プロローグ
とある打ち捨てられた廃坑。
人気のない筈のそこで、神の手が言葉を交わしていた。
「オーパーツを持って撤収しろ」
冷淡な声で言ったのは、アイドル衣装の年若い女だ。
それに壮年の男が返す。
「馬鹿なことを言うな! 実験は、まだこれからだ!」
「どうやって続けるつもりだ? わざわざマッチポンプまでして手に入れた実験場のほとんどは、ディナリウムから派遣された奴らの手で奪還されているんだぞ」
2人が話しているのは、洗脳効果のあるオーパーツ実験のために用意した村のことだ。
神の手は襲撃と救援を自作自演で行うマッチポンプにより、ディヘナ近郊の小さな村の幾つかを実験場として掌握していたのだが、それがディナリウムから派遣された集団により解放されているのだ。
「オーパーツも奪われ、これ以上の実験は出来まい」
「まだだ! 確かに子機は奪われた。だがまだ本体がある!」
そう言って男が指差した先にあるのは、数人掛かりでなければ運べない重さを持った箱状の物。
今この場に居る者は知らないが、それははるか未来において、万人単位の人々が集まる場所で、音を拡大させ響かせる機械であるアンプによく似ていた。
「アレが、ローレライがありさえすれば、実験はいくらでも続けられる。本体であるアレの効果範囲は、子機の比ではないのだからな」
「本末転倒だ。馬鹿め」
アイドル衣装の女は冷ややかに言った。
「確かにアレの効果範囲は広大だ。巧く使えば、キロ単位で影響下に置けるだろう。だがな、無差別に過ぎる。効果範囲であれば敵味方関係なく影響下に置くような代物、使い勝手が悪すぎだ」
「そ、それを巧く使うための実験だろうが」
「それは子機が無ければできん。効果範囲を調整し易い子機の実験を繰り返し、本体に反映させ実戦で使えるようにする。それが今回の実験の趣旨だろう。もはや子機はこちらには無い。潮時だ」
この言葉に、壮年の男は怒りに身体を震わせながら言った。
「なにが潮時だ。分かってるのか、これの価値を。これを巧く使えば、我らの邪魔をする者共を無力化できるのだぞ。アルゴー様の邪魔を冒険者共がした時とて、これさえ使いこなせていれば、どうとでもなったものを」
「使いこなせればな。だが、使いこなせん役立たずでは意味がない。諦めて早い内に撤収しておけ。恐らく近い内に、ここは襲撃されるぞ」
「馬鹿なことを言うな。ここのことは知られてはいない筈だぞ」
「どうだかな。セパルと、ここしばらく連絡が取れなくなっているそうだな」
アイドル衣装姿の女が口にしたセパルとは、神の手に協力していたデーモンだ。
過去の情勢などを記した歴史書の一冊を望んだそのデーモンは、見返りにマッチポンプに協力し、そのあとも場合によっては協力させるために連絡を取っていたのだが、数日前から連絡が取れなくなっていた。
セパルの名を耳にして、壮年の男は眉を寄せながら返した。
「奴には、ここの場所は伝えていない」
「だったら良いがな。お前達に気付かれない内に調べているのではないか?」
この言葉に、壮年の男はあざ笑うような笑みを浮かべ返す。
「随分と、気の小さいことを。そこまで気になるなら、貴様らがヤツを殺して来い」
「断る」
「臆病者が。怖いのか」
「ああ、そうだ」
これに壮年の男は蔑んだ笑い声を上げ言った。
「さっきからもっともらしいことを言っていたが、結局貴様は怯えているだけではないか。だが私は違うぞ! ここで必ずやオーパーツの機能を解きあかしてみせる。それまで、誰が逃げるか」
「……そうか。なら、我らは撤退させて貰おう」
アイドル衣装の女は、無表情でその場を離れながらポツリと呟いた。
「忠告はしたぞ。馬鹿め」
そうしてアイドル衣装の女がその場を去った頃、神の手に襲撃をするため、2人の男女がとある酒場で話し合っていた。
「廃坑を利用したアジトか。よく調べられたな」
2人の男女の内、ウボーというディナリウムに属する男が女に言った。
それにセパルという名の、デーモンである女は返す。
「頑張ったよー。向こうは、こっちに幻覚の能力有るの知ってるからさ。本拠地以外でボクとやり取りしてたから。しょうがないから痕跡を一つ一つ辿って、ようやく見つけたよ」
「そうか。頑張ったな。それで、そこまで調べて、神の手にはどこまで気付かれてる?」
「オーパーツを本格的にいじってる奴らは大丈夫そうだけど、そいつらに協力してた子達がヤバいかな。でも仲は良さそうじゃなかったし、しばらくは本拠地からオーパーツを動かさないんじゃない?」
「猶予はあるってことか……だが、放置は出来ん。さっさと潰す」
「どうすんの?」
「まず正面から、俺が指揮する部隊で突入する。その間に裏道から、冒険者に内部に侵入して貰い、同時に叩く」
