Vd:ホワイトデーに神の手探索(春夏秋冬 マスター) 【難易度:普通】




プロローグ


 チョコの木と呼ばれるものが、とある地域にあった。
 ディナリウムに属するその地域は、自然豊かな神話の森の近くにあり、チョコの木を御神木として祭っている。
 その御神木であるチョコの木の前に、2人の男女が居た。

「うわ、すごいね」
 目の前の大木を見上げ、デーモンであるセパルは言った。
 彼女はデーモンではあるが、なんやかやあって、御神木のある街の領主の一族であるウボーの所で居候している。
「花が満開だ。綺麗だね」
 セパルの言葉通り、見上げている御神木は満開の花を咲かせている。
 それは、かわいらしくも清廉な純白の花だった。
「真っ白で、雪が花になったみたい。これって、御神木だけじゃなくて他の挿し木も同じように咲いてるんでしょ?」
 セパルの問い掛けに、ウボーが応える。
「ああ。挿し木も御神木さまの一部だからな。全てが端末であると同時に本体だから、咲く時期は同じになるように調整されている」
「そうなんだ。あれ? でもさ、50年ぐらい眠ってたんでしょ、御神木って。その間は、どうだったの?」
「今と同じだ。眠っておられても、それぐらいの調整は無意識で出来るらしい」
 ウボーはセパルに返しながら、仕事を終わらせる。
「よし、これで終わりっと」
 御神木と挿し木から切り落とした枝の山を築いたウボーは、身体をほぐすように背伸びをする。
 年に一回。この時期に余分な枝を切り落とすのだが、それを使ったイベントのために、ウボーは動いていたのだ。
「うわ~、結構あるね。これ全部、指輪になるんでしょ?」
「そうだ。宝飾部分は、挿し木から取った樹液を固めて作るがな」
 いま2人が話しているのは、シークレッドウッドと呼ばれる特殊な指輪の話だ。
 御神木と挿し木の枝を指輪部分に。挿し木の樹液を宝飾部分に着け固めた特殊な指輪のことを、シークレッドウッドと呼んでいる。
「ホワイトデーで、贈る物なんだよね?」
「元々はな。今じゃ、ホワイトデー以外の時期にも、売ってるけどな」
 2人が話しているホワイトデーとは、元々は御神木の花にちなんだお祭りのことだ。
 御神木と挿し木の真っ白な花が、満開に咲き誇る3月中旬から4月の上旬に、バレンタインデーで贈り物を受け取った相手が、お返しにシークレッドウッドを贈るお祭り。
 もっとも、それはこの地域だけの風習なので、もっと商売として売り出すために、単純にバレンタインデーのお返しの贈り物をする日として広めるために活動している。
 とはいえ、昔ながらの風習も大事にしたいということで、ウボーは動いていたのだ。
「材料は揃ったから、あとはフェアリーズに協力して貰って作るだけだな」
 そう言うとウボーは、御神木の根元に居るフェアリーズに視線を向ける。
 フェアリーズは、根元に植えられたピンクのバラを囲んで踊っていた。
「フェアリーズに協力って、何して貰うの?」
 踊るフェアリーズを楽しげに眺めながら、セパルは問い掛ける。
 これにウボーは応えた。
「指輪を囲んで踊って貰うと、加護の力が込められるんだよ。それと、宝飾部分に想い出の風景を刻んだりも出来るけどな」
 そう言ってウボーは、自分のシークレッドウッドをセパルに投げて渡す。
 見れば、指輪の宝飾部分の中に、風にたなびく草原の風景が描かれていた。
「うわ、細かく出来てるね」
「フェアリーズに協力して貰わないと、とてもじゃないが作るのは無理だがな。それを作るのを、今度うちの街で開くホワイトデーイベントの目玉にするつもりだ」
「いいね、ボクも欲しいかも」
「セレナも当日来るから、贈っとけ」
「……セレナ、来るんだ」
 バツの悪そうにセパルは言う。
 セレナは、昔セパルがヒューマンの振りをして冒険者をしていた頃の仲間だが、デーモンであるのがバレた時に逃げてから一度も会っていない。
「怒ってる?」
「怒られとけ、お前は」
「うぅ、だよね~」
 うなだれるように顔を下げるセパル。
 そして顔を上げると、僅かに目を細め問い掛けた。
「ねぇ、セレナを呼ぶのって、何か理由があるの?」
 これにウボーは返す。
「ああ。当日ホワイトデーイベントに参加して貰ったあとに、街を散策する振りをして怪しいヤツが居ないか探って貰う」
「……やっぱり来てるんだ、神の手」
 神の手とは、時に大規模破壊さえする狂信者の集団だ。
 それが最近、街の近郊や御神木のある森に出没している目撃証言があったのだ。
「おそらく、御神木さまを利用するつもりだろう。御神木さまの実は、物によっては強力な効果の物もあるからな」
「……どうだろ? あいつら、どうかしてるから。『たかだか木が、神の名を騙るなどおこがましい』とか言って、焼き討ちするぐらいのことはしそうだけど」
「ありえるな」
 何度か神の手と交戦したことのあるウボーは頷く。
 そして、神の手の目論見を潰すために言った。
「セレナだけじゃなく、冒険者にも協力して貰うつもりだ」
「うん、その方が心強いよ。そうと決まれば、依頼を出さなきゃね」

