神の手に掌握された村を調査せよ(春夏秋冬 マスター) 【難易度:普通】




プロローグ


 とある酒場。
 かつて冒険者をしていたというマスターが開いているここは、誰が来ようと代金さえ払えば拒まない。
 そして、ここで見聞きしたことは、外にはもらさないという暗黙のルールがある。
 秘密の隠れ家めいた、その酒場のカウンターに、1人の男が大剣を傍らに置き、静かにホットミルクを飲んでいた。
 そこに、1人の美しい女が声を掛ける。
「おにーさん。奢ってくれない?」
 涼やかな、耳に心地良い声だった。
 人懐っこい表情をしている。
 そんな女に、男は返した。
「久しぶりだな。セパル」
「そうだね、ウボー。5年ぶりだし」
 女の名はセパル。幻覚の能力で黒曜石のように艶のある角を隠したデーモンである。
 男の名はウボー。かつてセパルと組んで冒険者をしていた、今ではディナリウムに属するヒューマンだ。
 現在、神の手と自称する秘密組織に雇われる形で協力しているセパルだが、昔の仲間であるウボーにその情報を伝えるためにここに来ていた。
「手を組みたいらしいな?」
「情報を横流ししたいだけだよ?」
 セパルはウボーに返しながら隣に座る。
 それに合わせ、カルアミルクの入ったグラスが前に置かれた。
「うわ、ボクの好み覚えててくれたんだマスター。嬉しい」
 無言でグラスを出したマスターは、笑みを浮かべるように目を細めると、無言のまま2人から離れた場所でグラスを磨き始める。
 セパルは笑顔でグラスを掲げ礼を返すと、口当たりが良く甘みの強いカルアミルクを一口。
 それを見ていたウボーは、問い掛けた。
「お前、何が目的だ?」
「ひどーい。久しぶりに会った仲間に、もう仕事の話?」
「お前が話を持って来たんだろうが。お前から情報を得るのは良いが、その対価を無視は出来ん」
「ん~、ま、そだね。あいつらが持ってる本を一冊、手に入れたいんだ」
「何の本だ?」
「危険はないよ。個人的な想い出に関わる本だし。前に教えたでしょ? ボクの最初の友達の話。その子が書いた本を、あいつらが持ってるらしいんだ」
「なんでそんな本を、持ってるんだそいつら」
「歴史の資料本としてだよ。大分前に書かれた物だからね。あの子は想い出をまとめる日記みたいなつもりで書いたんだろうけど、今だと当時のことが書かれた資料本としての価値があるから」
「危険は無いんだな?」
「うん。約束するよ」
「……分かった。なら、お前はその本を手に入れる隙を作るために、俺に情報を流す。そういう事で良いんだな?」
「うん。それであいつらを掻き回してくれれば、そっちに気を取られてボクが漁る隙が出来るだろうからね」
「それで、今だと、どんな情報があるんだ?」
「マッチポンプで掌握された村の1つが分かったよ」
 村を襲い、それを助けることで恩を売りつけ浸透する。
 それにより小さな村が知らずに掌握されているのだ。
「ヤクザみたいな事しやがるな」
「性質の悪さは、それ以上だと思うけどね」
「それで、どこにある村だ」
「ん? 直接案内するよ」
「どういうこった?」
「冒険者を雇いなよ。その子達を村にまで案内するから。そこで何をされてるのかを、調べて貰うから」
「俺じゃ、ダメなのか?」
「自由に動けるの? なんか色々と食い込んでるみたいだし、神の手。それなら、自由な冒険者に助けて貰った方が良くない?」
 これにウボーは、考え込むような間を空けて返す。
「……確かにな。状況証拠や、お前だけの情報で、こっちを動かすのは難しい。まずは冒険者に頼んで、確証のある情報を得てからでないと無理だろうな」
「じゃ、そういう事で頼むね」
 そう言うと、セパルは更に一口、カルアミルクを楽しんだ。

 そんなやり取りがあった数日後。
 冒険者が秘密裏に集められました。
 ある村で神の手が暗躍しているようなので、実態を探って来て欲しいとの事でした。
 案内役には、セパルという名のデーモンが協力するとの事でした。
 この依頼、アナタ達なら、どうしますか?