「裏道って?」
「お前が調べてきた坑道だが、正面以外で小規模の入り口がある。そこから内部に入って貰うつもりだ」
「そこって、多分逃げ道だよ。正面から攻められた時に、不利になったら逃げる用の」
「だろうな。だから逃げられないために、冒険者に押さえて貰う」
「それってさ、人手が足りてないの?」
「ああ。それがどうかしたか?」
そっけないウボーに、セパルは視線を逸らしながら返した。
「……ボクは? 今回は、手伝えとか言わないんだ」
「お前が決めろ」
言葉を返せないセパルに、ウボーは続ける。
「好きにすれば良い」
これにセパルは、迷うような間を開けて返した。
「……ご褒美くれるなら、考えるけど」
「いいぞ」
「即決だね」
「迷う理由がないからな。ただな、俺達の時みたいに、全てが終わってから逃げるなよ」
「別に逃げたりは……」
「なら、いいさ。頼むな」
そう言ってウボーは、くしゃりと乱暴にセパルの頭を撫で、神の手襲撃の算段を付けるため酒場を後にした。
それから数日後。
秘密裏に冒険者たちが集められました。
依頼内容は、とある廃坑に陣取っている神の手を襲撃する際、逃げられないよう押さえて欲しいとの事でした。
協力者として、セパルという名のデーモンがアナタ達に同行するとのことです。
この依頼に、アナタ達は?
解説
詳細説明
廃坑に居る神の手を、ディナリウムの部隊が踏み込むまで抑えて下さい。
状況
最初にディナリウムの部隊が正面入り口から進攻。
その後、裏口を冒険者が移動。
廃坑内の開けた場所にいる敵の一団に攻め込む直前から始まります。
舞台
直径100m程の円形広場。そこに通じる裏口は、2mほどの幅があります。
内部に照明があり、平地で障害物も無いので戦闘に支障はありません。
広場の左手奥にオーパーツあり。
そこで神の手が8人、混乱した状況で撤退するかどうかを話しています。
敵
神の手8人。残りはディナリウムの部隊と戦っているため居ません。
リーダー格。メイジ。HP高めで強いです。
残りはシャーマン2人、メイジ1人、ウォーリア2人、グラップラー2人。
オーパーツ
名称 ローレライ 能力 最大でキロ単位の短期洗脳効果。
割と重いので、移動させるには苦労する。
使われるとマズいですが、使用準備に時間が掛かるため、今回の戦闘中には使う余裕はありません。
セパル
助っ人枠デーモン。
幻覚の能力で、PCの初手を不意打ちにします。
そのあとは、幻覚で敵を撹乱。敵の命中力低下。
状況に応じて直接戦闘。基本は、PCの庇いに動きます。
幻覚と直接戦闘は同時には行えません。
盾役兼敵へのデバフ役です。
現状、冒険者に対する好感度は高いので裏切りなどはありません。
むしろ、PCのダメージが多くなると積極的に盾役になります。
セパルがどれだけダメージを受けても成功度は一切下がりません。
成功度
ディナリウムの部隊が踏み込むまで、敵を裏口から逃がさなければ成功です。
参加人数によって、ディナリウムの部隊が踏み込んでくる時間は変わります。
敵を逃がさないことに加えて、敵に与えた被害で成功度は上昇します。
以上です。
それでは、ご参加をお待ちしております。
ゲームマスターより
おはようございます。あるいはこんばんは。春夏秋冬と申します。
シリーズ的に続けてきた神の手とオーパーツ、そしてデーモンのセパルが出て来るシナリオですが、一先ず今回で一端の区切りです。
これまでのエピソード結果によっては、ギリギリの成功が続いたりですとか、失敗があったりしていると、結構な大惨事になる予定でしたが、神の手痛打ルートになってます。
一番大惨事ルートですと、大規模洗脳状態で味方が敵に回る中、魔石の実験で魔物にされた村人が襲い掛かって来たりとかもあり得ましたが、闇に滅しました。
あとセパルも、冒険者への好感度が著しく低いと、今回のエピソード内でも出てきたアイドル衣装の女キャラが率いる一団とやり合って弱った所を、冒険者が倒しに行くルートとかもあり得ましたが、全部闇に滅しました。
そんな感じに、PCの選択と行動で変わっていくシナリオを、今後もポツポツと出していきたいと思います。
ゴブリンやオークの子供を育てているデモニックの女性の話ですとか、フェアリーズが出てくる話。他にも、我王が出てくる話など、幾つか考えています。今回のシナリオで出て来るセパルも、今回のシナリオで死んでなければ、また出て来る予定です。
他にも、色々とエピソードを考えていこうと思っています。興味を持って頂けましたら幸いです。
では、少しでも楽しんで頂けるよう、判定にリザルトに頑張ります。
神の手の実験を粉砕せよ! エピソード情報
