石の城(三叉槍 マスター) 【難易度:普通】




プロローグ


●探検隊
「うっそだー! そんなん絶対わるわけないじゃん!」
「本当だって! 俺、嘘ついてないもん!」
 のどかな街の喧騒の中の一コマ。いつの時代も変わらぬ子供たちの他愛のない喧嘩話が聞こえてくる。
「お前、嘘だったらぜってー許さないからな」
「じゃあ、今から行って見てみればいいじゃん!」
 その内容も昔から変わらない。不思議なものを見た、見ない。嘘だ、本当だと、考える前に口だけで喧嘩するのが子供の特徴だ。
「わかった、じゃあ行ってみようぜ。場所どこだよ」
「いいよ、今から連れてってやるから」
 どうやらその少年たちは3人組らしい。顔を突き合わせて言い争いをしている二人に比べて、もう少しだけ冷静な少年がそ名をまとめるように意見を出し、それが採用されたようだった。
「で、場所どこだよ」
「こっち」
 少年たちは連なって街の道を走っていく。
 その道は街から離れ、危険な平原へと向かう道であったが、この三人の中にそれを気にする者はいなかった。

●石の城
「どうだ、凄いだろ!」
「おおー!」
 自分の者でもないのに自慢げな少年に対し、目を輝かせて感嘆の声を上げる二人。
 それは、いわゆる古ぼけた小さな遺跡だった。
 大人の足で二歩程度の広さに石造りの床が円状に敷き詰められ、その上には石柱が規則正しく並んでいる。
 そして、蓋をするようにこれも石造りの天井。
 まるで舞台か小さな闘技場を思わせるその遺跡は、子供たちにとっては格好の遊び場である。
「俺は勇者、マクラレンなり! 魔物よかかってこい!」
「勇者、隙あり!」
「あいたっ!」
 そして、近くに落ちていた枝を武器に見立て始まる勇者ごっこ。
「おっとっと……」
 そして、その他愛もない遊びの最中、バランスを崩した子供の一人が石柱に寄り掛かる。
「……ん?」
 手応えがおかしい。体を支える為に石柱に突いた手が石柱へとめり込んでいく。
「何だこれ?」
 よく見ると手がめり込んでいっているのではない。突いた場所の石材が柱の中へ引っ込んでいっているのだ。
 ――まるで、何かのスイッチのように。
『セキュリティモード発動』
「何だ!?」
「地震!?」
 地面から無機質な声が聞こえる同時に床が大きく振動し始める。
『ロック開始』
「うわぁ!」
 石柱と石柱の間の地面から突然無数の杭が勢いよく飛び出す。
 子供の腕が入るかどうかというほどの隙間だけ空けて生えたそれは、明らかに『檻』だった。
「何だ、これ! お前何したんだよ!」
「な、何もしてない! 本当に僕じゃない!」
『周囲警戒』
「うわぁ!」
 さらに追い打ちをかけるように地面が大きく揺れる。
 いや、揺れているというよりも、これは浮き上がっているという方が近い。
 少年たちが乗っていた地面は徐々に上に上がり、彼らを乗せたまま『それ』は立ち上がった。
『敵性存在を発見できません。潜伏の可能性』
 外見的なイメージで言えば石造りの巨大な亀、というのが最も近いだろうか。
 楕円形のボディに6本の足を生やし、そして背中にポツンと残る『檻』。
 一般的な物とはかなり形が異なるが、これはゴーレムだ。
『安全性が確保できるまで警戒モード。ランダムウォークを開始します』
 体には直線で構成された模様がぐるりと一周堀巡らされており、その溝をいくつかの赤い光が高速で走り回る。
 あれは一種のセンサーなのだろう。言わば彼にとっての目、である。
「うわぁぁ! こいつ、動いてる!」
「助けて、助けてぇぇ!」
『悲鳴を感知。警戒レベルを上昇させます』
 背中でワンワンと泣く少年たちを知ってか知らずか。そのゴーレムは魔術の目を光らせる。
 大切な『主人』を敵から守るために。