 そうして、ギルドを介してアナタ達に依頼が出されました。
 内容は、ホワイトデーイベントに参加した後に、街を散策して怪しい者が居ないか見て回って欲しいという物でした。
 この依頼に、アナタ達は?


解説


詳細説明

・目的

ホワイトデーイベントに参加した後、街を散策する振りをして神の手が居ないか探って貰います。

・ホワイトデーイベント

森の中にある御神木の前に行ってシークレットウッドを作って貰うイベントです。本来は、作って貰ったあとに街を散策しお店を巡ります。

神の手に違和感を抱かれないよう、本気でイベントには参加して欲しいと依頼人には求められています。イベントに参加しに来た旅行客の振りをして欲しいとの事です。

・シークレッドウッド

御神木の前に設置されたテーブルに、用意された材料を持って行くと、フェアリーズが作ってくれます。その時、宝飾部分に描いて欲しい風景を伝えると、内部に描いてくれます。

PCからスレイブに、あるいはスレイブからPCにプレゼントしてあげて下さい。

・神の手の探索

街を散策する中で、見つけ出すことが出来ます。どのように探索するかをプランで書いて頂ければ、それを元に判定します。

・探索場所

商店街がある商業地区で探索します。大勢の人の中に神の手は紛れ込んでいると見られます。人気のない死角となる裏路地や、人の集まりそうな酒場などの地図情報は提供されます。

・NPC

セレナ。知性ある魔物の孤児院を運営している女性。シーフなので観察力が高い。読唇術が使えます。

セパル。デーモン。幻覚の能力を使い、近距離に居ても相手に気付かせません。

NPCに協力を求めることで、探索の成功度が上がります。どう協力させるかをプランでお書きください。

・その他

探索は分散しても良いですし、まとまってするのも自由です。

見つけた神の手は泳がせるため、捕縛などは止めて欲しいと言われています。

その条件で、神の手を見つけたらどうするかをプランでお書きください。

以上です。それではご参加を、お待ちしております。


ゲームマスターより


おはようございます。もしくは、こんばんは。春夏秋冬と申します。

私が続けて出していました「ミニエピソードキャンペーン・始まりのバレンタイン」シリーズは今回で終わりです。

ラストに持って来たのが不穏なエピソードですが、最初から予定していた物になります。

フェアリーズの対処やバレンタインイベントの盛り上がりで、神の手に対処するお金が変わってくる予定で一連のエピソードは作っていました。バレンタインが盛り上がると、イベントやら商品販売で収入アップ。ディナリウムにノウハウを提供して、協賛金ゲットみたいな流れで。

今の所、予定していた一番良いルートに進んでいますので、潤沢にお金があり、神の手に対する迎撃も準備がガッツリされている状況です。

そして今回のエピソード結果で、次に出す予定の「神の手撃退エピソード」での有利度が変わります。

そんな感じに、エピソードの結果が次につながり変化していく物を今後も出したいと思います。

興味を持って頂けました幸いです。

そして今回のエピソードも、ご参加頂けましたら非常にありがたいです。

では少しでも楽しんで頂けるよう、判定にリザルトに頑張ります。



Vd:ホワイトデーに神の手探索 エピソード情報
担当 春夏秋冬 GM 相談期間 6 日
ジャンル 冒険 タイプ ショート 出発日 2018/3/28
難易度 普通 報酬 通常 公開日 2018/4/7 0