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担当 |
春夏秋冬 GM
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相談期間 |
7 日
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ジャンル |
戦闘
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タイプ |
ショート
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出発日 |
2018/1/26
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難易度 |
普通
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報酬 |
通常
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公開日 |
2018/2/5 0 |
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残党処理か。つまらねえ事この上ねえが仕事は仕事。きっちりやるさ
今回も不意打ち可能らしいから、コーディアス達が先制した後、敵が混乱している間に接近。密集している場所で【リミットブレイク】してからの【ドラグーンストーム】を叩き込む その後は他のメンバーと連携。接近戦ができる奴に目標を絞って撃破 基本は一体一だが、複数で攻撃してきたら再度【ドラグーンストーム】を放って一気に撃滅する
任務後は、敵側で無事な奴(生存してるならリーダー格)からアイドル服の女の事を聞き出す。あいつが重要人物なのは間違いねえ
ちなみにローレライは破壊する方針に賛成。洗脳なんてチャチな事する道具なんてぶっ壊すに限る
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心情 やっと正面衝突なのですわね… 色々大変だったこともありましたが、セパル様や一緒に行動して下さったジーン様、コーディアス様のお蔭で何とかなった場面が多かった印象です ここでの神の手の計画は完膚なきまでに潰して差し上げますが、まだきっと何かやっているはず…まだまだやることは一杯ありそうですわね
行動 まずはセパル様の幻覚による隠蔽で先制攻撃を コーディアス様のおかげで威力を増したグランドインパクトで一気に戦線を乱します その後は近づいてくる神の手の相手をジ・アビスで 火はあまり使いたくないので威力を抑えめにしますが、それ以外は全力で放ちますわ
「どなたもここを通しませんわ…逃げられるとは思わないで下さいませ」
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攻め込む前に 物陰で伺いリーダーを把握しときたい ジョブレ済ませる アンネッラさんと自分に五行相生使い魔法力アップ(戦闘中切れたらまた掛けるよ
不意打ちは リーダーを火界咒で攻撃(リーダー落ちれば戦意喪失するかな
戦闘 僕は裏口付近にいたい ここから先には行かせない(逃がさない)心構えで動きたい 敵の数がいる内は牽制を兼ねた攻撃をしかけ味方の攻撃チャンスも作れたらいい 優先はリーダー>メイジ>シャーマン>近距離職(武器で判別 火界咒使用 接近戦に持込まれないよう距離を取る
戦後 オーパーツここでぶっ壊したいと部隊長に進言 OKならぶっ壊す こんなもの存在していて欲しくないよ
セパルにはお礼言いたい
ルゥの頭撫でて労りたい
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参加者一覧
リザルト
○神の手の企みを叩き潰せ
「残党処理か。つまらねぇ仕事だ」
【ジーン・ズァエール】は獰猛な笑みを浮かべながら、静かに位置取りをしていた。
洗脳効果を持ったオーパーツ。それを悪用しようと画策した神の手。
その完全制圧のため、神の手の隠れ家である廃坑に冒険者たちは訪れていた。
すでに準備は整え、それぞれ配置に就いている。
そんな中、ウォーリアであるジーンは、近接戦のために最適な場所を見決めようと動いていた。
「マスター。気をつけて下さい」
戦いへの高揚を見せ始めているジーンに、彼のスレイブである【ルーツ・オリンジ】は心配そうに声を掛ける。
