救助者確認
要救助者はどこを怪我しているのでしょうか。足や腕ならいい方です。
中には胸をパイプで貫かれていたり。
瓦礫に足を噛まれて動けなくなっていたり、もう死んでいたりするでしょう。
それを見て、PCはなんと思うでしょうか。
遠くでブロントヴァイレスの声が響きます。
皆さんはなんと思うでしょうか
今回のシナリオは。要救助者を発見するのは簡単だと思います。ただ助けらえる命の数には限りがあることを覚えておきましょう。
さらに現場では下記のハプニングに見舞われます。
どうするのか相談して、対応してください。
・重症患者二人がいっぺんに見つかります。片方は失血の疑い。片方は内臓破裂の疑い、あなたはどうしますか?
・崩れそうな家屋の中で少女が泣いています。彼女は死んだ母を抱えてその場から動こうとしません。
どうしますか?
・口と腹から血をながしつつ、あなたに遺言を聞いてほしいと訴える人がいます。どうしますか?
・この救助活動の最中、無事だった女性から「あなた達のせいで彼が死んだのよ」そう恋人を失って錯乱した女性が掴みかかってきます、どうしますか?
どのハプニングに出会うかはPLの任意とします。
また、文章が散ってしまう、表現が薄くなってしまうのを避けるために、出会うハプニングは絞ったほうが、かっこよく演出されるでしょう。
また、普通にこの場所は危ないので怪我には気を付けてください。
スレイブによって守られるとはいえ、瓦礫の下敷きになれば無事では済まないでしょう。
これ、確実に後味悪いシナリオですね。
どうも鳴海です。
はじめましての方は初めまして。
リプレイでお世話になった方はお久しぶりです。
別世界の私を知っている人は、ようこそこちらへ。
鳴海ですが、特徴を最初に述べておきますと、シリアスとか、後味悪い系のシナリオ大好きです。
なのでちょくちょく書いていくと思います。
今回のシナリオは、頑張ったら助けられる命もあるでしょうが、それの二倍くらいは命を見捨てないといけないでしょう。
みなさのPCはとても苦い思いをするはずです。それが成長につながるのか、心へのダメージにとどまるのかは今後のシナリオ展開次第でしょうか。
それでは、お楽しみいただければと思います。
よろしくお願いします。
【創造の光】救い、手を血で染めながら エピソード情報 | |||||
---|---|---|---|---|---|
担当 | 鳴海 GM | 相談期間 | 5 日 | ||
ジャンル | --- | タイプ | EX | 出発日 | 2017/7/1 0 |
難易度 | 普通 | 報酬 | 通常 | 公開日 | 2017/7/11 |
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参加者一覧
四季神楽・冬夜( 櫻花 ) | |
ヒューマン | クレリック | 20 歳 | 男性 |
フェルハン( エイミー ) | |
コロポックル | クレリック | 10 歳 | 男性 |
ブラン( カメリア ) | |
エルフ | クレリック | 17 歳 | 男性 |
レイラ クロスロード( ブラッド ) | |
エルフ | クレリック | 17 歳 | 女性 |
朱露・ギフトナール( ヘルモーサ・ベルベリィ ) | |
ケモモ | ウォーリア | 16 歳 | 女性 |
ナイトエッジ( シース ) | |
ヒューマン | ウォーリア | 17 歳 | 男性 |
リザルト
プロローグ
乾いた風が唇を切る、それをなめると鼻腔、その奥からほんのり血の香りがした。
舞い散る砂埃の匂いと混じってそれは、非現実を演出した。
犠牲の山、そんな言葉が脳裏をよぎるが、その光景を否定することはできない。
こみ上げる吐気。
だが吐いているのにも体力を使う。
