プロローグ
BARという文化
● 白い人たちの黒いお店。
その日、ディナリウムに新たな文化が流入した。
白い人間たちはよほどお酒にこだわりがあるらしく、そのラインナップに複数種類の酒だけでなく、酒と合わせることを前提に作られた食べ物。
お酒の新しい飲み方。
そして、お酒には雰囲気も大事であるとさえ主張して。
彼らは豊かな資金力を駆使してディナリウムの一角にお店を構えたらしい。
それは地下へと続く階段のその先にあり、扉を開くと濃いアルコールの匂いに、それを上回るくらい主張するお香の香りが鼻を突く。
そこはなんとBARと呼ばれるお酒を楽しむだけの、お酒が主役のお店なのである。
細長く空間は広がっており、長机の向こう側には棚。長付の前には椅子。
そこに並んで白い服のバーテンダーと共にお酒を飲むらしい。
ここでは時間が長くなる、酒の味に集中し、時にくだらない冗談で笑いあう。
そんな空間を演出してくれるらしい。
「いらっしゃいませ、今日は何をご所望ですか?」
白い服のバーテンダーが扉を開けた君たちを迎えた。
今日はのんびりと、仕事の疲れを癒すべきだろう。
● ラインナップ
お酒は沢山の種類があります。
ウィッシュ……ハーブから抽出したエキスのリキュールです、度数が高いのでソーダや水で割って飲むのが普通ですが、ショットグラスで何杯飲めるのか、という勝負にも使われます。
ダート……黒く粘液質なお酒で、アルコール度数が80%を越えます。火がつきますが。これは長時間、舐めるように減らしていくためのお酒です、味は意外と甘めで飲みやすいですが、喉が焼けるような印象を受けます。
エール……麦を原材料とした泡立つ金色の飲物です、アルコール度数も低く苦いのですが飲みやすいです。
葡萄酒……赤と白がある、ブドウを原材料とした飲物です。爽やかな甘さが特徴です。
解説
目的
今回は夜の怪しい雰囲気を楽しみながらお酒なんてどうでしょうか。
たとえば罰ゲームありでお酒勝負をしてみたり……まぁスレイブが普通の酒で酔うのか謎ですが。
また、白い服のバーテンダーは、接待ごっこはいかがでしょうかと提案してきます
片方が煌びやかな衣装に身を包み、まるで王でも扱うかのように片方に尽くす遊びです。
安心してください、スレイブに合う服も、皆さんに合う服もございます。
店の奥の更衣室で着替えてきてください。
それ以外にはお酒を片手に談話するのも良いかと思います。
ゲームマスターより
こんにちは、鳴海でございます。
今回はお酒をテーマにした、少しアダルティ―な夜をお届けしようかと思っています、個別描写になるかなぁと思っています。
それではよろしくお願いします。
【陽光】お酒という文明 エピソード情報
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担当 |
鳴海 GM
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相談期間 |
4 日
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ジャンル |
日常
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タイプ |
ショート
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出発日 |
2018/1/10
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難易度 |
とても簡単
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報酬 |
なし
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公開日 |
2018/1/20 |
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シェーズとトナリテ、二人で……新しい文化(お酒の楽しみ方?)を愉しみに来た……感じで。
シェーズは、カシューナッツやアーモンド、マカダミアナッツや剥きクルミ……といった感じの、木の実系のオツマミに、甘いロゼワインを愉しむ 感じで。トナリテの注文はお任せします(しっかりと、オツマミもお酒も愉しむ感じで)。