すでにジョブレゾナンスは行い、武器との同化も済ませている。
これにジーンは、不敵に返した。
「油断する気はねぇ。それに仕事は仕事だ。やらなきゃいけないことはキッチリするさ」
(とはいえ折角の戦いだ。楽しまねぇとな)
戦闘中毒でもあるジーンは、戦いへの喜びを抑えながら、戦端が切られる時を待っていた。
それに気付いているルーツは、気合を入れる。
(マスターのために、しっかりサポートしないと)
真面目に、そしてマスターであるジーンのために、一生懸命働こうとしていた。
こうして、デーモンのセパルによる幻覚により、気付かれず配置に就いているのは他の冒険者たちも同様だった。
(あいつがリーダーだな)
敵の動向把握に動いているのは【コーディアス】。
彼は、敵の動きの牽制も考え、攻撃の手順を考えていく。
(敵の数が多い。少しでも牽制が出来るように考えていかないと)
「ルゥ。火界咒の制御、細かく出来る?」
コーディアスの問い掛けに、彼のスレイブである【ルゥラーン】は応えた。
「任せて下さい。どうすれば良いのですか?」
「火界咒の動きを、可能な限りこちらで操りたい。出来る?」
応えは僅かな迷いもなく、即座に返された。
「私が出来る全力で。役に立ってみせます、コーディ」
ルゥラーンの応えに力強さを感じながら、コーディアスは更に動く。
(出来ることは、可能な限りやっておかないと)
「アンネッラさん。五行相生を掛けておくよ」
「ありがとうございます。助かりますわ」
コーディアスに、【アンネッラ・エレーヒャ】は自然体で礼を返す。
故郷に居る頃は人見知りが強い彼女だったが、何度か依頼で顔を合わせている相手であれば、そこには余計な力みは見られない。
(あらあら、少しは人見知りが治ったのかしら)
アンネッラの様子に、彼女のスレイブである【トゥルー】には喜びが浮かぶ。
アンネッラの保護者役として普段から動いている彼女にとって、故郷に居る頃に比べて人見知りが無くなっているのは嬉しい事だ。
(精神的に成長したってことかしら)
微笑ましく思うも、それでもちょっとだけ心配は残る。
(人見知りしなくなったのは、知り合いになったからだけじゃ……ないわよね?)
苦笑するように思いながら、トゥルーはアンネッラに声を掛ける。
「攻撃の最初は私達よ。そろそろいける?」
「ええ。大丈夫ですわ」
アンネッラは、コーディアスが五行相生を自分に掛け終ったのを確認してからトゥルーに返す。
攻撃力低下の代わりに魔法攻撃力を上げる五行相生は、遠距離攻撃に徹する魔法攻撃を中心にするなら最適だ。
いまアンネッラとコーディアスの2人は、坑道の逃げ道となる場所を塞ぐ形で位置取りをしている。
接近戦は捨て、遠距離から敵の逃走を防ぐことに特化した形だ。
これならば、効率よく敵に対処できる。
だがその為には、敵を近づけないほど強力な魔法攻撃を続けなければならない。
五行相生の効果時間は、特別に長い訳でもない。
余計な時間を掛けることなく、アンネッラは戦端を切ろうとしていた。
(やっと正面衝突なのですわね……)
神の手の企みを潰すために、幾度となく引き受けた依頼。
その1つの終わりが、いま始まろうとしている。
(ここでの神の手の計画は完膚なきまでに潰して差し上げますが、まだきっと何かやっているはず……まだまだやることは一杯ありそうですわね)
ここで止まることなく、更にその先も見据えながら、アンネッラは万感の思いを込め、魔法攻撃を放った。
「大地よ、その身を震わせ、その威を示せ!」
詠唱の終わりと共に、グランドインパクトが発動する。
局所的な大地の震動。地面が隆起するほどの律動は、その上に居た神の手3人に叩き込まれる。
声を上げる余裕すらなく、神の手3人は痛手を受ける。
コーディアスの五行相生により強化されたアンネッラのグランドインパクトは、足の骨にひびが入るほどのダメージを与えていた。
これに動揺する神の手。
だが、リーダー格の一声が、それを抑える。
「敵だ! 迎撃しろ!」
更に指示を出そうとした所に、コーディアスの火界咒が襲い掛かる。
人一人を飲み込むほどの大きさの炎が圧縮され、大蛇の形を成し敵リーダーに直撃。
僅かによろめく敵リーダー。
だがメイジとしての高い魔法防御力に支えられ耐えきると、憎悪の声を上げた。
「ふざけるな! なんだ貴様ら!」
けれどそれに怯むことなどなく、冒険者たちは攻撃を重ねていく。
「追加の特大攻撃だ。遠慮せず食らっとけ!」
敵の只中に、単身跳び込んだジーンの攻撃が炸裂する。
リミットブレイクにより強化した、ドラグーンストーム。
竜巻の如き暴威を持って、固まっていた敵を切り刻んだ。
一所に固まっていた敵は、4人同時にダメージを受ける。
