「はっはっはっ、我が軍は圧倒的じゃないか」
目の前に並ぶセンテンタリの軍隊を見て、新人デーモン指揮官は大声で笑っていた。
そう、人間たちはブロントヴァイレスに苦戦し、その隙に挟み撃ちにするというこの計画。
たとえ挟撃が事前に分かっていたとしても、この数を止めきることは不可能だろう。
「さぁ我の初陣、華々しく飾ってやろうぞ」
安堵と興奮で恍惚とした表情を浮かべる指揮官は今にも鼻が伸びてきそうなほど勝利を確信していた。彼の思いつく限りの戦闘パターン、進軍の動き、反撃の規模。
それら全てにおいて二手三手先まで読み切っていたのだ。
と言っても彼の任された部隊は後方も後方。殿の部分だ。
当然そこで想定される戦闘も大したものではなかった。
つまり、彼の想定には油断も隙もあったもんである。
「さぁお前達。しっかり殿を務めるのだ。万が一撤退する際には我々の守る道が味方の運命を背負うのだからな! さて、私は奥の陣地にて戦況を見定める。何かあったら報告せよっ!」
そう言い残すと、彼はさっさと奥へ引っ込んでしまった。
こうして彼の指揮するセンテンタリ軍は、指揮も士気もないままにこの区域の警備にあたる。
そんな兵士達の中には何やら不穏な動きがあるのだが、当然これも気づかれることはなかったのである。
さぁ、あの時の借りを返してやりましょう。
センテンタリ軍の後方、撤退部隊に潜り込み奇襲することが目的となります。
彼らの部隊は、粗悪品の武装で固めた50人前後の人間型歩兵と数匹のイービル、そして新人のデーモン指揮官1人で構成されています。
歩兵は弱く、囲まれなければ1人でも複数相手に全く苦戦はしません。
イービルは翼が生えた猿のような生き物です。力は弱いですが見つかって取り逃がすとものすごい速度で指揮官へ報告します。
デーモン指揮官は特殊な装備と魔術を用い、近距離・遠距離共に対応できる強敵です。が……この新人デーモンは突然の出来事に対処する能力が低いため、全員の力を合わせて奇襲すれば倒すことが出来ます。但し真正面から戦えば全員でかかっても破れます。
基本的に大きな騒ぎを起こさない限りはバレません。
敵を倒せば武器を奪うことが出来ますが、あまり耐久性はなく何度も戦闘をすると壊れてしまいます。
彼らは川を越えセンテンタリにつながる複数の橋の一部を警備しています。
壊せば撤退を遅らせたり、ブロントヴァイレスの攻撃に巻き込ませることが出来ます。
橋を壊すためには、上流の堰を破壊する必要があります。
堰が破壊されると橋を押し流すほか、敵の水をある程度奪うことが出来ます。
しかし、さすがに堰は守備が固いです。
付近にはセンテンタリに征服された村があり村人もいますが、恐怖におびえているため皆様を見つけ次第、敵に通報してしまいます。これを避けるも利用するも皆さん次第です。
ただし、自分たちに都合の良いよう協力を仰ぐことは出来ません。
また道中には、道標となる看板があります。
他のエピソードより難易度は低いですが、なめてかかれば痛い目に合うのはこちら側です。
さぁ、たるんでいるセンテンタリ軍に正義の鉄槌を喰らわせてやりましょう。
どうやって敵を混乱させ堰を落とすのか等を、プランにご記載ください。
皆様初めまして、フロンティアファクトリー様のPBWに
そそらそら同様初めて参加させて頂きます。
マスターのpnkjynpです。
ゲームのルール上出来ることに限界はありますが、皆様のキャラクターを精一杯輝かせられるよう努力して参ります。
どうぞ宜しくお願い致します。
【創造の光】センテンタリの河流れ エピソード情報 | |||||
---|---|---|---|---|---|
