これはありきたりなプロローグ(三叉槍 マスター) 【難易度:普通】




プロローグ


●それは日常
 その依頼は特段語るような事もない、ありふれた依頼だった。

 どこからか移ってきたゴブリンの集団が小さな村の近くの洞窟に住み着き困っている。
 どうかこれを討伐してほしい。

 なんともひねりのないありきたりな依頼だ。
 だから君はその依頼をいつもの通り手に取り、それをギルドのカウンターへ持って行った。
 なぜなら君は冒険者。それをこなす事で日銭を稼ぎ、生きる糧としている。
 ――いや、もしかしたらお金の為ではなく義憤に駆られたからかもしれない。あるいは精神的充実を得る為か。
 いずれにしろ君にとっては別段珍しくもない日常の風景だ。
 その依頼書を受け取ったギルドの受付嬢も普段通りの営業スマイルを浮かべ依頼書に判子を押し、依頼に必要な情報の書かれたメモとマニュアル通りの武運を祈る言葉をくれる。
 その愛想笑いを背に君はギルドを後にする。
 そして住み慣れた住居へ戻り、スレイブと共に手慣れた様子で荷物をまとめる。
 今日はもう夕方。出発は明日でいいだろう。
 こうして君は何の変哲もなく一日を終えた。

 やがて数日後、君は問題の村へとたどり着き、そこで今回の依頼を一緒にこなす同業者達と顔を合わせる。
 そして、村の依頼人から詳しい情報を聞き出し、地図を確認し、一時的な仲間たちと共に討伐の為の相談をした。
 そうする内に日も傾き、依頼人から食事を振舞われ、明日の作戦実行に備えて静かに寝床につく。
 休息は戦士たちにとって最も重要な準備である。

 ――カンカンカンカンカン!!

 しかし、君の休息はけたたましい鐘の音と共に打ち破られる。

「襲撃だー! ゴブリン達が襲いに来たぞー!!」

 鐘の音と共に村に響く叫びに君はすぐさま事態を把握し、寝床から飛び起きた。
 そして、寝床からすぐに届く位置に置いてあった武器と防具を手に取る。
 村人の一人が助けを求め君のドアを叩く頃にはすっかり準備は終わっている。

 これすらも――否、これこそが日常だ。
 全てが思い通りに運んだ事など一度もない。
 上手くなどいくものか。予測は裏切られ、目標は遠のき、起こる出来事はいつも唐突。
 しかし、それらの理不尽を自身の力で無理矢理ねじ伏せる。
 それが君の日常なのだ。

 果たしてゴブリンの襲撃は偶然なのか。それはまだ分からない。
 冒険者たちが村に集まりつつあるのを察して先手をかけてきたのか。それとも、単にタイミングがかち合っただけの偶然か。
 そんなことは今は関係ない。ただただ目の前の理不尽をいつも通りねじ伏せるだけだ。

 知ってて奇襲を掛けてきたのだとしたら、浅はかな奴らである。
 奴らは君たちを見くびった。逃げずに立ち向かってきた事を後悔させてやらねばならない。
 たまたま襲ってきたのだとしたら、運の無い奴らである。
 奴らは理不尽に襲われた。それをねじ伏せるだけの力が無いのならばそのまま理不尽に喰われるのがこの世界の常識だ。

 さあ、武器を手に取れ。
 君の日常とは、平和な人達の日常を君の日常と同じものにしない事である。

 これはありきたりのプロローグ。
 だから得られる結末もありきたりの物にならなければならない。


解説


●敵
ゴブリン×15
こん棒やナイフなどの近接武器を手に持った小柄で凶悪な亜人族。
知能は低く、力も大したことは無い。しかし、数が多く徒党を組む事で知られる。

ウルフライダー ×3
大きめの狼を飼いならし、その上に乗って走り回るゴブリン。
重量の関係で普通のゴブリンよりも軽装であり、撃たれ弱い。
だが狼の機動力と攻撃力は馬鹿にならない。
実際のところ、上に乗ったゴブリンよりも狼自体の方が強敵である。

●状況
すでに村は襲撃された状態です。
村の自警団は存在しますが村の力自慢が集まった程度であり、日常的な警戒が主な仕事で戦闘において役に立てるほどの戦力ではありません。
ゴブリンたちの戦術はまずウルフライダー達がその機動力で村を駆け巡り、村人を襲ったり家に火を着けるなどして混乱を呼び、その隙に村の南方からゴブリン達が家々を破壊して回っています。
主な目的は物資の強奪のようで、今のところ人を襲うよりも家屋の破壊を優先して動いています。
村は半径5kmほどの小さな村で。あなた達の宿泊する宿は村の丁度中心部に位置しています。



