寸劇をやってみよう(春夏秋冬 マスター) 【難易度:とても簡単】




プロローグ


 舞台があった。
 数十人のお客を相手にするような、小規模な劇場の舞台だ。
 その舞台の上に、設置されているのは2人がけのソファ。
 その上に、20歳そこそこの女が横たわっている。
 頭は、同じ年頃の男の膝の上に乗り、どこか潤んだ瞳で見つめていた。
「どうした?」
 男は、静かに呼び掛ける。
 返事はない。代わりに求めるように、あるいは切なげに、女は手を伸ばす。
 男の頬に、指先が触れる。
 いや、僅かに届かない。
 お互いの熱が届きそうなほど近くに。けれど決して触れ合うことなく、断絶は確かに横たわる。
 それを埋めるように、女は声を上げた。
「ねぇ、熱いの……」
 ねだるようなその声に――

「はーい。カッート」

 舞台監督はダメ出しをする。
「おいおい、お前ら全年齢向けの舞台だって、分かってんのか?」
 脚本を丸め、ポンポンと肩を叩いている監督に、今まで演技をしていた男女は返した。
「分かってますよ。でもさ、自由に演技してみろって言ったのは、そっちでしょ?」
 僅かにはだけた胸元のボタンを留めながら返す女に、監督は応える。
「自由に演技しろとは言ったけどな、限度があるっつうに。どこまで突っ走るつもりだ、お前ら」
「そうは言ってもね、お題がお題だし。誘惑するスレイブと主人の演技って言われてもね」
 肩をすくめるように返す男に、監督は言った。
「ちょいエロな感じに、お客さんを楽しませて。時にコメディ調で、あるいは少し切なく。場合によってはイチャラブで。こっちのリクエストとしちゃ、そんな感じだが?」
「もうちょい、まとめません?」
 男の言葉に、監督は返した。
「即興の自由劇。これがウチの売りなんだから。毎回同じのじゃ、お客さん飽きるだろ? 公演ごとに、ちょくちょく変えるぐらいで良いさ」
「そうは言ってもね。こっちが考えられるパターンっていっても、限度があるわよ」
 軽くため息をつく女に、監督は言った。
「そうか? 自分のスレイブに協力して貰って、色々と考えるとかあんだろ?」
「あのね、監督。アタシ、女なんだけど?」
「別に良いじゃねぇか。誘惑ってのは、相手に自分を見て貰いたいってことなんだから。そこに性別もスレイブも人間も関係ねぇよ。誰もが同じさ」
「OS1つで、性格とか変わっちゃっても、ですか?」
 男の言葉に、監督は肩をすくめるように返す。
「んなもん、普段はお硬いヤツが、酒飲んで笑い上戸になるようなもんだろ。人間とスレイブってのは、言っちまえば種族が違うんだ。その辺りの違いは、異種族コミュニケーションってヤツだな」
「異種族かぁ……言われてみれば、そういう所あるかも。うちの子だと普段の生活、ほぼ人間と変わんないから、その辺忘れちゃうんですよ」
「日常生活じゃ、それほど違いを意識するようなことはないからな……あっ、その手があったか」
 男の言葉に返しながら、監督は何か思いついたのか声を上げる。
 それに女は問い掛けた。
「何か思いついたんですか?」
「ああ。普通の一般生活じゃねぇ、ちょいと色々と特殊な生活してる冒険者とスレイブだと、どうかなって思ったんだよ。そういう層に、スレイブと誘惑ってテーマで演技して貰ったら、どんな風に演じてくれるのかと思ってな」
「演じるって、素人の人に出来ますかね?」
 男の問い掛けに、監督は笑いながら返す。
「その辺はこっちがフォローすれば良いさ。向こうの望むシチュエーションに合わせて、小道具も何もかも用意するし。それにあくまでも、お客さんに見せる前のサンプル集めってだけだしな。しかしそうなると、シチュエーションは幾らかこっちで用意した方が良いかな?」
 色々と考え始める監督に、苦笑し合う男と女だった。

 それから数日後。
 ギルドを介して依頼がありました。
 内容は、演劇のサンプルにしたいので、スレイブと誘惑をテーマで劇をしてみて欲しいという物でした。
 劇に必要ならば、小道具や背景のセットなどは、可能な限り用意するとの事でした。
 劇のシチュエーションは幾つか用意するようですが、それ以外でやってみたいシチュエーションがあれば、それに合わせて小道具や背景などを作ってくれますし、役者の人も出してくれるとの事でした。
 この依頼に皆さんならば、どう応えますか?