痙攣する胃袋を抑えながら『ブラン』は誰かいませんか、と声を掛けながら瓦礫に足を取られないよう注意して歩く。
「誰か……。誰か」
祈る様に絞り出す声。声をかけたならしばらく耳をすまし……小さな声も聞き洩らさないように立ち止まる。
「あっちから、誰かのこえが聞こえる」
そうブランが指さした方角を見て『四季神楽・冬夜』は奥歯を噛みしめた。
岩の隙間から沸き立つ赤い、赤い血の流れ。男の死体。
「酷いな……だが、あの時とは違う。もう、逃げ出す訳にはいかない!」
その言葉にブランは頷いて、その瓦礫へと駆け寄る。
別の角度から見れば、そこには耐えがたい現実が待っているかもしれないのに。
「俺が捨てられていたのも目の届かないような場所……、注意は怠らないようにしよう」
探索者による決死の捜索が、これから始まろうとしていた。
● 救助
「みんな! こっちに来て。瓦礫の下に誰かいる!」
声を張り上げながら『フェルハン』は周囲を探索していた。
すると家屋のがれきと思われる岩が重なった下から女性の声が聞こえてきたのだ。
あわてて駆け寄るフェルハン。しかし残念、フェルハンの筋力では瓦礫をどかすことも叶わず、その手が傷ついていくばかり。
手が滑り思わずしりもちをついたフェルハン。その隣から『ナイトエッジ』が現れ手を差し伸べフェルハンを断たせると、二人がかりで瓦礫をどかすことに成功する。
「ありがとう」
女性は無事だった、瓦礫に閉じ込められただけで無事。二人は安堵で胸をなでおろす。
「礼はあとだ。あの空洞の向こうに誰かいるらしい。だが」
ナイトエッジは指をさしながら駆ける。次なる瓦礫に手をかけ伝う汗も忘れて救出作業に没頭した。冷や汗をぬぐう。
「これ以上瓦礫をどかせない、誰かに支えてもらう必要がある」
そこでフェルハンは見た。ぐらつく意思の柱、それにパズルのごとく積み上がる石の塔。
どうやら、絶妙なバランスで瓦礫がかさなり合い空洞ができあがっているらしく、うかつに手を出せなかった。
「僕が行くよ」
震える声でフェルハンが告げる。
「なに?」
ナイトエッジがそう尋ね返す、するとフェルハンは決意を固めたように頷く。
「僕が中に入って瓦礫が崩れないように支える、支えられるように廃材を設置する。だからそれが終わったら、思い切り瓦礫を吹き飛ばして」
「そんなことをすればお前が……」
そこでナイトエッジは言葉を口にすることをやめた。フェルハンの瞳が本気であると語っていたから。
何も反対意見が無いとわかると次いでフェルハンは、その小柄を生かし素早く体を滑り込ませる。
空洞の奥には子供がいた。自分より大柄だから瓦礫の隙間からは逃げられなかったのだ。
フェルハンは二人を慰めるように声をかけ瓦礫を内側から固定していく。
そして数泊の後に、フェルハンはいいよとサインをだした。ナイトエッジは渾身の力で瓦礫を吹き飛ばしていく。
結果瓦礫は崩れることなく綺麗にめくられ、肩を抱き合って震える兄妹を救出することができた。
「もう、大丈夫だよ」
そうフェルハンは折れていると思われる足を治療して二人を立たせる。二人には自分たちでキャンプに向かってもらうことにした。
さらに別の戦場では。
「ヘルモーサお願いね」
時同じくして『朱露・ギフトナール』も男女の救出に成功していた。衰弱はしていたが外傷も特になく頭を打った様子もない。なので治療と対応は自身のスレイブである『ヘルモーサ・ベルベリィ』にまかせて、次の要救助者の元へと向う。
要救助者の容態を周囲に知らせるヘルモーサの声を背中に聞きながら、瓦礫の山でも難なく朱露は駆ける。
彼女のケモモの耳は多くの悲鳴を捉えていた。ピコピコと耳を動かしながらふさぎもせずに、そしてその家屋の前に立つ。
そこには涙を流しながら死を待つ男性がいた。朱露の鼻は死の香りを嗅ぎつける。内臓がいくつも瓦礫に貫かれ、死を待つだけの男性だった。