ゲームマスターより


こんにちは、三叉槍です。
ありきたりな物語にはありきたりな結末を。
あなた達の手で結末まで導いていただければと思います。



これはありきたりなプロローグ エピソード情報
担当 三叉槍 GM 相談期間 8 日
ジャンル 戦闘 タイプ ショート 出発日 2017/12/25
難易度 普通 報酬 通常 公開日 2018/1/4 0

コーディアスルゥラーン
 デモニック | シャーマン | 23 歳 | 男性 
襲撃後
まず自警団の方に
被害村人の救助(物に挟まれ動けない等ありそうだ)と避難誘導(この辺は彼ら心得てるよね?)依頼
彼等には機動力削がない程度に防具付けて貰い、戦う事は考えず救助に専念して欲しいとお願い
あと討伐後は消火もあるよね?手筈もよろしく

僕は
ジョブレと同化済ませ
自警団の救助活動を守る位置で敵を近寄らせない戦闘する

戦闘
接近されたら薙刀で複数巻込み薙ぎ斬りや突き刺し、距離あるなら急急如律令
ウルフライダーは潰せる機会あるなら急急如律令で狼痺れさせ、転べ!
救助避難クリアなら僕も殲滅に専念

討伐後は
ジョブレ解いてルゥと消火活動手伝う

翌日は
予定通り洞窟に行くよ(残党チェック
いれば討伐、強奪品あれば回収
ジーン・ズァエールルーツ・オリンジ
 ヒューマン | ウォーリア | 18 歳 | 男性 
俺はウルフライダーを担当。情報によると奴らこそが攻撃の起点であり要だ
そいつを突き崩せば奴らの動きも乱れて隙が生まれるはずだ、
数は3騎。バラバラに動いてそうだからそれなら1騎ずつ仕留めればいい。援軍が来るならそいつらも倒せばいい

ウルフライダーと戦う時は狼を狙う。将を射んと欲すればなんとやらだ
とはいえ機動力を考えると闇雲に狙っても当たらねえ。なら逆に考えて絶対当たるタイミングを狙えばいい
だから戦闘の時は武器で攻撃を受け流すなど適度にやり過ごし、飛びかかるなどしてきたら【ソニックブーム】で胴体もしくは脚を攻撃
攻撃後動きが鈍ったところを【リミットブレイク】を用いた一撃を叩き込み、ゴブリン共々両断する
ナイトエッジシース
 ヒューマン | ウォーリア | 17 歳 | 男性 
魔物は見過ごせない、必ず殲滅する。
【リミットブレイク】と【エッジングスティグマーダ】を使いシースと共にゴブリンの迎撃に向かう。

ジーンが対処できなかったウルフライダーを攻撃してフォローする。
障害物としてウルフライダーの行動範囲を狭めるよう立ち回って注意を引き付け、
向かってきたウルフライダーの足を刈るように剣を振るいジャンプを誘い、空中で身動きが出来ない所に【トライアタック】を叩き込む。
狼の頭を攻撃して一撃で仕留め、その後に乗っているゴブリンを斬る。

ウルフライダーの対処が終わったらゴブリンを引き付けている是呂を手伝ってゴブリンを殲滅する。

終わったらシースとゴブリンに壊された村の修繕の手伝いをする。
是呂零鈴
 ケモモ | ナイト | 35 歳 | 男性 
敵と遭遇したらジョブレ・同化をします
できれば仲間と一緒に行動したい

先に遭遇しそうなウルフライダーは好機があればゴブリンを槍で突落してやろう
そういうの得意な武器だ

僕の仕事は
自警団や被害村人にゴブリン近付けない
強奪や破壊行動してるゴブリンを引き剥がす・させない
これらを意識しナイトリージョンで気を引き、囲まれない様動きながら盾でいなし槍で突き攻撃する
引きが弱ければ「僕は凄いお宝持ってるぞ!誰にも渡さない」とハッタリでそれらしい宝箱掲げてみよう
孤立しない様に気をつけ仲間と協力したい
逃げ出す敵にも警戒し、いたらナイトリージョンで引き留め確実に討ちたい

終ったら消火でも何でも手伝う
洞窟も行って仕事完遂したい

参加者一覧

コーディアスルゥラーン
 デモニック | シャーマン | 23 歳 | 男性 
ジーン・ズァエールルーツ・オリンジ
 ヒューマン | ウォーリア | 18 歳 | 男性 
ナイトエッジシース
 ヒューマン | ウォーリア | 17 歳 | 男性 
是呂零鈴
 ケモモ | ナイト | 35 歳 | 男性 


