プロローグ
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故郷と家族--。
冒険者の一人がスレイブを連れてディナリウム王国第二の都市「デュオポリス」にある酒場を訪れている。
駆け出しの冒険者である冒険者は依頼を一つ見事にこなし、それで手に入れた金でスレイブとともに祝い酒を楽しみに来たのだ。
あなたは、早速、酒場のおすすめの上等のサーモンのステーキとキノコのサラダ、それに普段より1ランク上の酒を頼み、相棒のスレイブと愉快なひとときを過ごした。
「ああ、酒がうまいな~。国の父ちゃん達にも飲ませてやりたいぜ」
軽く酔いが回ってきた冒険者は、ついそんな事を口にした。
「父ちゃん?」
スレイブはきょとんとして目を瞬く。
魔法生命体である彼女には、父ちゃんとか母ちゃんという概念が普通の人間ほど発達していない。
「ああ、そうか。お前にはまだ俺の故郷や家族の話はしたことがなかったんだったな。聞きたいか? 俺の話」
「聞きたいわ! あなたのことならなんだって!」
酒や食事の味はよく分からなかったあなたのスレイブは目を輝かせて身を乗り出して来た。
冒険者は可愛い相棒に対して自分の故郷や家族の生い立ちを語って聞かせる。
自分はどんな生い立ちだったのか、どんな家に生まれ、どんな経験をし、どんな人間関係を築いてきたのか--。
スレイブは何度も頷きながら、その話を聞いていた。
解説
シチュエーションは必ずしもこうでなくても構いません。
冒険者が自分の故郷、家族、生い立ちなどをあなたのスレイブに語って聞かせるエピソードになります。
冒険者といえど人の子。親もいれば兄弟もいて、そうでなくとも親代わりや家族同然の友人もいるでしょう。
そしてどんな都市、町、村に生まれたのか、どんな経緯があって冒険者になったのか--。
そうした事を語っていただくエピソードになります。
例
・「俺の兄ちゃんも冒険者だったんだけれど、初めて連れて行ってもらった冒険で俺が怪我をしてしまって、それで母ちゃんが心配して大変だったんだ。俺には父ちゃんはいないんだけど兄ちゃんが父親代わりで、母ちゃんはとても優しくて……」
などと、家族関係や友達関係の思い出を語る。
・「私の故郷の村では15歳になると村の人を家に招いてパーティをする行事があって、そのときに占い師を呼んで将来の事を占ってもらうの。私は自分の夢がかなうかどうかドキドキしながら聞いていたわ」
などなど、自分の生まれ故郷についての思い出を語る。
・「俺の生まれた町はエルシス王国の外れにあるんだが、ディナリウムとの戦いで壊滅的な打撃を受けたところに蛮族の襲撃をあって、滅ぼされた。俺は自分が喰っていくために剣を取り、冒険者になった……」
あるいは、自分の生い立ちに絡めて冒険者になった経緯などを語る。
色々あるかと思います。
冒険者のキャラを固めるような自由なプランを書いてください!
※字数はいっぱいの方が嬉しいです。
※5W1Hがはっきりしていると嬉しいです。
※素敵なプランをお待ちします!
ゲームマスターより
あなたはどんな町、どんな家に生まれ、どんな人間関係を築いてきたのでしょう。
あなたのスレイブは知りたいに決まっています!
あなたのルーツ~家族と故郷から エピソード情報
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担当 |
森静流 GM
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相談期間 |
8 日
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ジャンル |
日常
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タイプ |
ショート
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出発日 |
2017/11/10
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難易度 |
とても簡単
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報酬 |
なし
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公開日 |
2017/11/20 |
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空屋( シロア )
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ヒューマン | シーフ | 23 歳 | 男性
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夕方酒場の楽屋でステージに立つ為支度中 他のダンサー仲間もいて、なぜこの仕事するようになったのか?という話になった 「母が酒場の踊り子だった 家出して何で食っていこうかって考えたら『これ』だった 母の踊りを見てたからだろうな、習わなくてもステップが踏めた」
仲間が出番でルゥと二人になりぽつりと話す 「本当はこの仕事したくなかった…」 子供の自分を放って酒場で男と戯れるのが好きだった母 そんな孤独で辛かった思い出を話す
そんな母に食わして貰ってるみたいで皮肉だと笑えば 天職を見つけただけですよと彼女が笑む 確かにねと僕が笑う
呼び出しがかかり 「さて僕のお客を楽しませてくるか」 いい事言ってくれたルゥに頬キス 行ってくる!