解説


状況説明

30人ほどの小さな村で暗躍する神の手の動向を調べて下さい。

村は、森を切り開いて出来ています。
中央に広場があり、それを囲むように7軒の家。村の外れには炭焼き小屋が。
村人の構成は、大人が28人。子供が2人。
炭焼きをして生計を立てている村です。

セパル

基本、PC達の意見に従います。

幻覚の能力で、PC達の姿や声を知覚できないようにして、神の手が喋っている内容を判別できるほど近寄ることも可能。
この能力を、この規模で使用中のセパルは攻撃力はゼロになります。
この状態でも、攻撃などの積極的な行動を取ると、次のターンからは気付かれます。

成功条件

神の手が村で行っている事の情報収集を一定以上行えれば成功以上になります。

PL情報

村には5人神の手が訪れています。
1人は、アイドル衣装に身を包んだ少女です。
その少女が、オーパーツのマイクを使って村の広場に集めた村人の前で歌います。
それを聞いた村人達は、一時的な洗脳状態になります。

神の手の目的は、村人を実験台にしたオーパーツ実験です。
マッチポンプは、人目に付かず扱い易い実験場の確保が目的でした。

村に訪れ探ると、上記のことが分かります。

具体的な流れとしては、

1 セパルの案内で村の近くに訪れる。
2 神の手が広場で村人達を集め歌を披露しているのが分かる。
3 村人達の様子から、洗脳状態になっているのが分かる。

という流れになります。この流れの中で、どういう行動を取るかをプランにてお書きください。

オーパーツによる洗脳のPCへの影響は、セパルが途中から気付いて幻覚の能力を利用して防ぎます。

その他

今回のエピソード結果により、次に関連するエピソードの内容が変わってきます。
具体的には、他の村の警戒に当たる神の手が増えたり、セパルが協力しているのがバレて殺しにかかるので、セパルから流される情報が減るなどが起り得ます。

以上です。
それではご参加をお待ちしております。


ゲームマスターより


おはようございます。もしくはこんばんは。春夏秋冬と申します。

今回のエピソード結果で、次に出させて頂くエピソードを変えていこうと思っています。

では、少しでも楽しんで頂けるよう、判定にリザルトに頑張ります。



神の手に掌握された村を調査せよ エピソード情報
担当 春夏秋冬 GM 相談期間 7 日
ジャンル 冒険 タイプ ショート 出発日 2017/11/19
難易度 普通 報酬 通常 公開日 2017/11/29

コーディアスルゥラーン
 デモニック | シャーマン | 23 歳 | 男性 
事前
セパルと顔合わせ よろしく、頼りにさせて貰うよ
村では姿見られない様に気をつけていて欲しいとお願いしておこう
今後も情報もたらして欲しいからね

引き時を話しておきたい
情報収集終えたら皆と合流し撤退したい

着いたら
建物に潜みつつルゥを従え村に潜入

広場
神の手の奴ら5人判別しとく

洗脳疑惑持ったら
奴ら同士の会話を盗み聞き
不穏なワードやこの村人達を利用後どうするのかの情報収集

歌詞に人名や指示的なフレーズないかな
村人達の状態も観察
攻撃的か従順的かで目的は違いそうだ
これらの情報も収集したい

バレたら撤退優先
ジョブレゾナンスして退路の確保に動きたい

報告
メモを渡し
洗脳の体験感覚を話す
スレイブのルゥとは差異があるのかな
ジーン・ズァエールルーツ・オリンジ
 ヒューマン | ウォーリア | 18 歳 | 男性 
行動可能になったらアイドル女を調べる。何者か知らねえが洗脳してるのを見る限り間違いなく奴らの要。調べれば何かしらの情報は手に入るはずだ

こちらから接触しなければバレないというから、できる限り接近してアイドル女について回り、能力や武装、普段の行動や護衛の有無。居場所、今後の予定など可能な限り情報を収集
指示している人間がいるならそいつも調査対象だ。危険度を確認して、危険じゃなさそうな方をルーツに任せる
必要な情報を手に入れた後。全員集合したのを確認したら撤退

バレたら神の手達を迎撃しながら撤退。その際可能なら敵の一人(最優先はアイドル女。無理ならモブ)を拉致。退避先で尋問等をして情報収集をする
アンネッラ・エレーヒャトゥルー
 エルフ | メイジ | 16 歳 | 女性 
心情
以前は曖昧な立場だったセパル様と協力とは…本当に何が起こるか分からないものですわね
知りたかったマッチポンプの理由も知れたことですし、神の手の計画の邪魔を出来たらいいのですが…さて、上手くいくのでしょうか

目的
神の手行っていることの情報収集
セパルの護衛

行動
隠密行動…緊張しますが、セパル様の力を信じて頑張りましょう
近寄りすぎには注意して、もし気付かれてしまった場合に備えて【マグネクト・ロック】の準備だけしておきます
最後、攻撃範囲ぎりぎりで【ミスフォーチュン】を…攻撃判定にならなそうであればですが

