全力鬼ごっこ!(御宮 久 マスター) 【難易度:普通】




プロローグ


「鬼ごっこ」
「はい」
「ご依頼で」
「はい」
「うーん……」

 とある日の冒険者ギルドにうなり声が響く。
 ちょうど落ち着いたタイミングで来た青年の依頼に受理するものか悩むギルド職員。

「ただの鬼ごっこじゃないんです、見世物としての、鬼ごっこです」
「ですが、村の人たちで行なえば良いのでは?」
「今まではそうしていたのです。しかし、同じ相手なので張り合いがなくなるといいますか……」

 青年が依頼してきたのは村の名物である、限られた区画の鬼ごっこ。
 ちょっとしたコロッセオのような形でぐるりと囲んでその区画を見ることができる。
 文化的に続いてきた鬼ごっこなのだが、年が経つにつれ参加者は限られ、見物客も減っていた。

 藁をもすがる思いで冒険者ギルドに来た青年ではあるが、交渉がうまくはなかった。
 そこに、たまたま話を聞いていた冒険者が一人、二人と集まってきた。

「へぇ? 鬼ごっこなんて子供のころにしかやってなかったわ」
「でもこれ危険じゃねぇのか? 障害物もそこそこあるし、武器の使用可能って」
「あ、はい! そこは、僕らの村に居てくれるクレリックたちがカバーするので大丈夫です!」

 まともに取り合ってくれる冒険者に安堵したのか、目を輝かせる青年。
 それが功を奏したのか、冒険者は豪快に笑った後ギルド職員に向かってこう言った。

「いいじゃねぇか! 切った張っただけが冒険者の仕事じゃねぇだろ?」
「それは、その……そうですが……」

 言い淀む職員だったが、一息深くため息をつくと必要書類を取り出す。
 青年の背中を力強く叩く冒険者たちは俺たちも行くと言わんばかりの雰囲気を醸し出す。

「……怪我人の手当はくれぐれもお願いしますよ」
「はい……! ありがとうございます!」

 満面の笑みの青年が筆を走らせ、村おこしの開催が決定した。


「皆さん今回が初めてだと思いますので、デモを見ていただこうと思います」
「あぁ、よろしく頼むぜ、坊主ども」
「よろしくお願いします。俺は前回優勝したゴンタと言います。運営のリーダーもやっています」

 村おこしが開催される前日、参加者を集めて説明会が行われた。
 そこには冒険者ギルドに開催を申し出た青年サンコラと、後押しした冒険者たち。
 加えて今回の参加者と前回の優勝者ゴンタが集う会場。

「以前は細かに説明したんですが、習うより慣れろって感じで一度見てもらってます」
「その方が手っ取り早いかしらね。細かに説明されても覚えきれないし」

 ゴンタはデモを行うことの補足をし、参加予定の冒険者は頷いた。
 デモ戦はどちらも屈強そうに見えるゴンタと男の村人。
 サンコラは審判の位置につき、それ以外にも数人の審判がぐるりと会場を囲うように配置されている。

「準備はいいですね? では、コイントス! ……鬼はゴンタ!」
「おおおっっ!」

 審判の宣言と共にゴンタは短刀を構えて、村人へ駆けていく。
 村人はバックステップをして初撃を躱し、ジャングルジムに手をかけたかと思うと地面を蹴って上段に。
 地上からは手が届かないと判断したゴンタは持っていた短刀を投げつける。

「甘いですよ!」

 短刀を回避するためにブランコへ飛んだ村人。
 余裕の表情から追いつかれないとでも思ったのだろう

「……お前がな!」

 ゴンタはそれを見越していたかのように初撃の時に短刀をブランコの上空へと飛ばしていた。
 村人が着地すると同時に落ちてきた短刀に当たってしまう。

「鬼交代!」

 短く叫ばれる交代の合図に村人は体躯の伸縮を使ってゴンタへと飛び掛かる。
 ゴンタは時間を稼ごうと村人の石像が乱立するところに入るも追いつかれそうになる。
 村人はしめた、という表情をするが。

「タイムアップ! 勝者……ゴンタ!」

 村人がゴンタに触れる寸前に時間切れを告げられ、サンコラが旗の数を数えて勝者が決定する。
 短いがそのやり取りは実際の戦闘に近いものがあった。
 相手の動きの予測、瞬間的な判断力、そしてその判断を可能にする自身の力。
 一連の行動を短い時間で出すにはそれこそ『鬼』にならなければならないだろう。