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参加者一覧
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空屋( シロア )
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ヒューマン | シーフ | 23 歳 | 男性
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リザルト
●空屋(シロア)編
ある秋の日。
『空屋』はスレイブの『シロア』とともに大きな公園に訪れていた。
穏やかな風が吹く午後の時間の事で、銀杏並木の下を歩くと、足下から軽い音がした。
舗道に落ちた黄金色の銀杏の葉を自然と踏みしめてしまうのだ。
足下を見た後、空を見上げると、目も覚めるような青がどこまでも広がり、鰯雲が打ち寄せる波のようにかかっている。
空屋は空の眩しさに目を細め、ふと立ち止まった。
「空屋様?」
礼儀正しいシロアは一緒に立ち止まって主人の方を見た。
彼女はシロアが買い与えた真っ白なマフラーをストールのように肩にかけ、両手にも白い毛糸の手袋をはめていた。
後は秋らしい女の子の装いである。
そんな彼女はシロア第一の空屋から見れば、殺人的なほど可愛らしい。
「なんでもない。俺の故郷の秋と似ていると思っただけだ」
空屋は落ち着いてそう答えた。
肌寒い空気、高い空、美しい白い雲。
爽やかな空の下にどこまでも続く黄金色の銀杏並木。
そうしたものは、空屋の故郷にもあった。
「……帰りたいのですか?」
シロアはふと不安になって、空屋にそう尋ねた。
空屋は一瞬、沈黙した。
「いや。別に」
空屋は淡泊にそう答えた。
胸の中の呟きはシロアには隠している。
故郷に戻ったところで、そこにはシロアがいない。
シロアがいない世界で、楽しみながら人生を送れるとは思えない。
シロアは彼からその言葉を聞いて頬を緩め、嬉しそうに微笑んだ。
空屋はその表情に満足してから、舗道のしばらく先に移動販売の売り子が来ている事に気がついた。
温かい飲み物や軽食を売っているらしい。
「シロア。温かいものでも飲むか?」
「私はいいです。ですが、空屋様が欲しいならおつきあいします」
シロアは控えめに遠慮したが、空屋はシロアに何か買ってやりたい気分だった。
空屋はシロアを連れて移動販売の方へ向かった。
空屋は近づいて行くとその移動販売が、中華まんと中華スープ、それにウーロン茶の屋台であることが分かった。
ガラスケースの中に商品を入れて、空屋の知らない魔法の力でちょうどいい温度に温めているらしい。
流石、世界の中心ディナリウム。どんな食文化でも流通しているらしい。
「いらっしゃい」
「肉まんとウーロン茶、二つずつ」
空屋はさっと会計をすませると、シロアに熱い肉まんとウーロン茶を手渡した。
シロアは手袋を外して白い細い指を見せ、空屋から肉まんたちを受け取った。
「ふふ、あったかいです」
シロアは肉まんの紙がついている裏面とウーロン茶を自分の冷たい頬に当てて喜んでいる。
「そうか」
空屋はシロアの無邪気な仕草を目を細めて見つめた。
二人は並木道に置かれている近くのベンチに行き、二人並んで座った。
空屋はウーロン茶を飲みながら、またぼんやりと空を眺めた。
雲はいつまで見ていても見飽きない。
「空屋様。そういえば、式典では鰻の蒲焼きを食べましたね」
「ああ、そうだったな」
美味しそうに肉まんを頬張りながらシロアは楽しそうに話し始める。
「第二帝都の式典か……」
二人で様々な事を見て歩いたのだった。
シロアは鰻の蒲焼きを食べて、空屋の元いた世界に行きたいと言った。
それは無理な相談だと空屋は言っている。
そして、この見知らぬ世界でシロアがいてくれることに、本当に感謝したのであった。
人は異質なものを排斥するものである。
異世界人である空屋はそのことをよく知っている。
