プロローグ
時はセイントクロスの一団がディナリウムへ訪れる少し前に遡る……。
スノーフォレスト。
それは帝都ディナリウムに属する中でも最北に存在する極寒都市。
雪吹きすさぶ氷河の上に成り立つこの都市は、一年中冬の厳しさを教えてくれる。
そんなディナリウム北の玄関口に、彼らはやって来たのであった。
「いやはや、中々の寒さでありますな」
「ですな~。だがそれが逆に心地よくも感じまする」
「はっはっはっ。お2人とも、すっかり商隊(キャラバン)慣れされとりますのう」
珍妙な口調で会話をする3人。他にも4人の男を交えた7人の集団は、立派な角が生えた生物達に大きめの荷車を数台引かせながら雪の中を進む。
全身白い衣を身に纏いこれまた白い口ひげを生やしたその集団は、これからやって来る仲間の為にこの荷物を運んでいた。
「しかし、ディナリウムでしたかな? この都にも我らの文化が受け入れられれば世界はより面白くなろうというもの。期待に胸が膨らみますなー」
「いやはや油断は禁物。我らの働きにこれから訪れる聖なる日の活気がかかっておるのでござりまするぞ。『クリスマス』を伝え酒池肉林の誓願を叶えるためにも、この品々を確実に届けて警戒を緩めて頂かねばならぬのです!」
一行の中でも特に真面目そうな男性がそう語気を強める。
遠く旅をしてこの地に辿り着いた彼ら。どうやらその目的は荷車に積んだ品々をディナリウムに届ける事の様であった。
ちらちらと、雪避けの布から垣間見えるそれらは、未だディナリウムの人々が目にした事の無いような物ばかり。
もしも彼らがディナリウムに辿り着いたのであれば、都市の商人はこぞって彼等との取引を始めるに違いない。
そんな商隊一行の様子を魔石の力を用いて遠くから伺っていた男は、口元に手を当てると小さく頷く。
「……なるほど。確かにこれは憂慮すべき事態やも知れませんね、リゴレット様」
その男は銀色のローブを纏っており、彼の後ろに付き従う数人も同様の恰好の為、この景色にその姿は紛れてしまっている。
男が合図をすると、部下らしき数人は遠くにいる散開する。
他の仲間が移動するのを待つ間、男はローブに忍ばせた銀の短剣を両手に装備する。
「この国は我らが神の物……アルゴー様の聖域計画が失敗してしまった以上、汚らわしき呪具など、この『神の手』が自ら振り払ってしまいましょう」
不気味な呟きを残し、部下から暫し遅れてその男も商隊一行に向かって走り出していった……。
こうして白と銀の一団が交わろうとする頃、スノーフォレストにて依頼を受けていた冒険者達は目的を果たすため雪原を彷徨っていた。
その目的とは『先程ディナリウム領域外を通過した謎の一団を調べてほしい』という依頼をこなす事であった。
果たして貴方達冒険者は、この依頼の先に何を見つけるのであろうか……
※今回のエピソードは大規模作戦に関連した事前連動になります。
皆様の活躍や行動で、大規模作戦での設定や今後の物語に変化が生まれます!
そんな世界の変わる瞬間を宜しければ体験してみて下さいませ。
解説
今回の依頼内容は前述の通り「謎の一団の調査」となります。
今回は難易度簡単のため、各種ヒント増し増しでお送りしますので、お気軽に参加くださいませ!
■依頼成功へのポイント
A:謎の一団の早期発見
皆様は雪原を彷徨いながら、一団を探すところから始まります。
現在天候は悪く(猛吹雪とはいかないまでも、足元には雪の積もった吹雪をご想定下さい)、白い服や銀色の服は単純な目視での発見が困難です。
人探しが得意な方がいれば良いですが、そうでなければ何か工夫が必要でしょう。
「相手を」見つけるだけが捜索ではありません。
少々危険も伴いますが、相手から見つけてもらう事も良いでしょう。
B:一団と遭遇したら?
依頼された一団は「帝国領域外からの」侵入者です。
敵意があるかどうかは会ってみれば分かると思います(各一団の内情はPL情報ですので最初から無警戒に接近するのは少々危険かと思います)。
一団と遭遇した際にPCはどう考え、どう行動するかは想定しておくと良いかもしれません。
C:不穏な気配
この雪の中を彷徨っているのは皆様だけではありません。
魔物が出るかも知れませんし、他に動いている一団に出会う可能性もあります。
その辺りは皆様のプランで出てくるものが変化致します。
もし他の一団に遭遇する場合には、HP・MPの残量や、装備品の予備を用意しておく等、身の回りの物は替えが利くようにする事をお勧め致します(装備品が喪失されることはありませんのでご安心を)!