担当 | pnkjynp GM | 相談期間 | 6 日 | ||
ジャンル | --- | タイプ | EX | 出発日 | 2017/7/2 0 |
難易度 | 簡単 | 報酬 | 通常 | 公開日 | 2017/7/12 |
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参加者一覧
キミシア・シュー( ビスコ ) | |
ケモモ | シーフ | 21 歳 | 女性 |
アザートゥルース( ナイラート・フォティーヴ ) | |
デモニック | メイジ | 27 歳 | 男性 |
クロカ=雪羅( 雨月 ) | |
ヒューマン | ウォーリア | 18 歳 | 男性 |
アーレニア=シャゴット( アンサー ) | |
デモニック | シーフ | 16 歳 | 女性 |
ミクシーナ( ミヤコ ) | |
デモニック | メイド | 20 歳 | 女性 |
アンネッラ・エレーヒャ( トゥルー ) | |
エルフ | メイジ | 16 歳 | 女性 |
コクァ=コォリア( 紅音 ) | |
デモニック | メイジ | 18 歳 | 男性 |
リザルト
① 森のティータイム
「さあ、奇襲作戦の方針を決めようか」
声の主は『アザ―トゥルース』。彼の他に『クロカ=雪羅(せつら)』、『ミクシーナ』が集まっていた。
「依頼内容は川上流の堰を落としその水圧で橋を押し流すことが求められる。だが先遣隊の話では堰の守りは万全だそうだ。さてどうする?」
「オレは別に斬れれば何でも良いけど」
「あらあら。クロカさんは相変わらずですわね♪」
ミクシーナは小さく笑みを浮かべながら、どこからかティーセットを取り出し冒険者達に配り始める。
「どこからそれを……」
「アザトゥさん。いついかなる時も、給仕はメイドのたしなみでしてよ?」
「ミクシーナはこういう奴なんだ。アンタもすぐ慣れるさ」
「そ、そういうものか」
その圧倒的なメイド力に、アザトゥのスレイブ『ナイラート・フォティーヴ』も目を丸くして驚いていた。
(ミクシーナ様、すごいメイドさんです……!)
「それに、作戦ならもう考えてありますの」
彼女は紅茶を一口含むと、そっと後ろを振り返る。
「おかえりなさいませ、キミシアちゃん♪」
「ただいま。ミクシーナ♪ ざっと見回りしてきたよ」
そこに現れたケモモの少女は、ミクシーナの胸へと飛び込んでいく。
彼女は『キミシア・シュー』。先行して付近の調査を行っていた。
「ミクシーナ、君の知り合いか?」
「ええ。私とクロカさんの大切なお友達ですの」
「あたしはキミシア、ケモモのシーフさ。宜しくね」
「そうか。俺はアザ―トゥルース。アザトゥとでも呼んでくれ」
簡単に自己紹介を済ませたところで、ミクシーナのスレイブ『ミヤビ』は、キシミアにも紅茶を手渡す。
「ありがとミヤビ」
「キミシア、偵察お疲れ様。周囲の様子はどうだ?」
「そうだな~……じゃあ、この紅茶に合うクッキーくれたら教えてあげても良いよ?」
「ったく、生意気言いやがって……ほら」
いたずらっぽく微笑むキシミア。
そんな彼女に振り回されて、クロカもやれやれと言いだしそうな表情を垣間見せる。
「ありがとー。敵はあっちの方にゾロゾロいたよ。見つかったら面倒そうだし、向こうは迂回していった方が良いんじゃないかな」
そう言うと、彼女はミクに抱き着きながら人懐っこい笑顔でクッキーを頬張り始める。
そんなキシミアの頭を愛おしそうに撫でつつも、ミクシーナは作戦を提案する。
「聞いたところ敵は経験不足の素人さん。混乱させるのなら、指揮官をつぶせばそれでお終いですわ」