そのために、心が冷え切って凍えそうになったとしても、シロアは必ずそばにいる。
空屋の隣で笑っていてくれる。
だから、空屋は、己を取り戻す事が出来る。シロアが大切でならない。
「そういえばこの間は、村で移動販売もしましたね。楽しかった」
シロアは売り子の方を振り返りながら言った。
「なんだ。またやりたいのか?」
「次は観光客として行こうって話したじゃないですか」
村でのイベントが大盛り上がりだった事を思い出しながらシロアが言った。
「私は空屋様と一緒に異世界には行けないけれど、かわりに、この世界をどんなところでも一緒に巡って、色々なものを見たいです」
肉まんを食べて幸せそうに微笑みながらシロアが言った。
「そうか」
空屋は自分のペースを崩す事はなかった。
だが、非常にシンプルに嬉しいと思った。
「空屋様の故郷ってどんなところなのかな……」
この世界でパートナーであり、一緒に歩むのは自分だ。
シロアは無意識にそう思っているのだろう。
だがその一方で、空屋がどんな故郷で生まれ、どんな生い立ちだったのか、気にならない訳はない。
「知りたいのか」
「はい」
「そうだな……」
異世界であっても変わらない秋の青空。
眩しい光が降り注ぎ、銀杏の枯葉が舞い踊る。
空屋は少し息を整えた後、シロアに語って聞かせ始めた。
自分の故郷。
自分の記憶。
自分の想い。
傍らでシロアは軽く首を傾げ、耳を澄まして空屋の話を聞いている。
大切な主人のルーツについて……。
●コーディアス(ルゥラーン)編
ある秋の夕暮れ。
酒場のダンサーである『コーディアス』は、楽屋でステージに立つための準備中であった。
スレイブの『ルゥラーン』がその支度を手伝っている。
コーディアスはダンスショーのためにシャラシャラと音を立てるアクセサリーをふんだんに身につけ、露出度の高い衣装を着ている。
彼は鏡に向かってベースメイクを整えており、その後ろにルゥが回って、長髪を丁寧にとかし、髪飾りをつけて整えているところだった。
楽屋には他のダンサーの仲間達もいて、ひっきりなしに姦しくおしゃべりをしている。
コーディアスはその軽妙なやりとりに参加して、軽口を叩いていた。
「ねえ、あんたはどうしてダンサーになったのさ」
一人の女が顔に白粉をはたきながらコーディアスを振り返った。
「ええ……」
それまで攻撃的なぐらい活発に軽口を叩いていたコーディアスが口ごもったので、ルゥはちょっと驚いた。コーディアスの髪を整えていた手が止まる。
「話したくないならいいわよ」
何故かその女は勝ち誇った表情で鼻を鳴らしながらそう言った。
そういう態度を取られて嬉しい訳がないのでコーディアスは顔をしかめる。
ルゥはますます驚いて、首を竦めた。
「ん、なんでもないよ。別に話せない事じゃないんだから」
コーディアスはルゥの様子に気がついて取り繕うようにそう言った。
「マスターは踊るのが好きですから……」
ルゥはそう言いかけて、何が言いたいのか分からなくなってしまった。
「何、僕の事に興味があるの?」
「はい」
そこは即答するルゥであった。
「しょうがないな」
コーディアスは口元に笑みを作ると話し始めた。
女は、彼がスレイブを甘やかしている様子にほくそ笑んでいる。
「母が酒場の踊り子だった。家出して何で食っていこうかって考えたら『これ』だった。母の踊りを見てたからだろうな、習わなくてもステップが踏めた」
「そうだったんですか……」
ルゥはコーディアスが15歳の時からずっと一緒である。
するともう八年にもなる。
だが、彼のそれ以前の事については、あまりよく知らない事に、今気がついた。
ルゥ自身は彼の母親がいい仲になった軍人に買い与えられたものである。彼女は息子のコーディアスのお守りにルゥをつけたのであった。
「出番よー!」
すると楽屋の戸口から大きな声がかかえり、先程の女も含めて、仲間のダンサー達は一斉に立ち上がると出口に殺到していった。
コーディアスとルゥだけがその場に残された。
