Vd:バレンタインを作ってみよう(春夏秋冬 マスター) 【難易度:簡単】




プロローグ


 チョコの木と呼ばれるものが、とある地域にあった。
 ディナリウムに属するその地域は、自然豊かな神話の森の近くにあり、チョコの木を御神木として祭っている。
 その地域の統治者の屋敷。
 そこで一組の男女が、厨房で作業しながら話していた。

「バレンタインって、ウボーの先祖の子だよね?」
 クッキーの型抜きをしながら問い掛けたのは、セパルという名のデーモンだ。
 なんやかや色々あって、いま話し掛けた相手であるウボーの元で居候をしている。
「おう。そうだぞ」
 ホールケーキにデコレーションしながら、ウボーは返す。
 見るからに百戦錬磨といった男が、可愛らしいエプロンを着けながらお菓子作りをしているのは中々にシュールだ。
「元々は、ここじゃなくディナリウム出身でな。ここが併合される時に、統治者として派遣されて来た訳だ」
「それがなんで、バレンタインデーなんてものに名前が載っちゃってるわけ?」
「切っ掛けだからな」
 クリームを塗りながら、続けて説明する。
「現地民とディナリウムの流入民が進んで結婚するぐらい仲良く出来るよう頑張ってたら、本国の一部の貴族に危険視されて軍を派遣されてな」
「それがなんで、バレンタインデーなんてものになっちゃったの?」
「そりゃ、軍を率いた貴族の要求を全部突っぱねて、現地の有力者の家系だったモーガン家の当主と結婚するって宣言したからだな」
「……んん?」
 悩むような間を開けて、セパルは聞き返す。
「それって、当時のここの人達に文句言われなかったの? 余計なこと言うな、とか?」
「いや、むしろ士気が上がったらしい。ようやく告白する気になったのかヘタレ領主ー! とか言われてな」
「……うん。その一言で、どんな子か想像ついたよ」
 じと目で自分を見るセパルに、ウボーは続ける。
「とにかくだ。そんなことがあって、なんやかや御神木やフェアリーズの助けも借りて勝ちを拾ってな。それを記念して、親しい相手に贈り物をするバレンタインの風習が始まったってわけさ」
「そういうわけね。で、それをもっと広めようとしてるってことか。なんで今頃になって、そんなことしようとしてんの?」
 これにウボーは、清々しい笑顔を浮かべ返した。
「金が欲しいからに決まってるだろ?」
「理由が生臭いよ!」
 セパルのツッコミに、ウボーは平然とした声で返す。
「世の中、生ものなんだから、生臭くなるのはしょうがないだろ。なにをするにも、金は掛かるからなぁ……」
「だから特産品の、チョコの実を使った商品を作らなきゃいけないってわけだ」
 いまセパルが口にしたチョコの実とは、御神木であるチョコの木の実のことだ。
 ふんだんに魔力を含み、食べると非常に美味しい。
 特に、スレイブは素晴らしく美味しく感じるという。
 おまけに木の実によっては、食べると疲労回復し、怪我も治り一時的に能力まで上がる物まであるが、それらは使わない。
 御神木の使いであるフェアリーズが、それらを使ってスレイブ向けの商品を作ることを恐れたからだ。
 この事実が分かったのは、冒険者たちの活躍のお蔭である。
 そして今もまた、冒険者たちの力が必要とされていた。
「そういえば、商品やイベントを進めるのに、冒険者の子たちの力を借りるんだっけ?」
 セパルの問い掛けに、ケーキ作りを終わらせたウボーは返す。
「そうだ。御神木さまが、望まれているようだからな」
「どゆこと?」
「冒険者との関わり合いの中で、スレイブを見極めようとされているみたいだな」
「見極めるねぇ……スレイブの子たちが出てきて半世紀ぐらいになるけど、なんで今さら?」
 この問い掛けにウボーは、ケーキを切り分け小皿に乗せセパルに渡しながら返した。
「50年以上、眠っておいでだったからな。最近目覚められたらしいんだが、そこで初めてスレイブの存在を御知りになって、見極めの必要性を実感したらしい」
「50年……ずいぶん、お寝坊さんだね」
「そうでもない。その気になれば、千年単位で眠りにつかれるのも可能らしいからな」
「千年!? デーモンのボクからしても、気が遠くなるよ」
 感心するのと呆れるのが入り混じった声で言ったあと、セパルは続けた。
「それで、冒険者の子たちに手伝って貰うのは、バレンタインで販売する商品の開発だっけ?」
「ああ。ついでに、バレンタインのイベント企画をして貰うつもりだ。それに基づいて、後日うちの領地で販売会やらイベントをするから、参加して貰って感想を聞かせて貰うつもりだ」
「そっか。良い商品や、イベントが出来ると良いね」
「おう。期待してるさ」

