【陽光】酔っ払い共からお酒を取り戻せ(春夏秋冬 マスター) 【難易度:簡単】




プロローグ


 年の瀬も近付き、世間は忙しさを増している。
 それは酒蔵も同じだ。
 なにしろ、年の瀬は一年で最も多く、お酒が買われる時期だからである。
 ディナリウムでは、年始に前年の備蓄の中でも痛みそうなものを大放出するという文化があり、その祭のために十二月頭からいたる所で準備がされるのだ。
 年の始まりに、仲の良い皆で集まり騒ぐ中、ほろ酔い気分を楽しむためにお酒をたしなむ。
 一年の思い出を語り合い、あるいは新たな一年を共に迎え合い、笑顔で言葉を交わす。
 その助けにもなるお酒は、度を越さなければ百薬の長にもなるだろう。
 世の中の潤滑剤として、お酒は必要なのだ。
 だから、お酒を求めるのは悪いことではないだろう。

 無理やり奪うのでなければ。

「がははははっ! ほーら、捕まえてみろー!」
 白い衣に身を包んだ、岩の塊を思わせるゴツイ男が笑い声を上げる。
 手には荒縄を持っており、それは一台のそりに繋がっていた。
 かなり大きなそりだ。しかも山のように荷物を積んでいる。
 荷物に目を向ければ、それは大きな樽。中身は、とある酒蔵が作った特殊な水だ。
 どこが特殊かといえば、スレイブが口にすればたちまち酔ってしまうという代物。
 神水と呼ばれるそれは、スレイブにもお酒の楽しみを知って貰おうと作られたものだが、あまりにも効果が利き過ぎだ。
 一口でも飲めばたちまち酔っ払い、下手をすれば顔や体に掛けられただけでも、泥酔するスレイブが出てしまう始末。
 これでは危ないという事で、蔵で寝かしていた物を、そりを引っ張るゴツイ男が盗み出したのだ。
 今も、そりに乗せた神水の入った樽を、1人で引っ張っている。
 その後ろで、酒蔵の関係者が追い駆けているのだが、あまりの速さに追い付けない。
「待てー!」
 背後からの酒蔵関係者の声に、ゴツイ男は笑いながら返す。
「待てと言われて待つ馬鹿は居なーい!」
「ふざけるなー! なんでこんなことするんだ貴様ー!」
「お前らが素直に酒を寄こさないからだー!」
「タダで全部寄こせとか言うからだろうがー!」
「クリスマスを広めるためには必要なことだー! 文化振興には協力しろー!」
 無茶なことを言うゴツイ男。
 そもそもなぜ、今こんな事になっているかといえば、白い衣を身に着けたゴツイ男が所属しているセイントクロスという集団が原因だ。
 ディナリウムではない、どこかよその国から来たというセイントクロス達は、自分達の文化であるクリスマスの普及のためにやって来たのだ。
 大半は穏やかに、行商などを通じクリスマスに関連した商品を売ったり、文化を広めていたのだが、一部が過激化。
 最初は、街中で布教活動をする程度だったが、どんどん過激さを増し。
 どういう理屈なのか、クリスマスにはお酒が必要だと言って酒蔵に突撃。
 タダで寄こせという要求を突っぱねると、挙句の果てには強奪して今にいたるという訳である。
「がはははっ! これだけ酒があるんだからケチケチするなー!」
「アホかー! そもそもそれはお酒じゃなーい!」
「そんな戯言に引っ掛かると思うなー!」
 そりを引っ張るゴツイ男は、まったく人の話を聞かずそのままその場を走り去る。
「がはははっ! 同士の元にレッツラゴー!」
 他の酒蔵から酒を強奪した仲間の元に、一直線に向かうゴツイ男であった。

 この事件に、ディナリウムが動いた。
 元々ディナリウムとしては、クリスマスの普及にきたセイントクロスとは平和的に交流するため、秘密裏に素性を調べていたのだ。
 そしてクリスマスという異国の文化を一部取り入れようかとも考えていたのだが、今回の事件が大事になり過ぎれば、それも巧くいかなくなる。
 そのため、早期に事件の解決を決定。
 ギルドに、神水やお酒を強奪したセイントクロスの捕縛を依頼したのだ。
 ディナリウムからの情報により、セイントクロスはディナリウムの郊外にある放置された屋敷に居ることが分かっている。
 そこに向かい、セイントクロス達を捕縛し、盗まれた神水とお酒の確保が冒険者たちに依頼されたのだ。
 この依頼に、アナタ達はどうしますか?