コーディアスルゥラーン
 デモニック | シャーマン | 23 歳 | 男性 
イベント
僕からルゥにシークレットウッドをプレゼントするよ
贈る時どの指に嵌めたい?て聞いたら「左手の薬指、いいです?」と言われ躊躇
「私は貴方のモノだから」なんて言うから嵌めてやる
嬉しそうに覗き込みすぐに分った様だ
「君の存在を強く感謝した旅だったんだ」と告げ笑み合う

捜索
セレナに協力依頼
その観察力で怪しい奴察知期待(僕も探すよ
商店街を人の集まる酒場を目指し神の手探りつつ移動
移動中ルゥはアクセサリ等見て客装う

酒場
怪しい奴いたら適度な距離取りセレナに読唇術で会話拾って貰い神の手特定したい
可能ならルゥをダンスに誘い奴らのテーブルの上の物盗み見たり盗み聞けないかな、又は注文しに行く時とか
やり過ぎない

ジーン・ズァエールルーツ・オリンジ
 ヒューマン | ウォーリア | 18 歳 | 男性 
●目的
神の手共が紛れ込んでるから捜索しろ、か。殺せねえのが不満だが依頼ならそうするさ

●行動
まずルーツやセレナ達と一緒に商業地区を適当に散策
シークレッドウッドに興味はねえが、依頼人からのお達しなんで適当に興味ある素振りは見せ、対応はルーツに任せる

行動中はセレナに怪しい奴がいないか周囲を観察してもらう
神の手を見つけたらセパルに幻覚をかけてもらってから追跡。地図と照らし合わせて路地裏方面に向かうならそのまま付いて行く
たどり着いた場所や会話などはルーツと共に記録して奴らの今後の動向や目的を把握

その後はさらなる情報を求めて&情報の精度を上げるために、場所を変えて他の神の手の動向を探りに行く
クロスト・ウォルフシルキィ
 ヒューマン | クレリック | 27 歳 | 男性 
シルキィに作って貰う
完成した指輪を彼女に贈る
ク:親愛なる相棒にこれを贈るよ
シ:あ、ありがとう これピンキーリングなのね(右手小指につけて覗いてみる)うわぁこれ綺麗な景色ね
ク:子供の頃両親と見た風景だ その内お前を連れて行きたいと思ってるんだが…
シ:なに?
ク:…場所が思い出せない
シ:もう!ボケるには早いわよ!
ク:はは頑張って思い出すよ

捜索はセレナさんと行動したい
セレナさんの観察力で神の手らしき人物を探り出せないだろうか?
自分も探して、見つけたら彼女達とは別行動で尾行をしてみよう
見つからない様なら別行動で人の多い店なりイベントなりを見てまわり探る

見つけられたら持ち物や近くを通って話を聞けないか試す

参加者一覧

コーディアスルゥラーン
 デモニック | シャーマン | 23 歳 | 男性 
ジーン・ズァエールルーツ・オリンジ
 ヒューマン | ウォーリア | 18 歳 | 男性 
クロスト・ウォルフシルキィ
 ヒューマン | クレリック | 27 歳 | 男性 


リザルト


○ホワイトデーイベントに参加しよう
 街に蠢く神の手の探索依頼。
 それを受けた冒険者たちは、現地の雰囲気に馴染むことを求められ、依頼人の頼みでホワイトデーイベントに参加していた。