●報告
「子供たちが帰ってきてない?」
「はい、複数の母親からの報告が入ってきております」
 ギルドの責任者の元に受付の女性が報告する。
「複数人か……。単なる迷子だとは思うが、万が一という事もある。目撃情報などはないのか」
「それが、街の外へ向かうところを見た者がいるそうなんです」
「何!? それはいかん。なぜ止めなかった!」
「目撃者もまた子供でしたので……」
「ああ、くそっ……」
 思わず頭を抱える男だったが、すぐに気を取り直して指示を送る。
「夜になっては非常に危険だ。すぐに冒険者を向かわせろ」
「了解致しました。すぐ手配します」
 女性が頭を下げて手の空いた冒険者たちへ緊急依頼の文書を書き始める。
 彼らはまさか子供たちがゴーレムに囚われていようとは思いもしなかったのだった。








解説


●目的
子供達の救出

●敵
・大型ゴーレム ×1
 円盤型のボディに足を6本持つゴーレム。背中に少年3人を閉じ込めたまま無軌道に移動している。
 足の数が多い為安定性は高く、4本で体を支えて残る2本の足で攻撃なども行ってくる。
 少しなら跳躍も出来るようだが、その代わりにそれほど足は速くないようだ。
 常に周囲を警戒しており、現在は近付く者全てを外敵をみなす状態である。
 また、多少チャージ時間はかかるが、『目』に当たる部分から魔力を打ち出す事で遠距離攻撃も可能である。
 ボディは頑丈で、その足による単純な質量攻撃は結構な脅威である。


ゲームマスターより


こんにちは、三叉槍です。
閉じ込められてしまった子供たちの救出がミッションのエピソードです。
救出方法は問いませんので、是非とも子供達を助けたいという方はご参加下さい。



石の城 エピソード情報
担当 三叉槍 GM 相談期間 4 日
ジャンル 戦闘 タイプ ショート 出発日 2017/11/1
難易度 普通 報酬 通常 公開日 2017/11/11

コーディアスルゥラーン
 デモニック | シャーマン | 23 歳 | 男性 
事前に
母親に子供達の特徴等確認し仲間と共有しておく
目撃者の子供に情報を聞き込み捜索

発見したら
物陰に隠れつつ距離取って様子を伺い
子供達に「僕等は君達の捜索依頼を受けた冒険者だ」と伝えよう
経緯を聞き出して「起動スイッチ」情報得たい
ゴーレムに「僕等はその保護対象を傷つけない」「解放してくれ」等言って反応見ようか

ゴーレム対応
子供の安全最優先で動きたい
仲間と連携して助け合えたらいい

内外のスイッチ探し操作して起動停止を試みたい
ナナミさんがゴーレムの背に登るなら
僕が囮になりゴーレムの気を引こう
難しいなら僕が背に登る

起動停止したら子供達を救出し撤退
そうもいかないなら攻撃して動けない隙に救出するしかないか
ナナミ罪木
 ドワーフ | クレリック | 18 歳 | 女性 
基本的にコーディアスさんの行動指針に従うよ。
戦闘はしないで、子供達の奪還をできないか試みるようにするかな。
怪我したら、回復は私が担当して、がんばる。クラススキルを活用して回復したいな。

奪還の流れは、こんな感じ。
1子供達発見
2子供達に経緯を聞いて「スイッチ」情報を得る
3目を壊しゴーレムの背中へよじ登り狙う(私が登るよ)
4よじ登れたら子供達に中からの操作と外部スイッチ操作試す
5上手くいけば機能停止してその間に子供達救出し撤退
6上手くいかなければ…戦闘して機能停止に持ってく  