引き上げるタイミング
声を掛けられたまたは危険を察知して声を掛けた時

バレた時の対処
セパル様の護衛メイン

参加者一覧

コーディアスルゥラーン
 デモニック | シャーマン | 23 歳 | 男性 
ジーン・ズァエールルーツ・オリンジ
 ヒューマン | ウォーリア | 18 歳 | 男性 
アンネッラ・エレーヒャトゥルー
 エルフ | メイジ | 16 歳 | 女性 


リザルト


○掌握された村を目指せ
 依頼人に指定された人気のない森の外れ。
 そこに訪れた冒険者達の前に、デーモンであるセパルが現れた。
 幻覚の能力を使い、本来の姿が分からないようフードつきのローブ姿をしている。
 事前にセパルから情報提供がある事を知らされていた冒険者達は、驚くことなく対応した。
「よろしく、頼りにさせて貰うよ」
 油断なく、けれど警戒されないよう自然体で【コーディアス】はセパルに呼び掛ける。
 彼に寄り添うように居るのは、スレイブである【ルゥラーン】。
 2人とも村人が普段着ているような、暗色で揃えられた服を身に着けている。
 村を偵察する際に、少しでも神の手に気付かれないよう、そして万が一バレた際に逃げ易くするためだ。
 そうした用心深く考え行動することが出来るコーディアスは、セパルに続けて言った。
「村に行ったら、姿を見られないように気を付けて欲しい。協力していることがバレたら、大変だからね」
 これに【ジーン・ズァエール】は賛同する。
「後々のことも考えれば、それが良いだろうな」
 セパルの事を本音では胡散臭く感じているジーンだが、依頼なので表には出さず協力的な態度を見せている。
(できれば今すぐここで戦いたい所だが、まずは依頼をこなさないとな。まぁ、後で殲滅すれば良いことだ)
 彼の傍らには、スレイブである【ルーツ・オリンジ】が控えるように居る。
 執事服姿な彼女は、柔和な笑顔を浮かべながら、いつ何があってもすぐに対応できるよう体勢を整えていた。
 そんな冒険者達にセパルは頷く。
 そこから更に、村に行った際の行動を詰めていくために話し合う。
「現地に着いて、誰が何を調べるかは決めておこう」
 コーディアスが皆に提案する。
「僕は村に着いたらルゥと一緒に、家屋に潜みながら待機しておこうと思う。問題は、適度な建物があるかだけど」
 続けて、ジーンが言う。
「どこまで近づけるかで、変わってきそうだな。聞いた話じゃ、幻覚の能力を使えば近くに寄っても大丈夫という話だったが、実際はどうなんだ?」
 これにセパルは、攻撃をすれば次の瞬間には気付かれるが、そうでなければ話が聞けるぐらい傍に寄っても大丈夫と返した。
 これを聞いて、話は実際の情報収集をどうするかに移る。
「調べるとしたら、神の手と村人、両方だな」
 ジーンの言葉にコーディアスが続ける。
「僕は、調べた情報はルゥに伝えて、メモに取って貰うつもりだよ。神の手の会話を出来るだけ聞き止めて、村の人達の様子も調べておこうと思う」
 これにジーンは返す。
「スレイブと分担して情報収集するのは良いな。俺もルーツと分担して、出来るだけ情報を探ろう。俺は特に、神の手のリーダ格が居ればそれを。それ以外でも目立つヤツが居れば、そいつを探ろうと思う」
 ジーンの言葉に、コーディアスは返した。
「僕も神の手を探ろうと思うけど、ジーンさんも神の手を探るなら、先に村人から情報収集をしようと思う。その後に、僕も神の手を探るよ」
 役割分担を、それぞれ口にする。
 そんな中【アンネッラ・エレーヒャ】は、自分がやろうと思うことを口にした。
「でしたら私は、セパル様の護衛に就こうと思いますわ。幻覚の能力が途切れたらいけませんし、なにかあった時に、セパル様がすぐに対処できるとは限りませんもの」
 これを聞いて、セパルはきょとんとしたように固まってしまう。
 けれどすぐに、楽しそうにクスクスと笑い出す。
「あらあら、何が楽しいのかしら?」
 頬に手を当てながら、アンネッラのスレイブである【トゥルー】が問い掛ける。
 普段はアンネッラを見守るように一歩引いているトゥルーだが、今は身体を張って守るように前に出ている。