「つまり、デーモンを叩き部隊全体を瓦解させる。ということか」
「オレは賛成。あいつらは放っておけない敵、ここで殺そう」
「あたしも」
「……分かった、確かにデーモンを狙える機会はそうない。それでいこう」
「ふふっ、決まりですわね」
「それじゃ、あたしが先導するね」
こうして先に指揮官を狙うことに決めた一行は、キシミアを先頭に指揮官の築いた陣地へと動き出す。しかしその背後には、彼らの会話に聞き耳を立てていた怪しげな影も着いて来ていた。
「何だか面白くなりそうだねェ……」
② 森めぐるエルフの一幕
その頃、『アンネッラ・エレーヒャ』は川の上流近くにあるという村を目指してた。
「この先に村があるとは……まるで秘境ですわね」
辺り一面木々が鬱蒼と生い茂る中、錆びれた看板のみを頼りに少しずつ進んでいく。
彼女はアザトゥ達より早く出発し、撤退部隊の中でも最後尾に当たる村周辺の敵から片づける作戦をとっていた。
(アンネッラ、枝が飛び出てる。ケガしないでね)
「気遣ってくれてありがとうございます、トゥルー」
彼女のスレイブ『トゥルー』も周辺を警戒する。
「この辺りはあまり敵がおりませんね。油断は大敵と言いますのに」
そうして進むうち、ついにアンネッラは森を抜けきった。
開けた視界の先には、小さな村とそこへつながる大きな橋が顔をのぞかせる。橋は全長200m位だろうか。どうやらこれが対岸をつなぐ唯一の場所の様だ。
対岸にはイービルや歩兵として使われている人間の姿が多く確認できる。ここまでの道中、見回りらしい敵は2・3人しかいなかった事を彼女は不思議に思っていたが、村がある岸の警戒は薄いのだろうと考えられた。
「いざとなれば、この村を経由してセンテンタリへと逃げ込む算段の様ですわね……っ、あれは」
様子を伺う彼女は、見張りが集まる先に川の水をせき止める大きな堰が聳え立っているのを発見し、しばし思案する。
そして……
「……では、私は私の出来る事をやっていくとしましょう」
③ セイソウ
デーモンを倒すため、彼の陣地を捜索する冒険者達。しかし中々その居場所を見つけられないでいた。
「やっぱりイービル達の監視してる先にデーモンはいるのかな」
「確かに。かなり近づいてきたようではありますけど、陣地の奥にはあまり進めていけていませんわね」
「ならどこかで陽動部隊の装備を奪って変装しよう。その姿ならばイービル達にもバレまい」
「了解。じゃあその辺の奴から引きはがせばいいか」
アザドゥの提案で変装を行うこととなった一行。彼とクロカは変装するための防具を奪うため一旦隊を離れる。
彼らが離れたのを見計らい、ミクシーナはキシミアへ不敵に微笑みかける。
「さ、今のうちにお着替えを済ましてしまいましょうか。キ・シ・ミ・アちゃん?」
「え?」
「ミヤビちゃん、やってしまって下さいませ♪」
「え、え? ちょ! にゃにゃにゃ!? そこはダメにゃ~!?」
「聞こえるかァ……? 楽しそうだねェ……」
微笑ましい光景の裏で、少し離れた岩陰にはもがき苦しむセンテンタリ兵の姿があった。
その兵士は両手を押さえつけられ、首元に光るナイフにただ恐怖し震えている。
押さえつけているのは冒険者『アーレニア=シャゴット』だった。
「アタシはうっかりさんでさァ……本当の事を言わないとォ……間違って刺しちまうかもねェ……」
「やめてくれ! 何でも、何でもするからぁ!」
「じゃあァ……オマエ達の指揮官はァ……どこに居るのかねェ……?」
「あ、あいつは……! デーモン指揮官は……!」
「……分かったよォ……。ありがとうねェ……そしてェ……おやすみィ……!」