そんな彼と視線を一瞬合わせる朱露、その瞳が驚くように見開かれ、やがて何かを諦めたように伏せられた。それを朱露はただ見ていた。
そんな男性に歩み寄り朱露は首元へ刃を突きつける。
「苦しまないでいいよ、おやすみ」
茫然と朱露を見あげる男性。彼は少しの間黙り、そして朱露を仰ぐように告げる。
「ありがとう」
首が落ちた。ごろりと転がり血が噴出する。朱露の体が真っ赤に染まっていく。最初は温かった血だが、すぐにさめ。前身が震えるほどに冷たい。
寒かった。
その光景を見ていることしかできなかったナイトエッジ。
拳を強く握りしめて、地面に叩きつける。血が滲んだ。
そうやって行き場のない感情を彼女にぶつけることだけは耐えた。
今は感傷に浸っている暇はない。一人でも多く助けなければ、出ないと何のために自分はここにいる。
ここで立ち止まっていては、今の男性のような存在を作るだけだ。
「どうしたの? 行こうよ」
朱露はそんなナイトエッジに声をかけた。その表情は軽かった、しかし。
その目は決して笑っていなかった。
「責めたりしないさ」
ナイトエッジも彼女の気持ちはわかる。
クレリックの仲間たちが救えない絶望を味わうより、じわじわ死ぬよりずっといい。
そう、朱露は思うのだ。
戦場はこういうものだ。全て救えるわけないから、選ばなければいけない。
クレリックの回復も無尽蔵じゃない。
「だから、死ぬしかない人は私が殺して眠らせる」
朱露の遠吠えが悲しく響いた。
● 慟哭
冬夜は負傷者の手当てをしていた。幸い瓦礫が家をふさいだだけの家屋があって、その家屋には家族が閉じ込められていた。幸い崩れる心配もなかったので家の壁を破壊するだけで事なきを得た。
足の骨が折れているだろう父親、その足を添え木で固定してキャンプまでの道を誘導する。
「櫻花、次はどこに向かえばいい?」
そう尋ねると櫻花は周囲の索敵結果を教えてくれる。二人はお互いの手を取りながら、瓦礫の山を登り、そして下る。
応急キットはすでに使い切ってしまった。
なので次に見つけた女性には自分の白衣を使うしかなかった、瓦礫に足を挟まれた女性の止血には少しだけ時間を取られた。
白衣もじきに足りなくなる。細く裂いて包帯にしてはいるが、代用品だ。包帯より大量に使ってしまう。
その治療を終えた冬夜の目の前に、一枚の紙切れが投げ捨てられた。
驚いて顔を上げる冬夜。その視線の先には。大粒の涙を流すケモモ女性が立っていた。
「あなたが、彼を殺したんだ」
冬夜は嫌な予感がして、その紙切れをめくった、見れば目の前の女性と先ほど見つけた男性が仲睦まじく映っているではないか。
それは冷たくなって発見された男性だった。
そうだ、二人は恋人だったのだ。
「君は……ッ……!」
歯を食いしばって、道具をしまい立ち上がる冬夜。
そして冬夜は女性を一瞥して告げた。
「……すまない」
短く、しかし真っ直ぐに相手を見て謝る。
「謝ってなんになるの! 返して。私の彼を返してよ!!」
そう胸ぐらをつかみあげる女性。
その光景を櫻花は一歩引いた場所から見つめている。
「本当にすまないと思ってる」
だが冬夜はすぐにその手を振りほどき、探索を再開した。
「あああああああああ!!」
悲鳴のような金切り声をあげながら、女性は冬夜の後を追う。
「よろしいのですか、聞いてあげなくて」
櫻花は次なる救助者が閉じ込められた施設を指さして告げた。
「なんで、私の事を無視するの、すまないじゃなくて、助けてよ、あの場所に戻って彼を助けてよ! 人殺し! あなたが見捨てたんだ、聞いてるの!?」
「聞こえてる!!」
冬夜は叫んだ。鉄の棒を瓦礫に差し込んで、痛む体に鞭打って、テコの原理で力を込めた。瓦礫をどかす、もう一枚、もう一枚。
「聞こえている。だからこれ以上、君の彼氏のような人を増やさないために手を尽くす」