解説


状況説明

ディナリウムの郊外にある屋敷にいるセイントクロス達を捕縛し、神水とお酒を取り戻して下さい。

舞台となる時間帯は、夜の8時になりますが、屋敷の中は明かりが灯っているので、明かりを用意する必要はありません。

セイントクロス(過激派、または単なる酒好きな酔っ払い共)

10人。全員が白い衣を着ています。お酒大好きです。
放置された屋敷のエントランスホールで酒盛りをしています。

屋敷は大商人が持っていた物で、元々エントランスホールは商品置き場としても使っていたので、ダンスパーティが開けるぐらい広いです。

PC達が屋敷に訪れた時点で、へべれけになるぐらいお酒を飲んでいます。
酒に酔っているからか、少々ダメージを与えても止まりません。
一定以上ダメージを与えると戦闘不能になりますが、ノリと勢いで復活する場合もあります。
全員を捕縛して下さい。ダメージを与えて戦闘不能にした状況で、縄で縛れば捕縛できたことになります。

セイントクロスの攻撃手段は、絡み酒で酒を勧めてきます。
スレイブには、神水を飲ませようとします。

神水は、スレイブが飲むと酔います。
掛かっただけでも、場合によっては酔います。

酔っぱらったスレイブと絡みたい、という場合は、その辺りのことを書いて頂けるとリザルトに反映されます。

PL情報

神水は、PC達が屋敷に訪れた時点で、一定の量がセイントクロスの手によって流出しています。
それに関しては、大規模作戦にて語られます。

以上です。
それでは、ご参加をお待ちしております。


ゲームマスターより


おはようございます。あるいはこんばんは。春夏秋冬と申します。

今回のエピソードは、大規模作戦に関連した事前連動になります。

酔っぱらってしまったスレイブと一悶着。あるいは純粋に、酔っ払い共からお酒を取り戻すために捕縛に集中されるのか、どちらも自由になっております。

クリスマスを広めようと来たのに、何故だか飲んだくれているセイントクロスの集団を、どうにかしてやって下さいませ。



【陽光】酔っ払い共からお酒を取り戻せ エピソード情報
担当 春夏秋冬 GM 相談期間 5 日
ジャンル コメディ タイプ ショート 出発日 2017/12/28
難易度 簡単 報酬 通常 公開日 2018/1/7 0

コーディアスルゥラーン
 デモニック | シャーマン | 23 歳 | 男性 
屋敷にこっそり侵入
状況と奴等の人数を把握しておきたい
10人、多いな
できれば対峙する数減らしたい
トイレ等で孤立した奴をそっとシバキ倒し縄と猿轡で拘束し納戸等に隠す
物音を怪しまれたら定番、猫の声真似

バレるか数人になれば捕り物開始だ
布教に来て酒泥棒とは本末転倒も甚だしい迷惑野郎ども大人しくお縄になれ

ルゥと
網持ち数人巻込み絡めて薙刀の柄で殴る

仲間とも協力したい

ルゥ気をつけろ
酔ったのか?!ジョブレで彼女を収納したいが応じてくれない
ぺたぺた触られ動き辛い「今そんなとこ触るんじゃない!(頬染
ルゥ守りつつ奴らに急急如律令も使おう(一般人?だし手加減

気絶完了なら奴等きっちり縛る

泥酔ルゥはおぶって帰るか
やれやれ
たくみクローバー
 ヒューマン | シーフ | 16 歳 | 女性 
心情
どうしましょう…大丈夫ですかね…
お酒を盗むなんて許せません
布教するならちゃんと買って広めて欲しいです