リザルト


 持ち手が錆びたブリキのバケツ、これを頭にかぶせられ、棒やバットで思いっきり、四方八方から叩かれる夢を見た。もちろん叩かれているのは頭のバケツだ。
 ――カンカンカンカンカン!!
 冗談じゃない。
 ついさっきまで桃の花を散らしたシルクのシーツの上で、彼女と戯れていたというのに。
 ――カンカンカンカンカン!!
 彼女?
 彼女って……?
「ルゥ!」
 跳ね起きたと同時に『コーディアス』は、枕元に置いた薙刀の柄をつかむ。
 夢の記憶はまたたく間に消えている。
 ドアを叩きに来た村人の手がドアに触れるより早く、戸を開けて迎え入れた。
「敵の先遣隊はもう村の内部に?」
「あ、はい……!」
 いささかも動じぬコーディアスの姿に舌を巻いた様子で、村の自警団員はつっかえつっかえかく語った。
 黎明の静寂を破り、村に飛び込んできたのは大型の獣、およびその背にまたがったゴブリンだということ。
 獣とその乗り手は複数あり、弓や大ぶりの曲刀で暴れ回っているということ。
 これに続いて一群のゴブリンが、思い思いの武器を手に攻め寄せてきたということ。
 ために村は、たちまちにして恐慌のただ中に陥ったということ。
「わかりました。まずは仲間や自警団と合流したい。案内を頼めますか」
 コーディアスは村人に告げ、流し目してスレイブの『ルゥラーン』に呼びかけた。
「いいね?」
 奥の部屋からルゥラーンが姿を見せている。彼女も既に、いつでも外に飛び出せる装備を調えていた。
「はい、マスター」
 透き通るような黄金(きん)の瞳で、ルゥラーンはコーディアスを見上げた。灯は燭台のロウソクひとつだが、コーディアスの表情は確認できる。この状況にあっても彼女のマスターは、冬凪げる浜のごとく落ち着き払っていた。そのことを頼もしく、誇らしく思う。
「急ごう」
 髪留めの紐をきつく縛ると、コーディアスは静かに息を吸った。
 ルゥラーンも吸った。彼と寸分たがわぬタイミングで。
 波長が重なったこのとき、コーディアスは手をルゥラーンに伸ばしている。
 彼女の首の下に、触れた。接触した場所が、ほのかな光に包まれた。
 同時にルゥラーンの体が糸状になって、コーディアスが利き手に握った薙刀に吸い込まれていくように見えた。ルゥラーンの肉体は消失し、コーディアスの武器に同化したのだ。
 すべてが終わるまでにかかったのは、ほんのわずかな間であった。
 それこそ、ただの一呼吸で足るほどの。