解説


状況説明

スレイブと誘惑をテーマに、劇をしてみて下さい。
スレイブがPCを誘惑するでも、逆に主人であるPCが誘惑するのでも、どちらでも構いません。

また、誘惑がテーマだとプランを書き辛いという場合は、イチャラブやほのぼのとした感じの物をプランに書いて頂いても達成度は下がりません。

舞台は、数十人程度が周囲を囲める広さの半円形をしています。

シチュエーション

以下のようなシチュエーションが提案されています。

1 新しく買った大胆な服を見せる
2 夜。2人きりの部屋で誘惑
3 料理を食べる

上記を少し手を加える形で、色々と寸劇をされるのも自由です。



1 服をお店で選ぶシチュにして、色々と選ぶ内に際どい物に。最初は戸惑う感じだったけど、段々とからかったりする感じで大胆に。
2 想い出語りをしながら、これからも一緒に居ようと言葉を交わし、最後は一緒に添い寝。
3 外で食事をして、そこでイチャイチャして家に帰り、帰った家で手料理をして貰いながら、更にイチャイチャ。

このように色々とアレンジを加えて寸劇をされるのも自由です。

上記以外でも、こういうシチュで寸劇をしてみたい、というのがありましたら、劇団の全面バックアップにより、舞台の上でセットを作ってくれます。
また、音やエキストラ役でも協力もしてくれます。

例 お店を舞台にしたいので、背景と店員役のエキストラを出してくれるなど。

ただし小規模の劇団なので、極端に大規模な物は難しくなります。

成功度に関しては、全員が何らかの寸劇を行えれば成功以上になります。

頂いたプランの量によっては、多少アドリブが入る場合があります。
その場合は、少女漫画チックな感じになる可能性が高くなります。

以上です。
それでは、ご参加をお待ちしております。


ゲームマスターより


おはようございます。もしくはこんばんは。春夏秋冬と申します。

解説の方でも書いておりますが、頂いたプランが少ないと少女漫画チックな感じにアドリブが入る可能性が高くなります。

もしくは、イチャイチャな感じに、なったりする場合もございます。

また、誘惑がお題として出されていますので、ちょっとえっちな感じにプランで書いて頂く事も可能ですが、割とマイルドな表現になる場合もございます。

それでは、少しでも楽しんで頂けるよう、判定にリザルトに頑張ります。




寸劇をやってみよう エピソード情報
担当 春夏秋冬 GM 相談期間 7 日
ジャンル ロマンス タイプ ショート 出発日 2017/11/23
難易度 とても簡単 報酬 少し 公開日 2017/12/3

コーディアスルゥラーン
 デモニック | シャーマン | 23 歳 | 男性 
ルゥがこの寸劇に興味を持った
コ「君が僕を誘惑?(まさかだろ的な笑み
ル「自信、ありますよ?
コ「へぇお手並み拝見

劇団さんと打合せ
2番を元に舞台は夜の寝室
主人を眠らせる為にスレイブが奮闘するコメディ


明日の仕事の為にもと就寝を促したら
まだ眠くないんだよと彼が言う
ならば私が夢の世界へいざないましょう


じゃじゃん
もこもこの羊の着ぐるみでルゥが登場
羊パフォーマンスで眠らせる為奮闘するも裏目に


接触して二人ベッドに倒れ込む(事故
暫く見つめ合いコーディがもこもこ撫で
これ優しいな
彼女を抱き枕に


彼が眠った
よい夢を

終了後
ル「本当に眠っていました?
コ「も、もこもこが良かったんだよ!
ル「眠れない夜は用意しますね ふふ
是呂零鈴
 ケモモ | ナイト | 35 歳 | 男性 
零鈴が興味を示した
僕は報酬が出るならまあ…と了解

寸劇
マスターは私におしゃれを楽しめと言ってくれました
でも私だっておしゃれなマスター見たいんです
だーかーらー逆野球拳はっじまるよー!

え?!

野球するならこういう具合にジャンケンポン
ルールは勝ったら好きな服を負けた方に着せる事ができる

僕は負け続け彼女の選んだ服でどんどん立派に
マスターカッコイーと未だ下着姿の彼女は楽しそうだ
目のやり場が
羞恥心も限界だ
この状況を脱するには勝つしかない
気合のジャンケン
勝った!ガッツポーズ

着替えたドレス姿の彼女に息を飲む
頬を染め似合いますかと聞くから
しどろもどろにいいんじゃないかと答えたら手を取られ 折角です!ダンスしよ!