コーディアスさんとルゥーランさんと共に行動します。


戦闘
ドロップトラップを使用します。
お手洗いなどで一人になった敵を倒します。
余裕があれば倒した敵の持ち物を遠慮なく、ごそごそと探ってみたり…

いずれ気づいて調べに来た敵を粘着トラップやトラバサミで罠にかけて奇襲して捕縛します。

参加者一覧

コーディアスルゥラーン
 デモニック | シャーマン | 23 歳 | 男性 
たくみクローバー
 ヒューマン | シーフ | 16 歳 | 女性 


リザルト


○酔っ払い共をどうにかしよう
 持ち主が放置した、とある屋敷。
 誰も居ない筈のそこは、今は賑やかだ。
 騒いでいるのは、自分達をセイントクロスと呼ぶ一団だ。
 クリスマスの普及に来たはずなのに、なぜだか奪った酒で酒盛りをしている。
 そんな彼らを捕縛するために、冒険者たちは居た。
「人数が、多いですね」
 気付かれないよう屋敷の外から、騒いでいるセイントクロス達を窓から確認し【たくみ】は呟く。
(どうしましょう……大丈夫ですかね……)
 たくみ達、冒険者の人数はスレイブを合わせても4人。
 対してセイントクロス達は10人だ。
 その人数差で、たくみは不安になる。
 けれど、彼女のスレイブである【クローバー】の言葉が不安を払ってくれる。
「大丈夫。わたしとあんたなら、なんとかなるよ」
 クローバーの方が小柄で見た目は幼いけれど、どこか妹を元気づける姉のような力強さがあった。
 たくみは、クローバーの言葉に笑顔を浮かべ返す。
「はい。クロと一緒なら、きっと大丈夫です」
 自分で自分を勢いづけるように言って、やる気を見せる。
 やる気は十分。ならば、後は出来ることをするだけ。
 そのためにも、【コーディアス】は提案を口にする。
「人数が多いから、個別に叩いていこう。トイレとかで、1人になった所を襲撃するのはどうだろう?」
 この提案に、たくみとクローバーは同意する。
「はい。私も、そのやり方で良いと思います」
「それで良いと思うよ。やっちゃおう」
 賛同を受け、コーディアスは自らのスレイブである【ルゥラーン】に声を掛ける。
「それじゃ、ルゥ。そういうやり方で行くよ」
「……はい」
「ルゥ?」
 なにかに気を取られているかのようなルゥラーンに、コーディアスは声を掛ける。
 ルゥラーンは、酒を飲み酔っぱらっているセイントクロス達を興味深げに見つめていた。
「どうかしたの?」
「……いえ。なんでもありません」
 すぐに普段と変わらぬ様子で返したルゥラーンに、コーディアスは気に掛けるも、依頼を実行中だという事でそちらに集中する。
 冒険者たちは屋敷を探り、裏口が開いているのを確認。
 屋敷は、いたる所に魔法の道具だと思われる照明器具が設置されており、セイントクロス達がそれを発動させたのか、中は明るい。
 気配を探りながら中に侵入。
 部屋を探す中で、トイレを見つけ、まずはそこでセイントクロスが訪れるのを待つことに。
 この時、シーフであるたくみは罠を張る。
 ドロップトラップのスキルを使い、巧妙に配置。
 粘着トラップやトラバサミを、動きの予想地点に置き、隠れてしばらく待ってみた。
 すると、セイントクロスが1人やって来る。
「クーリスマ~ス、ばんざーい」
 完全に酔っぱらって出来上がっている。
 トイレに入り用を足した所を、冒険者たちは襲撃した。
「うぎゃ」
 なぜか嬉しそうに愉快な声を上げ、セイントクロスの1人は倒れる。
 すぐに縛って拘束し、たくみは持ち物を探ってみる。
「これなんでしょう?」
 細い蔓を輪っか状にして、小さな赤い木の実や、色鮮やかなままドライフラワーにした物が付けられ飾られている物を見つける。
 クリスマスの文化が無いディナリウムなどでは知られていないが、それはクリスマスリースと呼ばれる物だ。
 新年の幸福を祈って飾られたりする。
「何かの飾りみたいだけど、クリスマスに関係したものじゃない?」
「結構、綺麗ですよね。作れるかも」
 たくみがクローバーと小さな声で話していると、新しい人の気配が。
 拘束したセイントクロスの1人を引き摺って隠れていると、酒と神水を1人でそりを引き強奪したド級のマッチョがやって来た。
「お~い。まだこれからだってのに、どこ行ってんだ?」
 居なくなったのに気付いて探しに来たようである。