「こんな感じです。その他のルールは後ほどお伝えしますが、基本的には審判の旗の色が絶対です」
「……はっ、中々どうして。見世物にして置くだけじゃもったいないんじゃねぇか?」
「そう言って貰えるのは嬉しいです。続けられるよう、ご協力をお願いします」

 冒険者の言葉に照れるような仕草をしながら腰を折るサンコラ。
 こうして始まる村おこし、その名も『全力鬼ごっこ』。



解説


●●●舞台・背景●●●
帝都から少し離れた田舎町の名物『鬼ごっこ』。
近年、参加者や見物客が減少しており、テコ入れのために設備を新しくしたものの効果が薄かったようです。
そこで、『鬼ごっこ』の参加と盛り上げをお願いするという依頼内容になっています。
当日は出店よりも移動販売が主流です。

●●●登場人物●●●
・サンコラ(青年)
職業:村人
性格:優柔不断で物事をうまく人に伝えられないが鬼ごっこ運営には精力的。

・ゴンタ
職業:村人
性格:田舎町の出身で前回の優勝者であり『鬼ごっこ運営委員会』の現リーダーの男性。
   思い切りが良く、村を大切に思う気持ちが強い。村人からの唯一の参加者。
戦法:慣れ親しんだ地の利を最大に生かし、駆け引きを重視した攻防が中心。
武器:短刀、小盾、鞭

・他
参加した冒険者たちが数名

●●●鬼ごっこルール●●●
トーナメント形式で試合が組まれ、1対1で開始から60秒後に鬼になっていた方が負け。
鬼はコイントスで決まり、子にタッチしたら鬼が交代になります。
タッチ条件は素手か得物、魔法で相手に触れることになり、弓矢などの遠距離攻撃もカウントされます。
ただし跳弾など、子以外のものに一度触れてから子に触れた場合は無効になります。
広さはおおよそ20m×20mで、障害物としてブランコ、滑り台、ジャングルジム、村人の石像が設置されています。
スレイブは鬼ごっこ開始前には同化している必要があります。
過度な挑発、誹謗中傷などの発言は反則負けになります。
スレイブのみの参加は現在受け付けておりません。



ゲームマスターより


Q:ウチのキャラクター、田舎町とかに行かないんだけど?
A:その辺りはギルドの問答を見たとか聞いたとか、理由付けしていただければと思います。

Q:鬼ごっこには絶対参加しなければなりませんか?
A:依頼内容が『村おこし』になっておりますので、移動販売なども可能です。

Q:移動販売と言えばアルコールですよね!
A:そうですね! 場外でも控えめでお願いしますね!




全力鬼ごっこ! エピソード情報
担当 御宮 久 GM 相談期間 8 日
ジャンル 日常 タイプ ショート 出発日 2017/10/23
難易度 普通 報酬 少し 公開日 2017/11/2

フランベルジュスティレット
 ヒューマン | ウォーリア | 15 歳 | 女性 
●動機
どんな依頼があるかな~…っ!?
えっ、依頼で鬼ごっこ!?

●目的
鬼ごっこに参加して、皆に勝つ!
あっ、でも怪我はダメだよ!

●行動
スティレット~…何かいい依頼ないかなぁ…?
えっ、依頼で鬼ごっこがある!?見せて見せて!
鬼ごっこ…鬼ごっこかぁ…ディナリウムの近所の子とやったなぁ…。
よし、この依頼受けよう!

サンコラさん今日は宜しくお願いしますっ!
ふむふむなるほど…(ルール把握して)
じゃあ武器はなんでも使っていいんですよね、実質。
(でも怪我はさせたくないからなぁ…うーん。)

うん、まぁ怪我させないようにすればいいだけだよね!
ウリュリュ ドレッドメアグリーニア
 デモニック | シャーマン | 10 歳 | 女性 
鬼ごっこ!!鬼ごっこ!!ウリュリュ鬼ごっこだーい好きだしだーーーい得意だよっ!!
えへへー逃げる方も鬼さん役も得意だし好きーっ♪
鬼さーんこーちらっ手ーの鳴る方へっ♪
あははーったーのしーっ♪
ウリュリュを捕まえられるかなーっ♪
ふふふー鬼さんもウリュリュと一緒にたのしもー!!
わーい!わーい!!(ぴょんぴょん)
コーディアスルゥラーン
 デモニック | シャーマン | 23 歳 | 男性 
村おこし盛り上げる為に全力で派手に優雅に愛想よく楽しむ
開始直前にジョブレゾナンス