その言葉に崩れ落ちる女性。
「俺達のせい、かもしれない。だからこそ、一人でも多く助けなければならないんだ……君は無事だった。なら、今直ぐ避難所へ行ってくれ。ここに居るより安全だ」
「彼がいないのに、どこへ行けっていうのよ」
さめざめと泣く女の声を聴きながら冬夜は黙々と作業を続ける。
そんな冬夜に視線を送る櫻夜。言いたいことはわかっていた。
「怒りの持っていく場所が無いのだろう。理不尽なのも分かっているだろう。ならば、俺がその受け皿となればいい」
そう小さくつぶやく冬夜。
彼女の言葉は否定できなかった。何が原因なのか。それは現状では何一つ分からないのだ。
「俺達が原因ではない保証はない」
そう告げ冬夜は瓦礫をどかしていく。
● 取捨選択
ブランは支給されたマーカーで瓦礫にしるしをつけた。ここには焼け焦げた死体があった。こうして死人を見るのはこの戦場で24人目。
当然助けられた人もいる。自分たちがいなければ死んでしまっていた人物もいただろう。
だけど。救った人間の数よりも救えなかった人間の数が重く……重くブランにのしかかる。
「……後で、迎えに来ます」
そう後ろ髪をひかれる思いでその場を離れるブラン。更なる悲劇が待っているとも知らずに。
「血が……。大丈夫ですか」
ブランは吹き飛ばされ多鉄骨に貫かれた男を見た。出血多量、適切な処置を施さなければ生存は難しい。
だが、たすけて……と別の声が聞こえた。
かすれた救いを求める声。
「俺が助けます。喋らないで……え、違う声」
カメリアがそっと指をさした。その指し示す方向には。横たわった男が一人。
「もう一人? こっちは内臓が……」
ブランは思わず目をそらす、痛々しいほどに腹部が腫れていた。
内臓破裂と出血多量。どちらかを見捨てるなんて、ブランにはできなかった。
二人の助けてという声が左右の耳に別々に届く。
「この人を助けたら次は貴方です、頑張って、どちらも助けるから!」
ブランは大急ぎで治療を開始する。
「ブラン……」
蒼い顔をしたブランに、カメリアはか細く声をかけた。
「カメリアお願い、もっと俺に力を貸して!」
カメリアの唖然とした声はブランに届かず、ブランは処置を続ける。止血しながらの治癒の雫。それでもだくだくと血は溢れ、ブランの全身が真っ赤に染まっていく。
そのくせ熱は奪われて、手足がどんどん冷たくなる。
「お願い、助かって、お願い」
祈るような声。
震える手足。その手に患者の手が重なった。
びくりと跳ねる、ブランの体。
さっきまで助けてと、うわ言のようにつぶやくだけだったその男性は。小さく笑うと涙とともに告げた。
「あなたは、私に最大限の事を……してくれた。もう、だいじょうぶだ」
男性の手から力が失われる。
心臓が止まったのを感じた。ブランはそれでも一心不乱に蘇生を試みる。
小さい悲鳴のような声が喉からこぼれる。
「ブラン……」
その手をカメリアがとった。
「ああ……ああああああ」
助けられなかった。その言葉を自分の口から吐く勇気すらも無く、ただ孤独に死と向き合い続けた青年をカメリアは抱きしめる。
二つの死体の間で、最後まであきらめなかったブランはその無力さに打ちひしがれた。
● 失われた、失った
「絶対、絶対離さないで!」
『レイラ クロスロード』は汗ににじむ手を力いっぱい閉じながら、その手の先にぶら下がる男性を見た。
ここはたぶん枯れ井戸の跡地なのだろう。救出直後に崩落に巻き込まれた男性を助けるために、自分もぽっかりと口をあけた奈落に飛び込み。そしてせり出した岸壁に手をかけてなんとか事なきを得た。
だが。
「ブラッド!! 早く助けてよ!」
もう力が限界だ。そんな時レイラの顔に影が落ちる。
「掴まれ」
そうブラッドはレイラの手を掬うようにとると二人を釣り上げてため息をついた。
「ここも、安全じゃないから、はやく、キャンプに」