戦闘になったら、一応遠距離から攻撃を狙うよ。ただそんなに戦力にはなれない……と思うから、コーディアスさんのサポートをするよ。

参加者一覧

コーディアスルゥラーン
 デモニック | シャーマン | 23 歳 | 男性 
ナナミ罪木
 ドワーフ | クレリック | 18 歳 | 女性 


リザルト


●不審な音
「さて、と。目撃証言からするとこっちの方に来てるはずだけど……」
 行方不明になった少年たちの家族や目撃者たちの話をまとめたメモと地図を見比べながらコーディアスが呟く。
 進む道は街からは少し離れた平原の途中である。
 警護の目からは離れ、子供にとっては安全が確保されてるとは言い難い道である。
「本当にこの先に行っているとしたらちょっと危険ですね……。魔物も野生動物もいますから……」
 彼の後ろに付き従うように歩くのは彼のスレイブ、ルゥラーンである。
 頬に手を当てながら心配そうな表情で付近を見渡す。
 とりあえずそれらしい人影はない。これだけ広い平原で子供を探すのはなかなか大変そうだという感想を彼女は抱かざるを得なかった。
「時間制限付きのクエストだからなぁ。時間切れで失敗リザルトは見たくないよね」
 少しのんびりした口調で言うのはクレリックのナナミ。
「依頼の失敗は嫌ですけど、それ以上にナナミさんが怪我をするのは嫌ですからぁ。絶対気を付けて下さいよぉ……」
「分かってるって。相変わらず心配性だね、罪木は」
 自身の袖を引っ張りながら懇願するスレイブの罪木に軽い口調で返す。
「ま、今回の依頼は単なる捜索だし、大したことにはならないだろうし安心して大丈――」
「待って、何か聞こえない?」
 ナナミの楽観的な発言を遮ってコーディアスが指先を口元に当てて「静かに」のジェスチャーをした後、その切れ長な目を細めて周辺を見やる。
 ……――ズン。
 静まり返った平原に微かな重低音が響く。
「何の音でしょう?」
「そうだなぁ……。何か重いものが落ちたような音に聞こえるね」
 流石に少し緊張の色を深めてナナミが考察する。
「魔物、でしょうか」
「かもしれない。とりあえず手掛かりらしい手掛かりもない状況だし、行ってみようか?」
「賛成。せっかくのイベント、見逃す手はないしね」
 コーディアスの提案にナナミも乗る。
 かくして、4人は不審な音のした方へと駆け足で向かっていった。


●囚われの影
「――っ、とと! ストップストップ!」
「あたっ! 急になに?」
 先頭を走っていたコーディアスが制止の為に振った腕に思いっきり顔面をぶつけてナナエが恨めし気に睨み付ける。
「何かいる……」
「んん?」
 コーディアスが指差した方向を見やる。
「何アレ?」
「何だろうな?」
 二人して全く同じ感想を口にする。
 その視線の先にいるのは一言で言って巨大な岩の塊だった。
 小さめの小屋くらいの大きさはありそうな巨大な岩に数本の脚らしきものを生やし、がっちょがっちょと忙しなくそれを動かしている。
「あれはゴーレム、でしょうか? 自信はありませんが……」
「ああ、そうとう特殊な形状だな。あんなの見た事ない」
 とっさに物陰に隠れながらコーディアスがそっとのぞき込む。
 ゴーレムは人の作り出した魔力で動く石人形である。
 その行動原理は生み出した製作者によって定められており野生動物や魔物と違い、行動の予測ができない。
 決して人を攻撃しないよう命令を受けた安全なゴーレムかもしれないし、逆に近づく相手を攻撃するように設定されているかもしれない。
 止まっているものならまだしも、単体で動いているゴーレムに何も考えずに近付くのは非常に危険である。
 そう考えコーディアスは物陰に身を隠したわけであるが……。
「ねぇ、気のせいかもしれないけど、何か乗ってない、アレ?」
「え?」
 ナナミの言葉に引っ張られて改めてゴーレムの上をみる。
 確かに、何かがいる。
「あのぉ……アレ、3人いるように見えるんですけどぉ……」
 追い打ちをかけるようになされる罪木の報告。
 コーディアスは無言で自分で書いたメモに視線を落とした。
『行方不明者。少年三名』
「そういうことかよ……」
 事態を理解し、深いため息を吐きながらコーディアスは頭を抱えるのであった。