彼女の迷いのない一閃は、兵士の血脈を一瞬で断ち切ってしまう。それは彼に永遠の眠りを与えるには充分過ぎるものだった。
「あ~ァ……それとォ……服ゥ……借りるからねェ……」
そして彼女は、兵士から武器や防具を強奪し始めるのだった。
それからしばらくして、既に変装を終えたアザトゥとクロカが、残した2人の装備を持って帰還する。
「遅くなってすまない。さぁ、これを……って、なんだその恰好は!?」
「あら、これが私の勝負服ですのよ?」
いつの間にかミクシーナはメイド服からくノ一装束へと変貌を遂げていた。
服の膨らみが減った分、彼女自身の豊かな膨らみやしなやかなラインが主張を強めている。
だが一番大きく変わったのは、先ほどまでけだるさの残っていた瞳がその面影を見せていないことだろう。
さすがにこれだけの急変わり。あまり感情を露わにすることのないアザトゥも驚きを隠せない。
「戦闘前ですから。私、これでも公私の区別はきっちりつけるタイプですの」
「そ、そうか……なぁクロカ。私がお前のように慣れるには少々時間がかかりそうだ」
「まぁ最初はそんなもんだよ」
「そうそう! クロカも最初は目を合わせられなかったもんねー?」
「はあっ!? おいキシミア! アンタはまたそう余計なことを…!?」
クロカをからかうキシミアの姿はと言うと……先程上下ともにあった袖は見事に消え去り、上はタンクトップ、下はホットパンツのようなかなりの軽装に変わっていた。
「あ、今ちょっと照れた? ねぇ、照れたでしょ~?」
「当然の結果ですわね。私の愛しいミヤビちゃんが、キシミアちゃんの健康的な肉体美をこれでもかと……」
「違うよ~。クロカが照れたのはミクシーナのその胸元が……」
「あぁうるせぇ! いいからアンタらはさっさと変装しやがれっての!」
ここまでクールだったクロカとしては珍しく怒りをあらわにする。
だが和らいだ彼の表情には温かささえ感じられるような気がした。
(うちのキシミアがお騒がせしてすみません。後でキツく言っておきますから)
(久々に一緒の作戦になったから、皆興奮してるんでしょうね。一応私からも謝っておくわ)
揉める3人を他所に、キシミアのスレイブ『ビスコ』とクロカのスレイブ『雨月(うつき)』がアザトゥに話しかける。
「いや、仲が良いのは悪いことじゃない。チームワークも深まるしな。気にしてないさ」
公私は混同し過ぎている気もするがな。と心で思ったが、彼はそれを胸にしまい込むことにした。
(おい、アイツらと組んでホントに平気か?)
「うるさいけどねェ……デーモンを狩るためにィ……もう少し我慢してやろうじゃないかァ……」
そこへ様子を伺っていたアーレニアとそのスレイブ『アンサー』が、変装を終えた彼女達に接近してきた。
彼女もまた変装を完了させていたが、その防具には血痕が飛び散り紅く汚れてしまっている。
「やァ……皆さん……」
「誰だお前は?」
「大丈夫ゥ……敵じゃないからねェ……デーモンの場所ォ……知りたくないかィ……?」
衝撃的な彼女の姿に警戒をする一行。
だが、しばし彼女を見つめるとクロカはそっと剣を鞘に戻した。
「クロカさん?」
「大丈夫だミクシーナ。アイツの目……少なくとも今、殺したいのはオレ達じゃない」
「オマエ、話が分かるねェ……」
クロカの言葉に魔導書を下げるアザトゥ。
「こちらも情報に飢えているのは事実だ。提供してくれるのならば一応聞かせてもらうとしよう」
「案内するからァ……一緒に来なよォ……?」
ゆったりと一行の横を通り過ぎると、そのまま陣地の奥へと進んでいくアーレニア。
「もし邪魔をするなら、アンタには今すぐ消えてもらう」