 一気に襲撃するべく冒険者たちが構えていると、先に拘束したセイントクロスが寝返りを打つようにして動き物音がしてしまう。
「ん? そこにいんのか?」
 へらへら笑いながら近づいてくるマッチョ。
 襲撃の機をズラされ、慌ててどうにかしようとコーディアスは猫の鳴きまねを。
「にゃ~ん」
「猫? 猫ちゃん居るのかー」
 マッチョは猫好きだった。
 ずんずんやって来る。
 もはや誤魔化すことは出来ないので、冒険者たちは一気に襲撃する。
 コーディアスは急急如律令を使い、喰らったマッチョは電撃を受けたかのようにビクリと。
 よろめいた所で、たくみの設置した罠にかかり、とらばさみに足を挟まれた上に粘着トラップにはまってこける。
 一瞬動きが止まるマッチョ。
 でもすぐにがばっと起き上がって大声を上げた。
「何か知んないけど客が来たぞー! 駆けつけ三杯もてなしクリスマスじゃー!」
 お前、飲めれば理由は何でも良いんだろ。
 そんなツッコミを入れたくなることを口にしながら、マッチョは仲間の元に。
 慌てて追いかける冒険者たち。
 セイントクロス達が宴会をしているエントランスホールに辿り着くと、待ち構えていたセイントクロス達は口々に言った。
「メリークリスマース!」
「今日の良き日にー!」
「ようこそお客人!」
「飲むぜ飲むぜ飲むぜ!」
 敵意とかは全くなく、むしろ歓迎モードだった。
 悪意は感じられない。というより全くない。
 だから余計に性質が悪いとも言えた。
「ほらほら、お客人も飲んだ飲んだー」
 全員手にコップを持って近づいてくる。
 これに冒険者たちはツッコミを返した。
「飲まないよ! あんたらを見て僕は思うよ、クリスマスなんてクソ食らえ!」
 コーディアスの言葉に、セイントクロス達は一瞬ショックを受け、返した。
「クリスマスを、そんな風に思うなんて」
「これはクリスマス度が足らない」
「もっと布教しないとダメだー」
「その為にも酒だー」
 結局、酒かい。
 そんなツッコミを入れたくなるセイントクロス達に、たくみが言った。
「布教するならちゃんと買って広めて欲しいです。お酒を盗むなんて許せません」
 これに、ぴたりとセイントクロス達は動きを止めると、マッチョに問い掛けた。
「え? 盗んできたのか? これ?」
 これにマッチョが返す。
「違ーう! お布施だー! 文化振興のための協力だー! 物理的な説得で貰ってきただけだー!」
「それは強奪だろ!」
 もっともなツッコミを入れるコーディアス。
「そっちにも色々と言いたいことはあるのかもしれないけど、反論したかったらちゃんと罪を償ってからにしてもらおうか」
 これにセイントクロス達は、真顔になって返す。
「罪はいけない。罪は」
「おお、諸人の罪を背負い殉教せし聖人の名に懸けて」
「とりあえず罪は償わないと。明日からね!」
「まずはその前に酒を飲むぞー!」
 ダメだこいつら早くどうにかしないと。
 そう思ったかは定かではないが、コーディアスとたくみの冒険者2人は、捕縛のために動き出す。
「ルゥ」
「はい。コーディ」
 コーディアスの呼び掛けに応え、ルゥラーンは持って来ていた網を広げ渡す。
 同様に、たくみとクローバーも、一度に複数のセイントクロス達を捕縛するべく網を使う。
「クロ、お願いします」
「任せて」
 コーディアスとたくみは、それぞれスレイブと協力してセイントクロス達に向け網を投げる。
 酔っぱらっていたセイントクロス達は、投げられた網を避けられず動きが鈍り、こけたりする者が続出。
 その時、手にしたコップに入っていた液体がルゥラーンとたくみの元に飛び散った。
「ルゥ!」
 ほんの一瞬、自分に飛んでくる液体を避けるかどうか、ルゥラーンは迷いを見せる。
 けれどコーディアスの声を耳にして、意を決したかのように避けずに留まった。
 そして、たくみの方を見れば、クローバーが盾になるように前に立ち、そのまま掛かってしまう。
「クロ!」
 たくみの呼び掛けに、クロはどこか、とろんとした眼差しを向ける。
 そして、楽しそうに笑顔を浮かべた。
「ふふ、なんだか、気分いい。変なの~」
「クロ?」
 ほんのり肌を上気させ陽気になったクローバーに、たくみは心配そうに声を掛ける。
「ひょっとして、さっき掛かったの、神水なんじゃ。クロ、酔っぱらってます?」