「どんな指輪が良いんだ? プレゼントするから、決めてくれ」
 御神木を前にして、【クロスト・ウォルフ】は【シルキィ】に言った。
「良いの? 指輪なんでしょ?」
 ほんのりと頬を染め、はにかむようにシルキィは尋ねる。
 贈り物が指輪となると、そこは意識してしまうものらしい。
(女の子なんだな……)
 シルキィの表情に、微笑ましさでクロストは笑みを浮かべる。
「いつも助けて貰ってるからな。感謝の気持ちだよ」
「そうなの? なら……遠慮しないわよ」
 シルキィはクロストの笑みに応えるように、嬉しそうな笑顔を浮かべながら遊ぶような声で言った。
「クロストの想い出が刻まれた指輪が欲しいわね。好きな風景を描いてくれるんでしょ?」
 シルキィは、指輪を作ってくれるフェアリーズに尋ねる。
 御神木の周辺は開けた平地になっているのだが、そこに設置されたテーブルの上で、フェアリーズは指輪作りにスタンバイしていた。
「想い出か……どれが良いかな?」
 クロストは少し悩んで、フェアリーズに尋ねる。
「説明は、どうしたら良いのかな? 口で言うだけじゃ分かり辛いかもしれない」
 これにフェアリーズ達は返す。
「あたまの中でつよく思いえがくといいです」
「以心伝心です?」
「かあさま近くだと、それできるです」
 どうやら御神木の前で強くイメージすると、それをフェアリーズは読み取るらしい。
「シルキィに似合う指輪を頼むよ」
 クロストのリクエストも聞いて指輪製作開始。
 シルキィが、用意されていた枝木と樹液の塊の中から材料を選びフェアリーズに渡す。
 フェアリーズは受け取ると、ぽんっという音と共に小さな彫刻刀を作り出し、テキパキと作っていく。
 指輪の形は幅は広く、厚みは薄い。
 満月と雲が彫り込まれた所で、宝飾部分に樹液をつける。
 指輪の形に合せ幅広く形を整えられた。
 そこまで作ると、指輪を囲んでフェアリーズが踊り出す。
 するとクロストの想い出の風景が、宝飾部分に描かれていった。
 最後に一瞬、指輪がほんのりと輝いて、加護の力が込められると出来あがり。
「できたです」
 クロストはフェアリーズに指輪を渡されて、シルキィにプレゼント。
「親愛なる相棒に、これを贈るよ」
「あ、ありがとう」
 シルキィは気恥ずかしさと嬉しさに顔をほころばせながら、受け取った指輪をはめる。
「これ、ピンキーリングなのね」
 小指にはめるピンキーリングは、左手にはめると人との繋がりを結ぶ効果があると言われている。
 シルキィは左手小指にはめると、宝飾部分に描かれた風景を見て感心するように声を上げる。
「うわぁ、これ綺麗な景色ね」
 夜の湖畔で一面の花が、月明かりに輝いている幻想的な風景。
「子供の頃、両親と見た風景だ。その内、お前を連れて行きたいと思ってるんだが……」
 クロストは説明しながら、言葉の最後を僅かに濁す。
「なに?」
 不思議そうに尋ねるシルキィに、クロストは返した。
「……場所が思い出せない」
「もう! ボケるには早いわよ!」
「ははっ。頑張って思い出すよ」
 笑い合いながら、いつか訪れるその日を思い浮かべるクロストとシルキィだった。