彼女はすれ違いざまクロカに投げかけられた言葉に、キヒヒッと怪しく笑い返すだけだった。
④ 修羅は舞う 吹雪と共に
一行はアーレニアの血まみれの姿を利用して、陣地への侵入者に対処し返り討ちにあった一部隊を演じることにした。
「さ~ァ……到着~ゥ……」
彼女の案内とキシミアの索敵で、ここまでイービルに目撃されることは無かった。
歩兵に関してはこの姿だ。誰も進んで話かけようとはしてこなかった。
一行が戦闘準備を整えるとアザトゥが声をあげる。
「デーモン様! 敵襲です! この門をお開け下さい」
「何? 敵襲だと…どこからだ?」
「それが、発見した者が負傷しておりまして……ここからではご報告出来ないのです」
「くっ、使えない下等生物め。入ってくるが良い」
大きな門が開かれると、作戦立案に使うための大きな部屋がその姿を見せる。
床には拡大された周辺地図が魔法で再現されており、それを見ながらデーモン指揮官は何かを考え込んでいた。
デーモンの身長は4mほど。三又に分かれた尻尾と大きな漆黒の翼が目を引くが、それ以上に煌びやかな装飾で彩られた防具が目立っていた。全身はしっかりとそれに包み込まれている。
「お前血まみれじゃないか。そこから話せ」
「チッ……首回りもピカピカ眩しいねェ……」
「なんだ? よく聞こえないぞ」
「すみません。今そちらまで運びますね」
アザトゥとクロカは、アーレニアの肩を支えるようにしながらデーモンの元へと近づく。その後ろにはミクシーナとキシミアも続いた。
「それで、どこでやられたのだ?」
「この辺りィ……」
「もっとはっきり言えないのか!」
「恐らくこちらの事を言っているのかと……」
ミクシーナとキシミアは他の3人が気を引く間にそっと後ろを取りに動く。
「おいお前達!」
しかし突然のデーモンの声に2人は慌てた様子を見せながら動きを止める。
「私の部屋で動き回るな。穢れるじゃないか! 早く下がれ」
(私達の動きが見えている……?)
(そうみたいだね。とにかく一旦下がろう)
予想に反してデーモンは隙を見せなかった。
同じ軍とはいえデーモンとしては歩兵など下等生物。それ故に一行への警戒心は解けていなかったのだ。
(どうする……)
冒険者達が対応策を考えていると、突如イービルが部屋の中へと飛び込んでくる。
「キー! キキッ!」
「何、襲撃? 場所はどこだ?」
「キーィー!」
「あの辺鄙な村だと~!?」
その報告にデーモンは顔を真っ赤にさせながら怒り出す。
「おい、お前達! 襲われたのは村の近くでか!?」
態度が豹変したデーモンに、アーレニアは取り敢えず首を縦に振る。
「……バカなっ! この一帯はただでさえ辺境だがあそこはその中でもずば抜けている! わざわざ大規模戦闘の前にそこを攻めてどうなると……ま、まさか?! 堰の在処が漏れたというのかっ!? いや、しかしこの地形で堰を狙うなら、この陣地のある場所を通るはず……」
どうやらデーモンは、自分の想定しないところからの襲撃があったことに異常なまでのショックを受けているようだった。ブツブツと小言を繰り返し、頭を抱えてもだけている様はとても指揮官として優秀には見えなかった。
「ええい、お前達はもう下がれ! 考えるのに集中させるのだ! おいイービル! とにかく堰を落とされたらマズい。総員で村に現れた襲撃者を必ず始末するのだっ!」
「イィー!」
デーモンの指示を受け、慌ててイービルは飛び出していった。
それは同時に戦いの始まりを告げる合図にもなった。
「はぁっ!」
喋らずずっとデーモンを監視していたクロカは、狙いを防具の隙間がある脇の下に定め、目一杯の力を込めて剣を突き立てる!