参加者一覧

コーディアスルゥラーン
 デモニック | シャーマン | 23 歳 | 男性 
是呂零鈴
 ケモモ | ナイト | 35 歳 | 男性 


リザルト


○依頼の始まりはスレイブから
 その依頼を【コーディアス】が受けることになったのは、彼のスレイブである【ルゥラーン】が切っ掛けだった。
「コーディ、面白い依頼がありますよ」
 ギルドの掲示板。
 そこに張り出された依頼書の1つを見て、ルゥラーンは弾んだ声を上げる。
「面白い依頼?」
 依頼書を覗いてみれば、そこに書かれていたのは寸劇のサンプル募集。
 誘惑をテーマに、3つのシチュエーションが提案されている。
 内容を確認して、コーディアスは苦笑するように問い掛けた。
「確かに面白いと言えば面白いけど、依頼内容はちゃんと見てる?」
 苦笑しながら問い掛けるコーディアスに、ルゥラーンは自信を込めて返した。
「ええ、ちゃんと見てますよ。お芝居の中ですけど、誘惑してあげます」
「君が僕を誘惑?」
 まさか、とでも言うようにコーディアスは笑みを浮かべた。
 これにルゥラーンは、僅かに拗ねるように返した。
「自信、ありますよ?」
 美しい大人の女性といった姿のルゥラーンだが、スレイブであるので実年齢は見た目と同じという訳でもない。
 どこか子供のように、幼い一面も覗かせる。
 そんな彼女に苦笑しながら、コーディアスは返す。
「へぇ、お手並み拝見だね」
 そしてどこか遊ぶような気持ちで依頼を受け、2人一緒につれだって、依頼主の居る劇団へと向かった。

 彼らのように、この依頼に興味を持った冒険者とスレイブが、同じように掲示板の依頼書を見ていた。

「マスターマスター! これ、この依頼受けてみませんか?」
【是呂(ゼロ)】は、自分のスレイブである【零鈴(レイリン)】に袖を掴まれ引っ張られながら、掲示板の前までやって来る。
「そんなに袖を引っ張らなくても付いていくよ。で、どんな依頼なんだ?」
 内容を確認し、是呂は悩むように眉を寄せる。
「こいつは……報酬が出るから、まぁ良いけど……やってみたいのか?」
「はい、マスター! やってみたいです!」
 意気込んで楽しそうに口にする彼女に、是呂は苦笑しながら返す。
「なら、いいか。それで、演じてみたいシチュエーションはあるのか?」
 これに零鈴は少し悩んだあと、笑顔で返した。
「マスターが選んでください! マスターがやってみたいのを、私もしてみたいです!」
 期待感を顔に浮かべ、プレゼントを待ちわびるかのように零鈴は是呂の言葉を待つ。
 そんな彼女に、是呂は悩んだあと応えを返す。
「そうだな……服選びのシチュエーションでどうだ? 必要な物は用意してくれるみたいだから、好きな服を用意してくれるぞ」
「好きな服、ですか?」
 不思議そうに聞き返す零鈴に、是呂は柔らかな笑みを浮かべ返した。
「ああ、そうだ。僕は、金が無いからお前さんに大した服を用意してやれないからな。折角の機会だ。おしゃれを楽しむと良い」
「おしゃれを楽しむ……」
 零鈴は、是呂の言葉を受け入れるような間を開けると、花が咲くような晴れやかな笑顔を浮かべ返した。
「はい、マスター! 一緒に楽しみましょう!」
「ああ、そうしてくれ」
 是呂は苦笑しながら、零鈴が思っていることが微妙に自分の考えている事とはズレている事に気付かないまま、依頼人の居る劇団へと向かった。

 そこでは、すでに先に訪れていたコーディアスが劇団員と挨拶をしていた。
 是呂は同じように劇団員と挨拶をすると、コーディアスとも挨拶を交わし、その後にそれぞれが劇の内容を詰めるために個別で劇団員と話し合う。
 そうして話は終わり、それぞれの劇の幕が上がっていった。

○眠れぬ夜に可愛い羊
 劇場の照明は落とされ、舞台だけに明かりが広がる。
 シチュエーションは、夜の寝室。2人きりでの、誘惑。
 ルゥラーンが提案を行った劇が、いま始まった。