「火だ!」
 屋外に出た『ナイトエッジ』は、燃え上がる小屋に目を向けた。
 枯れ草でも集めていたものだろう。炎の勢いはすさまじく、離れていても熱風を感じるほどだ。
 黎明が訪れたばかりという時間帯である。冬の澄み切った空気のせいか、炎はやけに明るく見えた。
「奇襲というわけですか。私たちがここにいることを知って先手を打ったのでしょうか、それとも……」
 油断なく周囲をうかがいながら『シース』が言う。
「偶然だろうな。冒険者相手を想定したのであれば少なすぎる。動き回って多く見せかけているがウルフライダーの数はせいぜい三騎、そのあとに歩兵の一個小隊があるにしても、こちらの規模を考えると十分とは言えまい」
「俺もそう考えていた」
 と応じたのは、ミドルソードを佩いた『ジーン・ズァエール』だ。しらじらと明けつつあるというのに、ジーンの髪はまだ、夜の闇が息吹いているかのように黒い。
「とはいえゴブリンどものことだ。冒険者がいようが国防軍が駐屯していようが、何も考えず突っ込んできたかもしれねえが」
 ジーンは言葉を切った。ぱっと流れ星のように、新たな火矢が飛び建物の屋根に突き立つのが見えた。藁葺きの屋根が音もなく燃えはじめている。
「ここは任せた」
 ナイトエッジは即断を下し、村の中央を目指した。一瞬ではあるが、背にゴブリンを積んだ狼の背が見えたのだ。
「あっちは任せろ……シース、他にもいるし、迅速に片付けるぞ!」
 まずは狼に乗った先遣部隊を叩く。本隊を迎撃するのはその後だ。
 すぐに追いつく、と返事してジーンは剣に手をかけた。
「近いな」
 刃が鞘走った。ジーンは剣を両手で握り、両足を開いて姿勢を安定させると耳を澄ませる。
「はわわ! マスター、敵が来ました!」
 ジーンの背に隠れていた『ルーツ・オリンジ』が、前方を指さし声を上げた。慌てて飛び出してきたせいか、ルーツの襟元にはネクタイがない。
「わかってる! 静かにしてな」
 正面の敵をジーンは見据える。屋根に拡がる炎が、その姿を照らし出している。
 駆けてくるのは狼だ。一般的な種より一回りは大きい。大狼(ダイアウルフ)というやつか。
 獣はその背に鞍を置いていた。装飾は少ないものの丈夫そうで鐙もある。手綱はなく手放しだが、これにまたがるゴブリンは器用に狼を乗りこなしているようだ。
 矢筒に小弓を投げ込むと、ゴブリンは背にくくった山刀を抜く。ゴブリンの体格からすれば大きすぎる刃渡りだ。殺すか盗むかして、人間用を手に入れたのだろう。
 鞍の上でゴブリンが嗤ったように見えた。
「飛び道具をしまってチャンバラをご所望か。よっぽど殺されたいと見える」
 ぎらり歯を見せてジーンは身をかがめ中腰となる。
 狼が、ゴブリンとともに突進してくる。
「なら、お望みどおりきっちりぶっ殺してやらねえとな!」
 雄叫びをあげジーンは真横に剣を叩きつけた。
 火花が、散る。
 悲鳴が聞こえた。ゴブリンが右のくるぶしから下を、足甲ごと切断されたのだ。
 だが大狼は乗り手に構わず姿勢を立て直し、振り返って再度飛びかかるべく身を沈めている。
「ゴブリンが邪魔で狼に刃が届かなかったか」
「マスター!? ターゲットは狼なのですか? 騎手のゴブリンでは?」
 ルーツが頓狂な声を上げるも、馬鹿言うなとジーンは鼻を鳴らす。
「最初から狼狙いだぜ。将を射んと欲すればなんとやらだ」
 興奮して涎を溢れさせ、狼は口をぱくりと開けた。
 来る!