●作戦
「まあ、大体の事情は察せたけど……」
 再び物陰からゴーレムの方を覗く。
 そうだと意識して見てみれば、まず間違いない。あれは人間の子供が3人、ゴーレムの背中に当たる部分に閉じ込められている。
「子供を誘拐する目的のゴーレムなのでしょうか?」
「それにしては、動きがおかしいな……」
 ゴーレムはその脚を器用に動かして歩いているのだが、どうもどこかへ向かっているという感じではなさそうだ。
 あっちにいったりこっちにいったりと全く不規則に歩き回っている。
 子供を誘拐するつもりならとっくにどこかへ行っているだろう。
「もしかして、守ってるつもり……だったりしないかなぁ、なんて思ってみたり」
 ナナミがポツリと呟いた言葉に一同は顔を見合わせる。
「あながちあり得ない話でもない、かな?」
「ゴーレムへの命令が大雑把だと予期せぬ動作をする事もあると聞きます。その類のゴーレムなのでは?」
「それで捨てられたところに少年たちがって感じかもね」
「ハタ迷惑な……」
 思わず呻くが、ルゥラーンとナナミが言う説にはそれなりに説得力がある。
「……正直、二人であれを倒すのは難しいと思う」
「同感。私は回復役だしね」
 コーディアスの言葉にナナミも首を縦に振る。
 ゴーレムはかなりの強度を誇る魔法生物である。まして二人とも接近戦が専門の職業ではない。完全に打ち倒すとなるとかなりの労力と代償を支払う事になるだろう。
「それじゃあ、機能停止を狙うんですかぁ?」
「うーん、できればそうしたいけど……ちょっと情報不足は否めない……と思う。あのゴーレムの目的も結局はっきりはしてないし」
「情報源なら、ないことはない……よな」
 ちらりとゴーレムの上でぐったりとしている三つの人影を見やる。
「まー、そうなるよねぇ」
「僕が囮になってあいつの気を引くから、その隙にナナミさんは近付いてあの少年たちから話を聞いてみてくれないか。多分、切った張ったは僕の方が向いてるだろうから」
「そーだね。私はそっちの方はからっきしだし。異論はないかなぁ」
「はわわ、ナナミさん! もしかしてあのゴーレムに登る気ですか! 駄目ですよぉ、危なすぎますぅ!」
「ま、いざとなればね。あの子達をあのままにしておくのは可哀想だし?」
「う、それは……」
 今なお閉じこめられている子供たちを引き合いに出されては罪木の心配性と言えども引っ込めざるを得ない。
 今はまだ大事には至っていないが、ゴーレムの目的が不明である以上、これからも無事である保証はどこにもないのだ。救出はい即必要がある。
「わ、分かりました。私も出来る限りのお手伝いを致しますぅ!」
 ぐっと胸の前で両手を握り締め罪木が精一杯の勇気をもって叫ぶ。
「それこそ無理しないでよね。でも、まあ……罪木にもちょっとは手伝ってもらおうかな」
 ナナミは悪戯めいた笑みを浮かべて彼女の相棒へとそう投げかけたのだった。