 そんな彼女にセパルは返した。
「ああ、ごめん。くすぐったい気持ちになっちゃったんだ」
 そう言うと、アンネッラに身体を向けて言った。
「守ってくれるんだ。ありがとう。嬉しい」
 礼を言うと同時に、セパルは自分の姿を隠していた幻覚を解き、黒曜石のような角が側頭部から生えている以外はヒューマンの女性と変わらない姿を露わにする。
 そして言った。
「守ってくれるなら、ボクもそれに返さないとね。本来の姿がバレないよう幻覚の力を使ってたけど、今回は止めとくよ。その分の余力を、村人や神の手からキミ達が気付かれないようにする分に回すから。これで、すぐ近くでちょっとぐらい大きな声で喋っても気づかれないように出来るよ」
 セパルの申し出に冒険者達が訝しむと、彼女は返す。
「守ってくれるって言ったからだよ。本音を言うとね、ボクを利用できるだけして、情報を絞り獲れるだけ取ってから不意を突いて殺す。ぐらいのことを考える子が来るかな~とかも思ってたんだ。でも守るって言われちゃうとね。違う意味で不意を突かれちゃったよ。お蔭で楽しくなっちゃった。だから、その分、お返しをしようと思っただけさ」
 セパルの言葉が、どこまで本音かは分からない。
 だが冒険者達が村を探る際、更に有利になったのは事実。
 そこから更に、調査がバレた際の対処も話し合う。
「バレたら、即時撤退をしよう。その時は、退路の確保に動くよ」
 コーディアスの言葉に、ジーンは返す。
「賛成だ。ただ、可能なら神の手の1人でも捕虜として確保したい所だな」
 これを受け、アンネッラも撤退に賛同し、事前の話し合いは終わる。
 そしてセパルの先導により、村へと向かって行った。
 その道中、アンネッラはセパルに話し掛ける。
「一つ訊いても良いですか?」
「うん。良いよ」
 理由も中身も問う事なく、セパルは頷く。
 勢いを付けるような間を開けて、アンネッラは問い掛けた。
「セパル様は、情報収集をどうしているのですか? 色々と集めているみたいですけれど」
「一番良いのは、仲良くなることだよ」
「仲良く、ですか?」
「うん。その次が騙すこと。最後が力尽くだね」
 最後の答えに、僅かだが表情が強張ったアンネッラにセパルは続ける。
「最後の力尽くは、正直お勧めしないよ。ノイズが多すぎるからね。暴力から逃れるために関係ない事まで喋られたら、それが本当かを確かめるのに時間も労力も使っちゃう。だから口先三寸、話術で情報を引き出すのが一番の方法さ」
「そう、それですわ」
 アンネッラは勢い込んで訊き返す。
「私は、そういう話術的な話が聞きたいんです」
「なら、大丈夫。今も出来てるよ」
 不思議そうに見つめるアンネッラに、セパルは返す。
「相手の話を聞いてあげること、それが何よりも大切な事さ」
「聞いてあげること、ですか?」
「うん。話し易くするための努力と言っても良いかもしれないね。結構大変だよ、これ。だって相手が何を考えて何を望んでいるのか、まずは知ろうとしなくちゃいけないんだから」
「難しい、ですか?」
「うん。だって、知りたくないことも、時には知ろうとしなくちゃいけないからね」
 すぐには言葉を返せないアンネッラに、セパルは言った。
「世界は善と悪で出来てるんだ。綺麗な物と汚い物、どちらも本物さ。キミは好奇心が強いみたいだけど、気を付けなよ。何かを知るという事は、それの影響を受けるってことでもあるんだから。でもそれを受け入れなきゃ、知りたいと思う事に近づけないけどね」
 アンネッラは、返すべき言葉に詰まる。
 そんな彼女に、セパルは安心させるように言った。
「でも、キミは大丈夫。だって、独りじゃないもの。そうでしょ?」
 最後の言葉は、アンネッラに寄り添うように連れ立って進むトゥルーへのもの。
 トゥルーは言葉を返すことなく、頷くように視線をセパルと合わせ、アンネッラの言葉を待つように静かに黙していた。
 そうして進む間に、目的の場所に辿り着く。
「着いたよ。あの村が、神の手に掌握された村だよ」
 セパルの視線の先に、小さな村の入り口があるのが見えた。