 これにクローバーは、ほにゃっと顔をほころばせ返した。
「酔ってないわよ。酒は飲んでも呑まれるなっていうもの。それが分かってるから、酔ってないもん」
「酔ってます。絶対、クロ酔ってますよー」
 慌てて近寄るたくみに、クローバーは嬉しそうに返す。
「心配してくれるの? たくみんは良い子ね」
 いつもは人前では見せない、たくみを甘やかすように柔らかな声で言う。
(どうすれば良いんでしょう……)
 クローバーの様子に慌てるたくみに、網から抜け出したセイントクロスが近付く。
 そして、陽気な声で言った。
「おー、仲が好いなー」
「良きかな良きかな。という訳で宴会だー」
 手早くシートを敷き、たくみとクローバーの2人をうやうやしく座るように勧めるセイントクロス達。
 これに迷いを見せるたくみだったが、いつもなら止めるクローバーの方が率先して座る。
 なし崩しに隣に座るたくみ。
 そこに、目鼻立ちの整ったセイントクロスの1人が近付いて言った。
「ごめんな。さっき掛かっちゃっただろ。服とか汚れてないか?」
 これにクローバーは笑顔で返す。
「大丈夫ー。心配してくれてありがとう」
 屈託ないクローバーの様子に、セイントクロスは笑顔になると、色々と持って来る。
「ケーキとかゼリーとか、色々あるし、食べて飲んでくれ」
「クリスマスだからな~」
 そしてクローバーに手渡される神水。
「さーんきゅっ!」
 くいっと飲んで、更に酔っぱらうクローバー。
 やんややんやと盛り上がるセイントクロス達。
 一方たくみは、チョコレート色のゼリーを渡され口にする。
「美味しいです、これ」
 コクのある甘味の中に、ほんのりビターな味わいが、舌触りの良いとろけるようなゼリーの食感と共に味わえる。
「なんて言うんですか、これ?」
「カルーアミルクゼリーだな。こっちのシュトーレンも美味いぞ」
 勧められ、ナッツ類やドライフルーツのたっぷり入ったケーキを口にする。
「こっちも美味しいです」
 喜ぶたくみ。
 ちなみに、カルーアミルクは飲み易いが元々が度の強いお酒ではあるし、シュトーレンは本来はそうでもないが、たくみに出されたものはたっぷりとお酒に漬け込まれたドライフルーツやナッツ類が使われている。
 なので、たくみも酔っぱらった。
 そうしてセイントクロス達と宴会をし始めるたくみ達の一方、コーディアスは酔ってしまったルゥラーンの様子に、どうしたら良いのか悩んでいた。
「コーディ……」
 肌をほんのり上気させ、ルゥラーンは潤んだ瞳でコーディアスを見詰める。
「ルゥ、大丈夫か?」
 心配そうに自分を見つめ返してくれるコーディアスに、ルゥラーンの心に喜びが生まれる。
 その喜びにふわりと、ルゥラーンは自然に笑みが浮かぶ。
 ルゥラーンの笑顔に、とくんと、コーディアスの鼓動は僅かに跳ねた。
 けれどそれを振り払うように、コーディアスは言った。
「ジョブレスゾナンスだ。マテリアルチェインで一気に捕縛する。武器に同化して」
「嫌です」
 即座に返すルゥラーン。これにコーディアスが何か言うより早く、ルゥラーンは熱の篭もった声で続けて言った。
「だって、貴方に触れられないじゃないですか。コーディ」
 そっと、手の甲を包み込むようにして、ルゥラーンは手を重ねる。
「貴方に、触れたいんです、コーディ」
 首筋に手を当て、滑らせるようにして、頬にほっそりとした指を這わす。
 コーディアスの存在を確かめるように、素肌に触れていく。
 お互いの熱が混ざり合い融け合うような、心地好い感覚に、ルゥラーンは浸っていた。
「ルゥ?」
 コーディアスが困惑したように声を上げる。
 突き放つような真似はせず、けれどどうすれば良いのか分からずに困った顔をするコーディアスに、ルゥラーンは素直に想う。
(……可愛い)
 くすくすと、ルゥラーンは笑う。
 その笑顔は、可愛らしかった。
 コーディアスは、ルゥラーンの笑顔に、思わず息を飲むように黙ってしまう。
 だが、冒険者としての自分を強く意識し声を掛けた。
「今そんなとこ触るんじゃない! しっかりしろ、ルゥ。酔っぱらったのか」
「酔っては、いけませんか? 貴方だって、酔うことはあるじゃないですか」
 腕を絡ませ、身体を預けるように、ルゥラーンはコーディアスにしなだれかかる。