D:その他
皆様のアイデアで物語は大きく変化します!
「一団の運んでいる荷物はどんな物か」、「荷車を引いている生物達は何か」、「散開したある部隊はその後どのような行動を取るのか」など、この辺りはGM側として最低限の想定はしているものの、皆様のアイデア次第で色々味付けが出来る部分です。
文字数の許す範囲でご想像頂ければ、その分貴方らしい描写を深める事が出来ると思います!
ゲームマスターより
初めまして、又はいつも大変お世話になっております。こちらでは久しぶりとなりますGMのパンクです!
エピソード通常始動後、カタストでは初めてのOPとなります!
個人的にはあまりガチガチにエピソードの内情を話すと、リザルトが上手くクリアする事が先行しがちになる事もありますので得意ではないのですが、久々という事もありますので皆様が参加しやすいようにご用意したつもりです。
各種連動エピソードはその結果が良い方向にはどんどん反映されていきますので、是非「自分らしく、他のPL様と仲良く」をモットーに、楽しんで頂ければ幸いに思います!
それでは、皆様とリザルトにてお会いできますことを楽しみにしております!
【陽光】神様の落とし物 エピソード情報
|
担当 |
pnkjynp GM
|
相談期間 |
5 日
|
ジャンル |
戦闘
|
タイプ |
ショート
|
出発日 |
2018/1/2 0
|
難易度 |
簡単
|
報酬 |
通常
|
公開日 |
2018/1/12 |
|
|
謎団体はスノーフォレストに寄ると予想し目撃地点からのルートを予測 そのルートを進めば遭遇するかな アンネッラさんの炎後にカンテラをチカチカさせて人がいるアピール
謎団体と遭遇したら まずこちらの身分とギルドから調査依頼されてる事伝えたい 危険じゃないと証明できなければ進ませる訳にいかない 身分、何処へ行くのか、目的を聞きたい 了解を取り荷物検め 不審物の無い商隊と分れば同行するか(行先スノフォレなら僕等も帰るし
その他遭遇が何でも 敵意剥き出しなら急急如律令で電撃牽制して仲間と退治したい そうでもないなら火界咒で驚かし追い払う
神の手なら 謎団体に危害加えるなら守る位置で撃退(急急如律令使用 何が目的だ 逃走は追わない
|
|
|
|
謎の一団の調査ですか…それにしても動きにくいですわね 自分の動きにくさを解消しつつ、見つかりにくい格好で行動します
探すのは得意ではないのでジ・アビスの炎で上に向かって打ち上げます その後はすぐに移動して、隠れて、戦闘準備を 戦闘にならないことが一番ですが、小人数ですので対策だけは万全に 殺意の無い方は守る方針
戦闘 対象が複数いますので、グランドインパクトをメインに攻撃ですね ナイフを忍ばせ、近寄られた場合にはすぐに使います 死角はトゥルーに任せて
人数が減ってきたり、仲間の冒険者の方がいましたら、ジ・アビスに移行 属性は目立たぬよう氷に
音で他に何か集まったら、位置取りに気を付け、相手の反応で対応により変化
|
|
参加者一覧
リザルト
●雪原に華が咲けば
ディナリウムの領域内へ侵入した謎の一団を調査する依頼を受け、スノーフォレストの雪原を渡り歩く冒険者達。
その寒さを乗り切るためには、環境への適応か相応の対策が必要である。
そんな状況において、ディナリウム東方の街、カストル出身である【コ―ディアス】が選んだのは後者であったのだが……
「流石スノーフォレスト。想像以上の気候だね」
彼の来ている防寒着はある程度動きやすさを考慮した事もあり、この土地に少々寒さを感じてしまっていた。
そんな主人を、彼のスレイブである【ルゥラーン】が心配そうに覗き込む。
「大丈夫ですかコーディー? やはりここは私の服をいくつか貴方に……」
「いいんだよルゥ。君が風邪を引いてしまわない事が一番大事。それに僕は……ほら」
彼はそう言うとつないでいた彼女の手を引き、その体と自分の体をくっつけさせる。
「こうしてルゥの体温で温めてもらう事も出来るしね」
「ちょ、こ、これは確かに、そう、ですけども……!」
「こらルゥ。今は仕事中だぞ」