 などという会話があった数日後、一つの依頼がギルドに出されました。
 バレンタインという風習を商売にするべく、特産品のチョコの実を使った商品作りと、バレンタインのイベント企画の依頼です。
 そのあとに、地元で商品販売やイベントをするので参加して、意見を聞かせて欲しいとの事でした。
 この依頼に、アナタ達は?


解説


詳細説明

・目的
バレンタインの諸々を作る。

・流れ
1 現地に赴き、依頼人に指定された統治者の屋敷で、バレンタイン関連の商品やイベント企画をする。

2 3日後、現地で開催される販売会やイベントに参加してみる。

大まかな流れは以上の通りです。1と2の間に、断らない場合は屋敷での滞在が入ります。

屋敷では、本職のメイドさんと執事達による上げ膳据え膳の生活で持てなされます。

そういった状況でのスレイブとの関わり合いをプランに書いて頂ければ、描写されます。

また、エピソード内で出てきたNPCと絡んでみるなども自由ですし、外を散策してみるなども自由です。

依頼の舞台となる場所は、大雑把な設定は作っていますが未定な部分もありますので、ネタをぶっこんで頂けると、可能な限り取り込んで今後も運用させて頂く予定です。

・成功条件
バレンタインが盛り上がりそうな商品やイベント企画をプランで書いて頂ければ、成功になります。盛り上がり度で、成功度は上がります。

・商品
チョコの実を使った物を一つ考えて頂ければ、それ以上は自由です。

チョコの実は、食感はナッツ類。味は非常に美味しいチョコ味。石うすでひいてココアパウダー状にした物もありますし、基本チョコレートで作れる物は全部できます。

・イベント
何でも自由です。

・NPC
ウボー 現地の統治者の一族の1人 依頼人

セパル デーモン。幻覚の能力で角を隠してヒューマンの振りをしている。害はないです。関係者は皆知ってますし、皆さんにもその事は知らされています。

・その他
販売会とイベント企画中、ディナリウム御用達の商人達が見て回っています。バレンタインを自分達でもするのが目的です。依頼人も半ば公認なので、放置していても大丈夫です。

以上です。
それでは、ご参加頂けることを願っております。


ゲームマスターより


おはようございます。もしくは、こんばんは。春夏秋冬と申します。

今回のエピソードは、具体的にバレンタイン関連を作っていこう、という物になっています。

プランで書いて頂けた物が、幻カタでのバレンタインとして広まっていく予定です。

それとは別に、ディナリウムも独自にバレンタインを取り込んで広めることで、色々なバレンタインが出来ていく、というのが今後の幻カタでの流れになっています。

では、少しでも楽しんで頂けるよう、判定にリザルトに頑張ります。



Vd:バレンタインを作ってみよう エピソード情報
担当 春夏秋冬 GM 相談期間 5 日
ジャンル 日常 タイプ ショート 出発日 2018/3/9 0
難易度 簡単 報酬 通常 公開日 2018/3/19

クロスト・ウォルフシルキィ
 ヒューマン | クレリック | 27 歳 | 男性 
シルキィが興味を持ち依頼を受ける事にした
基本的に彼女が率先して行動する
現地の人から謂れ等のエピソードを聞きアイデアを考える