●陽動
「さて、それじゃあそろそろ行くとするか」
 幾つかの確認事項をお互いにかわし、ある程度作戦も固まったところでコーディアスがそう告げる。
 場の全員がその言葉に頷き同意する。
 いよいよ行動開始である。
「さて、と。まずは鬼が出るか蛇が出るか……」
 コーディアスがあえて武器を手に持たず、手ぶらのままでゴーレムに近づいていく。
 ゴーレムの命令の内容によっては敵対せず、見逃してくれるかもしれないという算段だ。あわよくばそのまま助けられないだろうかという期待もある。
「ほーら、敵じゃないぞー」
 手のひらが見えるように両手を広げ、敵対の意思がない事を見せながら近づいていくコーディアス。
 だが――
『生命体の接近を確認。警戒レベル上昇』
 ゴーレムの体に走る線が白く光る。
「……! ルゥ!」
 明らかに普通の状態ではない。
 コーディアスは早々にまず第一歩目の失敗を悟り、急いでルゥラーンに向かって叫んだ。
「はい、コーディ!」
 それを受けたルゥラーンが彼の愛用の武器である薙刀を彼に向って放り投げる。
「まあ、最初から期待はしてなかったからいいけどな!」
 それをしかと受け取りながらコーディアスがゴーレムに向かって構える。
『敵性存在と判断。排除します』
 光る線に沿って、一際輝く赤い光源が移動し、コーディアスの方に向く。
「何だ? 目か?」
 コーディアスが訝しんだその時――
『発射』
 光る「目」からビームのように光線が発射される。
「おっと!」
 寸でのところで後ろに飛びのきその光線を避ける。
「遠距離攻撃も持ってるか……まあ防衛用というのなら当たり前か」
『敵性存在の排除に失敗……戦闘行動続行いたします』
「来たか……」
 どうやら逃げるよりもこちらを倒すという行動を選んだようだ。
「好都合ってもんだ」
 軽く肩を回し体の可動域を確かめる。
 彼の役目は陽動。少しでも長く敵の注意を惹き続ける役目である。こちらに構ってくれるというのであればそれは作戦の成功を意味しているといえる。
「さあ、しばらく僕と遊んでもらうぞ」
 気合を入れなおし、コーディアスは武器を構えなおした。