●鬼時
無駄に怪我させる必要ないよね、当ればいいんだろ?
威力は抑えて振りは大胆に、射程内にいれば即「丑の刻参り」で攻撃するよ
ジャングルジムのてっぺんから飛び降り一回転しながらスキル繰出したらカッコ良さそう
「鬼見参、食らうがいい!」なんてね

●逃げる時
足と回避は少し自信あるよ
攻撃の下を掻い潜ったりできたら臨場感ありそう
逃げ込む場所はジャングルジムが便利そう、時間稼ぎはここだね
ジムを挟んで相手の反対側に回り込めばそう手は出せないかな

●早々負けたら移動販売手伝う
ドーナツ売ろうか
栗とかリンゴのドーナツ
いかがっすかー
アンネッラ・エレーヒャトゥルー
 エルフ | メイジ | 16 歳 | 女性 
目的
鬼ごっこに勝つ
心情
勝負事に負けたくはありませんわ…!出来るだけのことはやります!
作戦
1、目くらましに鏡の反射を使う
2、魔法を囮に
3、隠し持つナイフ
行動
元々鬼ごっこに向かないのですから策を弄さなくてはですわよね?
有効的な場面で使えるようにタイミングを計ります
最初は杖を持った状態で、ナイフは隠しておきますわね。油断を誘いたいところです
試合中は地の利は生かしても頼りきらないように、ゴンタ様にその状況を利用されそうですもの
体力に自信がないので、短期決戦を狙いましょう
天候が味方してくれることを願いつつ、距離を最初はとって魔法を放てるようにしましょう
ただ邪魔して安心した暁にはナイフをプレゼントですがね
空屋シロア
 ヒューマン | シーフ | 23 歳 | 男性 
鬼ごっこには参加せずに生活費を稼ぐため飲み物や軽い食べ物の移動販売をする
アルコールの移動販売はシロアに任せて、自分は軽いお菓子やソフトドリンクの移動販売を行う、
クロカ=雪羅雨月
 ヒューマン | ウォーリア | 18 歳 | 男性 
盛り上がるんだったらやる人間は多い方がいいんでしょ?
じゃあオレも一応の参戦として、まぁ得物は大剣だし……砂礫、地形破壊、足の速さを利用した身のこなしでどうにか追いかけていくしかないね。
故郷でやってきた狩りを思い出すよ。――生きるか死ぬかの瀬戸際、今回はそこまで殺伐としてないだろうけど、殺さない程度に全力で楽しませてもらおうかな。

ところで相手を気絶させていいのかなこれ。OKだったら大剣の側面で思い切り叩いたりもするけど。

ウォーリア―が相手なら機動力、地形破壊で翻弄。
遠距離系が相手なら接近を試みて術や飛び道具を封じるようスキル”ダブルエッジ”も使おうかな。

それじゃ、思う存分楽しもうね、皆。
エルヴァイレント・フルテアルフォ
 ドワーフ | ウォーリア | 19 歳 | 女性 
鬼ごっこに参戦。
武器はメイン装備をそのまま、ミドルソードを持ち込む。
同化が条件ということで、アルフォに武器への同化を頼む。

ミドルソードは鞘をつけて軽く縛り、抜けないようにした状態で振るう。それについて何か聞かれたら、「獲物そのままだと怪我する」とはぐらかしておく。(試合前に運営に確認し、鞘を投げつけてタッチするのがルール違反なようなら止めておく)