滞在中、庭など散策ししつつ意見摺合せて案を練る
そしたら彼女が俺の出会いを考えての案を出してきたから苦笑いで流す

当日は彼女に圧されフォーチュンチョコに参加
ペアになったお嬢さんとイベントを回りクリアして解散した
適度に離れ付いて来てたシルキィがどうだったと聞いて来る


お前の事が気がかりなのを見透かされて笑われてしまったよ
ここからは是非相棒と回りたいな、その方が俺は楽しめる


相棒は恋人じゃないのよ?(呆れつつ頬染め


親愛なる人だろ(苦笑)

手を繋ぎイベントを二人で楽しむ
アンネッラ・エレーヒャトゥルー
 エルフ | メイジ | 16 歳 | 女性 
目的
バレンタインを広める

行動
チョコの木の実を用いた風習があるのですね…とても興味深いですわ
まぁ…!チョコにも色々な種類があるようです
どんなものが良いでしょうかね

甘いひと時を大切な人と…というイメージでイベントを企画しましょうか
一緒に食べると嬉しいもの…チョコを溶かして、具材を付けるのはいかがでしょうか?
恋人とも家族とも楽しみつつ食べられると思いましたわ
セパル様とも会話を交えつつ食べることが出来ましたら嬉しいです
平和な時に話すをするのは初めてですから楽しみですわ

本当は…トゥルーと楽しみたかったですが、未だにフェアリーズさんが食べさせることを好んでいないようですから、諦めるしかないのでしょうか…
コーディアスルゥラーン
 デモニック | シャーマン | 23 歳 | 男性 
顔見知りには挨拶しておきたいな

商品案
メッセージチョコ
大き目のハートや星などのチョコに自由なデコレーションや大切な人へのメッセージを書きこんで贈る

コ「で、それをイベントで
恋人や親友、家族でステージ上で贈って日頃の感謝とか発表したらどうかな
お客さんも祝福してくれるんじゃないかな
ル「恋人さんならそのままプロポーズされるかもしれませんね
コ「それ、あるかもね、なんかご利益ありそうな伝説もあるようだし
ル「私、それ参加します♪
コ「え?

当日ステージでルゥのメッセージに照れつつ少し涙腺が緩んだのは内緒

参加者一覧

クロスト・ウォルフシルキィ
 ヒューマン | クレリック | 27 歳 | 男性 
アンネッラ・エレーヒャトゥルー
 エルフ | メイジ | 16 歳 | 女性 
コーディアスルゥラーン
 デモニック | シャーマン | 23 歳 | 男性 


リザルト


○バレンタインを作ろう
 バレンタインの商品とイベントの企画。
 依頼を受けた冒険者たちは、街の領主の館に訪れる。
 そこで一通りの挨拶をした冒険者たちは、それぞれ館に滞在しながら依頼の遂行に動いていた。

「バレンタインって、そういう謂れがあるんだ」
 街を【クロスト・ウォルフ】と共に巡っていた【シルキィ】が、楽しげな声を上げた。
 いま2人は、バレンタインの商品とイベント企画のアイデアを求め、街の住人に訊いて回っている。
 話を聞いて回っている内に、小休憩で訪れた喫茶店で、店主のオヤジから謂れを聞いたのだ。
「そんな素敵な愛の伝説があったのね」
 目を輝かせるシルキィに、クロストは苦笑するように言った。
「何か閃いたのか?」
 これにシルキィは、楽しそうに返す。
「あと少しで、浮かんできそう。場所を変えたら、形になるかも? そうだ!」
 シルキィは椅子から立ち上がると、クロストの手を取り引っ張っていく。
「領主様の館に戻りましょう。あそこの庭、綺麗だったから。良いアイデアが浮かびそう」
「分かった。連いていくから、そんなに引っ張らないでも大丈夫だよ」
 積極的に動くシルキィに苦笑しながら、クロストは繋いだ手に引っ張られ店を後にした。