特に酷かったのは、アンネッラのグランドインパクトを受けていた3人。
動きが鈍った所にまともに食らい、ろくに戦える状態ではない。
この時点で敵は5人。初手の攻撃の巧さが功を奏し、かなりの打撃を与えていた。
だが、ここから敵が本格的に動き出す。
「逃げるのは後にしろ! 近い奴から囲んで潰せ!」
腐ってもオーパーツの実験を任されるだけはあるのか、敵リーダーは徹底抗戦を口にし檄を飛ばす。
敵の只中に踏み込んだジーンを囲むべく、神の手は動き出す。
だが、ジーンの顔に浮かぶのは笑み。
戦いの喜びに、高らかに声を上げる。
「来いよ腰抜け」
「貴様……」
激昂する神の手に、更に啖呵を切る。
「コソコソ隠れて洗脳しかできねえ、悪巧み野郎どもが。やる事が根暗全開なんだよ。でも仕事だからな、仕方ねえから相手してやるよ!」
恐れることなくジーンは踏み込む。
敵の1人が迎え撃つ中、斬り合いが始まる。
「マスター! 油断してちゃ足元掬われますよ!」
戦いの喜びに身を浸すジーンに必死に呼びかけるようにして、ルーツはサポートを必死にこなしていく。
そんな中、神の手はジーンを囲むべく動き出す。
幸い、一気に押し潰そうという動きはない。
これは初手のドラグーンストームが効いている。
下手に囲み、また斬り刻まれるのを警戒したのだ。
だが、それでも死角を突こうと動いていく。
そこにコーディアスとアンネッラが援護に動く。
「ルゥ、頼む!」
「やってみます!」
コーディアスは、ルゥラーンのサポートを受けながら火界咒を放つ。
炎の大蛇は地面を疾走。
ジーンの背後を突こうとした敵の前を横切る。
自分に当たると思った敵は一歩後退。
だが、コーディアスの狙いは奥の敵。
距離を取って強化をしようとしていた敵シャーマンを焼く。
一撃で倒し切ることは出来なかったが、敵の動きを止めることができた。
「よし。この調子でやっていこう。まだやれる? ルゥ」
「はい、もちろんです。貴方が望むなら、いくらでも」
言葉を交わし、意思を重ねるようにコーディアスとルゥラーンは戦いを続けていく。
それは独りではなく、2人が共にある戦い方。
今までの積み重ねが、現れるような戦い方だった。
そうしてスレイブと共にあるのは、アンネッラも同様だ。
「させませんわ!」
ジーンの側面から不意打ちをしようとした敵グラップラーに、アンネッラはジ・アビスを放つ。
巻き添えでジーンに被害が及ばないよう、精度を意識し集中。
引き絞った弓矢の如き正確さで、炎の塊が敵グラップラーにぶち当たる。
コーディアスの五行相生で威力の上がった一撃に、大きくよろめく。
それを見て脅威と判断したのか、自由に動ける敵グラップラーが突進してくる。
真っ直ぐにではなく、フットワークを生かし狙いをつけられないように近付いてくる。
これに狙いが定められないでいたアンネッラに、トゥルーが静かに声を掛ける。
「大丈夫。私が敵の動きに集中するから。貴女は魔法を撃つ事だけに集中して」
戦いの中にあって穏やかな声。
それに冷静さを取り戻しながら、アンネッラは集中する。
「――今よ、撃って」
トゥルーの声に導かれるように、アンネッラはジ・アビスを放つ。
氷の槍として顕現したそれは、近付こうとした敵の足に突き刺さった。
狙撃手と観測手のようなコンビネーションを見せ、アンネッラとトゥルーは戦っていく。
しかし、ここでコーディアスの五行相生の効果が切れる。
慌てずコーディアスは再び掛けようとしたが、そこで敵リーダーが動いた。
「死ね」
巨大な業火の渦を生み出し、アンネッラとコーディアスの2人を諸共に焼くべく撃ち放つ。
一瞬で迫りくるそれを、セパルが真正面から盾となり受け止めた。
「キサっ……裏切ったな、セパル!」
「え? そんな関係じゃないじゃん。ボクたち」
軽口を叩きながらセパルは、アンネッラとコーディアスに笑みを浮かべ言った。
「こっちにちょっかい出さないよう、撹乱するから。あとはよろしくね」
そう言って敵リーダーに突っ込み撹乱。ときおり隙を見て、ジーンに襲い掛かろうとする敵の邪魔をする。
幻覚の能力を使っているので攻撃できず、敵の攻撃を受け止める盾役として動く。
そこに冒険者たちは攻撃を重ねていった。
「どこを見てる!」
セパルに気を取られた敵グラップラーの懐にジーンは跳び込む。
速い。敵は反応が遅れ対処が出来ない中、深々と足を切り裂いた。
敵グラップラーを戦闘不能にする。
だがその隙を突こうと襲い掛かる敵ファイターに、コーディアスの火界咒が放たれる。
ルゥラーンの助けを借り絶妙の動きを見せ、炎の大蛇は足に噛み付き焼いた。
「まだまだやれます。コーディ」
「うん、分かってる。頼んだよ」