「コーディ。まだ寝ないんですか?」
 ベットに腰かけ、武器の手入れをするコーディアスに、ルゥラーンが呼び掛けた。
 コーディアスは手を休めずに、視線だけ合わせて返す。
「夜は長いんだ。少しぐらい、いいだろう?」
「ダメですよ。明日の仕事に差し支えます。しっかり休んで下さい」
「休めと言われてもね。まだ眠たくないんだ」
「眼が冴えているんですか?」
「ああ。眠るには、惜しい気がするんだ」
「寝ないのも、勿体ないですよ。ひょっとしたら、良い夢が見られるかもしれないじゃないですか」
「良い夢か……見れるかな?」
「なら、私に任せて下さい。夢の世界へいざなってあげましょう」
 2人の台詞は流れるように、途切れることなく続いていく。
 あらかじめ決められた脚本は無い。
 道筋となる設定をルゥラーンが創り、そこにコーディアスが合わせる即興劇。
 主人を眠らせる為にスレイブが奮闘するコメディを、2人は演じていく。
「少し、待っていてくださいね」
 ふわりと、コーディアスの傍に寄り添うように近付き、囁くように言う。
「いつもと違う私を、見せますから」
 どこか蠱惑的とさえ言える微笑みを浮かべるルゥラーン。
「誘惑ってこういう事ね」
 夜の寝室で2人きり。
 そのシチュエーションで囁きかけてくるルゥラーンに、コーディアスは苦笑するように返す。
「期待してました?」
「さあね」
 視線を合わせ、笑みを浮かべ合う2人は、そっと離れる。
 そして舞台袖に、ルゥラーンは離れた。
 衣装を着替えに行ったのだ。
 コーディアスが待つことしばし。
 待っている間に、手入れをしていた武器を置き、ベットで横になっている。
 そこに軽快な、テンポの良い曲が流れる。
 それに合わせ、ルゥラーンは現れた。
「さぁ、覚悟して下さい、コーディ。眠らせてあげますから」
 じゃじゃん! という曲の締めくくりと共に現れた彼女は、着ぐるみ風のもこもこ羊パジャマを着ている。
 着ぐるみで、というリクエストだったが、動き易さを考えて劇団員が用意した物だ。
 くるぶしまであるワンピースタイプのパジャマは、ふわふわもこもこが増量された加工がされている。
 頭も同じくもこもこで、綿の詰まったフェルトで作った角が付いたフード製。
 それを被った状態で、ルゥラーンはベットで横になったコーディアスの元に。
 ベットのすぐ傍まで近づくと、しゃがみこむ。
 そして横になっているコーディアスに向けて、ぴょこぴょこ顔を上げ、リズムカルに呼び掛ける。
「羊が1匹~羊が2匹~」
 ぴょこぴょこぴょこぴょこ繰り返し、一言。
「眠れますか?」
「寝れないよ!」
 コーディアスは起き上がり、続けてツッコミを入れる。
「もぐら叩きのもぐらじゃないんだから! 鬱陶しくてハンマー欲しくなる!」
 そっと、劇団員が用意したオモチャのハンマーを手渡すルゥラーン。
「痛くしないで下さいね」
「なんで持ってんの!」
 それをコーディアスが取り上げると、ルゥラーンは立ち上がり子守唄を。
 眠って大地に還る的な歌詞の子守唄だった。
「それ死んじゃう唄ー!」
 ツッコミ全開なコーディアス。
 そこに畳み掛けるルゥラーン。
 ぴっと手を上げ劇団員に合図。
 その途端、ドンドコ重低音な音楽が。
 音のリズムに合わせて踊り出すルゥラーン。
「眠くなるでしょう?」
「ならないよ!」
「ゆだねて下さい。すっと意識が遠のきます」
「それ眠気じゃなくて生気吸われるヤツだよ! 永眠させる気か!」
 そう言うと、ルゥラーンの踊りに対抗するように、キレのある踊りで返した。
 酒場のダンサーだけあって、彼の踊りには華がある。
 その踊りに、ルゥラーンは自分でも気づかぬ内に合わせながら、一言。
「眠くなりませんか?」
「逆効果だよ!」
 段々と賑やかに、2人の踊りは激しさを増していく。
 コーディアスは余裕を見せて、ルゥラーンは段々とついていけなくなる。
 それでも無理をしてついていこうとしたルゥラーンは、体勢を崩してしまう。
(危ない!)
 意識するより早く、コーディアスはルゥラーンを引き寄せて、崩れた体勢のままベットに2人で倒れ込む。
 その途端、音楽は止まり、全ての音が消え失せる。
 静寂の中、2人は抱き合うようにしてベットの上に横たわっていた。
 2人とも、返すべき言葉は浮かばない。
 自然と、お互いを見つめ合うように視線を重ねるだけ。
 自分を見詰める一途なルゥラーンの眼差しに、コーディアスは意識せず想う。
(一生懸命で、可愛いな)
 その想いに促されるように、自分の懐に収めるようにルゥラーンを抱き寄せた。
 恋のような高鳴りは無く、けれど心を落ち着かせる確かさを胸に、コーディアスは目を閉じた。
 そんな彼に寄り添うように、ルゥラーンは優しく囁いた。
「好き夢を」