 そうしてクロストとシルキィが館に戻っている頃、屋敷の庭に【アンネッラ・エレーヒャ】と【トゥルー】は居た。

「セレナ様と、お知り合いだったんですわね」
 アンネッラは、最近こなした依頼の話に反応したセパルに言った。
 これにセパルは、楽しそうに返す。
「うん。昔の冒険者仲間だよ」
 再会を喜び近況を話してくれたアンネッラに、セパルは自分のことを話し始めた。
「ヒューマンの振りして、ウボー達と一緒に組んでたんだ。良い想い出だよ」
「そうみたいですわね」
「分かるの?」
「はい。とても、やさしい声で話されてますもの」
「ふふ。そう言って貰えると、嬉しいな。ありがとう」
 セパルは歩みを止め、アンネッラとトルゥーを見詰めて言う。
「キミ達の冒険も、いつかきっと、良い想い出になるよ。だから、大事にしてね」
「ええ、そう思いますわ」
 楽しげな笑みを浮かべアンネッラは返すと、今度は気合を入れる。
「良い思い出にするためにも、今回の依頼も頑張らないといけませんわ」
「うん、やる気があって良いね。協力するよ」
 セパルの言葉に、アンネッラは少し考え込んでから返す。
「一緒に食べると嬉しいもの……チョコを溶かして、具材を付けるのはいかがでしょうか? 恋人とも家族とも楽しみつつ食べられると思いましたわ」
「うん、良いね。じゃ、試しに作ってみない?」
「試しに、ですか?」
「うん。ここの厨房を借りてさ」
 セパルの言葉に、近くを通りかかったウボーが反応する。
「好きに使ってくれ。うちのメイドにも手伝わせるよ」
 これにアンネッラは、ぎこちなく返す。
「……はい、ありがとうございます」
 以前に依頼で関わった事はあっても、直接会って話したことのないウボーには人見知りが出てしまう。
(人見知りが良くなったかと思ったんだけど……まだ道のりは遠いみたいね)
 いつものように頬に手を当てながら、心の中で呟くトゥルーだった。

 そうしてアンネッラ達は館の厨房に。残ったウボーは、庭を巡りながらアイデアを考えている【コーディアス】と【ルゥラーン】に声を掛けた。

「お疲れさん」
 これにコーディアスは返す。
「ありがとう」
 穏やかな声で礼を返したコーディアスに、ウボーは笑みを浮かべる。
「どうしたの?」
 気になって問い掛けたコーディアスに、ウボーは返した。
「いや、2人が一緒に居ると絵になると思ってな」
 コーディアスに寄り添うようにしているルゥラーンを見詰めながら、ウボーは続ける。
「自然なんだ。2人が一緒に居るのが」
「そう? 普通じゃないかな、そんなの」
 コーディアスの言葉に、ウボーは柔らかく目を細め返した。
「普通……か。その普通は、2人で一緒に積み重ねないと手に入らない物さ。得難いものだよ。それを自然に感じさせる2人なら、きっと良いバレンタインを作ってくれると期待してる」
 そう言って、ウボーは仕事があるらしく、2人の前から離れた。
「期待されているなら、頑張らないといけませんね、コーディ」
「うん。最初から、そのつもり」
 ルゥラーンに柔らかく返しながら、コーディアスはアイデアを口にする。
「メッセージチョコ、なんてどうかな? で、それをイベントで恋人や親友、家族にステージ上で贈って日頃の感謝とか発表してみるんだ。お客さんも祝福してくれるんじゃないかな?」
 これにルゥラーンは、弾んだ声で返す。
「良いですね。ひょっとしたら、恋人さんならそのままプロポーズされるかもしれませんね」
「それ、あるかもね。なんかご利益ありそうな伝説もあるようだし」
「私、それ参加します♪」
「え?」
 思わず声を上げるコーディアスの手を取り、ルゥラーンは引っ張っていく。
「協力してくれる、お店や人を探しましょう」
 ルゥラーンは楽しそうに笑みを浮かべながら、街に協力者を募るためにコーディアスと共に向かった。