【鬼時】
シンプルに子を追いかけ回す。
制限時間近くになってもタッチできていなかった場合、縛りを解いて鞘を投擲。鞘をぶつけてタッチを狙う。

【子時】

ジャングルジム方向に逃げる。
ただし中には入らず、ジムの周りを円を描くように逃げていく。

参加者一覧

フランベルジュスティレット
 ヒューマン | ウォーリア | 15 歳 | 女性 
ウリュリュ ドレッドメアグリーニア
 デモニック | シャーマン | 10 歳 | 女性 
コーディアスルゥラーン
 デモニック | シャーマン | 23 歳 | 男性 
アンネッラ・エレーヒャトゥルー
 エルフ | メイジ | 16 歳 | 女性 
空屋シロア
 ヒューマン | シーフ | 23 歳 | 男性 
クロカ=雪羅雨月
 ヒューマン | ウォーリア | 18 歳 | 男性 
エルヴァイレント・フルテアルフォ
 ドワーフ | ウォーリア | 19 歳 | 女性 


リザルト


●●●開催の鬨●●●
 デモンストレーションを見た翌日に開催された鬼ごっこ。
 村おこしのため、とはいうもののお客は近隣の村人と様子を見に来たギルド職員ぐらいであった。
 ただ、前回は近隣の村からも人がこなかったことから、既に前回は超えていると言えよう。

「お菓子いかがですかー。飲み物もどうぞー」
「各種アルコールもございます、いかかでしょうか?」

 開会式とトーナメント表の発表後、会場準備中に移動販売をするのは空屋と空屋のスレイブ、シロアだ。
 空屋たちが用意したのは多種類のお菓子とソフトドリンクにアルコール。
 他にも移動販売は出ているものの、少なく代わり映えのしないレパートリーに飽きた常連は空屋たちの所に集まった。

「お疲れー、綿菓子一つ貰えるかな」
「はいどーも、こっちはおつりね」
「あれ、参加者の…コーディアスさん。試合は大丈夫なんですか?」

 気さくに話しかけたのはコーディアスとその後ろで見守るルゥラーン。
 空屋は特段変わらぬ接客だったが、シロアはその存在を気に留めていた。

「ちょっと時間があるからね。そろそろ始まりそうかな?」
「そうみたいですね。我々も一時撤収をしましょう。……あ、頑張ってください」

 言葉を交わすコーディアスとシロア。
 鬼ごっこ中には移動販売ができない、というか、してもお客が見向きができないと説明を受けていた空屋。
 一時撤収をしつつ、シロアはコーディアスを応援し、コーディアスも笑顔でそれに応えた。

●●●仕合う切っ先●●●
「クロカ=雪羅。勝負事には勝ちに行くよ。――安心して、今回は殺す気ではいかないから」
「アンネッラ・エレーヒャ。私も負ける気はございませんわ」
「鬼、アンネッラ!」

 開始前に言葉を交わらせた両者は気を緩ませずに睨み合う。
 鬼の宣言と共にメイジであるアンネッラは杖を振るい、クロカに向かって魔法を放つ。
 しかし、ウォーリアのクロカは口を綻ばせて大剣を握り直してアンネッラへと突撃をする。

「!?」
「鬼交代、クロカ!」

 魔法を受けたクロカはその宣言が聞こえているのか、聞こえていないのか。
 想定外の行動に判断が遅れたアンネッラはクロカの大剣を杖で受けてしまう。
 想定外はまだ続き、受けたはずの大剣がもう一度迫り、杖と一緒にアンネッラを弾き飛ばす。

「これは、貴方……」
「潰すまでは行かないけど、要は勝てばいいんでしょ?」

 スキル「ダブルエッジ」を使って2度の攻撃を経て術具である杖を弾き飛ばすことに成功したクロカ。
 その結果に満足しつつ、クールに言い放ちつつ冷ややかな笑みを浮かべて挑発をする。
 悔しそうな顔をするアンネッラは杖を取るため、飛び込むように手を伸ばす。

「させないよ」
「……しませんわ」

 飛び込むようなモーションをしたアンネッラを止めるために走り出したクロカ。
 しかし、それはアンネッラが仕掛けたフェイクであり、今の鬼はアンネッラである。
 伸ばした手とは逆の手を振るい、仕込んでいたナイフをクロカへと投げる。
 悪態をつくかのように大剣を横凪ぎにするクロカだったが、ナイフは叩き落せずに僅かに当たってしまう。