思わぬ接近に顔の紅潮を隠し切れないルゥを見て、注意するコーディアスであったが、彼もまた彼女同様に笑顔を浮かべていた。
「ふふっ。相変わらず、お2人は仲がよろしいのですね」
目の前の仲睦まじい姿に【アンネッラ・エレーヒャ】は、思わず微笑んでしまう。
基本的には人見知りの傾向が出やすい彼女も、今回の舞台が出身地であるスノーフォレストである事や、これまでにコ―ディアス達と別の依頼で面識があった事があり、リラックス出来ているようであった。
「そろそろアンネにも温め合える相手が出来ると良いのだけれど……」
「私は大丈夫ですわ【トゥルー】。防寒対策は完璧ですし、いざとなれば炎の魔法で暖を用意できますもの!」
着こんだ服を見せつけるように胸を張る主人を見て、保護者役でもあるトゥルーはあらあらと右手を頬に添える。どうやらアンネッラに春の訪れがやってくるのはまだ先になりそうだ。
「それにしても雪の勢いが少しずつ強くなってるみたいだね。このまま捜索に時間がかかるのはヤバそうだ」
「そうですわね。【たくみ】様からお借りしたこのかんじきや防寒具も簡易的な物。何か手を打ちませんと」
コーデイアスの意見にアンネッラも同意する。
なぜならばスノーフォレストはディナリウムから普通に旅をすれば一か月程度かかるくらいの距離があり、二都市間の中でも特にスノーフォレスト寄りのこの辺りでは、雪の影響でこうした補給が乏しい状況になるのが当たり前だからだ。
そのため通常は、馬などに沢山の荷を引かせ、適宜休息を取りつつ行動すべきなのだが、依頼を受け急遽出発する事になった冒険者達にはそれは叶わない。
そんな状況でも彼らが捜索を行えるのは、冒険者であるたくみとそのスレイブである【クローバー】の助力があったからである。
雑貨店で生まれ育ったたくみは、依頼を受けると、背中に背負ったバックから様々な小物を取り出し、それらを組み合わせかんじきを始めとした雪原捜索に必要な小物を作り上げた。
そちらに熱中するあまり体力を使い果たし、たくみはスノーフォレストの宿で休む事となってしまったためこの場には居ないものの、彼女も今回の依頼にしっかり貢献していた。
しかし道具は使い込めば脆くなるもの。しかも突貫工事で制作されている事もあって、この環境ではいつまで持つかは分からない。
そのため一行は少しでも早く一団を見つける為の方法を考えることにした。
「ん~……ああ。それなら、このまま探し回るよりも相手に見つけてもらった方が早いんじゃないかしら?」
「そうですね。このまま動き回っても消耗してしまいそうです」
トゥルーは考え込みつつ頬に当てていたが、手を顔から離すと、人差し指をたてて思いついた意見を述べる。それに賛成する様にルゥラーンも頷く。
「じゃあそうするとして、手持ちの物で遠くに合図出来そうといったら……これくらいかな?」
コ―ディアスは持っていたランタンを軽く振って見せる。
魔力を込めて中の光を調整するタイプであったため、チカチカと明滅させる事で合図をしようというアイデアだ。
「だけどこれじゃあちょっとアピールするには弱いか。もっと目立つ何かで一旦視線をこっちに向けないと」
「そういうことでしたら、私に考えがありますわ!」
アンネッラは持っていた杖を握りしめると、魔力を込める。
「【ジ・アビス】!」
彼女が呪文を唱えると、地面に展開させた魔法陣から赤い球体と白い球体が出現した。
本来は7つの球体が出現するはずのこの呪文であったが、今回はどの呪文を使うかアンネッラが決めかねていた事や、魔法陣を展開する時間が短かった事からこの2つのみが出現したが、彼女のアイデアを実現させるにはこの炎の力が出現すれば十分だ。
「咲きなさい! 紅蓮の華よ!」
彼女が杖を空へ突き上げると、2つの魔力の球は飛び上がり高みで1つとなる。その瞬間、ジ・アビスが発動しまるで花火のような爆発を起こした。
「おおっ! 確かにこれなら目立つし、雪に音が吸収されるのも少なくなるね!」
「ありがとうございます。ですが、もしかしたらこれで魔物か何かが寄ってきてしまうかも知れませんわ。こんな状況ですし魔力も温存しませんと……」