「た、大変なことになったな」
 取るものも取りあえず『是呂』は、長い槍を引っ提げ盾を担ぎ、他は軽装のまま駆け出していた。鎧を装着している時間はなかった。シールドを持ち出せただけでも幸いだ。
 皆さんと合流する時間はあるかな――。
 足を止め、まだ暗い村を見渡す。数カ所から火の手が上がっているものの、幸か不幸か是呂のそばに炎は回っていなかった。
 声がほうぼうから聞こえる。いずれも村人だ。逃げろ! どっちに! と聞こえるあたりから、その狼狽ぶりがわかろう。
 足がすくむ思いだった。是呂は戦闘経験が浅い。ましてや奇襲を受けるなど初めてのことだ。
 ちらとスレイブの『零鈴』に目を落とした。すると零鈴は、わかっているよと言うように、
「大丈夫だよマスター! 最近ずっと訓練、してきたよね。成果を見せるときが来たと思おう!」
 と、彼の背をポンと叩いてくれたのだった。
「だよね。うん、戦闘訓練、ずっとしてきたんだ。やれる……やれるさ!」
 自身と零鈴を鼓舞するように声を出す。実力はついてきたはずだ。零鈴もいてくれる。自分と零鈴を信じ戦い抜くぞ、そう決意したとき、是呂の膝の震えは消えていた。
「マスター、右後方より急速に敵接近」
 唐突に零鈴の声色が変わった。法廷で判決文を読み上げるように無感動な口調だ。
 つまりそれは、彼女が戦闘モードに入ったということ。
「大型の狼です。騎乗するゴブリンも一体」
「ウルフライダー……ってやつか」
 是呂が反転するとともに、槍が空気を切ってうなりをあげる。
 零鈴の言う通りだ。逃げ惑う村人を蹴散らすようにしてウルフライダーが駆けてくる。獰猛なうなり声、長い牙、黒い山が走ってくるように是呂には見えた。
「マスター、ジョブレゾナンスを」
 零鈴は是呂の手を両手でつかみ、ぐいと我が胸に押し当てた。光が放たれるは刹那、零鈴の姿は忽然と消える。主の槍と同化したのだ。
 怖じ気づいてはいられない。是呂は自我を取り戻す。
「よし!」
 みんな下がって! と村人たちに大声で呼ばわりながら、盾を前面とし槍を構え、野牛のごとく猛然と、是呂はウルフライダーに向かい足を踏み出した。
「村の人たちには手を出させない!」
 これを己への挑戦とみたかウルフライダーは、のしかかるようにして衝突してきた。
 重い。
 荷車がぶつかってきたような衝撃を是呂は感じる。
 左のかかとが地面にめり込み土を削っているのがわかる。
 狼の巨体を盾一枚で受けているのだ。関節、それに肩の骨がきしみ悲鳴を上げはじめる。
 だけど、負けられない!
 渾身で衝きだした槍の穂先に、ずぶりと柔らかな手応えがあった。
 圧す力が緩んだ。狼とその騎手が後退したのだった。
 ゴブリンは横腹を押さえている。目が血走っていた。
 騎手には深手を与えたらしい。しかし狼は無傷だ。次にどう出るか――。
 是呂が盾を構え直したそのとき、何かに気付いたのか狼が地を蹴り真上に飛び上がった。
「野生の勘か、見上げたものだ」
 是呂の目に映ったもの、それは刃で狼の足元をすくったナイトエッジの姿である。
 気配を殺して狼の背後、剣が届く距離まで肉薄したナイトエッジも、反射的に跳躍しその切っ先をかわした狼もかなりのものだ。
 しかしナイトエッジはさらに上手(うわて)、たてつづけに刃を閃かせたのである。
 それも二度、目にもとまらぬ速度だった。
 最初の一太刀とあわせれば三度の連続攻撃が繰り出されたことになる。
 そもそも背後を取られた時点で狼には圧倒的不利な状況、しかも自由のきかぬ空中で無防備な腹部を突かれたのである。さすがにしのぎきれず大狼はどっと倒れた。虫の息だ。騎手のゴブリンはといえば、巨体の下敷きになっている。這い出そうと身をよじるも空しく、その首はナイトエッジに刎ねられた。
「これで一騎、ジーンが対処しているウルフライダーを引くとあと一騎を残すということになる」
 ナイトエッジが言った。シースを従え、剣を丁寧に拭っている。
「俺は狼を探す。その間、ここから南の守りを頼んでいいだろうか。ゴブリンの歩兵が迫っている」
 苦しまぬよう一撃で狼にとどめを刺し、是呂は立ち上がった。呼吸はまだ弾んでいる。
「わかった。僕の仕事は人々のガードだ。自警団や村人にゴブリンを近付けさせないよう護ろう」
 責任重大だ――その思いが、是呂の表情を引き締めていた。
「それに、強奪や破壊行動をしているゴブリンを見つけ次第引き剥がす。好きにはさせない」
 僕は騎士(ナイト)だ。丸眼鏡の位置を直しながら是呂は誓いを新たにする。騎士は、力なき者の剣、そして盾になるべき使命を負っている。戦闘経験の浅さは言い訳にはならない。命に代えても使命を果たそう。
「途上で得た情報だが、コーディアスも同様に人々の救助活動に従事しているようだ。協力してあたってほしい。終わったらすぐに救援に向かう」
 告げるや否、ふたたび風のようにジーンはその場を立ち去る。軽く是呂に黙礼するとシースも続いた。