○村にて神の手の企みを調査せよ
「少し前から幻覚の能力は使ってるから、少しぐらい好きに動いてもバレないよ」
 セパルの言葉を受け、冒険者達は村へと進む。
 可能な限り村人にも気づかれないよう村の外れに、まずは移動。
 そこには炭焼き小屋があり、情報収集を終えればここに集まることを決め、それぞれが動き出す。
「じゃ、行って来るよ」
「はい。お気をつけて」
 コーディアスはルゥラーンに薙刀を預け、村の広場を目指す。
 そこでは何故か、村人達が集まっていた。
 2人が直前まで隠れていた家屋から広場までは、スレイブの機能が停止し始めるギリギリの距離。
 その距離を見極めながら、村人の動向を探るべく近付く。
 村人達は何かを談笑しているが、家屋に隠れながらでは内容は分からない。
 やむを得ず、更に距離を詰める。
 今のコーディアスの服装ならば、仮に見つかっても他の村人だと誤魔化すことが出来る。
 だからこそ仲間の冒険者達よりも先に前に出たのだが、村人は一切気付かない。
 明らかにコーディアスの居る場所に視線が向いた村人も居たが、全く反応が無かった。
 それを見て、他の冒険者達も本格的に動く。
「俺は可能な限り前に出る。神の手が来たら危険度が高そうな奴は俺が調べるが、そうでない奴は任せる」
「はい。任せて下さい」
 ジーンに言われ、ルーツは意気込む。
(今回は調査メイン。ボクだって、役に立てることがある筈だ。マスターのためにも頑張らないと)
 意気込んでいるのは、アンネッラも同様だ。
「緊張してる?」
 どこか張り詰めた様子で村人を見詰めるアンネッラに、トゥルーは問い掛ける。
「大丈夫ですわ。何かあればすぐに神の手に対処できるよう、用意はしていますもの」
「それは最後の手段よ」
「……そうでしたわね。でも、村の人達を放っておく訳にもいきませんわ」
 正義感が強すぎるせいで、アンネッラは村人を助けたいという気持ちが強い。
 それは村人を直接前にして、彼らのことを思いやる気持ちが強くなり過ぎたのだろう。
 だがそれを受け止め、押し留めるようにトゥルーは言った。
「落ち着きなさい。今回は駄目よ? ……我慢して、ね?」
「……ええ、分かっていますわ」
 トゥルーの言葉に、アンネッラは自分を落ち着かせるように息をつくと、セパルの護衛として出来るだけ距離を離れないようにしながら、周囲の情報を探っていった。
 そうして冒険者達が探る中で、幾つかのことが分かる。
(知らないからとはいえ、随分と神の手に好印象を持っているんだな)
 村人の会話から、コーディアスは判断する。
 襲われた所を助けられ、信頼しているようだ。
 そして村の警護と慰問も兼ね、たびたび訪れては歌を歌っているらしい。
 今日も来るからと、広場に集まり出迎えの準備をしていたようだった。
(そろそろ来るらしいけど、その前にルゥに情報を伝えないと)
 何が役に立つ情報か分からないため、村人の会話を可能な限り聞き取りまとめ、建物で待機しているルゥラーンに伝えに行く。
 メモに書き終わった所で、神の手がやって来た。
 村人が歓待する様子から、やって来たのは神の手だと分かる。
 そこで真っ先に接近したのはジーンだった。
(5人か。他には居そうにないな)
 周囲を確認してジーンは判断する。
 神の手の内、4人は騎士めいた姿。中央の1人を警護するようにして広場に近付いていく。
(あの姿は偽装のつもりか? それに守られてる、あの女は何だ?)
 ジーンは、左右に2人ずつ、騎士姿の神の手を連れているアイドル姿の少女を見て訝しむ。
(騎士姿のヤツらの位置取りが、どう見ても警護のそれだ。重要人物ってことか?)
 ジーンは、すぐ近くで一緒に移動しても気づかれないことから、危険度は少ないと判断しルーツを呼ぶ。
「ルーツ、俺はアイドル姿の女を重点的に調べる。残りはさっき言ったように、お前に任せる」
 声を潜ませながらルーツに言うと、即座に情報収集に動く。
 離れて行ったジーンに、ルーツは少しでも役に立てる所を見せようと騎士姿の神の手を調べる。
(全員の動きが整ってる。訓練された動きだ)
 明らかに強いのが動きで予想できる。
(これだけ強そうなのに守られてるってことは、重要人物なのかな?)
 気になってアイドル姿の少女を見れば、その近くで油断なく見聞しているジーンの姿が目に入る。
(……変だな?)
 アイドル姿の少女を見詰めるジーンを見て、じわりと胸の奥から、もやもやとした気持ちが湧き上がる。
 けれどそれが何なのか自覚できない。
 それを振り払うように、ルーツは騎士姿の神の手の調査に集中した。
 一方ジーンは、アイドル姿の少女を油断なく見聞し続ける。
(こいつ、なんだ?)
 傍で見ているだけでチリチリと肌を焼くような焦燥感が滲んでくる。