「分かってるさ。後は4人で分担してランタンで合図を出そう。いつでも戦えるようにしつつ、ね」
コ―ディアスの言葉に従い、4人は背中合わせになるようにして東西南北全てにランタンで合図を出し花火に気づくものの接近を待つこととした。
~~~~~
アンネッラの魔法が空に咲いた頃、それに気づいた一団があった。
「ん?! なんですかあれは!?」
「……花火、でしょうかね~? いやはや、このような場所で見られるとは!」
「どうやら祭りが待ちきれぬ者もいるようですな。これならばクリスマスも盛り上がる事間違いなしですのう」
「何を言っているのでおりますか! もしや救難信号の一種やも知れませぬぞ!」
「ほう! その考えはありませんでしたな!」
「むむっ、であればここでそれを助けて恩を売れば……?」
「ディナリウムとの交易も有利に運ぶというもの!」
「素晴らしい!! 早速救援に行きましょうぞっ!」
一団の男達は話し合いの末、予定していた進路を変え身に纏った白いローブをはためかせながら花火の上がった方向へと歩を進める。
~~~
「ちっ、面倒な……! 前を抑える先行組は花火の方向へ移動、原因を突き止め排除せよ。他の者は包囲予定地点を花火の打ちあがった場所へと変更する」
その様子を見ていた銀色のローブの男は、握りしめた魔石に魔力を込め、同じ魔石を持つ仲間達へ指示を送る。
本来の予定通り事が運べば、もう少しで包囲網にかかっていたはずであったのに、その作戦が潰されてしまい苛立ちを隠せないでいた。
「あれは恐らく魔法。であれば冒険者か……丁度良い。リゴレット様の屈辱を、ここで晴らしてやろう!」
そして指示を出した男もまた、勢いよく雪原を走り始めた。
●悪魔の片鱗
「これでしたら遠くまで音や光が届くと思ったのですが……失敗でしたでしょうか?」
「どうかな。でもまだ決めるのは早いと思うよ?」
不安を口にするアンネッラを励ますようにコ―ディアスは背中越しに語り掛ける。
「踊りはね、色々と大切な部分があるんだけど、一番の基本は動きに流れを作る事なんだ。緩急をつけるって言えば良いのかな? 時には激しく燃える火花の様に。時には静かに降り積もる雪の様に……勿論、この足元に広がる氷のようにじっと動きを止めなきゃいけない時もある。何事も簡単に例えられるものじゃないけど、僕は世の出来事も同じだと思うんだよ。僕達が踏んだステップは、必ず次のシークエンスへと繋がってる」
元軍人の現酒場ダンサー。その移植の経歴からか、はたまた冒険者として積み重ねてきた経験からか。
コ―ディアスはアンネッラの行動が次への布石となった事を確信していた。
次のステップが何かを思案しつつ、彼はランタンを光らせながらただじっと辺りに意識を集中する。
一分、三分……刻々と進む時の中で、舞落ちる雪の中に一瞬の不自然な揺らめきを見つけた。
「……きたっ!」
彼は他のメンバーにも警戒を促すと、装備していた薙刀を身構える。
すると、注視していた方向から銀色のナイフが飛んできたのが視界に入る。
「ルゥ!」
注意を払っていたおかげでコ―ディアスはルゥラーンに向けて投げられたそれを上手く払いのける。
「ありがとうございます、コーディー!」
「どういたしまして! それじゃ、一気にいく!」
「はい!」
コ―ディアスはジョブレゾナンスを発動させると、ルゥラーンを薙刀に同化させる。
同化したルゥ―ラーンの姿は武器に溶け込み、武器を介して彼との意思疎通は通常のそれを遥かに超える正確性と速さが生まれる。
「ルゥ、ナイフを払ってくれ!」
コ―ディアスはナイフの飛んできた方向へ走り出すと、小声で呪文のような言葉を唱えだす。
詠唱に集中している間も、彼の視覚情報を受け取ったルゥラーンが、己の身体を動かすかの様に武器を動かし攻撃を弾く。
「トゥルー、私達はコ―ディアス様のサポートを致しますわ!」
「分かったわ」
彼の背中を守るようにアンネッラとトゥルーがカバーに入る。
全員のサポートを受け無事にまじないを唱え終わったコ―ディアスは、風景に溶け込んでいた銀色のローブの男を見つけ出した。