「それと今は状況が違うだろ。早く酔いを醒ましてくれ」
 これにルゥラーンは、寂しそうに見つめながら身体を離す。
 そこにセイントクロスが背中を押すようなことをする。
「はい、一杯どうぞー!」
 なみなみとコップに注がれた神水。
 それを渡され、くいっと一気に飲み干すルゥラーン。
 僅かな間を開けて、とろんと表情は蕩け、匂い立つような色香がじんわりと浮かんでいく。
 まっすぐに自分だけを見詰めるルゥラーンに、コーディアスは返す言葉がとっさには浮かばない。
 そんなコーディアスの両頬を包み込むように両手を当て、ルゥラーンは切なげに言った。
「私は知りたいんです、コーディ」
 うるんだ眼差しで見つめながら、言葉は止まらない。
「貴方が酔った時に、私に掛けてくれる言葉の意味を。私は、必要ですか? 貴方は私を――」
 その先の言葉は、口から零れ落ちることは無かった。
 言葉に出来るほど自覚できていないのか、それとも、想いが大き過ぎて言葉が見つからないのか。
 伝えたい想いを口に出来ず、もどかしそうにルゥラーンはコーディアスの胸に耳を当てるようにして身体を預ける。
「貴方の音が聞こえます」
 コーディアスの鼓動を耳にしながら、求めるようにルゥラーンは言った。
「知りたいんです、私は……コーディ」
「……ルゥ」
 コーディアスは、迷うようにルゥラーンを呼ぶ。
 そして、気付いた。
「……すぅ」
「って、寝てるー」
 酔っぱらって完全にお寝むなルゥラーンであった。
 そこにセイントクロス達が賑わいを見せる。
「良いね好いねー」
「はい、ご休憩どうぞー」
 シートを敷いて2人分のスペースを作る。
(こいつら……)
 敵意も何も無く、危険度は全くないのを実感しながら、コーディアスはルゥラーンを休ませるようにしてシートに座る。
 膝枕をしてやりながら、やさしく頭を撫でた。
 その頃、たくみもお寝むだった。
「ん……」
 お酒の入ったお菓子を食べて酔ってしまい、寝るたくみ。
 汚れないよう、セイントクロス達が用意したシートの上で、寒くないよう服が掛けられている。
 その服は、サンタドレス。
 クリスマスの聖人が着たという服をモデルに作られた衣装だ。
 赤を基調にして、要所要所でふわふわのファーが飾られ温かい。
 それを、いまクローバーは着ていた。
「似合う?」
 たくみに掛けられたサンタドレスに興味を見せたクローバーに、着てみるようにセイントクロス達が勧めたのだ。
 機能停止しない距離で離れている別室で着替え、お披露目するとセイントクロス達は喝采して褒める。
 その音に、目を醒ますたくみ。
「クロ?」
「たくみんも着てみる?」
 これにたくみは、じーっと見詰めたあと言った。
「かわいいです。これ、作れるかも」
 サンタドレスを触りながら言うたくみに、セイントクロス達は口々に作れるのかと興味津々に訊く。
 これに返したのは、クローバー。
「作れるわよ。たくみんは凄いんだから。変装用のマスクだって作れちゃうんだから」
 誇らしそうに、そして嬉しそうに言うクローバーだった。
 そうしてスレイブたちは酔っ払い、セイントクロス達はそれ以上に酔っぱらう。
 最後には、酔っぱらった挙句に寝落ちするセイントクロス達。
 そうして騒ぐ者が居なくなった屋敷で、コーディアスは小さくため息をついて言った。
「ようやく静かになった」
 膝枕をしていたルゥラーンの頭に手を当てて、そっと降ろす。
 眠っている筈のルゥラーンは、ぎゅっとコーディアスの服を掴んだ。
 苦笑しながら、コーディアスは安心させるように頭を撫でる。
 すると、安心したかのように服を掴む力は薄れ、コーディアスは一時ルゥラーンから離れる。
 酔って寝落ちしたセイントクロス達を捕縛するために動いているのだ。
 その気配に、うつらうつらしていたたくみは、慌てて協力する。
 一緒にクローバーも手伝い、全員拘束し終わった所で、クローバーは着ていたサンタドレスから元の服に着替えるために別室に。
 その間に、コーディアスは寝ているルゥラーンを背負う。
「帰ろうか、ルゥ」
「……ん」
 明確な意識は無くとも、ぎゅっと応えるように抱き着くルゥラーンだった。
 そして同じように、たくみとクローバーも帰る。
「帰りましょう、クロ」
「うん。たくみん」
 手を繋ぎ、仲良く帰る2人だった。