 そうして指輪を作っているのは【コーディアス】と【ルゥラーン】も同様だった。

「贈る時、どの指に嵌めたい?」
 コーディアスの問い掛けに、ルゥラーンは迷いを見せるように言葉を返さない。
 けれど自分を勇気づけるような間を開けて、コーディアスと視線を合わせながら言った。
「左手の薬指、いいです?」
 想いを込めた真剣な声に、コーディアスはすぐには返せない。
 躊躇するような間を開けて、コーディアスは問い掛けた。
「本当に、いいの?」
 これにルゥラーンは微笑むように目を細め、ねだるような甘えた響きを声に滲ませ返した。
「私は貴方のモノだから」
 ルゥラーンの応えに、コーディアスは息を飲むように言葉をなくす。
 けれどすぐに、余計な力を抜くように微笑みながら、ルゥラーンの想いに応えた。
「ありがとう、嬉しいよ。その想いに返せるぐらい、素敵な指輪をプレゼントするから」
 コーディアスは気合を入れて、ルゥラーンのためにフェアリーズに指輪の注文をしていく。
「楽しみに、待ってて」
 贈る時まで秘密にするように、コーディアスはルゥラーンから隠すようにして指輪の注文をしていく。
 期待に心を弾ませ、待ち続けるルゥラーン。
 くすりとコーディアスは、ルゥラーンのかわいらしさに笑みを浮かべながら、注文を終わらせ吟味した材料を渡す。
 早速、フェアリーズは製作開始。
 指輪に銀ぎつねや沈む夕日を装飾し、宝飾部分にコーディアスとルゥラーンの想い出の風景を描いていく。
 フェアリーダンスが終わり完成すると、フェアリーズはコーディアスに指輪を渡す。
「ルゥ、おいで」
 コーディアスに呼ばれ、ルゥラーンは彼の元に。
 コーディアスは、ルゥラーンの左手を取り薬指に優しくはめる。
「これ、スノーフォレストですね」
 ルゥラーンは、指輪の宝飾部分に描かれた風景を覗き込み、嬉しそうに声を上げる。
 そこには2人の想い出の場所が風景として描かれていた。
 氷河の街であるスノーフォレストに、旅行した時に泊まった宿屋の窓から見た風景。 
 見事なほど鮮やかな夕焼けの雪景色。
 それを背景に、雪だるまとかまくらの形をしたカキ氷が2つ。
 それぞれお皿に乗ったかき氷は特徴がある。
 雪だるまは流氷のような氷の塊の上に置かれ、かまくらの中にはジャムが入っている。
 それらに付け加えられるようにして、鉄皿に乗ったステーキと温かそうなスープが。
(これ、トド肉のステーキかな?)
 コーディアスは指輪に描かれた風景に、ルゥラーンとの旅行の想い出が自然に浮かぶ。
「また、いつか行ってみますか?」
 ルゥラーンの誘うような問い掛けに、コーディアスは優しく見詰めながら返す。
「うん、良いね。想い出の場所だし、それに――」
 コーディアスは、ルゥラーンと視線を絡ませながら言った。
「君の存在を強く感謝した旅だったんだ」
 その言葉に、ルゥラーンはコーディアスの存在を確かめるように手を繋ぐ。
 お互いのことを感じ合いながら、笑みを浮かべ合う2人だった。

 そうして想い出を確かめ合う2人が居れば、どこかホワイトデーイベントには乗り気ではない冒険者も居た。

(気が抜ける……)
 依頼なのでホワイトデーイベントに参加している【ジーン・ズァエール】だったが、どこか気だるげだ。
(戦える訳でもなし……ほのぼのとしてやがる)
 バトルジャンキーなジーンとしては、ホワイトデーイベントには興味が湧かない。
 おまけに探索する神の手を見つけたとしても、泳がせるために手を出すこともできない。
 完全におあずけ状態だ。
 とはいえ、仕事っぷりを見せつけて今後の仕事の贔屓になれば稼ぎにも繋がるので、神の手の探索はキッチリするつもりでいる。
(そのためにも、さっさとここは終わらせるか)
 早々と指輪を作って終わらせようとするジーン。
 けれど彼のスレイブである【ルーツ・オリンジ】は、やる気を見せるように乗り気だった。
「マスター。どんな指輪が良いですか?」
 期待に目を輝かせるようにして聞いてくるルーツに、ジーンはため息をつくように返した。
「好きにしろ。任せる」
 丸投げなジーン。
 だがルーツは、意気込むように返した。
「任せて下さい。マスターにピッタリなのを作って貰いますね」
 そう言うと、フェアリーズの元に。
「マスターに似合うのを作って下さい。風景は――」
 一生懸命に注文を口にして、それを元に指輪は作られる。
 出来上がりフェアリーズから受け取ったルーツは、ジーンに渡す。
「どうぞ、マスター」
 それは突き抜けるような青空と、風になびく草原の風景が宝飾部分には描かれている。
 見る者に、何物にも囚われない自由を感じさせるような景色だった。
「どうですか? マスター」
 指輪を受け取ったジーンに、どこか期待するような眼差しで問い掛けるルーツ。
 それにジーンは、ため息をつくように息を抜くと、利き手では邪魔になりそうなので左手にはめてみる。
「……悪くはねぇな」
 付けていても動きを阻害せず、僅かに加護の力に守られているような感触にジーンは口にする。
「本当ですか? 良かった」
 嬉しそうに笑顔を浮かべ、喜ぶルーツだった。