一生懸命に頑張るルゥラーンに、コーディアスは優しく返した。
そうして動きの止まった敵に止めを刺すべく、アンネッラの一撃が放たれる。
「今よ」
「ええ。分かってますわ」
トゥルーの声に導かれるように放たれたジ・アビスが、電撃となって打ち据えた。
ここまでで敵の数は3人まで減る。
だが残った敵は精強さをみせ、冒険者達も疲労と傷が蓄積していた。
けれど、冒険者たちは全力を振り絞り続ける。
敵をこの場から逃がすことなく抑え続け、ついには味方の本隊がこの場になだれ込んできた。
「クソがあああっ!」
憎悪の声を上げ、敵リーダーは自分も巻き添えにするほどの威力の魔法を放とうとする。
そこにジーンは恐れず踏み込んだ。
「よそ見してんじゃねぇぞ!」
威力があり過ぎるが故に詠唱に時間が掛かる敵リーダーの魔法が発動される前に、打ち倒すべく走る。
焦りを見せる敵リーダー。
そのまま行けば、ジーンは間に合う。
だがそこで、ルーツの必死な声が上がる。
「マスター! 右から来ます!」
「ちっ!」
舌打ちをしながらも、ルーツの呼び掛けに従い、右から襲い掛かってきた敵の一撃を避け、カウンターを叩き込む。
その猶予で、詠唱を終わらせようとした敵リーダーは笑みを浮かべる。
けれど、コーディアスとアンネッラの2人が、その笑みを撃ち砕いた。
「させない!」
コーディアスの火界咒が敵リーダーの腕を焼く。
「詠唱を終わらせる余裕は与えませんわ!」
アンネッラのジ・アビスが、氷の槍と化し足に突き刺さる。
そして止めを、ジーンが刺した。
「くたばれ!」
踏み込みの勢いも乗せた、渾身の一撃。
勢い良く振り抜かれた斬撃が、敵リーダーを戦闘不能に追い込んだ。
これに、敵の残りは反撃の気力を無くす。
冒険者の働きで、敵は逃亡も出来ず陥落した。
そして疲労困憊な冒険者たちに、救護班が駆け寄り手当てを受ける中、戦いが終わった後の検分が始まった。
○戦い終わり
「てめえらのメンバーに、アイドル服を着た女がいるはずだ。何者か吐け。吐かねえなら今すぐ殺す。吐いてもしょうもねえ内容なら殺す」
戦い終わり、味方の本隊が周囲の見聞をする中、ジーンは神の手の1人を訊問していた。
これに、敵の1人は怯えたように口を紡ぐ。
「喋る気はねぇってのか? なら、死ぬか?」
脅すジーンに、間に入るようにルーツが言う。
「あの、マスターは残忍な事は本気でやる人なので話した方がいいですよ?」
敵であっても気遣うように話すルーツに、ジーンは苦笑するようにため息をつく。
だが、それでも聞き出そうと脅しを掛けるも話さない。
やむを得ず、多少の実力行使に出ようとした時、拘束された敵リーダーが口を開いた。
「大物食い。奴らは自分達をそう呼んでいる」
「……なんだそりゃ?」
訝しげに問い返すジーンに、敵リーダーは続けて言った。
「デーモンのように、明らかに人よりも格上の存在を狩り獲ることを目的の一つとする奴らだ。相手の情報を集め有利な状況を作った上で、統率された集団で狩り獲る。もし戦う気なら、1人で真正面から戦うのは絶対に避けるのだな。奴らの良い餌にしかならんぞ」
「……随分べらべら喋るな。仲間じゃねぇのか?」
罠かと思い聞き返すと、敵リーダーは血走った眼で睨みながら返した。
「ふざけるな! なにが仲間だ! あいつら、逃げおって……あいらが逃げたせいで、私は、私はもうお終いだ……いや、そんなことは良い。それよりも私の研究が、あと少し、あと少しだったのだ! あいつらが、あいつらのせいで、クソ、クソクソクソ……――」
ぶつぶつと、精神に異常をきたしたかのように喋り続ける。
(ダメだな、こりゃ)
これ以上は得られるものはないと判断すると、ジーンは仲間達に視線を向ける。
その先には、アンネッラとコーディアス、そしてセパルが居た。
「危ないことをしてはダメですわ」
少し強い口調で、アンネッラはセパルに言う。皆の盾役でダメージを受けたのを心配するように言っているのだ。
「情報収集に1人で敵地に乗り込んだりもしたそうですし。今も怪我をしていますわ」
並の冒険者ならとっくに死んでそうなダメージを受けながら平然としているセパルは、嬉しそうに笑みを浮かべ返した。
「ありがとう、心配してくれて。でも、大丈夫だよ。デーモンだしね、ボク」
これに何か返そうとしたアンネッラに、セパルは言った。
「ね、役に立った? ボク。そうだったら、嬉しいな」
セパルの言葉に、アンネッラは苦笑するように返した。
「ええ、助かりましたわ。幻覚の能力も、何より一緒に戦えて、頼りになりましたわ」
これにセパルは嬉しそうに返す。
「そっか。良かった」
そこに続けて、コーディアスも礼を言う。