 こうして依頼は果たされる。
 拘束してディナリウムに渡されたセイントクロス達によると、強奪したお酒と神水の幾らかは、すでにセイントクロス達の族長に渡されていたとの証言を得た。
 しかし本来ならば、屋敷に置いてあったお酒と神水も大々的にバラ撒く予定だったらしいので、ある意味大惨事の幾らかは防げたといえた。

 とはいえ、それはそれとしてお酒も神水もしっかり流出してしまっているので、それが原因で大騒ぎになるのだが、それはまた別のお話。



依頼結果

大成功

依頼相談掲示板

[1] ソルト・ニャン 2017/12/20-00:00

やっほにゃ~ぁ
挨拶や相談は、ここでお願いにゃ~!
みんなふぁいとにゃにゃ~  
 

[4] たくみ 2017/12/27-12:10

たくみとクローバーです。
……よろしくおねがいします。

うーん、困りましたね。
お手洗いに行ったひとを倒したらワナをつくって待ち伏せする予定です。



 
 

[3] コーディアス 2017/12/26-17:04

初動についてだけど、
こっそり忍び込み、奴らのいる場所をまず確認して状況と人数把握かな?
今のこっちの人数はスレイブ合わせても劣勢だから、トイレなんかに立って孤立した奴を落していって少しでも人数減らしておきたいな。
僕はこんな感じで最初は動きたいかな。
ま、途中でバレて乱闘になりそうだけど、元よりその覚悟だし。

意見、あるかな?  
 

[2] コーディアス 2017/12/25-21:14

シャーマンのコーディアスとパートナーのルゥラーンだよ。
どうぞよろしく。

酒と酔っ払いと捕り物でジャンルがコメディ。
カオスの予感ひしひしだね、面白そうだ。

うちはルゥが酔っぱらう予定なので迷惑かけたらごめん。先に謝っておくよ。
楽しそうな依頼だからもっと人集まらないかな。