 かくて2人の劇は幕を下ろす。
 劇が終わり、ルゥラーンはコーディアスにだけ聞こえるように囁く。
「本当に眠ってました?」
「も、もこもこが良かったんだよ!」
「なら、眠れない夜は用意しますね」
 じゃれ合うように、劇が終わっても言葉を重ね合う2人だった。

 こうして一つ目の、コーディアスとルゥラーンの寸劇は終わる。
 少し休むような間を開けて、次は是呂と零鈴、2人の寸劇が始まった。

○お洒落をするのはアナタのために
(なんでこうなった……?)
 舞台の上でパンツ1枚な是呂は、冷や汗をかくような気持ちで焦っていた。
 向かい合う零鈴は、にこにこ笑顔。
 これから行う寸劇が、楽しくて楽しくてたまらないというような、良い笑顔だった。
 ただし下着姿で。
 今の零鈴は、ピンクのキャミソールにペチコートな下着姿なのだ。
(目のやり場に困る)
 劇団員が居る前でも、人目もはばからず平然とした彼女の様子に、是呂は焦るしかない。
 なんでこんな事になっているかと言えば、零鈴が提案した寸劇に原因があった。
 寸劇の内容を決める際、劇団員と話し合っていた彼女は、屈託なく言ったのだ。
「マスターは私におしゃれを楽しめと言ってくれました」
 これに是呂は、最初は微笑ましい気持ちで返していった。
「ああ、言ったな。折角の機会だ。楽しむと良い」
「はい! でも私だけが楽しむのは嫌です。マスターも楽しんでください!」
「僕も? 別に、そんなの気にしなくても」
「でも、私だっておしゃれなマスター見たいんです」
「おしゃれって、僕の? 見たいのか?」
「はい! 見たいです! だーかーらー、逆野球拳やりましょう!」
「…………え?」
 そこからは、あっという間だった。
 あれよあれよという間に、是呂は服を脱がされパンツ一枚で舞台に上げられて。
 舞台の袖に一端隠れるようにして離れた零鈴は、次に姿を見せた時には既に今の下着姿だった。
 かくして2人きり。
 舞台の上で今、下着姿でいるのだ。
(どうすればいいんだ、これ)
 焦り続ける是呂の前で、零鈴は元気よく劇の始まりを告げた。
「逆野球拳はっじまるよー!」
 その声を合図に、軽快な音楽が響く。
「マスター、はじめますよー」
「え、あ、うん」
 零鈴の勢いに引っ張られ、是呂はなし崩しに合わせていく。
 軽快な音楽に合わせ、リズムカルに音頭を取りながら、逆野球拳を開始する。
「じゃんけんぽん!」
 力み過ぎてグーを出した是呂に、零鈴はチョキを出して初戦は勝利。
「やったー! 勝ちました!」
 勝ったのが嬉しくて、ぴょんぴょん跳びはねる零鈴。
「待った! 落ち着いて! その姿で跳びはねるのはマズい!」
 心配しなくても際どいことにはならないのだが、焦りまくっている是呂は落ち着くどころではなかった。
 そんな彼とは対照的に、零鈴は楽しそうな表情を浮かべ、舞台に用意された幾つもの衣装を眺めていた。
 いま舞台の上には、ずらりと衣装が掛けられた大部屋の背景が設置されている。
 設定は、劇団衣裳部屋。
 だからどんなシチュエーションにも対応できるような、様々な種類の衣装が掛けられていた。
 それを目を輝かせながら見詰めていた零鈴は、まずは白無地にプリーツ飾りのついたシャツ、タック・ブザムを手に取り是呂の元に。
「マスター、どうぞ!」
 手渡されるも、普段着なれない服に戸惑う是呂。
「マスター、お着替え手伝ってあげますよ」
「いいよ! 1人で着れるから大丈夫!」
 慌てて着替える是呂。
 それを見ている零鈴は、嬉しそうに笑顔を浮かべている。
「マスター、もっともっと、おしゃれにしてあげますね」