(強いな、こいつ)
 騎士姿の神の手よりも、更に歩く際のブレが少ない。
 軽やかな見た目と動きでありながら、恐ろしいほどに安定感がある。
 そうしてジーンが間近で見聞しているのに対し、コーディアスは少し離れた場所から全体を俯瞰して見聞する。
(村の人達に、今すぐ危害を加える感じじゃないな)
 村人の安否を気遣い、神の手の動向を見ていたコーディアスは判断する。
(村の人達も警戒心がまるでない)
 屈託なく神の手と会話を交わす村人に、ざわりと焦燥感が湧く。
 警戒心の無い小動物が、獰猛な肉食獣相手に気付かずじゃれているような光景であるからだ。
(早くどうにかしないと。その為にも、こいつらを調べないとダメだな)
 コーディアスは、神の手の姿や動き、そして会話を可能な限りルゥラーンに伝えていく。
 そうして村人の安否を気遣うのは、アンネッラも同じだ。
(何かあれば、すぐに動けるようにしないといけませんわね)
 村人の近くに移動しながら、神の手の動きを探っていた。
 こうして冒険者達が探る中、神の手は動きを見せる。
 アイドル姿の少女が、歌を披露すると言い出したのだ。
 村人は待っていたというように喜ぶ。
 神の手の意図が読めず訝しむ冒険者達の前で、アイドル姿の少女が歌い始めた。
 それは、ありふれた詞と曲の歌だった。
 アイドル活動が活発なディナリウムで、少し前に流行った歌。
 特別でも何でもない筈のその歌は、するりと冒険者達の心の内に入り込んだ。
 そしてゆっくりと、心の中に融け込んでいく。
 やがて意識すら出来ないほど自然に、陶酔めいた心地好さに沈んでいった。
 もっと。もっともっと、この歌を聞いていたい。
 餓えるような気持ちに堕ちようとした、その寸前で、異変を察したセパルが幻覚の能力を使い歌の影響を断つ。
 冒険者達は、歌が聞こえなくなる。
 その状況にあっても、まだどこか酩酊じみた感覚に囚われる冒険者達にスレイブ達が呼び掛けた。
「コーディ!」
 顔色を変え、ルゥラーンはコーディアスに走り寄る。
 建物に隠れていることを指示された彼女だが、大事な主の異変に傍に寄らずにはいられない。
 そんな彼女を安心させるように、コーディアスは返す。
「……大丈夫。心配しなくても良いよ、ルゥ」
 まだ僅かに残る酩酊感を振り払い、コーディアスは村人に視線を向ける。
 いま彼らは、どこか陶然とした表情で静かに佇むだけで、明確な意識があるようには見えない。
 コーディアスが状況の見極めをしている間に、トゥルーはアンネッラに呼び掛ける。
「大丈夫? 変な所は無い?」
 普段は見せない慌てた様子で、トゥルーはアンネッラに呼び掛ける。
 いつもは保護者役としてアンネッラを見守っている彼女だが、今はその余裕はない。
 そんなトゥルーをアンネッラは安心させたくて、無理をしてでも笑みを浮かべ返した。
「心配ありませんわ。少し眩暈がしただけですもの」
「本当に? それなら良いのだけど……一体、どうしてそんなことに?」
 トゥルーの言葉に、傍に居たセパルが返した。
「チャームみたいな魅了系の魔法、かな? それに近いことをしてるみたいだ。あの神の手の子」
 セパルの視線の先に居るのは、アイドル姿の少女。
 セパルの幻覚で歌そのものは聞こえないが、今も歌っている事は分かる。
「スレイブは、その手の特殊な魔法に強いから影響は受け辛かったんだろうね。ただ、そうでない子は影響を受けたみたいだ。ちょっと、あの子は掛かり過ぎたみたいだね」
 そう言ってセパルは、ジーンに近付く。
 アイドル姿の少女のすぐ近くに居たジーンは、ルーツに必死に呼びかけられていた。
「マスター! マスター大丈夫ですか!」
 その呼び掛けに、頭痛を堪えるように眉を寄せていたジーンは小さな声で返す。
「……騒ぐな。すぐ元に戻る」
「でも……」
 心配するルーツ。
 そんな2人を誘導し、セパルはアイドル姿の少女から離す。
「なんなんだ、一体……?」
 まだ酩酊感が抜けきらずイラついた声を上げるジーンにセパルは言った。
「歌を媒介にした魅了系の魔法っぽいヤツの影響を受けたんだよ。ただ、ちょっとおかしいんだけどね」
「どういうことですか?」
 アンネッラの問い掛けにセパルは応えた。
「歌ってる子が魔法を使ってる感じがしないんだ。本人は、ただ歌ってるだけって感じだし」
「待った。少し黙って」
 セパルの言葉を遮り、コーディアスが止める。
 その視線は、アイドル姿の少女に向いている。
 彼女は歌を止め、それまでの明るい笑顔を消した冷淡な表情で口を開く。
「今回の実験は、ここまでだ。記録を開始しろ」
 アイドル姿の少女の命令で、騎士姿の神の手が動く。
「状態3に移行しています。今までと同じく、脈拍などに異常は見られませんが意識を喪失しています」