 そうしてホワイトデーイベントに参加して、神の手の探索のため街へと向かう。
 その前に、同行するセパルとセレナの元に。
 一緒に仕事をするということで、コーディアスは2人に挨拶を。
 ちなみにセパルに久しぶりに会ったセレナは、出会うなり流れるような動きで怒りのドロップキックを食らわせ、そのあと怒りのコブラツイスト。
 さらに正座をさせ、冒険者たちがイベントに参加している間中、説教をされるというコンボをセパルは食らっていた。
「準備は良い?」
 コーディアスの問い掛けに、どうやら仲直りしたらしいセパルとセレナの2人は返し、街での探索は始まった。

○神の手探索
「コーディ。これ、良いと思いませんか?」
 商店を見て回る旅行者を装いながら、ルゥラーンはコーディアスに声を掛ける。
「うん、良いね。買ってあげようか?」
 アクセサリを一緒に見ながらコーディアスは返す。
 探索では神の手に気付かれないよう、旅行客を装うように頼まれている。
 他の冒険者達も同様に、それぞれが店を見て回っていた。
「似合うわよ、その服。買っちゃう?」
「いや、別にいいよ。それよりも、さっきの薬屋に気になるのが」
 シルキィとクロストは和気藹々と商店を周っていく。
 そしてルーツはジーンを引っ張っていくように、色々なお店を周っていた。
「マスター、あっちのお店に行ってみませんか?」
「……引っ張るな。心配せんでも、連いて行ってやる」
 冒険者たちは商店を周りながら、同時に周囲に視線を巡らせていた。
 今の所、冒険者たちは付かず離れず、ある程度距離をとって一緒に行動している。
 それは冒険者たちの意見を組み合わせた結果だ。
 まず全員が、セレナに協力要請を求めていた事もあり、最初に神の手を探る役目はセレナを中心に進めている。
 そこに補佐をするように、冒険者たちが周囲の探索を重ねている。
 なにかあればそれぞれ離れて探ることも考えていたが、しばらく街の中を探ってもそれらしい相手は見つからなかった。
 しかし小一時間ほど巡った頃、セレナが皆を呼んだ。
「あそこに居る2人。多分、連絡役よ」
 セパルの幻覚の能力を使い周囲に気付かれないようにした状況で、集まった冒険者はセレナの示す2人の男達に視線を向ける。
「なんでアレが怪しいと思ったんだ?」
 男達に鋭い視線を向けながら問い掛けるジーンに、セレナは返す。
「今まで歩いて見て来たけど、怪しい奴らは何人か居たのよ」
「何人もって、そんなに居たの?」
 コーディアスの問い掛けにセレナは返す。
「ええ。歩き方やリズムに、同じ癖のあるのが居たのよ。それも強いのと弱いのが。多分、集団で動きを合わせる訓練をして、練度で差が出たんでしょ」
「それは分かりましたけど、なんであの2人が連絡役だと?」
 クロストの疑問にセレナは返した。
「何人かあの2人に接触して、メモを渡したり人の多い場所と少ない場所の報告をしてたから。そのあとに指示を出して、また別の場所に向かわせてたし――」
「おい、あいつら、別れてどこかに行くみたいだぞ」
 セレナの言葉を遮り、ジーンは動き出した男達に視線を向ける。
 これにセパルが返した。
「別れてそれぞれ探った方が良いね。連いていくよ」
「そうしてくれ。探ってるのがバレないよう任せる」
 ジーンはセパルに指示し、離れていく男達の1人に向かう。
「マスター。メモや他にも何か必要なことがあったら言って下さいね」
 ルーツは、セパルの方に一瞬視線を向けたあと、いつも以上に意気込むように言ってジーンに連いていく。
「僕たちは、残りを探ろう」
「ええ。気付かれないよう、気を付けないといけませんね」
 コーディアス達とクロスト達は、セレナと共に残りの1人の後をつけていく。
 そうしてそれぞれ別れた先で、情報を探っていった。