「ングゥ?! な、何をする!?」
「アンタに煩く鳴かれても困るんでねっ……!」
彼の一撃は鎧の隙間を上手くつき、デーモンに深い傷を与えた。
それを勢いよく引き抜くと、クロカは立て続けに攻撃しようとするが、デーモンの尻尾はそれぞれに意思があるかのようにクロカへと襲いかかった!
「クロカさん!」
「やらせない!」
しかしそれに素早く反応したミクシーナとキシミアによって、尻尾はクロカを捉えることが出来なかった。2人はそのままデーモンの後方へ飛びのくと、尻尾を攻撃し自分達に注意を向けさせる。
一方デーモンは手にした杖で思い切りクロカを殴りつけた。咄嗟に両手剣を盾にして攻撃を受けるクロカだが、弾き飛ばされてしまう。
「ちっ!」
「キヒッ……! これで何匹目だったかなァ……?!」
それと交代するように今度はアーレニアがとびかかる。彼女は両手に握りしめたククリナイフで執拗にデーモンの首元を狙い続ける。狙いを済ましたその攻撃は、何発かは当てられたものの、防具を貫くことが出来ない。
「クロカ、いけるか?」
「ああ!」
「ならば飛び込め、援護する!」
アザトゥは、ここまでデーモンにへつらった鬱憤をぶつけるかのように、惜しみなく魔力を投入したファイアーボールを錬成し発射する。
しかしそれはあくまで牽制の為のもの。まるで赤い雪が吹き付けるようにせまる火球をデーモンは魔力の壁で防いだ。
「……いくぞっ!!!」
「キヒィィィ! ヒャャァァァ!」
そうして杖の使えないデーモンにクロカとアーレニアは同時に切りかかった!
「私を……なめるなぁ~!!!!!」
今度こそ届くかと思われたその攻撃は、今度は大きな羽によって防がれてしまう。
彼を完全に捕えきるには、一行の手数は僅かに及ばなかった。
「まだまだ……こんなんで終わらせねぇ…!!!」
「死ねムシケラどもがーーーー!!」
デーモンは、杖による刺突と魔法、羽と防具による防御、尻尾による偏差攻撃を駆使して5人の冒険者と渡り合う。しかし、クロカの最初の一撃が利いたのか、次第にデーモンの動きは鈍くなっていった。
「ミクシーナ! 今だよ!」
「分かっておりますわっ!」
二対の双剣と二人の連携は、やがて尻尾を捉え1本ずつ切り落としていく。
「邪魔なんだよねェ…!」
殺戮のナイフはその翼を深く引き裂き始め。
「クロカ、受け取れっ!」
「借りるぜぇーーー!!! ザナトゥーーーー!!!!」
炎の吹雪を纏いながら、渾身の魔力と気力叩きつけるウォーリアの一撃は、魔力と防具の壁に風穴をあけた!