BARの雰囲気に……ちょっとだけアダルティに、語らい合うのも良いかも知れませんね。
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参加者一覧
リザルト
カランとベルが鳴る、ドアに取り付けられた銀色のそれ。
重たい鈴は鋼鉄製で、響けば遠くまで低い音を響かせる。
店内はその音が流れただけでも少ししゃんと空気が現れ、店長と店員が同時に店の出入り口に視線を移す。
そんな軽快な音と共に冷たい外気がすうっと入ってきた。外は冬。そして夜。冷え切った外気は太陽の熱など忘れてしまったようにとげとげしく。来客を蝕んでいたのだろう、その心情を少しだけ察して『トリスタン』と『サファイア』は振り返った。
見ればそこには自分たちと同じ、スレイブ連れの男が立っているではないか。
その男は分厚い外套を纏い、寒さに少し足踏みすると冷気を払うように外套のボタンをはずしていった。
白く豊かな髪をフードに包み、左右で違う眼光を店内に走らせる。
寒さで少し表情がこわばっているのか無表情だ。しかし頬は赤く染まっていて少し居たそうなくらいである。
白い肌を寒さで赤く染めた『Shades=Dawn』は両手をもみながら入店してきた。
外は風が強かったのだろう。彼の街頭で風よけをしていたスレイブがひょっこり顔を出すと寒さに耐えかねて、うううっと両手に息を吹きかける。
そのローブの影に隠れているのは『tonalite=douceur』。スレイブにも寒さはわかる、かじかんだ手をこすりながら店員が示す奥の席へと二人は並んで入って行った。
柔らかい赤のソファーは頼りないオレンジの明りを受け怪しく煌き。すべらかなテーブルはとても重そうだ。
重厚な雰囲気を醸し出す席はすこしソワソワとしてしまうのだけれど。
普段は感じられないソファーの温もりに抱かれると少しだけリラックスしてしまった。
そんな店内を見渡すShades。
店内はやや寒い。自分たちが温度を下げてしまったというのもあるが、防寒対策はされていないのだろう。
かろうじて火が焚かれているので温かくはあった。
揺らめく炎。その向こうに排気口が見えるので一酸化炭素中毒にはならずに済みそうだ。
そうあたりを見渡すとtonaliteの隣に店員が立つ。ゆっくりと店員を見あげるtonaliteだったがその手にぶら下がる何かの毛皮を見て感謝の言葉を口にした。
店員がひざ掛けを持ってきてくれたのだ。小柄なスレイブには少し大きめのサイズだったが大は小を兼ねるという。
ありがたくtonaliteは受け取ると体にかけた。そして毛皮をかけると同時にtonaliteはShadesに寄りかかったのだった。
しばし二人の間に沈黙が流れる。
そのあいだ聞こえるのは店員が氷を砕く音だけである。丸く氷を削る店員の所作が気になりShadesは少し眺めてしまうが、すぐにShadesは現実に引き戻された。
もぞもぞと動くtonalite。その感触で現実に帰り、ふとtonaliteをShadesは見下ろした。
この行動は、温もりを求めての行動か、それともこの場の雰囲気にやれたか。
その判断がつかないShades。
まぁ雰囲気にやられてしまったとしてもおかしくはないのだろう。
なんといってもここはBARである。夜の社交場、ディナリウムにはなかった、酒と雰囲気を楽しみ時の流れる速度を遅くする唯一の方法。
ここで過ごした時間は穏やかでしかし、金に勝る価値を持つだろう。
特に大切な人と過ごす一時であれば。
お酒を楽しむ文化。Shadesは巷で流れているその噂を聞きつけるとさっそくこの場を訪れた。
異文化の流入によって多様化していく街並みを横目に、少し迷いながらも寒空の下看板を探してここに至る。
入るなり慣れないアルコール香りと甘いお香の香り。そして樽の中味に顔を突っ込んだようなピート臭がじわじわと感じられ、なれない気分にさせられる。
ただそれも、差し出された水を受け取り、メニューを眺めている間に慣れてしまった。
メニューは一枚の紙に書き切れるほどの量しかなかったが目新しさからか目が滑る。
茶色い紙、その上には見慣れない何らかの名前が並ぶがそれが全て酒。の名前なのだろう。
ほとんどはピンとこない酒だったが、聞いたところによると、ここではないどこか異国ではメジャーなんだとか。