●囚われの勇者
「とりあえず第一段階は成功……ってかんじかな」
 その様子を少し離れたところから覗きながら七海が呟く。
「そうはいってもどうするんですかぁ、ナナミさん」
「うーん、見つからずに近付ければベストなんだけど……」
 しかし、それを期待するのは少し難しいだろうとナナミは感じていた。
 特別前後があるわけでもないゴーレムの視界はいまいち謎だ。後ろから近づくという概念がないのだから死角もない。
「まあ、こうなったらアレしかない、かな?」
 意を決してナナミが拳を握り、軽くストレッチをしてから地面に手を突く。
「ナナミさん?」
「一気に走りぬく!」
 掛け声とともにゴーレムへ向かって全力で駆け出すナナミ。
 どの道気付かれるのであればこそこそ隠れたりはせず、コーディアスに気を取られている間に少しでも近づいておこうという魂胆である。
『未確認存在の接近を確認』
 コーディアスを追っていたゴーレムの動きが止まる。どうやらナナミの接近に気付いたらしい。
『敵性存在と判断。排除を……』
「おっと、僕を無視するなんてつれないね!」
 しかし、ゴーレムの意識が――意識というものがあるのかは甚だ疑問だが――ナナミに向かった隙を狙って、コーディアスが一足飛びにゴーレムへ近付く。
「だけど、もう少し僕に付き合ってもらうよ!」
 ゴーレムの脚に向かって全力で薙刀を振るい、ぶちかます。
『装甲損傷。適正存在Aの脅威レベルを上昇させます』
(ナイスアシスト……!)
 コーディアスがゴーレムの意識を自身に釘付けている間に、ナナミはゴーレム本体の足元まで接近する事に成功していた。
「よっと!」
 助走を付けた勢いのままゴーレムに取り付き、そのままその背中の上に乗りこむ。
『敵性存在、防衛対象に接近。緊急事態』
「はいはい、失礼しますよー」
 さすがのゴーレムも事態に気付いたようだが、それに構わず中心部の『檻』へと向かう。
「よっ、大丈夫?」
「お、おねぇちゃん!」
「助けてぇ! 助けてぇ!」
「帰りたいよぉー!」
「おっとっと……」
 ナナエの顔を見て緊張の糸が切れたのか、今までぐったりしていた姿勢から急に立ち上がらい泣きじゃくりだす少年たち。
「ちょっと、待って。落ち着いて……ね?」
 気持ちは分からないでもないが、これではまともに話も出来ない。
「ううっ……ぐすっ……」
「うんうん、大丈夫だからね。お姉さん達は君たちを助けに来たんだから」
 ある程度落ち着いてきたところで、ゆっくりと諭すように話しかける。
 事前に罪木から慌てふためいた子供に対する対処を聞いてきた甲斐はあった。次第に少年たちの恐慌は収まり、話が出来そうなくらいまでには落ち着いたようだった。
「それで……ちょっと教えてほしんだけど……どうしてこんなことになっちゃったの?」
「……こいつが面白いものを見つけたっていうから、みんなで見に来て……」
「うんうん」
 少し間を開けてからは一人の少年がナナミの質問に答え始める。
 どうやら3人の中ではリーダー的な存在のようだ。
「それで急にこれが出てきて……」
 自らを閉じ込める石の檻をさすりながら少年が言う。
「これが出てくる前に何か変なことは無かった? スイッチ押したとか」
「スイッチ?」
 ナナエの言葉に少年たちが唸る。
「うーん、僕、わから――」
「あ、思い出した!」
 一人が喋っている途中で別の子が急に大声を上げる。
「なんか押したかも……」
「えー、じゃあお前が悪いんじゃんか!」
「こらこら、喧嘩しない。それって――」
「お姉ちゃん、後ろ!」
 ナナエの言葉を遮って子供の一人が叫ぶ。
「え? っと、うわぁ!」
 それに従って後ろを振り向くとそこには大きな石の柱。
 言うまでもないゴーレムの脚の一本だ。
「あっぶない……!」
 横っ飛びにそれをかわし、何とか事なきを得るナナエ。
 しかし、その拍子にゴーレムの背中からは落ちてしまっていた。
「あいったー」
「大丈夫ですか、ナナミさん!」
「大丈夫大丈夫、まだ危ないから下がってて、罪木」
 心配して駆け寄ってこようとしていた罪木を片手で制して立ち上がるナナミ。
『敵性存在を発見。排除します』
「大丈夫、ナナミさん」
 素早く駆け寄ってきたコーディアスが、ナナミの肩を持ち上げ彼女が体勢を立て直すのを手伝う。
「ありがとね。おーい、少年たち―!」
「お姉さん!?」
 目の前のゴーレムの動きには注意を向けながら、その背に閉じ込められた少年たちに声をかける。
 彼らの位置からはこちらが見えないらしく、その声は彼女がまだ生きていたことの安堵と未だ取り残されている不安が混ざり合っていた。
「とにかくスイッチを探して! このゴーレムを起動がスイッチなら停止のスイッチもどこかにあるはず! そしてそれは必ずその檻の中にある!」
 道理である。今までのやり取りからしてこのゴーレムが檻の中の人間を守ろうとしているのはまず間違いない。で、あるならばそのスイッチ関連はその中に必ずあるはずだ。
 そうでなれければ制御ができない。さすがにこの暴走を予期できなかった製作者と言えどそこを外すほどの馬鹿ではないだろう。
「す、スイッチ!?」