 ゴブリンの気配はまだ近づいてないけれど、と同化した状態のままルゥラーンはコーディアスに思念を送った。
(風にあおられて延焼が起こってます。自警団が住民避難を誘導していますが……)
「浮き足立っている、ってことだね。ゴブリンが襲ってきてるんだ。当然だろう」
 迷わずコーディアスは自警団を助けに奔った。住民の集団と自警団がひとかたまりになっていた。
 案の定住民たちはすでにパニックの状態だ。鶏小屋に狐が飛び込んできたかのよう、泣きわめく子ども、恐怖のあまり座りこむ者、見当違いの方向に逃げようとして袖を引かれている老人など数知れない。自警団は必死でこれを収めようとしているものの、声を荒げるあまり逆効果になっている。
「大丈夫です! 僕たちがいるから!」
 コーディアスは決して大声を出したわけではない。しかしその凜然たる響きは、すべての衆目を集め鎮まらせる効果があった。
 戦いの女神が降臨したのかと思った、と、後に住民の一人は語ったそうである。絶望に転落しかけたそのとき突然、明け方の白光を浴び、風に緋色の髪をなびかせ、気高き相をもつ麗人――コーディアスが目の前に現れたのだと。
「火災は深刻な段階ではありません。敵も多くはない。だから落ち着いて自警団に従って」
 コーディアスはこのとき、猫を思わせる切れ長の目に微笑すらたたえていた。
「そして自警団のみなさんは、戦うことは考えず、救助に専念してください」
 無論、コーディアスにも恐怖心はあった。しかしそれ以上に、彼には冒険者としての矜持があった。
 冒険者がすべきことは、戦うことだけではないはずだ。人々の心の支えになることも、大切な役目だと考えている。
 だからこそ、窮地にあっても彼は微笑むことができた。
 避難民の集団を見送ると、コーディアスはすぐさま薙刀を構え直す。
(お見事でした、コーディ。私が鼓舞するまでもありませんでしたね)
「違うよルゥ。ルゥが見ていてくれたからこそ、自信をもって臨めた。一人だったらこうはいかなかった」
(またまたご謙遜を……ふふ)
 しかしルゥラーンはすぐに険しい語気となる。ゴブリン集団が近づいている、と彼に警告した。
「あれか」
 ゴブリン十数体からなる小集団だ。住民が放棄した村の南部で、略奪や狼藉を繰り返してきたのだろう。その歩みは決して早くはなかった。
 あるゴブリンは鶏を逆さにして裂きながら歩いており、くっちゃくっちゃとせわしなく口を動かしているものもあった。他にも、価値も知らないだろうに首から装飾品を大量にぶらさげているゴブリン、無意味に大量の武器を抱えているゴブリンなどもおり行動もまちまちで、統制はまるで取れていない。
「ごめん。遅くなったね」
 是呂がコーディアスに並んだ。ここまで走りづめだったのだろう。肩で息をしている。そのかたわらには零鈴の姿もあった。
「問題ないよ。本番は、これからさ」
 コーディアスはうなずいて、ぐるりと薙刀を頭上で回した。
「ジーンさんとナイトエッジさんは、村に突入したウルフライダーと交戦している。彼らの到着まで、僕らはここでゴブリン本隊を引きつけ足止めする作戦だ」
「わかった。で、どうやって引きつけよう?」
 と薄笑みを浮かべたコーディアスの顔を、思わず是呂は二度見してしまう。
 たしか男性だったよね、この人……?
 それほどに、艶冶とした笑みだったのだ。それもそのはずコーディアスは、酒場育ち酒場仕込み、人目を惹くことに抜きん出た踊り子なのである。
 今はそんな事態では、と是呂は思考を振り払い、引きつける方法はあるんだと言った。
「取り出しましたるは、途上拾った曰くありげなこの箱! 見てて!」
 それなりの装飾がされているが中身は空だ。宝石箱と言い張れば遠目には通じそうだが、実際はお針箱程度のものでしかない。しかしこれで十分なのだ。
 大きなゼスチャーで箱を抱きしめ、是呂は芝居がかった口調でこう叫んだのである。
「僕は凄いお宝持ってるぞ! 誰にも渡さない!」
 わざとらしいことこの上ないが、ゴブリン相手には十分なアクションだった。
 ゴブリン集団は火が付いたように、目をぎらつかせて是呂に殺到したのである。
「僕のスキルは下手すると多数に襲われるから、援護してくれると助かるよ」
 と言い残し、さあ来いと是呂は進み出た。すでに不退転の覚悟だ。
「了解!」
 猫科の猛獣のようにひらりと、しなやかな動きでコーディアスは彼に並ぶ。手挟んだ呪符を投じる。刻まれし文言は【急急如律令】、悪鬼退散の念込めて、駆け抜ける電撃を敵に与う。
 そんな二人の後方より零鈴は、鋭い視線で敵の動きを探るのだ。
「戦闘訓練で、私もマスターとの呼吸を学習しました……役目を果たします」
 零鈴の口調は冷静なれど、秘められた意志は鉄よりも硬い。