そんな帝都の外、海を越えた先を思った。いつか海の向こうにも行くことがあるのだろうか。そう……感がる。
娯楽に恵まれたそんな国々を思いながらShadesはナッツを頼んだ。
短く、硬派なマスターが返事をすると店員が皿を用意する。そしてテーブルを離れグラスとボトルを持ってShadesのテーブル、その隣に立つ。
そして置かれるワイングラス。
ボトルは見慣れないラベルが張られていた。言葉も読めない。ただそのガラス瓶と中に注がれている液体が奥におかれたランタンの光を受け輝くと、なんだか不思議な気持ちになってくる。
グラスに指を沿える定員。
注がれるのは赤と白ワインを混ぜ合わせたロゼ。薄いピンク色と発酵途中であることを示す気泡は見た目にも輝かしく。
Shadesがグラスを傾けるとふわりと香りが漂った。
一口さっそく口に含む。恐る恐る、舌先で味わう冷たい飲み物は、飲み下してみると口当たりはなめらかでスッと喉の奥まで運ばれる。
舌先に感じる酸味と。はじけるような味わいはなんだろうか。
Shadesは飲んだことのない品種だと見抜き思案を巡らせる。
興味深くて、もう一口……口に含んでしまう。
そんなお酒に夢中なShadesを見て少しすねた調子のtonalite。Shadesはそのtonaliteの様子のおかしさに気が付いていたが、理由が分からなかった。スレイブは酔わないはずだ。少なくとも普通の酒では。では雰囲気に酔っているのか、なんなのか……それとも。
考えるもtonaliteの心情を察することができず、判断できなかったのでいつもと同じ接し方をすることにした。
そんなtonaliteがとある音をきっかけに、体を起こしカウンターの向こうを眺めた。
店長が銀色の筒を振るっている。あれはシェイカーと呼び、お酒を混ぜているのだと説明してくれた。
リズミカルにシャカシャカとシェイカーを振る様は面白かったのだろう、視線をずっと注いでいた。
そんなtonaliteの前に差し出されたのが赤みが鮮烈なカクテル。
逆三角形のグラスに注がれた真っ赤な液体は甘い香りを醸し出している。
グラスのふちにチェリーをとめ。差し出されたカクテルをドリームナイトという。
果物リキュールを中心に混ぜ合わせた甘い甘いカクテルだった。お任せで頼んだのだが、こんな物が出てくるとはとtonaliteは思う。
それにゆっくりtonaliteは口をつけた。
「すごく、よい香り」
しかしアルコールの味になれないのか、一気に飲み干すことはできない様だ。
クラスを両手で持って揺らしながらShadesにもたれかかるtonalite。
この穏やかな時間の中tonaliteの鼓動は早鐘のように高鳴っていた。
なぜ、何故だろう。
それは分からない。思案する前に運ばれてきたのがカシューナッツだ。
そのほとんどを油分で構成された種子。その濃厚な味わいはShadesも好むところだった。
塩で味付けされたそれを口の中に運んでかみ砕く、思いのほか柔らかいそれは刃の上を滑らせるだけでぽろぽろとこぼれた。次いで濃厚な味わいを口内が満たす。
それをShadesは一粒、一粒大切に、味わいながら食べる。
そんなまめに夢中のShadesにtonaliteがしなだれかかってきた。
「すこし、ねむくなってきました」
そう緩やかに体制を崩すtonalite、その様子をShadesはアーモンドを弄びながら眺め。横になるように告げた。
最近忙しかった、疲れがたまっているのだろう。その気持ちはよくわかる。
Shadesの膝を枕にtonaliteは横になると。嬉しそうに頬を赤らめtonaliteは小さく笑った。
そんなtonaliteの髪をすくい上げるように撫でるとShadesは次は何を飲みたいか尋ねる。
グラスが空だったのだ。
「果物のお酒を……」
そうけだるげに告げるtonalite。
擦れぬ布の音が妙にはっきり聞こえ。髪が胸の上を流れる。肌に血色が戻ってきて逆に赤いくらいだ、オレンジ色の光が肌の質感を健康的にして、扇情的。
横たわる少女の体に衣装が張り付いて、そのボディーラインがはっきりわかる。
そんなtonaliteを眺めてShadesは思う、まさか本当に酔ってしまったのか。そう思ったShadesであったがスレイブが酔うはずは絶対にないと思い直しアーモンドを口に運ぶ。
そのひし形のナッツは先ほどの豆よりやや硬めだ。
炒ってあり香ばしくもあり、かみ砕くと豆特有の油の香りが鼻へと上がってくる。