「無理だよ! 分からないよ!」
『発射』
「危ない!」
「うひゃあ!」
 ゴーレムの撃ってきた光線をコーディアスが咄嗟に腕を引っ張り避けさせる。
「弱音を吐くな! 今、このゴーレムを倒せるのは君達だけだ! 男だろ! 勇気を出せ!」
「で、でも……」
「勇者になれる滅多にないチャンスだぞ! こんなの……見過ごせないだろ、男なんだからさ!」
 尻込みする少年たちを鼓舞するようにコーディアスが叫ぶ。
 そもそもこんな危ない所にわざわざ来て遊ぶような子供だ。
 好奇心が旺盛で、無謀で無鉄砲で――勇気がある。きっとそうだとコーディアスは踏んでいた。同じ男として。
「……うん、さがしてみる!」
「よし。適当に押しまくれ!」
 コーディアスの言葉が利いたらしく少年たちが動き出す音が二人の耳に届く。
「よし、となると後は……」
「いよいよボス戦、だね」
 二人は目の前のゴーレムを見据えて、各々の武器を構えなおした。
『排除……排除……』
「ナナエさんはちょっと下がって!」
「はいはい、ごめんね。お任せするね」
 コーディアスの指示に従ってナナエが敵から距離をとる。作戦会議中にも話した通り、彼女の能力は近接戦闘にはまるで向いていない。
『排除……』
 ゴーレムが前線に残ったコーディアスの方へ向かって、忙しなく6本の脚を動かしながら迫る。
(やっぱり……あの光線は連続では撃てないみたいだ……)
 先ほどまでの時間稼ぎの時の様子と、今のそれなりに距離のある状態からでも接近を選択したゴーレムの判断を見てコーディアスはそう推察した。
 上に乗る者を守りたいのであれば少しでも距離を撮ろうと考えるはず。それでもなお近付いてきたのは、その脚で確実にコーディアスを排除する為だろう。
「なら、先手必勝で行くよ!」
 ゴーレムがこちらへ到達する前にコーディアスは胸元から一体の人形を取り出した。
 ワラで組まれたヒトガタの人形。その体にはお手製の呪符が何重にも張られている。
「くらえ、丑の刻参り!」
 コーディアスはためらうことなくその人形を宙に放り投げ、そして薙刀を振り下ろしそれを両断した。
 すると切られた怨念かなにかなのか、ゴーレムの目の前に魔力の塊が現れ、人形を切りつけたのと同じ角度でゴーレムに対し振り下ろされる。
『……損傷率の増加を確認』
 急に強烈な衝撃を味わい、ゴーレムの足が一瞬止まる。
『損傷軽微。運動能力に支障ありません。戦闘を続行します』
 しかし、決定打にはならない。ゴーレムの体の表面に深い傷は与えたが、通常の動物や魔物と違い、ゴーレムには痛覚もなければ出血もない。
 やはりゴーレムを止めるには少年たちに期待するしかない。
「とにかく時間を稼いで……」
『充填完了』
 ゴーレムの『目』の赤い輝きが一気に増す。どうやら光線を撃つ準備が整ったらしい。
「くそっ」
 思わず悪態をつく。
 今彼らに求められているのは時間稼ぎ。その観点で言えばいつまでも追いかけっこをしているのが理想であり、遠距離攻撃の光線は今は非常に厄介な攻撃である。
『――システム異常』
「ん?」
 しかし、その光線が飛んでこない。異常を察しコーディアスがそちらに目を向けると、ゴーレムの『目』が途中で何か引っかかってコーディアスの方を向けないでいる。
「さっきのヒビ……!」
 先ほどコーディアスの入れた傷が『目』の移動の為の溝を傷つけ、そのせいで彼の方を向けなくなっている。
「これはいわゆる攻略チャンス!」
 後ろに控えていたナナミが魔導書を掲げる。
「罪木、力を貸して」
「はい、ナナミさん!」
 ナナミの魔導書にスレイブである罪木の力も乗り、一つの魔力弾として発射される。
 その狙いは、動きの鈍ったゴーレムの『目』。
「クリティカル!」
『……センサー、破損。緊急事態です』
 その一撃は見事にゴーレムの『目』を撃ち抜き破壊した。
「これでちょっとは楽に……」
『状況は極めて劣悪です。敵性存在の排除を断念』
「ん?」
 ゴーレムの様子が変わった事に気付く。今まで常に動き回りコーディアスを追っていたゴーレムがその動きを止めている。
「何だ?」
『この場からの緊急脱出を試みます。乗務員の方は手すりに強くお捕まり下さい』
「まずい、逃げる気だ!」
 別にゴーレムだけなら逃げられても多少危険なくらいで問題ないが、少年たちを連れていかれるのは非常にまずい。
『高高度への跳躍の準備を開始します。カウントダウン3……』
「跳んで逃げる気か!」
 ゴーレムの体がググッっと沈み込む。いったいどれほどの跳躍をするつもりかは分からないが、緊急脱出というくらいだ。それなりの距離を逃げるはずだ。
「マズいマズい……!」
『2……』
 焦ってナナミがゴーレムに魔力弾を叩きこむが、さすがにこの短時間で破壊しきるほどの威力はない。
 ――このままでは逃げられる。
 二人がそう覚悟した瞬間――
『ワ――』
 ワン、と言い切ることなく、ゴーレムの動きが停止した。
「え?」
「あのー」
「スイッチ見つかったよ、お兄ちゃん、お姉ちゃん」
 ポカンと呆気にとられた二人の顔を覗き込むように、ゴーレムの上から3人の少年たちが顔を出したのだった。