「今回もありがとう。もし、神の手に難儀する事があれば手を貸す。気をつけて」
「ありがとう。一応、その辺は当てがあるから、なんとかしてみるよ」
そう言ってセパルは、周囲に指示をしているウボーに視線を向ける。
同じく視線を向けたコーディアスは、気になっていた事もありウボーの元に。
その間も、アンネッラはセパルと言葉を交わしていた。
「また機会があったら、一緒に行動しませんか?」
「ホントに? うわ、嬉しい。ありがとう」
喜ぶセパルに、胸をなでおろすようにアンネッラは続けて言った。
「色々なことを学びながら、一緒に行動してみたいんですわ」
「うん。その時が、楽しみだよ」
そうして和やかに、言葉を交わしていった。
一方、ウボーの元に近付いたコーディアスは、オーパーツについて懸念を口にした。
「あのオーパーツ、ぶっ壊したいんだけど、無理かな?」
これに、近くに来たジーンも賛同する。
「同感だ。洗脳なんてチャチな事する道具なんてぶっ壊すに限る」
これにウボーは、周囲に聞かれないよう抑えた声で返した。
「破壊するのは、危険だから止めた方が良い。内部に、魔石に相当するものが内蔵されているから、それに汚染される可能性がある。何重にも安全装置は働いているから、よほど破壊しない限りは問題ないとは思うが、万が一ということもある。もし破壊されているオーパーツに関わることがあったなら、スレイブに頼むと良い。スレイブなら、汚染されないから安全だから」
そこまで言うと、更に周囲を確認してから続けて言った。
「もっとも、ある程度知識があれば、機能が働かないよう安全に壊すことは出来るとは思う。今回みたいに、神の手との戦いで偶然、そういうことが起ることもあるしな」
この言葉の意味をコーディアスとジーンが理解するよりも早く、ウボーはイタズラ小僧めいた笑顔を浮かべ続けて言った。
「さっき調べてみたんだが、神の手の攻撃の流れ弾が当たったみたいでな。汚染がないのは確認したが、あの壊れようなら、使い物にはならないだろうさ」
これにコーディアスとジーンは少し間を開けて、小さく笑う。
「それはまた。偶然ってのは怖いな」
ジーンの言葉に、ウボーは肩をすくめるようにして返す。
「まったくだ。ああ、そうそう。そちらに責任が行かないよう、こっちで処理するから安心してくれ」
「大丈夫なの? そっちが責任を取らされるんじゃ?」
コーディアスの言葉に、ウボーは気楽な声で返した。
「慣れてるんで、大丈夫だよ。何とか立ち回るさ。こんなことは、いつものことだからな」
これにコーディアスとジーンは、苦笑した。
そして少し話してから、それぞれスレイブの元に。
「コーディ。痛い所は、ありませんか?」
神の手との戦いで傷付いたコーディアスを、心配するルゥラーン。
これにコーディアスは、温かな笑みを浮かべ返した。
「大丈夫だよ。ありがとう」
やさしく頭を撫でるコーディアスに、ルゥラーンは心地好さげに目を細めた。
そしてジーンに視線を向ければ、救護班から救急道具を借りたルーツが手当てをしようとしている。
「マスター。手当てをしますから、じっとしていて下さいね」
「……好きにしろ」
ため息をつくようにして、手当てをされるジーンだった。
そして皆がそれぞれ戦い後の片付けを終わらせた頃、アンネッラが提案する。
「皆さま、これを受け取っていただけますか?」
「手作りで作ったミサンガよ。受け取ってあげて」
それはトゥルーの言葉通り、ミサンガだった。
一つの流れでの依頼を達成した喜びと一抹の寂しさ。そして今後もまた一緒に行動できることを祈って、贈り物をしたのだ。
それを皆は受け取り、神の手のオーパーツにまつわる冒険は一つの終わりを見せる。
一歩間違えれば大惨事になりかねなかった一連の事件が、こうして幕を引くことが出来たのは、ここまでに関わって来た冒険者達と、今日の決着をつけた3人の活躍のお蔭だった。
神の手は健在で、未だ見ぬ事件も渦巻いているかもしれないが、それでもきっと冒険者たちの活躍により解決されるだろう。
そう思える、依頼の終わりであった。
ちなみに、これらの事件に関わったセパルがその後どうなったかというと、こんな感じである。
「じゃ、約束通り、ごほーびちょうだいね。という訳で、居候よろしく~」
「好きにしろ」
ウボーの元に、ヒューマンの振りをして厄介になっていたのであった。
依頼結果
依頼相談掲示板
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[1] ソルト・ニャン 2018/01/16-00:00