息も絶え絶えに男性に告げるレイラ。膝から土をほろってたちあがる、えづきながらも両足に力を込めた。
「おい、レイラ。少しは休めって……」
そうブラッドが告げた矢先である。レイラは悲鳴を聞きつけて、酸素の足りない体で走る。
「おい! レイラ!」
背後から迫るブラッドの怒号、けれど構ってなどいられない。
レイラが向かったのは今にも崩れそうに揺れる家屋のした。
そこに挟まれている女性と、泣き叫ぶ少女がいた。フェルハンがその少女に付き添っている。
「絶対に助ける、治療する。だから……」
「おかあさん……やだよう、おかあさんといっしょがいいよぅ。おかあさん」
その姿に、レイラはかつての自分を見た気がする。
その時、レイラの背後から朱露が抜きさって少女に歩み寄った。
「お前の母親は、お前にここで一緒に居てぼけーっと死ぬことを望んでるの?」
その少女に叩きつけるように朱露は告げる。
「ひっどい母親だね? そうじゃないっていうんなら、こっちに来な! 母親はあなたがここで死ぬのなんて望んでないんだよ!」
そう無理やり少女を抱きかかえ連れ出す朱露。
レイラはその少女が安全な場所まで移動したのを確認して、今度は朱露を抜きさって母親のっ元へ。
「おい、レイラ。俺の話も少しは聞け……」
追いついてきたブラッドの言葉を無視してレイラは加速。その勢いを乗せた掌底で瓦礫を吹き飛ばすと。もうもうとたちこめる土煙の向こうから、母親を担いで姿を現した。
「お母さん?」
歩み寄る少女、母親を下ろすレイラ。
すがり寄る少女、お母さん、お母さん。何度少女が呼びかけても、母は娘の名前を呼ばない。
「お母さん?」
少女の瞳を涙が伝った。心が壊れかけているのが、レイラには痛いほどわかる。
「おいで」
レイラはそう告げて少女を抱き寄せた。少女がレイラに問いかける。
「お母さん、死んじゃったの?」
「うん」
「もう、逢えないの?」
「うん」
「おかあさん……」
しゃくりあげる少女、その体を抱きしめてレイラは少女を思った。
瞳を強く閉じて、レイラはゆっくりと口を開いた。
「親を失って辛いのはわかるよ。私もそうだった」
潤んだ瞳をぬぐうこともせずレイラは淡々と告げる。
自分もそうだったから、そして必要なのは慰めでもなく共感でもなく。もっともっと別のもの。
この少女の行く末を思うと胸が痛かった。
「でも生きることを諦めたらダメだよ。それこそ貴方の母親が悲しんじゃう」
レイラは自分の運命を不幸だと、卑下するつもりはない。
でもこの少女は母親の温もりを思い出しては夜に泣くだろう。母親の笑顔を思い出しては朝に泣くだろう。
そんな日を何千何万と繰り返していかないといけない。
大切なものを失った痛みを何度も何度も思い出しながら生きていく。
それだけはレイラにも分かっていた。
だって自分がなぞってきた道だから。
大切な人を失った人間は、失ったものが大きければ大きいほど、涙を流すものだから。
「だから、生きることを諦めないで? 挫けそうになったら私を頼って。また立ち上がれるまで支えるから」
だから、だから……あなたまで死なないで。
そう小さくつぶやくと。レイラは少女を抱きかかえてキャンプを目指す。
● 救いは常に犠牲を求めるのか
ナイトエッジはシースと共に周囲を警戒しながら。次の遭難者を探していた。
直後朱露から応援要請が入りそちらに向かう。
その道中、ナイトエッジは口と腹から血を流している男を見つけた。ナイトエッジは瞬時に悟る……これはもう助からないなと。
「助けに来た。だがすまない、お前の傷は致命傷だ。もう助からない」
その人物のそばに膝をついてつぶやくように告げる。
「何か言い残す事は? とどめは要るか? と確認をする」
「いらない、あんたに殺人の汚名を着せたくはない、苦しいが、最後まで生きるよ。そして死んでいくよ」
男が吐いた血が、ナイトエッジの頬を彩る。