 ジーンは咳き込んだ。口を拭うと、手の甲は赤く染まった。
「はっ、ゴブリン退治でここまで楽しめるとはな……燃えてきた!」
 言うなり横凪ぎの一撃で、空斬の刃【ソニックブーム】を放つ。鎌鼬(カマイタチ)さながらに湾曲した真空の凶器は、追い打ちをもくろむ狼の、前脚を傷つけ動きを止めた。
「前門の狼、後門も狼ってな……!」
(はわわわ、マスター……大ピンチですよう……!)
 武器に同化した状態でも、ルーツが震えているのだと判った。
 挟み撃ちだ。ウルフライダーが二騎、当然乗り手のゴブリンも二体と言いたいところだが、乗り手のうち早々に足首を切断された一人は、とうに絶命し屍をさらしていた。
 一騎と交戦を開始したジーンのところに、もう一騎が加勢に駆けつけたのであった。正面から切り結ぶには手こずるほどの敵が倍加したとあれば、危機に陥るのも致し方ない。狼の機動力に翻弄され、隙を突かれては剣を浴び、とうとうさきほどは体当たりを受け、地面に叩き伏せられてしまったのだった。肋骨の二三本は確実に折れたと思う。
 ジーンは剣を杖のようにして立ち上がる。そうして、狼のそれぞれに目を配る。
「ピンチ? 笑わせるな。こっからじゃねぇかよ」
 強がるも剣をつかむ握力が、あきらかに減じていることは彼も自覚していた。
 といっても一方的になぶられたわけではない。狼らも無傷ではなかった。とりわけ、最初から当たってきた一頭は、息も絶え絶えの状態である。
「せめて一匹は道連れにしてやろうか。ルーツ、やつにまだ跳躍できるだけの体力はあると思うか?」
(マスター、道連れだなんて、そんな……縁起でもない!)
「質問に答えろ」
 口中に溜まってきた唾をぺっと吐き出す。血の味がした。
(……ぎりぎり残っていると見ました)
「信じるぜ」
 援軍のほうの狼が、牙を剥きだし襲ってきた。
「てめぇに用はねえ!」
 食いちぎられようと構うものか! ジーンは無防備の左腕を突き出した。
 運が良かった。ジーンの腕は狼の喉をつき、これを退けたのである。
 ほぼ同時、間髪を入れず乗り手を失った一頭が飛びかかってくる。
「待ってたぜ!」
 この狼の攻撃に、これまでのような勢いはない。
 狙いすませて底力、己の限界を超える一撃を、狼の頭めがけジーンは打ち下ろした!
 狼の顔面をとらえた刃は、これを両断し鞍まで切り裂いてようやく止まった。
 血ぶるいしてジーンは振り返る。
「オラ! かかってこいよ!」
 しかしいささか、拍子抜けしたのは事実だった。
 このときすでにもう一頭は、駆けつけたナイトエッジとの交戦を開始していたからである。
「ジーン、無事か! すばやく仕留めてゴブリン本隊に向かおう!」
 二対一から二対一へ、最初は狼側が二、今は冒険者側が二だ。
 窮地になるほど燃えるというのは、ジーンのような強者の場合に限る。狼もゴブリンも、たちまち士気を阻喪してしまった。ナイトエッジ、さらにジーンと数合切り結んでいたものの、敵わじと見るや乗り手は、文字通り尻尾を巻いて逃げ出そうとした。
「逃がすと思うか!」
 ナイトエッジが狼の背を貫き、落ちたゴブリンの腹部に深々、ジーンが剣を突き刺した。
 彼らが是呂、そしてコーディアスが支えている戦場にたどり着いたのは、それからまもなくのことだった。
 ただ二人ながら是呂とコーディアスは戦線を維持していた。足元には数体、ゴブリンの死骸が転がっている。
 攻めあぐねたかゴブリンどもは士気を失い始めていたのだが、この声を聞くなり震え上がった。
「さて、残るはお前らだけだ……覚悟しろ」
 ナイトエッジの姿がある。髪に挿す徽章、ブロントヴァイレスバッジが輝いた。
「ゴブリン駆除、完遂するとしようか」
 コーディアスの姿がある。勇気百倍、勢いを増し薙刀を閃かす。
「確実に討ちたいね」
 是呂の姿がある。眼鏡の奥の目に、燦然とした光を宿らせる。
 そして、
「頼みの綱のウルフライダーはもういねぇぞ。恨むんなら、浅はかなてめぇら自身を恨みな!」
 鬼を喰らう羅刹のごとく、まなじりをつりあげゴブリンを追う、ジーンの姿もここにある!


●エピローグ

 戦いが終わっても、コーディアスは休息しようとはしなかった。
「消火活動を手伝わなくては! バケツリレーでも何でも手伝うよ」
 と火災現場に駆けつけようとしたところで、我に返ったように足を止めた。
「ルゥ、できるか?」
 同化を解いたばかりのルゥラーンの、体を気遣っているのだ。
「もちろんです、ふふ」
 彼の心はわかっているから、ルゥラーンはその気持ちだけ受け取ることにする。
「そうだな。僕たちも」
 是呂は槍を握ったままだ。延焼を防ぐべく、周辺の建物を砕く考えなのだった。
「私もまだまだ、ちゃんとやれるよ!」
 戦闘モードから抜けたのだろう。零鈴の口調も復している。
 ナイトエッジ主従も向かったので、ルーツはどうしたものか困って、彼らの行く手とジーンとを、おろおろと何度も見比べた。
「あの……マスター」
 わかってるだろ、とジーンは平然と答える。
「帰るぞ。村の連中の生死やら火事の鎮火やらは報酬には影響しねえからな。助ける理由もねえ」
「でもここで帰るというのは無責任というか……」
「責任なら果たしただろうが。そもそも俺は怪我人だ」
 背を向けようとするジーンに、ルーツはすがりつくようにして声を上げた。
「マスターは何もしなくて結構ですから! ボクは……ボクは、どうしてもこのまま行くのが……」
 まったく、と嘆息してジーンは言った。
「判った。消火なり村人の介抱なり好きにしろ。ついでだ、俺も少しくらいならつきあってやる」
 言うなりもう、ジーンは火事のほうへと歩き出している。
「いいんですか!? あの、報酬には……」
「こいつは依頼内容には関係ねえ」
 ジーンは言った。
「ルーツの頼みだからだ。たまには、聞いてやってもいい」