 そんな2人と入れ違いになるように、クロスト達が館の庭にやって来る。

「どうだ? なにか良いアイデアは浮かびそうか?」
 一緒に庭を散策しながら、クロストはシルキィに問い掛ける。
「ん~、あとちょっとで浮かびそうなんだけど」
 考え込むあまり、足元も見ていないシルキィが転んだりしないよう気を配りながら、クロストは言葉を交わしていく。
「街で聞いた謂れだと、恋人同士の出会いにも、バレンタインは縁が深そうだな」
 これにシルキィは、ぴたりと動きを止め、目を輝かせて声を上げる。
「それよ! 領主様の素敵な愛の伝説があるなら、利用しない手はないわね」
「なにを思いついたんだ?」
 苦笑するように訊くクロストに、シルキィは勢い良く返した。
「縁結び大作戦よ!」
「……う、うん?」
 シルキィの意気込みの強さに、クロストは半分見守りの心境になりながら話を促す。
「どんなものをする気だ?」
「恋愛ご利益の地として売り出すのよ! タイトルは――」
 ちょっとだけ考え込んでから、シルキィは続けた。
「『出会いはフォーチュンチョコにお任せ☆』で決まりね!」
「どんなイベントになるんだ?」
「ターゲットは、恋人募集中の人よ。ハートチョコを購入して貰って、記された番号が同じ人同士ペアになって3つのイベントを一緒に回るのをルールにするの」
「なるほど。出会いの場を提供するってことか」
「そういうこと。だから当日は、クロストにも参加してもらうから」
「……は? いや、ちょっと待て。なんでそんな――」
「クロストには良い人とのご縁を貰って、ちゃんと身を固めて欲しいと思ってるんだから。それにはまず出会いよね!」
「いやいや……俺は……そんな気な――」
「そうと決まれば早速、手配に動かないと。忙しくなるわよ」
 シルキィの怒涛の勢いと、繋いだ手に引っ張られながら、クロストはシルキィと一緒に手配に動いた。

 その頃、館の厨房では、メイドさん達に持てなされたアンネッラが挙動不審になっていた。

「あ、あの、自分で出来るので大丈夫ですわ」
 厨房でのお菓子作り。
 その雑用やらあれこれを甲斐甲斐しく、お世話してくれるメイドさん達にアンネッラは、わたわたする。
 これにトゥルーは、頬に手を当てながらため息をつくように窘める。
「仕事でしてくれているのだから、下手に断るのは逆に悪いわよ」
 これにセパルも同意する。
「そうそう。気にしちゃダメだよ。それより、ボク達の仕事はバレンタインを作ることなんだから。そっちを頑張ろう」
 そう言ってセパルは、アンネッラが発案したお菓子の形を整える。
 それはトリュフだ。溶かした後に氷で冷やして固めたものを、スプーンで一口サイズの球形にまとめていく。
「うん、良い感じ。当日は、外にテーブルを置いて、オープンカフェみたいな感じにして、みんなで一緒に食べるのも良いかも」
 これにアンネッラは賛同する。
「良いですわね」
「ふふ、そう言って貰えると嬉しいな。3人で、一緒食べようね……どうしたの?」
 セパルの提案に、黙ってしまったアンネッラを心配するように声を掛ける。
 これにアンネッラは応えた。
「……フェアリーズさんがスレイブに食べさせることを好んでいないようですから、諦めるしかないのでしょうか……」
「大丈夫だよ」
 元気付けるように、セパルは言った。
「ウボーは、スレイブ用の商品も作って欲しいって言ってたし。特別な効果のあるチョコの実じゃなければ、フェアリーズも気にしないみたいだよ」
「そうなのですか?」
 不安そうに聞き返すアンネッラに、セパルは安心させるように返した。
「うん、保証するよ。どうしても気になるなら、フェアリーズの大元の御神木にもプレゼントしたらどうかな? 喜んでくれると思うよ」
「プレゼント……」
 アンネッラは少し考え込むと、館の庭を散策していた時に目を楽しませてくれた鮮やかな花々を思い出し返す。
「それなら、花を添えるのも良いかもですわ」
 これにセパルは賛同する。
「うん、良いね! それ、チョコにも付けて商品にしようよ」
「でしたら、協力してくれる商人の方を探さないといけませんわね」
「そっちは任せて。ウボーに頼んで、信頼できる人を紹介して貰うよ」