「本当はこの仕事したくなかった……」
人の気配がなくなった事を感じ取って、コーディアスは話し始めた。
ルゥだけが聞いている。
コーディアスの母は、子供の自分を放って酒場で男と戯れるのが大好きだった。
孤独で辛かった幼い頃の思い出を、コーディアスはぽつぽつと話し出した。
ルゥは黙ってその話を聞いていた。
コーディアスが話し終えると、ルゥは優しくそのピンクのサイドテールをなで上げた。
ルゥが大事に手入れをしてきた髪の毛。
コーディアスは苦い笑みを浮かべる。
楽しい思い出ではない。むしろ憂鬱になる記憶ばかりだ。
「奔放な母は子供の僕を放って毎晩酒場に行ってしまう。デモニックの母だ、色気を振り撒き男の気を引く事が何よりも好きで僕はいつも店の隅でそんな母を見ていた」
ルゥは彼の母親の美貌を思った。
コーディアスも魅力的なダンサーである。その母であるから、多くの男を虜にしたであろうことは簡単に予測できる。
その母の振る舞いをコーディアスはどんな想いで見守っていたのだろう……。
「そんな母に喰わして貰っているみたいで、皮肉だよ」
コーディアスはそう言って、頬を歪めて笑った。
「天職を見つけただけですよ」
ルゥは穏やかに笑ってそう言った。
彼は、コーディアスがどんなに踊るのが好きなのかよく知っている。
コーディアスが踊るのは、母のしがらみのためだけではない。
彼が思うままの人生を生きるためなのだ。
「確かにね」
コーディアスは笑ってそう答えた。
そこで戸口に人の気配がした。
「コーディアス! 出番だよ!」
「さて僕のお客を楽しませてくるか」
そう言われてコーディアスは素早く立ち上がる。
そして振り向きざまに、いい事を言ってくれたルゥの頬へキスをした。
「行って来る!」
敢然とコーディアスは顔を上げて笑い、ショーへと向かった。
楽屋からルゥはコーディアスのダンスを見守る。
軽やかなステップ。
うねる楽しい音楽に合わせて揺れる眼差し。
OSで簡単に性格をカスタマイズ出来るスレイブであるルゥは、彼の恋愛対象になることはありえない。
だが、その孤独に寄り添う事は出来る。
誰よりも彼のそばに行く事は出来る。
ルゥは楽屋の影、しかしどの人間よりも間近から、美しく舞うコーディを見守っていた。
彼は本当に踊る事が好きなのだろう。
そのステージを見守りながらルゥは想いを馳せる。
汗を飛ばしながら見事に踊る彼を見ていると、ディヘナの大通り公園で共に踊った時の事を思い出す。
あのときは、コーディアスは悪魔の執事のような黒い装い。ルゥは姫君のような真っ白な装いだった。
二人がパートナーである事を示す赤の差し色を纏い、神々に舞を捧げたのだった。
時には背中合わせにすれ違い。
時には恋仲のようにしなだれかかり。
くるくると踊り続けたあの時間。
コーディアスとともに同じ時間を共有した時の事。
神々の前、悪魔と姫の物語を紡ぎながら、踊り続けた。
コーディアスに言われるがままに彼の手を踏んで宙に飛び、彼の胸に舞い降りた時の事。
(ただ、私は、彼に思うままに生きて欲しいだけ。彼を見守っていたい……)
踊りの中では恋仲のように見えたとしても、二人はマスターとスレイブである事には変わりなく。
踊りが終わってしまえば、コーディアスは観客に向けてキスを投げる。
それでいいのだ。
踊りと言うのは、彼のプロとしてのステージなのだから。
(プロと言えば……)
ルゥはさらに思い出を振り返る。
ローラという娘とコーディアスのやりとりを思い出すのであった。
ブロントすくいで歌姫ローラに圧勝したコーディアス。
彼は、仕方なく歌うというローラに言った。
「僕はプロのダンサーだからね。仕方がないなんて気持ちで歌って、お金を払ってまで君の歌を聞きたいと思っているお客様に対して、失礼だとは思わないのかい?」
そのときのコーディアスの瞳をルゥはずっと覚えている。
「君は歌姫だと聞いている。ステージに立つのは、今回が初めてじゃないだろう?」
「ステージに立って歌った時、君は何を感じた?」