「じゃあ、言葉は」
「娘に伝えてくれ。私は……」
ナイトエッジは、その言葉を聞き届けると、安心して瞳を閉じた男への敬意を胸にその場を去った。
忘れることは絶対にないだろうその一単語。愛していた。お前を愛していた。
その言葉を誰かにとどけるために、戦場を走る。歯を強く噛みしめナイトエッジははるか上空のブロントヴァイレスを見つめた。
「こんな事認められるか! 必ず終わらせてやる。誰もが普通に幸せに暮らせる世界を取り戻すんだ」
その為だったら、何にでもなるし、いくらでも強くなる。
そう胸に刻んでナイトエッジはスピードを増した。
犠牲ばかりを求める物語はまだまだ続くのだから。
依頼結果
成功
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依頼相談掲示板
【創造の光】救い、手を血で染めながら 依頼相談掲示板 ( 22 ) | ||
---|---|---|
[ 22 ] 朱露・ギフトナール
ケモモ / ウォーリア
2017-06-30 21:44:28
|
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[ 21 ] ナイトエッジ
ヒューマン / ウォーリア
2017-06-28 10:01:29
|
||
[ 20 ] ナイトエッジ
ヒューマン / ウォーリア
2017-06-28 03:22:13
|
||
[ 19 ] ブラン
エルフ / クレリック
2017-06-27 18:09:41
|
||
[ 18 ] ブラン
エルフ / クレリック
2017-06-27 18:06:52
|
||
[ 17 ] 朱露・ギフトナール
ケモモ / ウォーリア
2017-06-27 17:31:43
|
||
[ 16 ] 朱露・ギフトナール
ケモモ / ウォーリア
2017-06-27 17:29:20
|
||
[ 15 ] 朱露・ギフトナール
ケモモ / ウォーリア
2017-06-27 17:24:30
|
||
[ 14 ] 朱露・ギフトナール
ケモモ / ウォーリア
2017-06-27 17:23:17
|
||
[ 13 ] ナイトエッジ
ヒューマン / ウォーリア
2017-06-27 16:27:03
|
||
[ 12 ] 四季神楽・冬夜
ヒューマン / クレリック
2017-06-26 22:19:00
|
||
[ 11 ] 四季神楽・冬夜
ヒューマン / クレリック
2017-06-26 12:18:31
|
||
[ 10 ] 四季神楽・冬夜
ヒューマン / クレリック
2017-06-26 12:06:45
|
||
[ 9 ] ブラン
エルフ / クレリック
2017-06-26 11:14:40
|
||
[ 8 ] 四季神楽・冬夜
ヒューマン / クレリック
2017-06-26 10:15:51
|
||
[ 7 ] ナイトエッジ
ヒューマン / ウォーリア
2017-06-26 10:03:59
|
||
[ 6 ] フェルハン
コロポックル / クレリック
2017-06-26 07:41:17
|
||
[ 5 ] 四季神楽・冬夜
ヒューマン / クレリック
2017-06-25 21:46:52
|
||
[ 4 ] 朱露・ギフトナール
ケモモ / ウォーリア
2017-06-25 20:24:14
|
||
[ 3 ] 朱露・ギフトナール
ケモモ / ウォーリア
2017-06-25 20:05:03
|
||
[ 2 ] ブラン
エルフ / クレリック
2017-06-25 19:47:20
|
||
[ 1 ] 四季神楽・冬夜
ヒューマン / クレリック
2017-06-25 14:11:56
|