 村人達の様子を観察し、騎士姿の神の手は報告する。
 そこでアイドル姿の少女は更に指示した。
「意識喪失状態の継続時間を計れ。異常があればすぐに知らせろ。マッチポンプまでして手に入れた実験場と実験台だ。末永く使えるよう、持たせないとな」
「……なんてことを」
 正義感の強いアンネッラが怒りの声を上げる。
 マッチポンプが人体実験場の確保のためだと分かり憤っているのだ。
「駄目よ、今は」
 前に出そうになったアンネッラを、トゥルーが止める。そしてセパルも言った。
「いま動いたら、下手をすると村人を人質に取られるよ。大丈夫。あとで依頼人に、その辺りも解決できるように頼んでおくから」
 トゥルーとセパル、2人の言葉に憤りを飲み込み押し留まるアンネッラ。
 一方ジーンとコーディアスは、再び神の手を探ろうとするがスレイブ達が心配するように声を掛ける。
 そんなスレイブ達を安心させるようにセパルが言った。
「今はボクの能力で影響を受けないようにしてるから大丈夫。それでも心配なら、マテリアルチェインをすると良いと思うよ。歌の効果に個人差が出たのは、魔法の防御とかの関係があったんだろうし。マテリアルチェインをしていれば、その辺りの抵抗力も高くなるからね」
 その言葉を受け、ジーンとコーディアスが動く。
(指示してるってことは、こいつらの要ってことだな)
 ジーンは、アイドル姿の少女と、その傍で護衛のように控える騎士姿の神の手の1人に近付き会話を聞き取る。
「しかしオーパーツにしては地味ですね、それは」
 騎士姿の神の手の言葉に、アイドル姿の少女は手にしたマイクを見ながら返していく。
「地味だが、効果は魅力的だ」
「短期的な洗脳は、確かに魅力的ですね。ですが効果範囲が狭いですし、スレイブや魔法防御の高い者には効き辛いのが問題です」
「それは本体の方に期待しよう。なに、子機のこれを解明すれば、本体の効果的な運用も出来るようになる」
「この先の実験次第ですね。それだけに、次回から実験を引き渡さなければならないのが悔やまれます」
「あいつらも手柄を横取りされたくないのだろう。幹部の活動に協力できるよう間に合わせたいようだしな」
「本体の影響範囲が広ければ、邪魔者が出たとしても止めることが出来ますし、役には立つでしょうね」
(こいつら……)
 今すぐにでも殲滅したい気持ちを抑え、ジーンは会話から情報を得ていく。
 それはコーディアスも同様だ。
「オーパーツの使用者以外の命令は、今まで通り利かないようだな」
 村人に幾つか命令し、反応が無い事を神の手は手帳に記していく。
「反応も無し。前回と同じく、意識喪失状態で動きが止まるだけか」
「あとは効果時間だな。回数を重ねるほど効果時間が長くなっているから、今回は20分近くこのままだろう」
(自分達の思い通りに動く手駒を入れるための実験か? 奴隷にも兵士にも、やりたい放題だろうしな)
 神の手の会話をまとめ、コーディアスはルゥラーンに伝えていく。
 その一方で、コーディアスが聞き取りきれない神の手の会話を、ルーツが記録していた。
 残る村人達の反応を、アンネッラが1人1人丁寧に記録していく。
(ごめんなさい。きっと、後で助けが来ますから)
 アンネッラは、今すぐ村人を助けたい気持ちを抑えながら、神の手の目論見を砕くために情報収集に集中した。
 そうした情報収集が、20分ほど過ぎた頃、村人の様子が元に戻る。
 村人は意識が無い状態の記憶がないのか、最初に神の手を迎え入れた時と同じく、笑顔で会話を重ねる。
 その様子に胸を傷めながらも、冒険者達は情報収集に徹していた。
 やがて神の手は、その場を去って行く。
 そして神の手が居なくなった後の、村人の様子も冒険者達は記録していく。
 見た限りでは、オーパーツを使われた後遺症が残るといった様子は見られない。
 そうして村人と神の手からの情報収集が終われば、コーディアスの提案により、最後に村自体に何らかの仕掛けが施されていないか手分けして調べる。
「見て回りましたけれど、特に何も見つかりませんでしたわ」
 集合場所の炭焼き小屋に集まり、アンネッラが皆に報告すれば、コーディアスとジーンも返す。
「僕も、ルゥと手分けして調べてみたけれど、何も見つからなかったよ」
「俺もだ。少なくともこの村は、オーパーツの実験場以外には使ってない可能性の方が高いな」
 こうして冒険者達による情報収集は終わりを見せる。
 冒険者それぞれが、情報収集の担当や役割を決め動いたことが功を奏し、かなりの情報が集まった。
 もしそういった部分が無ければ、集められる情報は少なかったに違いない。
 しかし大量の情報を手に入れ、確実に依頼を果たす冒険者達であった。