○酒場で探ろう
 怪しい男達の1人は酒場に訪れ、そこで他の男達と合流し話をしていた。
 後を連けていったコーディアスとクロストたち冒険者は、酒場に辿り着き距離をとってお客の振りをしている。
「あいつらの注意を、少しで良いから引くことができる?」
 談笑する振りをしながらセレナが冒険者たちに問い掛ける。
「何でも良いの?」
 コーディアスが気負いのない声で返す。
 酒場のダンサーをしていることもあって、周囲の気配に溶け込んでいる。
 今も注文したエールとつまみを前にして、くつろいでいるかのようだ。
「地図がどうこう言ってるから、ちょっと拝借しようと思うのよ」
 シーフなセレナとしては、その辺りはお手の物らしい。
「分かった。ルゥ、一緒に踊ろうか」
 ルゥラーンの手を取り、2人でダンスを始める。
 それに酒場の店主は気付き、店の楽士に言って賑やかな曲を弾き始める。
 曲に合わせ踊り出し、周囲の視線を集めていく。
 その賑わいに、怪しい男達は眉を寄せながら視線を向ける。
 僅かとはいえ、意識はそちらに向いていた。
 その隙を逃さず、静かに近づいたセレナが怪しい男達の持ち物をすり盗るとテーブルに戻る。
「なにを持っていたんですか?」
 テーブルに待機していたクロストの問い掛けにセレナは返す。
「この街の地図みたいね。私達が貰った地図と違いがないか確かめるから、少し離れるわ。その間の監視お願い」
「ええ。任せて下さい」
 男達に気付かれないよう監視しつつ待っているとセレナが戻ってくる。
「お帰りなさい。どうでした?」
 クロストの問い掛けにセレナは返す。
「街の地図に印がつけられてたわ。こっちの地図に書き記したから、元の地図はバレないよう戻しておくつもり」
「印ですか……なんでしょうね? 確認してきましょうか?」
 クロストの提案に、セレナは印を書き写した街の地図を渡す。
 クロストは受け取ると、しばし考え尋ねる。
「街を高所から確認できる場所を知っていますか? まとめて確認するなら、その方が早い」
 これにセレナは返す。
「時刻を知らせる鐘塔があるわ。それと遠くも確認するなら望遠鏡も必要でしょ?」
 そう言って鐘塔と、望遠鏡を用意してくれる店の場所のメモを渡す。
 即座に移動するクロスト。
 一連の動きに神の手の注意が行かないよう、コーディアスとルゥラーンは動いていた。
「気分が乗って来たよ。もっとテンポの速い曲、頼めるかな?」
 酒場の楽士に頼み、音が大きく派手な曲を頼む。
 そしてルゥラーンをリードしながら、自然な動きで神の手たちの近くに移動。
 違和感を感じられない程度に距離を取る。
 周囲には、コーディアスとルゥラーンの踊りを見て楽しもうという人だかりが出来、神の手を撹乱する。
 その隙にセレナは、すり盗った地図を戻していた。

 その間にクロストは鐘塔に登り、地図の印の場所を望遠鏡で確認。
 視線の先には、自分達が探っていた男達と同じ雰囲気を漂わせる者達が。
「連絡役の神の手が配置されている地図かもしれないな」
 印の場所全てで、自分達が探っていた連絡役らしい男達が居るのを確認しクロストは口にする。
 これにシルキィは不安そうな声を上げた。
「この印が全部そうなら、10人や20人じゃ済まないんじゃない?」
「ああ……大事になりそうだ」
 硬い声でクロストは返した。