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やっほにゃ~ぁ 挨拶や相談は、ここでお願いにゃ~! みんなふぁいとにゃにゃ~
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[7] コーディアス 2018/01/25-18:30
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了解。ありがとう。 じゃあ今回は魔法組が先に攻撃って事だね。
オーパーツは了解貰えたら壊すってしてある。
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[6] ジーン・ズァエール 2018/01/25-06:28
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OK。それじゃあそっちが先制して、敵が混乱してるところに俺が追撃加える感じにする。それなら巻き込みを気にする必要もねえはずだ
オーパーツの処分か。決めるのはウボー達だろうが、俺も処分する方針には賛成だな
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[5] コーディアス 2018/01/23-21:19
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●僕の行動予定 最初に様子見てリーダーのメイジを把握しときたい。 でアンネッラさんと自分に五行相生。 不意打ちで狙うのはリーダーメイジの予定。 広場に通じる裏口付近に位置して逃げようとする奴攻撃&牽制
な、感じです。 最初奴等固まってるぽいから、初撃でジーンさん巻込まない様に気をつけるよ。
気になるのはオーパーツ。 こんな物騒なもの敵でも味方でもどこの奴らにも所持してて欲しくないからぶっ壊したいけど 暴走とかしたら怖いからな…悩ましい。 一応終わってから、ぶっ壊したい意思表示はしときたい。
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[4] アンネッラ・エレーヒャ 2018/01/21-23:24
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メイジのアンネッラでございます。 すっかりいつもの面子という感じでございますわね。 今回もよろしくお願いいたしますわ。
コーディアス様。ありがとうございます。 特に不都合ございませんので、五行相生よろしくお願いしますわ。
私も遠距離の魔法を何か放とうと思いますわ。 グランドインパクトで地面を揺らすか、ジ・アビスで色んな攻撃をするかは今のところ悩み中ですが、やることはそこまで変えないと思われます。
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[3] ジーン・ズァエール 2018/01/21-21:04
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ウォーリアでヒューマンのジーンだ。よろしくな
今回は残党退治か。面白みはなさそうだが仕事なら仕方ねえ
不意打ちが可能なら、俺は敵が密集してる場所で範囲攻撃を仕掛けようかと思う 一度にぶっ倒す敵が多ければそのあとの処理が楽だからな
その後は逃げてくる奴らを各個撃破したり、機を見てまた範囲攻撃で確実に仕留めていこうかと思ってる
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[2] コーディアス 2018/01/21-01:11
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シャーマンのコーディアスとパートナーのルゥラーンだよ。 今回もよろしく。
セパルのおかげで今回も不意打ちが狙えるんだね、ありがたや。 僕は不意打ち前にアンネッラさんと自分に五行相生を使おうかと考えてる。 効果は、3Rの間物理攻撃下げてその分魔法攻撃上げる。 アンネッラさん、何か不都合あったら言って貰えると嬉しいよ。
攻撃は火界咒でぶっぱするよ。(ドーズ依頼で証拠品燃やしてしまって洞窟みたいな所で使うの若干トラウマだけど(汗) 逃げようとする奴とか想定して、大蛇走らせて牽制とかもできないか試してみるつもり。
今の所こんな感じ。
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