「グッフゥア……?!」
それでもなお倒れないデーモンもまた、決死の力をふり絞り冒険者達を部屋の外へ吹き飛ばす。
「ヌン!!!」
「「「「「くっ!」」」」」
一か所に集まる冒険者達。スレイブたちも限界が近づいていた。
そこへ、デーモンは自身の魔力を込めて口から火球を放つ。
吹き飛ばされた拍子に魔導書が手から離れたアナトゥでは防御が間に合わない。
このままではミクシーナとキシミアが火球の直撃を受けてしまうだろう。
「クソがぁぁぁぁぁぁーーーーー!!!!!」
絶体絶命の危機。その時クロカは最後の力を振り絞り、剣と自分を盾にして2人を庇ったのだ。
「ハァハァ……おのれ……覚えておれ下等生物どもっ……!!」
冒険者達を倒しきれなかった事を悟ったデーモンは、傷ついた羽で空を飛び逃げ去っていく。
「キヒヒッ……ま、まだだよォ……」
アーレニアは傷を負った体だったが、デーモンを追って森の中へと消えていった……。
「や、やったか……?」
「ちょっとクロカ! 大丈夫!?」
「クロカさん……クロカさん!?」
「……大丈夫、だ。皆も無事で良かった……よ」
火球を受けたクロカは、動けないほどのダメージを受けたが、一命は取り留めていた。
先ほどまで苛烈な攻めを行っていたクロカだったが、その口調は普段のものに戻っていた。
「良かったっ…!」
「ああ。だがこのままでは」
無事を喜ぶ一行。しかしデーモンの火球により陣地内で燃え移り、辺りは火で包まれ始めていた。
そこに、『コクァ=コォリア』がスレイブの『紅音(あかね)』と共にやってきた。
「遅れてすまねぇ、間に合って良かったぜ。そのケガ人は俺に任せとけ!」
彼の協力を受け、クロカは戦線を離脱する。
「では我々で最後の仕上げにかかるとしよう」
「待って!」
「キシミアちゃん?」
「あたし、村に出た襲撃者っていうのが気になるんだ!行ってきても良いかな?」
「私も一緒に行きますわ」
「俺が堰を担当しよう。誰かは分からないが、俺の分まで助けてもらった礼をしてやってくれ」
残った3人は、疲れた体を引きずりながらも最後の戦いへと向かう。
⑤ 始まりは水と共に
「はぁ、はぁ、はぁ……さすがに、しつこい、ですわ!」
デーモンを倒し一行が動き出してしばらくした頃、アンネッラは未だ情報を聞きつけやって来たセンテンタリ軍と戦っていた。
森や村の中の建物を利用し、視覚から攻撃するという戦い方で何とか敵の軍勢をいなしていたが、魔力と体力の限界は徐々に近づきつつあった。
「キィー!」
「砕け散りなさい!」
「キィイィー!?」
一瞬で詠唱を済ませると、彼女の杖からは氷の塊が飛散する。
狙いすました正確な魔法はイービルを捉えると、その体を凍り付かせ一気に砕いてしまう。
「はぁはぁ……よし」
「いたぞー! こっちだー!」
「まったく……血なまぐさいのは嫌い、ですのに……はぁ、はぁ……」
村人達は、必死の形相でアンネッラを追い詰める。
それもそのはず、この村が受けてきた支配と蹂躙。それはこの堰を管理するためだけに行われた無慈悲な侵略であったのだ。もしこのまま侵入者を逃がしてしまったら、次は一体何人の命が奪われるのだろうか。
彼らの頭には恐怖だけが渦巻いていた。
「あいつを捕えろ! 絶対に逃がすな!」
「くっ……森の息吹よ!」
「うわっ?!」
彼女が杖を振るうと、魔力で成長させられたツルが村人をからめとり、強く地面に叩きつける。
しかし、こうして相手の命を気にしながら戦うにはあまりに人数差がありすぎた。
「堰は……落ちないのですね……」
ここで陽動を行えれば、自分以外の冒険者達が堰を落としてくれると考え粘り続けたアンネッラ。
途中、対岸の陣地が燃え上がったのを見て期待をしていたのだが、川の流れは変わらぬまま橋は顕在していた。
そしてついに彼女は村の中で追い詰められてしまう。
「う、動くなよ……!」
「逃がさない……逃がしたら……」
(予想が……外れてしまいましたわね……)
「みんな~~~! 聞いて~~~!!!」
そんな時、叫びのように大きな声が村人達の動きを止めた。
彼らが振り返ると、そこにはボロボロになったキシミアが、息を切らしながら立ち尽くしていた。
「デーモンはあたし達が倒したから! もう戦わなくて良いんだよ!」
(え、援軍……?)