「銀色のローブ、噂の【神の手】ってやつか。何をしに来たかは知らないけど、アンタらが相手なら遠慮は要らないだろ……! 【火界咒(かかいしゅ)】っ!」
「グオオオッァァ!!」
その言葉に呼応するように、彼の薙刀から魔力によって生み出させた炎の大蛇が出現する。
薙刀を振るう動きに合わせて力強くうねる大蛇の軌跡からは咄嗟に逃れる事が出来ず、ローブの男は直撃を受け炎に包まれた。
「よし!」
「まだですわ!」
1人を倒したコ―ディアスだったが、その背後ではアンネッラが魔法で飛んでくるナイフを弾く。
敵も気づかれたからか隠れる事を止めかなり接近してきており、その姿は目視でも充分確認できた。
「まだ1人いたのか! それならばこのまま! はあああっ!」
コ―ディアスが反転し力強く薙刀を振り上げると、大蛇もまたその身で雪を溶かしながら後方の神の手へと迫る。
それを見た男はローブの中へ手を入れると、なんと敢えて大蛇に向かって突進を始めた。
「もらった!!!」
勝利を確信するコ―ディアス。しかし、彼の予想は裏切れることとなった。
「……【キャプチャー】」
何かを小さく呟いた男は、ローブから大きなサイズの魔石を取り出すと、大蛇を受け止めるように魔石を突き出す。
するとあろうことか、大蛇はうなり声を上げながら少しずつ魔石に吸収されていくではないか。
大蛇を取り込むほど、魔石はその淡い山吹の色の光沢をより鮮やかな橙色へと変化させていき、全てを吸収すると強い輝きを放った。
「ふっ……己の力に灼かれるが良い……! 【火界咒(かかいしゅ)】!」
「グオオオオッ!」
「なっ!? 不動明王の真言も無しに?!」
驚くコ―ディアスの目の前で神の手が持つ魔石はまるで鏡の様に、自身が受けた輝きを跳ね返す。
一行の目の前には、先程まで頼りにしていた紅蓮の大蛇が牙をむいていた。
「コ―ディアス様! とにかくあれを止めませんと!」
「っ……! 分かった! 【急急如律令(きゅうきゅうにょりつりょう)】!」
アンネッラの言葉に立ち直ったコ―ディアスは、呪符に魔力を込めて投擲する。敵を退散させる意が込められたそれは大蛇に電撃を与えるがそれだけでは進行を鈍らせる事しか出来なかった。
「まずい、このままじゃ!」
「いえ、充分ですわ!」
トゥルーと共にずっと魔力を高めていたアンネッラにはあと少しの時間が足りなかった。
だがコ―ディアスの行動がそのシークエンスをつなげて見せる。
「【ジ・アビス】! 大蛇よ、その身は凍てつき無へと返らん!」
呪文を唱えると、彼女の周囲には七色の球体が出現し、そのうち特大の青き球体と白き球体は大蛇へと飛んでいくと、1つとなって辺りを一気に凍らせる。
大蛇の熱で溶けた水蒸気も相まって、氷に包まれた大蛇は固まり、そして砕け散った。
「まだですわ!」
そして続けざまに緑色の球体が神の手に放たれる。
風の力を宿したその魔法を、防ごうと魔石を構える男だったが、先程コ―ディアスの魔法を吸収したその魔石は、大蛇同様砕け散っていた。
こうして防ぐ手立てを失った男もまた、アンネッラの魔法によって遥か彼方へ吹き飛ばされていった。
「終わった、かな……」
「……そのようですわね」
周囲を確認する一行。どうやらこの付近にはもう神の手は居ないようだ。
「先程のあれは何だったのでしょうか……。私達の攻撃が跳ね返されるなんて……」
ジョブレゾナンスが解かれ、姿の戻ったルゥラーンが疑問を投げかける。
「何かあの魔石に特殊な力があったんだろうか? 直接手に持っていたし」
「それは半分正解、だと思うわ。以前仲間の冒険者が神の手の人間に襲われた事があったけど、その時は私達がディナリウムで配布された魔石で、同じように武器をコピーされて奪われたんだもの」
コ―ディアスとトゥルーもそれぞれ意見を口にする。
「魔石はまだまだ未知の物。私達の知らない使い方があるのかも知れませんわね……」
アンネッラが考え込むように口元に手を当てる。
未知なる力に不安を感じた一行であったが、そこにやってきた白のローブを纏う集団のために、それ以上この事について考えることが出来なかった。
●来訪者の到来
それから少しの時が流れて。