 その後、4人は彼ら小さな勇者の勇気を称え――そして同じくらい危険を犯した行為を叱り、街の家族の元へと無事送り届けたのであった。、





依頼結果

成功

MVP
 コーディアス
 デモニック / シャーマン


依頼相談掲示板

[1] ソルト・ニャン 2017/10/25-00:00

やっほにゃ~ぁ
挨拶や相談は、ここでお願いにゃ~!
みんなふぁいとにゃにゃ~  
 

[8] ナナミ 2017/10/31-22:16

遅れちゃってごめん……。
お話聞いてくれて、ありがとう。
私は、コーディアスさんのくれた意見で行動しようと思うよ。
囮は私が引き受けたいと思うよ。攻撃もできそうもないし、少しでも役に立ちたいしね。
でも、回復は任せてね。クラススキルが追加されたみたいだから、安心……と思うよ。

人数少なくなっちゃったけど、成功するよ良いね。がんばろう。

 
 

[7] コーディアス 2017/10/31-20:11

プラン提出しました。
やれそうな事は詰め込んだよ。
よじ登りはナナミさんがするなら僕は囮、難しい様なら僕がよじ登るってしておいた。

調整はできると思うから何かあったら言ってください。  
 

[6] コーディアス 2017/10/31-14:03

>よじ登る
いいね、よじ登り。
それを成功させるために僕はゴーレムの目を壊そうか。

僕が囮してナナミさんが登るのでいいのかな?
逆でもいいけど、希望ありますか?

流れとしてはこんな感じかな。
1子供達発見
2子供達に経緯を聞いて「スイッチ」情報を得る
3目を壊しゴーレムの背中へよじ登り狙う
4よじ登れたら子供達に中からの操作と外部スイッチ操作試す
5上手くいけば機能停止してその間に子供達救出し撤退
6上手くいかなければ…戦闘して機能停止に持ってく  
 

[5] ナナミ 2017/10/30-15:32

ちょっとこの人数のままだと倒すのは無理ゲーっぽいし、確かに救出最優先、で良い……と思うよ。
もうちょっとだけ待ちたいと思うけど、そうだなぁコーディアスさんがお話しやすいように物陰から姿がバレちゃいそうになったら注意ひこうかな。
後は……亀型で動きも遅いなら、前方に注意ひきつけて後ろからよじ登れないのかな、とは思ったかも。子供達囚われてるところ以外に、背中にスイッチとかあるのかなと思ったよ。




 
 

[4] コーディアス 2017/10/29-23:27

こんばんは。

ゴーレムについては、僕も近接戦闘は避けたい考えです。
暴走でもしない限りは倒さなくてもいいかな。

起動スイッチがあるらしいから、少年たちに中からスイッチ切って貰えないか試して貰おうと思います。
敵が遠距離攻撃してくるようなら、いくつか目を潰しておきたいかな。

僕の行動予定は
救出最優先。
子供達の目撃情報聞きまわって行方を探す。
最初は物陰に隠れながら少年たちに話掛けて起動停止できないか試す。
ゴーレムは暴走したら戦闘、停止したら放置。

こんな感じで今は考えてます。  
 

[3] ナナミ 2017/10/28-01:20

私は、クレリックのナナミだよ~。
パートナーは、罪木。よろしくね。

うん、まさしくローグライクって感じで、面白そうだよね。
でも、ゴーレムがエンカウントしても、ちょっと近接戦闘は無理かも。
ただ、回復はできるから、それは私に任せてもひと安心かも……と思うよ?  
 

[2] コーディアス 2017/10/28-00:51

僕はシャーマンのコーディアス、パートナーはルゥラーン。
よろしくお願いします。

ひとまず挨拶まで。