 勢い込んで零鈴は言うと、再び逆野球拳を開始する。
(もう負けられない!)
 心の中で意気込む是呂だが、そのあとに続けて4連敗。
「次はこれですー」
 零鈴は、シャツの次はズボンだと言わんばかりに、黒のトラウザートを手渡し。
 革のベルトで止めれば、次は足回り。
 黒無地の靴下に黒の皮靴を選んでみせる。
「まだまだですよー、マスター」
 3つ目に選んだのは、シャツの上に着込む黒のベスト。
 そこに黒の蝶ネクタイを、是呂が身に着けるのを手伝う。
 最後の4つ目は、黒のジャケット。
 零鈴がコーディネートしたのは、夜の宴に出ても大丈夫なタキシード姿。
「マスターカッコイー! カッコイーです!」
 着飾った是呂の姿に、零鈴は嬉しさを溢れさせるように跳びはねる。
「だから、跳びはねたらダメだって!」
 下着姿で跳びはねる零鈴に、是呂は目のやり場に困る。
 羞恥心も限界に達し、これ以上は負けられないと、意気込みじゃんけんを。
(この状況を脱するには勝つしかない!)
 気合のジャンケン。その結末は、続けて出したグーで勝つ。
「勝った!」
 思わずガッツポーズ。
 けれど次の瞬間、うろたえる。
(うっ、女の子の服なんてわからんぞ)
 言葉もなく、期待感いっぱいの眼差しを向ける零鈴に、焦る是呂。
 けれど早く、下着姿から服を着せてやろうと必死に探す。
 そして見つける。
 フリルやリボンをあしらった、青が深いイブニングドレス。
(これだ!)
 セットになって付いていた、ドレスと同色の靴と共に手渡す。
 零鈴は、それを大事そうに受けると、はにかむように言った。
「マスター。着るの、手伝ってくれますか?」
「え、あ、ああ、分かった」
 ドギマギしながら手伝って、その姿に息を飲む。
「似合いますか?」
 頬を染めながら言う零鈴に、是呂はしどろもどろに応える。
「い、いいんじゃないか」
 その言葉が何よりも贈り物だというように、零鈴は嬉しそうに笑顔を浮かべる。
 是呂は見惚れるように、言葉もなく見詰めていた。
 そんな彼の手を、零鈴は取り、元気良く言った。
「折角です! ダンスしましょう! マスター!」
 その呼び掛けを合図にするように、音楽が響く。
 そしてゆっくりと照明が落とされると、舞台の上だけに、やわらかく明かりが集まる。
 黒のタキシードと青のイブニングドレス。
 やわらかな明かりの中で、お互いを引き立てあうように、寄り添っていた。
 身体を預けるのではなく、むしろ振り回すような勢いで、零鈴は是呂と踊っていく。
 零鈴に翻弄されるような気持ちになりながら、それを拒まず受け入れるように、是呂は踊っていった。
 そして零鈴は笑顔を浮かべ、是呂を見詰めながら言った。
「これが、私の色なんですね」
 その笑顔に、是呂は心を揺らめかす。
 けれどそれが何なのか自覚できないまま、微笑みを浮かべ返した。

 こうして冒険者たちの寸劇は終わりを見せる。
 監督が気に入って、2人の寸劇を元にして劇をするというぐらい、好評だった。
 スレイブとの関わり合いを深めながら、しっかりと依頼を成し遂げた冒険者達だった。



依頼結果

大成功

依頼相談掲示板

[1] ソルト・ニャン 2017/11/13-00:00

やっほにゃ~ぁ
挨拶や相談は、ここでお願いにゃ~!
みんなふぁいとにゃにゃ~  
 

[3] コーディアス 2017/11/22-21:55

僕はコーディアス。
パートナーはルゥラーン。
どうぞよろしく。  
 

[2] 是呂 2017/11/22-15:30

よろしくお願いします。
是呂と零鈴です。