 こうして冒険者たちは、それぞれバレンタインのために動く。
 1日中働いて、それぞれが館で用意された部屋で休む。
 それはコーディアスとルゥラーンも同様だった。

「お疲れさま、ルゥ」
 キングサイズのダブルベット。
 来賓用の部屋に備え付けられたそこに2人は腰を下ろし、コーディアスはルゥラーンを労う。
「ルゥが頑張ってくれたお蔭で、巧くいきそうだよ。依頼が終わったら、ご褒美を出さないとダメだね」
「ご褒美、ですか……?」
 熱く、湿り気を帯びた声でルゥラーンは返すと、身体を預けるようにしてコーディアスに寄り添う。
「ルゥ……?」
 気のせいか、潤んだような瞳で見つめてくるルゥラーンに、コーディアスは思わず言葉を詰まらせる。
 そんな彼に、ルゥラーンは言った。
「ご褒美、今じゃ、ダメですか?」
 きゅっとコーディアスの服を掴み、ねだるようにルゥラーンは言う。
「……なにが、欲しいの?」
 こくりと、思わず喉を鳴らし尋ねるコーディアスに、ルゥラーンは言った。
「腕枕、して欲しいです。ダメ、ですか?」
「……腕枕……うん、腕枕かー……」
 強張った体をほぐすように言いながら、コーディアスはルゥラーンを呼ぶ。
「おいで」
 これにルゥラーンは嬉しそうに、そっと頭をコーディアスの腕に乗せる。
 やわらかな重みと、温かな体温。
 ルゥラーンを感じながら、コーディアスは優しく頭を撫でる。
「お休み、ルゥ」
「お休みなさい、コーディ」
 2人は、お互いを感じながら、静かな夜を過ごした。

 こうして冒険者の皆がバレンタインの商品とイベントを作り、当日参加した。

○バレンタインを楽しもう
「良い人を、見つけて来なさいよ!」
 楽しそうにシルキィは、クロストに言った。
 バレンタインイベント当日。
 自分達が企画した縁結び大作戦イベント『出会いはフォーチュンチョコにお任せ☆』にクロストは参加する。
(さて、どうするか……?)
 手を振って見送るシルキィに、今さら参加しないとも言えず、ハートチョコを購入する。
 するとイベント進行に就いていた商店街の若者が、チョコに記された番号とペアになった相手を連れて来てくれる。
「こんにちは。ヨナと言います。よろしくお願いしますね」
 相手は20歳の金髪の女性だった。
(シルキィに、少し似てる……かな?)
 同じ髪の色の相手に、ついついシルキィを思い浮かべてしまう。
 するとヨナは、くすりと笑いながら言った。
「誰かに似てますか?」
「え……いや」
 思わず言葉に詰まるクロストに、ヨナはクロストの手を引き歩き出す。
「折角のイベントです。楽しみましょう」
 遊ぶような声で言うヨナに促されながら、2人はイベントを回っていく。
 道中、コーディアスとルゥラーンのイベントに立ち寄る。
「想いを伝えたい相手に、メッセージを贈るイベントだそうですよ」
 ヨナは、そっとクロストとの距離を縮め、囁くように続けて言った。
「貴方も、試してみますか? あの子のために」
 ヨナは、クロストにだけ分かるよう、後ろを指で示す。
 その先に居たのは、好奇心で目を輝かせるシルキィ。
「いや、シルキィは――」
「気になるんですね、あの子のことが」
「それは――」
 返す言葉に悩むクロストに、ヨナは微笑ましげに見詰めながら言った。
「ふふ。最初から、顔に出てましたよ。私じゃなくて、他の誰かのことを想ってる」
「その、シルキィは妹みたいというか……相棒みたいなもので」
 自分の想いを確かめるように言うクロストに、ヨナは楽しげに小さく笑みを浮かべ返した。
「良いんですよ。私も貴方と一緒ですから」
「どういうことです?」
「イベントには、勧められて参加しただけですから。でも、それはそれ。楽しまないと、損ですよ」
 そう言って、ヨナは積極的にクロストと共にイベントを回る。
 クロストもヨナの言葉に気持ちを切り替え、イベントを共に楽しみながら巡っていく。
 そして最後に、アンネッラとトゥルーの企画したイベントに。
 溶かしたチョコで作った色々なお菓子に花を添えて、贈り物。
 何にしようか迷っていると、ヨナの助言もあり、花やハートのデコレーションをされたトリュフに、フリージアの花を添えた物を選ぶ。
 そこで別れた所に、シルキィが近付く。
「良い雰囲気だったじゃない」
 これにクロストは苦笑しながら返した。
「相手が合わせてくれただけさ。お前の事が気がかりなのを見透かされて笑われてしまったよ。ここからは是非、相棒と回りたいな。その方が俺は楽しめる」
「相棒は恋人じゃないのよ?」
 呆れるように言いながら、ほんのりとシルキィは頬を染める。そんな彼女に、先ほど購入したトリュフとフリージアの花をプレゼント。
 そして手を繋ぎ、クロストは苦笑しながら言った。
「親愛なる人だろ」
 そしてシルキィは、クロストとイベントを巡っていく。
 親愛の情を花言葉に持つ、フリージアの花を胸に抱きながら。