「君は怖くなったんだね。これだけの大舞台、大勢の人を相手にして、自分の歌が通用するのか、お客様に満足して貰えるのかと」
「そんなことないさ。僕は君の歌を聴いたことがないから何とも言えないけれど、それだけの価値があると信じて疑わない人は確かにいる」
「だ、誰だよ?」
「ラントさんさ」
「親父が……?」
「ライブは一人でやれるものじゃない。それなりの準備、お膳立てをする誰かが必要だ。もちろん、お客様がいないことには始まらないけれど、ラントさんの慌て振りを見れば、その心配もなさそうだ。それもこれも、ラントさんが君の歌の価値を信じて行動したからだと思うのだけれど……どうだろう?」
「それを決めるのは君じゃない。君が出来ること、やりたいことは歌うこと……そうだろう? 君の歌を聞きたいという人がいるんだ、存分に聞かせてあげればいい。もしそれに価値がないと思えば、人は離れていくよ。残酷なようだけど、そういうものだ。でも、それはそれでいいじゃないか? だからって、君は歌わずにいられるのかい? 歌いたいのか、歌いたくないのか、大切なことはただそれだけだよ」
それでローラは正気に返った。
あの後、観客達は人魚の歌声に酔いしれた。
逃げていた歌姫を取り戻したのはコーディアスの熱意とプロ意識だ。それは彼自身がプロのダンサーだったから出来た事。
その彼のステージを一番近くで見守る事が出来るのはルゥ。
彼の笑顔を一番近くで見る事が出来るのもルゥ。
(と、言っても。私の笑顔は……どう思っているんでしょうね、彼は)
ルゥはため息をついてしまった。
やはりパレードの時にひとしきり踊った後、コーディアスがルゥを褒めてくれた事があったのだ。
「ルゥがあんなに踊れるなんてびっくりしたよ」
「まあまあだね」
なんて言うから、ルゥはすっかり喜んでしまったのだ。
「もう少し可愛く笑えたら合格あげるんだけど」
そう言うからルゥは当然気にする。
「顔……硬かったですか?」
そう言って、顔を挟んで動揺したら。上品な笑みだとか言う。
「可愛いとは違うんですね? 可愛い笑みってどう……?」
ルゥは気にしているのに、ダンスで疲れ切っているコーディアスの方は寝落ちしてしまった。
(可愛い笑顔って……こうかしら?)
そんな彼を目の前にして一生懸命、顔の筋肉に力を入れて笑ってみたのに。
何も、あんなに笑う事ないと思う。
そこで目を覚ましたコーディアスはルゥを見て大笑いしたのだ。
「そんなに笑ってないで可愛い顔教えて下さい」
「ん? いいよ君はそのままで可愛いから……」
すっかり拗ねてしまったルゥにそんなことを言うコーディアス。
全く罪な男だと思う。
そういう彼の寝顔に向けたルゥの笑顔は本物だった。
やがてコーディアスのステージが終わった。
彼がこちらに戻って来るのを見ながら、ルゥは明日の食事の事を考える。
コーディアスの方が料理はうまいのだが、朝食を作るのは彼女の役割なのだ。
この間、寝ぼけた彼にベッドの中に押し倒された。
なんとかなだめて朝食を一緒にして。
ハムと卵焼きを上品に、でも勢いよく食べる彼。
味付けを教えてもらって。
あーん、で彼に食べさせてもらって。
朝食をすませて一緒に出かける準備をして。
冒険者ギルドに向かう。
いつも一緒。
踊る時も、戦う時も。
それが彼らの日常。だって、パートナーなんだから。
たとえそこに恋愛感情はなくても。
「驚いたんですからね。一体どんな夢を見ていたんです?」
「なんかよく思い出せないんだけど、たまによく見る? 的な……まぁ、悪くない夢だったよ」
ベッドの中で彼女を強く抱き締めながら、彼はそう言った。
(悪くない夢。……彼はどんな夢を見ていたのだろう)
ルゥは考える。
今この瞬間も、彼にとっては悪くない夢なのかもしれない。何故なら、彼女もそう感じる時があるから。現世は全て、うたかたの夢。夢から夢へ生まれ変わりながら、人は、思うままに生きる事を願う。
生きたいように、生きて欲しい。ルゥは切なる願いを抱きながら、彼に本物の笑顔を向けた。
依頼結果