「タイムアップ! 勝者アンネッラ!」

 再度突撃をしようとしていたクロカはその動きを止め、アンネッラに握手を求める。
 それに応じたアンネッラ。

「お相手、感謝しますわ」
「こちらこそ。次も頑張って」

 どこか晴れやかな表情の二人に惜しみない拍手が贈られた。

●●●緩急の協奏曲●●●
「鬼ごっこかー。何時ぶりやろー……とは言ったものの、本気度が全然違うなー」
「ディナリウムの近所の子とやったなぁ……。まぁ、お互い怪我しないようにしましょう!」
「せやな。もちろん、全力で行くんよ」
「鬼、エルヴァイレント!」

 試合前に少し緩やかな会話を展開していたエルヴァイレント・フルテとフランベルジュ。
 だが、鬼が宣言された瞬間からの気迫は観客を圧倒させた。
 バックステップをしつつブランコ側に逃げていくフランベルジュをシンプルに追うエルヴァイレント。

 奇しくもウォーリアの二人は共に自らの剣に怪我をしないように配慮していた。
 フランベルジュは剣に鎖を。エルヴァイレントは剣に鞘をつけたまま。
 獲物を構えつつブランコを利用してぎりぎりで回避し続けるフランベルジュ。
 しかし、エルヴァイレントが揺らしたブランコ本体を避けるために取ったルートに足を取られてしまう。
 不敵に笑うエルヴァイレントはフランベルジュの方をたたき、鬼の交代が宣言される。

「おおきに!」
「……もうっ!」

 そのままジャングルジムの方向に逃走を開始したエルヴァイレントだが、視界に鬼の姿を捕えていた。
 フランベルジュはすぐさま立ち上がり、エルヴァイレントへ攻撃を仕掛けるも距離が足りない。
 全力で逃げ、追う姿は鬼ごっこのそれである。

 このまま終わるかと思われたが、ジャングルジムを回るように逃げていたエルヴァイレントの腕に鎖が当たる。
 方向確認のためにフランベルジュを見なかった隙を突かれ、ジャングルジムの間を抜けた攻撃をされてしまった。
 嬉しそうな顔をしているフランベルジュを見据え、エルヴァイレントは自らの剣を振るう。

「そこまで! 勝者、フランベルジュ!」
「痛っ!」

 エルヴァイレントが最後に放ったのは剣の鞘である。
 終了宣言後にフランベルジュに当たり、惜しくも勝利を逃してしまったエルヴァイレント。
 しかし、両者の健闘に観客は拍手し、その中でフランベルジュとエルヴァイレントは握手を交わした。

「いやー、遅かったかー。っと、大丈夫かいな?」
「大丈夫だよ!」
「良かった良かった。ほな、次も頑張ってや」

●●●優勝の死兆星●●●
「鬼さーんこーちらっ手ーの鳴る方へっ♪」
「ちっ、呪文みてぇに聞こえるぜ……!」

 一度勝利を収めたウリュリュ ドレッドメアは前回の優勝の特典でもあるシード権を獲得したゴンタと戦っていた。
 もともと鬼ごっこが好きなウリュリュは実に楽しそうに、踊る様にゴンタの攻撃を避けている。
 ただ逃げるだけでなく滑り込みや薙刀を用いて石像やブランコを利用し、上下左右にゴンタを振り回す。

 その縦横無尽さ故に地の利を生かした攻撃が通じないことをゴンタは痛感していた。
 投げた短刀を降り注がせても、石像を駆使した追い込みも、純粋な追いかけも。
 ウリュリュが笑顔で、涼しい顔で回避していく様に絶望すら感じていた。

「ウリュリュを捕まえられるかなーっ♪ わーい! わーい!!」

 そんなゴンタの状況を知ることもないウリュリュは複雑に設置された石像の間をあちらこちらと駆け回る。
 ゴンタは一度止まり、肺の空気を入れなおす。
 本気じゃなかった訳ではないが、まさに鬼とならんとウリュリュを睨む。

 ゴンタが止まったことでウリュリュも石像の後ろに隠れてから止まり、小首をかしげる。
 石像の一つに昇ったゴンタは体を揺らして少しだけの助走をつけて別の石像に足をかける。
 絶妙なバランスを取りながらそれを繰り返すことでウリュリュとの間を急速に埋めていく。