一行は雪原にて遭遇した【セイントクロス】と名乗る一団と共に、スノーフォレストへと戻ってきた。
本来は荷物などを改めたりするべきではあるのだが、未だ他の神の手がうろついている可能性がある事や、一団の男があのドラゴンはすごかったですのう! どういうマジックなのか是非ご教授頂きたい! 等と、敵意の欠片も感じられなかったことから、2人は迅速に町へ戻って安全を確保するべきだと考えたのである。
「それで? ディナリウムに何しに来たんだっけ?」
「ですから、交易と今後の友好を深めたいと思ったのでござる!」
コ―ディアスの言葉にそう返答するセイントクロスのメンバー。
後から分かった話だが、今回やってきたメンバーは先遣隊で、かなり訛りの強いクセのあるメンバーで構成されていたそうだ。
彼らにすすめられ、赤い鼻をした角のある生物が引いていた荷物を確認する。
「まぁ、素敵……♪」
ルゥラーンはディナリウムでは見た事の無い宝石で作られた装飾品を手に取ると、感嘆の声を上げる。
そしてそれらをコ―ディアスの身体に合わせては戻し、を繰り返す。
「ルゥ?」
「待ってくださいコーディ。今貴方を最も美しくする組み合わせを見つけますから……すみません、この宝石にはどのような意味が込められているのでしょうか?」
まるで着せ替え人形のように、様々な装飾品を試されるコ―ディアス。
目まぐるしいそれに少々疲れを感じる彼だったが、ダンサーという職業柄そういったものに興味が無い訳ではないし、何よりも珍しいほどに目を輝かせるパートナーの姿は見飽きるものではなかった。
一方、アンネッラ達も見た事の無い装備品に驚きを隠せなかった。
「これは……真っ赤な服に白いファー、なのでしょうか?」
「ああ、それはサンタという我が国で逸話のある人物を模した服でのう。サンタとはクリスマスという日に楽しい時間を届けてくれるありがた~い存在。それになれるとは最高とは思わぬか?」
「確かにそうですが……」
「ほら、アンネ。良いんじゃないこの服。何だか明るい色に惹かれて楽しい気分になるわね」
「トゥトゥ、トゥルー!?」
アンネッラの目の前にはいつの間にか【サンタドレス】に着替えたトゥルーの姿が。
出るところがはっきり出ている彼女の姿は、世の男性には過激すぎるかも知れないと感じるほどであった。
こうして他にもディナリウムにはない技術で作られた装備品や珍しい食品に驚かされる冒険者達。
こうした新しい文化の流入は、すぐに受け入れられることになった。
こうして安全な団体だと認められたセイントクロス達に対して、コ―ディアスは身体が温まるようお酒を提供する。
「遠い所からはるばる来たんだ。これでも飲むと良いよ」
「ほう、これは……酒、ですな?」
「そうだけど、え、もしかして未成年だったりするのかな?」
「いやいやいや! そうではありませぬ。話が早く進みそうで何よりだと、思いましてな。ヌフォフォフォ」
「そ、そう?」
困惑する彼を尻目に、酒を煽るセイントクロスの一団達。
これから彼らが巻き起こす騒動に冒険者達は振り回されることになるのだが、それはまた別のお話。
~~~
「申し訳ありませんリゴレット様。スノーフォレストへ外部からの侵入を許してしまいました」
「ふっ……なんと愚かな。これではディヘナへ異端が紛れ込むのも時間の問題。これほどまでに無能とは思いもしなかったものだ……」
「覚悟は出来ております。如何様にもご処分下さいませ」
「本当ならこの手で八つ裂きにするくらいの処置で済ませるところ……だが主はその天命を選ばれなかった。本来なら嘆かわしくもそれが主の選択ならば、悲しみなどありはしない! だから命じよう、其方は……【菌界】へと向かえ、と」
「御心のままに」
~~~
組織の暗躍が蠢く中で、冒険者の活躍によって積荷も人員も、無事にディナリウム領土へとたどり着ける結果となった今回の依頼。
神の手から零れ落ちた品々は冒険者達に新たな力をもたらし、零れ落ちた者達はちょっとした騒乱を巻き起こす。
渦の中心の中で、冒険者達は一体どんな世界を見ていくのであろうか。
この先は新しい朝を迎えた者のみが知る事となるのであろう。
依頼結果