アーモンドはバラ科の花だそうだ。
アーモンドの花言葉は希望、真心の愛。永久の優しさ。
Shadesはtonaliteにアーモンドを一粒与える。美味しいと言ってアーモンドをかみ砕く彼女をShadesは愛おしく思った。
そしてアーモンドの花言葉の話をする。
Shadesは誰かから聞いたのはその話、唐突に思い出したその話を語って聞かせる。
アーモンドは桜の仲間でもある、それは春には綺麗な花をつけるらしい。そう言葉をかける。
この寒い冬を越したなら、二人で桜を見に行こう。
そうShadesがつげるとtonaliteが笑う。
そしてShadesはアーモンドの香ばしさを堪能すると追加のドリンクを頼んだ。
ロゼにも種類があるらしい。
ブドウがそもそも違うとか。南でとれるブドウは果実味が豊かだ。北でとれるブドウは渋いがすっきりした味わいがある。西でとれるブドウは香りがいい。
東出とれるブドウは……。
そう説明されてShadesは東の、今は滅んでしまった村でとれたワインをグラスに注いでもらう。
このナッツの苦みを流し去るのに最適な、すっきりとした味わいのワインだった。
そしてまたナッツを口に運び。すぐさまグラスにつがれたピンク色の液体にまた口をつける。それを繰り返す。
今度は甘い味わいがした。ただ店主が言うように確かに口の中に残らずスッと味が消えるのだ。残るのはブドウの果実味豊かな香りだけ。鼻の奥に抜ける香りを楽しんだ。
そんななんでもないひと時も気が付けば一時間以上過ぎている。
Shadesもtonaliteも余分な言葉は交わさない。
ただ、二人は時を重ねていく。最近は忙しかった、一緒にいる時間もなかった。
一緒の時を重ねていたとしても、目的に向かって走っている時、それは二人でいるのではなく同体でいるのだ。
お互いがいるという感覚を共有できなかった。
解け合って、自分たちがそこにいる。
彼女が自分で自分が彼女。
その感覚もまた、甘く……時に高揚する者だろうが。
この二人で寄り添っている温もりを忘れたくはなかった。
Shadesはおもうtonaliteはなんて温かいのだろう。
tonaliteはおもう。Shadesはいつもより暖かい。
アルコールが回れば血の巡りがよくなる。
高鳴る心臓の音をtonaliteは太もも越しにきいている。
その血管の先にある心臓が。脈打つたびに、Shadesは何事かを思い。そして自分の頭を撫でてくれるのだろう。
tonaliteは今Shadesがなにを考えているのか、とても気になった、話して聞かせてほしくなった。
取り留めもない話を二人はするのだろう。
何気ない話で、明日には何を話したのか忘れてしまうだろう。
けど、楽しかったことだけはずっと覚えていくのだ。そう思えた。
Shadesはまだ木の実の殻を割っている。クルミとマカダミアナッツ。
マカダミアナッツはヤマモガシ科の植物である。
双子葉植物で多数の種類が存在するが、マカダミアナッツとして食べられるのは限られた数種類のみ。
白く鈴なりの花を咲かせ、花言葉は希望である。
その小さなコロッとした豆を口の中で躍らせるShades。
それとはまた別の味わいを持つクルミにShadesは手をかけた。
クルミは本来頑強な空に包まれており、なかなか食すことはできない。
だが、ここの店では向いてくれているので、あとは口に放り込むだけだ。
他の豆と違って甘みが強い。
サイズも大きい。
口の中にじゅわっとひろがるうまみと油。
それをワインで押し流す時Shadesはこの上ない幸福を味わった。口の中でぽろぽろとこぼれる乾燥した実が、唾液を吸うたびに甘みを増し、香りも豊かになる。
tonaliteはそれだけでお腹がすかないのかとShadesを見あげる。
実際どうなのかは分からないが彼は口元に覗く鋭い牙から想像できないほど温厚で、果食主義者で有る故。
他のメニューが食べられないという事情もある。
それが主義主張なのか。それとも体質ゆえなのだろうが。それはShadesのみが知るというところだろう。
そんなShadesだったが皿の上のナッツを食べ尽くすと温まった体をゆったり持ち上げてtonaliteを揺すった。
店員を呼ぶとお金を渡し。外套を纏う。
そして二人は入店してきたときと同じようにベルを鳴らして寒空の下に出て行った。
自宅を目指して歩き出す、空には星が見えた。
その星の明りに導かれながら二人は並んで歩いていく。
依頼結果