「すごいすごーい! 鬼さーん此方っ手の鳴る方へ! かーごめかごめっ!!」

 拍手でもしかねないほどウリュリュは喜ぶ。ほかの遊びで使う用語を叫びながら。
 雄叫びを上げながらゴンタは石像を渡り、ウリュリュへと至ろうとしたとき。

「勝者、ウリュリュ!」

 無常にもタイムアップが告げられたのであった。

●●●派手には派手を●●●
「鬼見参、食らうがいい!」

 開始直後に鬼になったコーディアスはジャングルジムのてっぺんに登り、宣言した。
 そして、飛び降り一回転しながらスキル「丑の刻参り」を繰出そうとする。
 複雑な動き故、両手に呪符と人形が出現しているのは幸運と言えよう。

「えいやっ!」
「どぅわっ!?」

 だが、子になったフランベルジュも黙っているわけがなく。
 地面を少し抉り、できた砂をコーディアスへと投げつける。
 散布された砂が目に入り、着地が上手くいかなかったコーディアスは地面へと突っ伏す。
 しかし、同時にフランベルジュはダメージを感じる。

「鬼交代! フランベルジュ!」

 宣言故、コーディアスのスキルは成功したのだと知る観客は感嘆の声を上げる。
 立ち上がったコーディアスはしめた、という顔をして再びジャングルジムを登る。

 登っているところを狙い、フランベルジュは鎖を投げつけるも外してしまう。
 鎖を手繰り寄せ、投げつける準備をするように鎖を回しながらコーディアスにより近づいていく。

 先の戦いでジャングルジムは不利になりかねないと分かっているコーディアスのスレイブ、ルゥラーン。
 コーディアスにそれを伝えようとするが状況的にジャングルジムに逃げるしかない、と気が付き。

「コーディ、追い込まれているかもしれません」
「けどルゥ、来るのは鎖ぐらいだろ?」

 会話を紡いで、ちょうど放たれた鎖を避けた時、フランベルジュは剣を振るう。
 鎖が繋がれた剣を振るえば、鎖が動くのは必然。
 加えて、エルヴァイレントの戦法を取り入れて鞘が飛ぶようにしていた。

「どうだー!」

 叫ぶフランベルジュから放たれた鎖はコーディアスに当たり、さらに体に絡まってしまう。
 これには驚いたコーディアスは再び「丑の刻参り」をしようとするが、フランベルジュはすでに離れていた。
 ジャングルジムから降りたコーディアスを待っていたかのように終了が宣言される。


●●●陽と静、幸運の行き先●●●
「ふふふー鬼さんもウリュリュと一緒にたのしもー!!」
「ええ、存分に楽しんで……ますわっ!」

 今回も相手が鬼の状況から始まったウリュリュは相変わらず楽しそうに跳ね回る。
 対するのは追いかけて息が上がり始めているアンネッラ。

 自分の村から出る機会はそう多くないアンネッラは自分の体力が少ないことを自覚していた。
 だから短期決戦を望んでいたが、そうさせてくれないウリュリュ。
 けれど、村では得られない刺激を受けて楽しんでいるのも自覚している。

 滑り台に登り、アンネッラに手を振るウリュリュは笑顔を送る。
 苦しそうに、しかし同じように笑顔なアンネッラは魔法でウリュリュを狙い撃つ。
 笑い声をあげながらウリュリュは滑り台を駆け下り、石像の群れに紛れるように逃げる。

 狩りならば獲物が見えなくなれば撤退か他の獲物を探すだろう。
 では、戦闘ならば。追い、倒すのみ。
 魔法を放ちつつアンネッラは少ない体力を注ぎ、石像の群れに入っていく。

「うわっ!?」

 幸運はここで終わり、とでも言うようにアンネッラの前に出てしまうウリュリュ。
 苦しい状態であっても、戦場ならばと気力を振り絞るアンネッラ。
 アンネッラは倒れこむようにしてウリュリュに触れ、二人とも地面へと投げ出される。

「そこまで! 勝者……アンネッラ!」
「あははーっ! 負けちゃったけど、たーのしーっ♪」
「そ、底抜けの明るさと……いうやつですね……」

 笑い転げるウリュリュとぐったりとしているアンネッラ。
 この部分だけ見れば勝敗を勘違いしてしまいそうだなと、どこか俯瞰的に考えてしまったアンネッラであった。

●●●鬼の居ぬ間の休息●●●
 熱気に包まれた会場はベスト4を発表。
 3位決定戦はシャーマン、ウリュリュ ドレッドメアVSシャーマン、コーディアス。
 決勝戦はメイジ、アンネッラVSウォーリア、フランベルジュ。