 そうして神の手の探索から情報を得ているのはジーンたちも同様だった。

(キナ臭い場所に行きやがるな)
 ジーンは追跡する神の手が訪れた場所に、楽しげな笑みを浮かべる。
 いま居るのは街の死角とも言える場所だ。
 建物と建物が込み合う奥の奥。
 排水溝などが合流する場所なので人気がない路地裏。
 そこに移動した神の手は、誰かを待っているかのように佇んでいる。
「マスター。念のために似顔絵を描いておきました」
 ルーツはジーンの傍でメモを取りながら、神の手達の似顔絵も記している。
 これにジーンは、視線を神の手から外さず返す。
「上出来だ。あいつら誰かを待っているみたいだから、そいつらの似顔絵も描いとけ。会話の内容も忘れずにな」
「はい、任せて下さい。マスター」
 気合を入れるように返すルーツ。
 ちょうどその時、人が近付く足音が。
 視線を向け、ジーンの口元には獰猛な笑みが浮かぶ。
 足音の主は、ダークエルフだった。
(クソ、殺り合えねぇのがもったいねぇ)
 ジーンは殺意を滲ませ、笑みを深くする。
 視線の先に居たのは、以前の依頼で逃がしてしまったゼナンと名乗った人物だった。
「少し距離を取るよ。それと気づかれない筈だけど、殺気は抑えて」
 幻覚の能力を使っているセパルが、ジーンの腕を掴み引き寄せる。
「なんだ、いきなり――」
 文句を言おうとしたジーンだが、今までになく厳しい表情のセパルに楽しげな笑みが浮かぶ。
「ヤベぇ奴なのか、アレ?」
 ジーンは視線でゼナンを示し、セパルは返す。
「神の手に雇われてる時に何度か会ったけど、関わり合いたくない相手だよ。ここで下手に戦うと、どれだけ街に被害が出るか分からない」
 これにジーンは楽しげな笑みを強くする。
(殺り合いてぇ)
 依頼の制約があるので抑えながら、ジーンは今にも噛み殺しそうな眼差しでゼナンを見詰めていた。
 その中で、ゼナンは神の手に言った。
「ここは良い街です。活気があり、幸せがある。ここが壊れれば、さぞかし無念にまみれた多くの死体が採れるでしょうねぇ。ですから、手を貸しましょう。私の実験体、50体のノーライフキング。自由に使いなさい」
「ゼナン様は、どうなされるので?」
 神の手の問い掛けに、ゼナンは返す。
「直接の参加は、遠慮します。別に戦いは望みません。貴方達が殺し、私は死体を手に入れる。ただそれだけです」
「承知しました。これからどうなされるので?」
「戻ります。実験は残っていますからねぇ。貴方達は、このまま他の人員と協力して、当日の襲撃プランを練りなさい」
「はい、お任せを」
 そう言って、神の手とゼナンは別々に分かれる。
 ジーンは、すぐにゼナンを追い駆け斬り掛かりたい所だったが、依頼の優先度からすれば神の手を探る方が重要度が高い。
 やむを得ず、神の手の追跡に動くジーンだった。

 こうして冒険者たちによる神の手の探索は進み成果を上げた。
 ワンマンプレーに走ったり、神の手に気付かれるような行動を取れば無理だったが、十二分に有益な情報を集めることが出来た。
 これは冒険者それぞれが、協力できる部分はしつつ、それぞれが有効な取るべき行動を決め実行できたことが大きい。
 依頼主は彼らから得た情報で、さらに探索を進めるとの事だった。
 これにより神の手の目論見に対抗できる。
 そう思える活躍を見せた冒険者達だった。



依頼結果

大成功

依頼相談掲示板

[1] ソルト・ニャン 2018/03/19-00:00

やっほにゃ~ぁ
挨拶や相談は、ここでお願いにゃ~!
みんなふぁいとにゃにゃ~  
 

[5] クロスト・ウォルフ 2018/03/27-17:25

クロストです。すいません遅くなって。よろしくお願します。

個別で動く方向で了解です。
最初は俺達もセレナさんと行動して途中で別れて行動する予定です。  
 

[4] ジーン・ズァエール 2018/03/27-13:59

もう締切日ですり合わせは無理だろうから、個別で動くって方向で考えていいんじゃねえか? 俺個人の予想としては奴らもバラけて行動してる可能性の方が高いと思ってるしな

なら俺は商業地区を回って、神の手っぽいのを見つけたら路地裏方面に行くやつらを追跡していこうか  
 

[3] コーディアス 2018/03/26-22:52

悪いね、発言が遅くなった。
シャーマンのコーディアスとパートナーのルゥラーンだよ、今回もよろしく。

うん、セパルの能力はかなり頼もしい。活用法は任せるよ。
セレナの能力は相手と距離がある時に活用できそうかなって思うから、僕はこっち頼んでみようかと思う。

捜索はどうしようか?
奴等固まって動いてるか、分れて動いてるか分らないからなぁ。
僕は、最初はメイン通りを皆で捜索して、途中で奴等発見するかして手分けする感じかな?てイメージなんだけど、最初から別行動してくれても僕は気にしないよ。
手分けするなら僕はセレナと酒場の方当りたいかな。  
 

[2] ジーン・ズァエール 2018/03/25-11:56

オッス、ヒューマンでウォーリアのジーンだ
今のところ二人だけなんでシナリオが成功するか微妙なところだな……ともあれ俺の行動を言っておく

俺は神の手の捜索をメインに行動する
こういう時はセパルの能力が役に立ちそうだからな、活用させてもらうつもりだ