 日が昇りきる頃には、火災はほぼ収まっていた。
 炭になってしまった残骸などを取り除きながら、ふと、手を止めてシースは言う。
「すぐに次の依頼場所へ向かわずに、こうやって手伝うのは珍しいですね」
 シースはなんとも嬉しそうだが、ナイトエッジは特に感慨もない様子である。
「次の依頼まで間が空いてるからな……たまたまだ」
「そうですか」
 その返事が実にナイトエッジらしくて、くすりとシースは笑うのだった。
「そういうことにしておきましょう」

 その後、仕上げとしてゴブリンの拠点である洞窟も探索したものの、残党の姿は発見できなかった。

 これはありきたりのプロローグ。
 だから結末もありきたりだ。
 けれどもその『ありきたり』のために、命を賭ける冒険者があってもいいだろう。



(このリザルトノベルは桂木京介マスターが代筆いたしました。)



依頼結果

成功

MVP
 ナイトエッジ
 ヒューマン / ウォーリア


依頼相談掲示板

[1] ソルト・ニャン 2017/12/14-00:00

やっほにゃ~ぁ
挨拶や相談は、ここでお願いにゃ~!
みんなふぁいとにゃにゃ~  
 

[7] ナイトエッジ 2017/12/24-19:17

書き込みが遅くなって申し訳ない。

出鼻をくじくのが重要になりそうだし、確実にする為にウルフライダーの対処を手伝おうと思う。
可能なら対処が済んだ後に数の多いゴブリンへの加勢にも向かいたい。  
 

[6] ジーン・ズァエール 2017/12/23-21:41

ナイトエッジの行動がまだわからねえが、締切も近くなってきたんで改めて行動表明しておく

コーディアスが自警団と共に避難誘導メイン
是呂がゴブリンをメインに戦う

という感じだから、当初の予定通りウルフライダーを担当する
ガイドの戦法見るに、ウルフライダーのかく乱から奴らの攻撃が始まるみてえだからな
その出鼻を挫けば逆に奴らの動揺を誘えて、他の奴らの行動の支援にもなるってもんだ

 
 

[5] 是呂 2017/12/23-14:56

よろしくお願いします。
ナイトの是呂と申します。スレイブは零鈴。

僕はスキルのナイトリージョンで、強奪や破壊行動防ぐ意味でもゴブリンを引きつけようと思います。
引き付けて逃げながら戦闘してると思います。  
 

[4] ジーン・ズァエール 2017/12/22-20:54

俺の方はそれで問題ねえ。むしろ戦力にならないならそういうところで使ったほうが効率がいいってもんだ  
 

[3] コーディアス 2017/12/21-16:51

シャーマンのコーディアスとパートナーのルゥラーンです。
どうぞよろしく。

僕は自警団と行動して、人を守る方をメインに動こうかとちょっと考えてる。
自警団の皆には被害に遭ってる村人の避難誘導を頼んで大丈夫かな?
どのくらい人数がいるか分らないけど、彼等にも手を貸して貰えたらと思ってるよ。
注意点は、
彼等には守り固めて貰って、ゴブリンに遭遇しても戦う事は考えなくていい、て言っておきたいかな。

避難できたら僕も戦闘に専念する。
という感じを考えてるよ。

それとゴブリン退治した後は、火消しの手伝いと翌日ゴブリンの残党チェックに洞窟も行く必要があるかなと思ってる。
強奪品とかあれば回収もしたい。  
 

[2] ジーン・ズァエール 2017/12/20-10:29

オッス、挨拶が遅れたがヒューマンでウォーリアのジーンだ。よろしくな

ありきたりな結末をお望みならやる事は一つ。ありきたりな殲滅だ
ガイドを見るに敵の要はウルフライダーみてぇだから、そいつを相手しようと思う