「ちょっと失礼致しますわね」
「えっ?」
キシミアに注意がそれた隙に、ミクシーナはアンネッラをお姫様抱っこすると、その場から橋に向かって素早く退避する。
キシミアはそれを確認すると笑顔で村人達に語り掛ける。
「今、こんな悪夢終わらせてあげるからね」
そして彼女もまた橋へ向かって走り始めた。
「アザトゥさん! やっちゃって~!」
「了解だ」
魔力を用いて通信を行っていたアザトゥは、合図を受けて堰に全力の魔導を放つ。
木造の堰は砕け散ると、せき止めていた水が一気に放出されていった。
「ふぅ……これであの村はセンテンタリと断絶される。村人も生きている歩兵達も、これで従属から解放されるだろう」
アザトゥの活躍によって、放出された水は狙い通り橋を押し流した。これは後の戦いでセンテンタリの被害を拡大させるに違いない。
またアンネッラの早期の陽動は、無理矢理従わされていたセンテンタリ兵を村へと引きつけ、結果的に彼らをセンテンタリの領土から避難させる形となった。
「大丈夫、エルフさん?」
「あ……えっと……」
「まさかお一人で陽動に動いて下さっていたとは思いませんでしたの」
「ねー。でも君のおかげであたし達はデーモンを倒せたんだよ。ありがとう!」
「私からも、そして他の仲間の分まで御礼を申し上げます」
「え、あ……その…」
「そういえば、自己紹介がまだですわね?」
「そうだったね。あたしは……」
「キシミアちゃん。このまま3人とも汚れっぱなしというのはいけませんの。折角ですから続きはお風呂で……♪」
「そっか、それもいいねー♪」
「え、ええっ?」
他人とコミュニケーションをとったことのないアンネッラは、2人の勢いにただただ圧倒されるまま連れて行かれてしまう。
もしかしたら、人と仲良くしてみたいという彼女の初めての交流は、優しく体をながれる温かな水から始まるのかもしれない。
こうして小さな奇襲作戦は、大きな成果を生む結果に終わるのであった。
依頼結果
大成功
|
依頼相談掲示板
【創造の光】センテンタリの河流れ 依頼相談掲示板 ( 19 ) | ||
---|---|---|
[ 19 ] ミクシーナ
デモニック / メイド
2017-06-28 22:40:26
|
||
[ 18 ] アザートゥルース
デモニック / メイジ
2017-06-28 20:44:59
|
||
[ 17 ] ミクシーナ
デモニック / メイド
2017-06-28 00:00:06
|
||
[ 16 ] ミクシーナ
デモニック / メイド
2017-06-27 23:59:52
|
||
[ 15 ] ミクシーナ
デモニック / メイド
2017-06-27 23:58:01
|
||
[ 14 ] ミクシーナ
デモニック / メイド
2017-06-27 23:57:44
|
||
[ 13 ] ミクシーナ
デモニック / メイド
2017-06-27 23:56:57
|
||
[ 12 ] キミシア・シュー
ケモモ / シーフ
2017-06-27 23:53:23
|
||
[ 11 ] ミクシーナ
デモニック / メイド
2017-06-27 23:32:07
|
||
[ 10 ] ミクシーナ
デモニック / メイド
2017-06-27 23:30:30
|
||
[ 9 ] クロカ=雪羅
ヒューマン / ウォーリア
2017-06-27 23:12:29
|
||
[ 8 ] キミシア・シュー
ケモモ / シーフ
2017-06-27 22:58:58
|
||
[ 7 ] ミクシーナ
デモニック / メイド
2017-06-27 22:34:43
|
||
[ 6 ] ミクシーナ
デモニック / メイド
2017-06-27 20:40:12
|
||
[ 5 ] ミクシーナ
デモニック / メイド
2017-06-27 20:37:31
|
||
[ 4 ] キミシア・シュー
ケモモ / シーフ
2017-06-26 07:51:50
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[ 3 ] アザートゥルース
デモニック / メイジ
2017-06-25 18:44:42
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[ 2 ] クロカ=雪羅
ヒューマン / ウォーリア
2017-06-25 15:15:53
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[ 1 ] ミクシーナ
デモニック / メイド
2017-06-25 14:00:24
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