 そうしてイベントに参加しているのは、コーディアスとルゥラーンもだった。

「私には、想いを伝えたい人が居ます」
 自分の想いを伝えるイベント。
 そのステージに立ち、ルゥラーンは声に想いを乗せ語っていく。
「それは、私のマスターです」
 ルゥラーンは、自分を見詰めるコーディアスと視線を重ねる。
 それだけで、触れ合うような温かさに包まれながら、ルゥラーンは想いを響かせていく。
「私の美しいマスターは、私をとても幸せにしてくださいます。傍に居て、言葉を交わし、私の望みを知ろうとしてくれます。それが私には、掛け替えのない幸せなんです」
 一言一言に、自分の気持ちを届けようと一生懸命なのが、聞いているだけで伝わってくる。
 その最中、コーディアスを見詰めるルゥラーンは、様々な感情が融け合った、心を惹かれる微笑みを浮かべる。
 ドキリと、その微笑みにコーディアスは鼓動を弾ませ、思う。
(ま、まさかプロポーズ的な事してきたりしないよな? いつもの意味深な笑みが更に意味深に見える)
 僅かに体が熱くなるコーディアスを見詰めながら、ルゥラーンは思いの丈を言葉にした。
「眺めては美しさに感動して打ち震え、勇ましく戦う姿に勇気を貰えます。夜の明かりを前に踊るさまは、艶やかで目を奪われます。それに――」
 どれだけ言葉を費やしても足らないというように、ルゥラーンはコーディアスを称えるように想いを紡いでいく。
 その全ては、心から溢れて来るように。
 だからこそ、聞く者の心を打つ。
 イベントに参加する皆の。そしてなにより、言葉を贈られるコーディアスの心を。
 涙ぐみそうになるコーディアスを見詰めながら、ルゥラーンは想いを言い切った。
「私にとって、マスターの全てが、大切で大事な宝物なんです。生きていてくれるだけで、喜びが溢れてきます。だから生きていてくれるだけで、こんなにも尊く思える方と巡り合えて幸せです。だから、コーディ――」
 ねだるように、そして願うように。
 ルゥラーンは、望みを口にした。
「これからも、貴方の傍に居させてください。それが、私の幸せなんです」
 全ての言葉を受け止め、コーディアスはステージに上がる。
 そしてルゥラーンを抱きしめ、誓うように言った。
「ずっと、これからも一緒だよ。傍に居て、ルゥ」
「はい。コーディ」
 抱きしめ返すルゥラーン。
 そんな2人に、歓声が上がるイベント会場だった。