依頼結果

大成功

依頼相談掲示板

[1] ソルト・ニャン 2017/11/09-00:00

やっほにゃ~ぁ
挨拶や相談は、ここでお願いにゃ~!
みんなふぁいとにゃにゃ~  
 

[9] アンネッラ・エレーヒャ 2017/11/18-23:51

私はセパル様の護衛をメインで動きます。
ばれなければ特に何をしなくてもいいと思いますが、安全第一で行動したいと思いましたので…。  
 

[8] コーディアス 2017/11/18-15:45

意見ありがとう、感謝するよ。

>引き上げるタイミング
情報得られたら仲間と合流して皆揃ったら撤退する。
こんな感じにしておこうと思うよ。

>バレた時
僕は退路の確保を気をつけておくよ。

>セパル
姿見せない様に、だね。プランに入れておく。
彼、本を探してる様だけど、それは自分で考えて動くだろうからこっちで何かする必要はなさそうだね。

>村人が殺されない様に
今、そこまでの事態になる可能性は低そうには僕も思うけど、
そうだね、利用した後の村人の対処をどうするつもりなのか、そこらへんの情報掴めるように動いてみるよ。

僕の予定
洗脳状態についてあれこれと村人の処置について主に調べてみようと思う。  
 

[7] ジーン・ズァエール 2017/11/18-09:27

●引き上げるタイミング
俺も声かけで問題ねえと思うから、普通に引き上げる段階になったら声かけ合えばいいんじゃね?
もしくは時間と落ち合う場所を決めて、集まったら撤退とか

●バレた時の対処
敵の本丸に居座っても無意味だから逃げるの一手だな
まあ可能なら、奴らの一人でも拉致ろうかとも考えてるが

●セパルへの指示
今後の事を考えるとコーディアスの指示通りで動いてもらうほうがいいな


ついでに、今更だが俺の行動内容を言っておく
俺はアイドルの女を重点的に調べる予定だ。そいつがリーダーなのか、またはそいつに指示してる奴がいるのかとか知らねえが、少なくとも今後俺達が動く上で重要な情報を握ってる可能性が高いからな  
 

[6] アンネッラ・エレーヒャ 2017/11/18-01:33

引き上げるタイミング
攻撃をしなければ、見えることも声が聞こえることもないので普通に声掛けをしていけばよろしいのではないでしょうか?

バレた時の対処
セパル様の護衛をするという風に考えておりました。
今後の行動の情報収集を考えましてもセパル様の技能は重要です。
攻撃は出来ないので、私たちが警戒に当たりつつ移動すれば良いかと思われます。

セパル様への指示
コーディアス様のおっしゃることで十分だと思います。

村人が殺されないように情報だけ手に入れて村の奪還に備えるのかと思っておりました…掌握できている村が多くは無いと見受けられますので、しばらくはその拠点を捨てようとは思わないと推察しますわ。  
 

[5] コーディアス 2017/11/17-02:27

改めてよろしく。

えーと、僕も隠密業務は初めてで、ちょっと自信ないけど頑張るよ。

取りあえずこれを決めておく必要あるかな?

・引き上げるタイミング
・バレた時の対処
・セパルへの指示

十分情報収集できたと思ったらハンドサインでOK確認しあって撤退とか、
バレた時は即逃げるとか、(オーパーツのマイク奪って逃げるとか?)
セパルについては今後も情報もたらして欲しいから姿見せない様にしてくれ、
とか思うけど。

気になるのは、村人このままにして大丈夫なのかって事かな。
口封じに殺されるとかないのかな…。
もし、そういう話を奴らがしてたら、神の手は捕縛に予定変更してもいいのかな。

皆の意見聞けると嬉しいよ。  
 

[4] アンネッラ・エレーヒャ 2017/11/14-23:46

ごきげんよう。エルフでメイジのアンネッラ・エレーヒャと申します。
神の手との戦闘はしておりますが、隠密業務は初めてで緊張しております。
皆様、よろしくお願いいたします。  
 

[3] ジーン・ズァエール 2017/11/13-11:28

オッス。ヒューマンでウォーリアのジーンだ。今回はよろしくな  
 

[2] コーディアス 2017/11/12-14:03

こんにちは、僕はシャーマンのコーディアス、パートナーはルゥラーン。
どうぞよろしく。

まずは挨拶に止めとく。
人、集まってくれるかな。