 そうしてイベントを満喫しているのは、アンネッラとトゥルーも同じだった。

「プレゼントです。受け取って頂けますか?」
 手作りトリュフに、ピンクのバラを添えて。
 アンネッラはセパルにプレゼント。
「うわ、嬉しい! ありがとう!」
 喜ぶセパルに、アンネッラは嬉しそうに笑顔を浮かべる。
 そして、トゥルーにも同じプレゼントを。
 けれど、フェアリーズのことを考え渡しても良いものか迷っていると、セパルが言った。
「大丈夫だよ。もうちょっと待ってて」
 これにアンネッラが不思議そうに見つめる中、セパルは声を上げる。
「おーい、ウボー。こっちこっちー」
 セパルに呼ばれ近付いたウボーの両手には、それぞれ一体のフェアリーズが。
「言われた通り、連れて来たぞ」
 セパルに返すウボー。
 するとセパルはウボーに礼を返し、次いでアンネッラに言った。
「プレゼント、フェアリーズにもしてあげなよ。きっと喜んで、スレイブを受け入れてくれるよ」
 これにアンネッラは、勢いをつけるような間を開けて、フェアリーズにプレゼントをする。
「御神木様に贈り物ですわ。受け取って頂けますか?」
 トリュフと共に、感謝の花言葉を持つピンクのバラを受け取ったフェアリーズは、ごにょごにょと話し合う。
 そして万歳をするように諸手を上げて、嬉しそうに言った。
「かあさま、喜んでるです」
「捧げ物、ありがとう言ってるです」
「だから、かあさまもお礼したい言うです」
「あっちに行くですー」
 ぴょんぴょん跳び跳ねながら、ある場所を示す。
 それに従い向かった先には、街の中に植えられていた、御神木の挿し木。
 挿し木ではあるが立派な大木には、無数の蕾が付いていた。
 それが、一斉に開花した。
 かわいらしくも清廉な、純白の花が咲き誇る。
「お礼に、花を咲かせたです」
「……綺麗、ですわ」
 自分のために咲いてくれた満開の花に、アンネッラは息を飲むように声を上げる。
 そこに、オープンカフェからテーブルと椅子を持ってきたセパルが声を掛ける。
「花を見ながら、チョコを食べようよ」
 お茶も用意して、お茶会を。
 気付けば、街の住人も同じようにテーブルと椅子を持って集まり、賑やかになっていく。
「座ってお茶にしましょう。貴女のために花を咲かせてくれたんだから、楽しまなきゃね」
 トゥルーに促され、アンネッラはセパルの用意してくれた椅子に座る。
 そしてお茶会開始。もちろん、最初にするのはトゥルーへのプレゼント。
「いつも、ありがとうですわ」
「ありがとう。嬉しいわ」
 トゥルーは受け取り、チョコを広げお喋りを楽しみながらお茶会を。
 いつの間にか数の増えたフェアリーズも参加し、贈り物のバラを囲むように踊る。
 すると、薔薇の切り花に根っ子が生える。
「これ、かあさまの傍に植えるです」
「植えても良いです?」
「はい。そうして貰えると嬉しいですわ」
 笑顔で返すアンネッラに、セパルは言った。
「嬉しそうだね」
「はい。喜んで貰えると嬉しいですわ」
「ふふ。良い子だね、キミは。みんなにプレゼントしてくれて、嬉しい気持ちにしてくれるんだもの。さっき用意していたトリュフも、プレゼント用なんでしょ?」
「ええ。一緒に依頼に参加された皆さんに、贈ろうと思っているんですの」
「良いね。でも、プレゼントするだけじゃ、もったいないよ。だから、はい。ボクからプレゼント」
 そう言ってセパルは、手作りのチョコクッキーと、オレンジ色の5本のバラを。
 バラは本数でも花言葉が変わるが、5本の時に込められた言葉は『あなたに出会えて本当によかった』。
 その想いを込め、セパルは贈る。
 受け取ったアンネッラは、はにかむような笑顔を浮かべ喜びを口にした。
「ありがとうですわ。本当に、嬉しい」
 そして喜ぶアンネッラを囲み、トゥルーとセパル、そしてフェアリーズは楽しくお茶会をするのだった。

 こうしてバレンタインは出来ていった。
 冒険者たちの助力により、様々な人々に伝わり、時に形を変えながら広がっていく事だろう。
 そう思える、冒険者たちの活躍だった。



依頼結果

大成功

MVP
 アンネッラ・エレーヒャ
 エルフ / メイジ


依頼相談掲示板

[1] ソルト・ニャン 2018/03/01-00:00

やっほにゃ~ぁ
挨拶や相談は、ここでお願いにゃ~!
みんなふぁいとにゃにゃ~