 少し時間をおいてから再開される鬼ごっこのラストバトル。
 どちらが優勝するか、どちらの戦略に軍配が上がるか、バトルの内容に注目が集まるのは無理からぬこと。
 そんな中、空屋とシロアは移動販売に余念がない。

「試合は仕込みでそんなに見られなかったが、観光客として来たかったな」
「そうですね。楽しそうです」

 空屋は生活費の足しにするために移動販売を買って出たが、こんなに盛り上がるならただ見るだけもいい。
 そんな風に考えるのは惜しくも勝利を逃した者たちも例外ではないのだろう。

「試合中は暗かったやろ? ごめんなー、アルフォ」
「大丈夫です。エルさんのお役に立てるなら」

 空屋からお菓子を買って食べているのはエルヴァイレントとスレイブ、アルフォである。
 フランベルジュとの戦いの後も試合を見ていた二人は次こそは、と意気込んでいるようにも見える。

「いやはや、楽しんでるなら、それでいいか」

 飲み物を飲んでぼんやりと会場を眺めるクロカはひとり呟く。
 必要とあらば悪役を演じるつもりでいたクロカ。
 今回はアンネッラに幸運があったのだろうし、それは勝負事にとっては重要な要素である。

「今まではウォーリアが優勝してたが……今回は分からねぇな」
「アタシとしてはメイジに頑張ってもらいたいね」
「3位決定戦もなかなか見ものだぞ」

 観客もこの時間を分かち合っているように見える。
 注目はどちらが勝つか、どのようにして勝つか、ほかにも純粋な応援も。

 サンコラ達はその様子を見て一安心というような表情を漏らす。
 一時は自身の敗北で気落ちしていたゴンタも調子を取り戻して現場指揮に走る。
 お祭りの時間もあと少し。

●●●3位決定戦、鬼ごっこの在り方●●●
「鬼、コーディアス!」
「鬼さーんこーちらっ手ーの鳴る方へっ♪」
「よーいしょー!」

 開始された3位決定戦、鬼はやはりウリュリュの相手であるコーディアスだった。
 なんとなく予想がついていたのかコーディアスは宣言とほぼ同時に動くことができた。
 予想以上の速さにウリュリュは驚くが、それはそれで楽しそうである。

「はやーい!」
「鬼交代、ウリュリュ!」

 肉薄したコーディアスは勢いをそのままにウリュリュを吹き飛ばす。
 ダメージを最小限にとどめたウリュリュは衝撃を反射するかのようにコーディアスへと走る。
 対するコーディアスは足からスライディングをしてジャングルジムの下部へと入り込む。

「これで臨場感ってのが演出……ってえぇ!?」
「あははーっ! ウリュリュもやるー!」

 見栄えも気にしていたコーディアスは演出兼実用性のためと行動するも、ウリュリュはまっすぐについてきた。
 ジャングルジムの下部に入るために場所を取っていた薙刀は置き、勢いを利用したスライディングはコーディアスへ届く。

「鬼交代、コーディアス!」

 宣言を聞かずとも近づくウリュリュの足を防ぎながら反転するために向き直る。
 ウリュリュもジャングルジムを脱出するため…いや、楽しむために素早く登っていく。
 頂上に着いたウリュリュはコーディアスがフランベルジュとの戦いでやった大ジャンプをする。

「鬼、さんじょー!」
「今の鬼は俺だー!」

 思わず突っ込みを入れたコーディアスも、途中から進路変更をしてウリュリュを追う。
 着地の衝撃に少し止まったウリュリュを受け身を取ったコーディアスが追い抜きながら触れる。
 鬼交代のアナウンスが響くが、関係ないとばかりにウリュリュは走り出す。

 滑り台を逆から登るコーディアスは後ろを振り返る。
 薙刀を回収した様子のウリュリュも滑り台を昇ると思われていたが、側面から攻めてくる様子。
 それならばとコーディアスは反対の側面から飛び降りて受け身を取る。

「そこだーっ!」
「うおおぉ!?」

 ウリュリュの叫び声と共に薙刀が投擲され、まっすぐにコーディアスへと飛んでくる。
 流石に当たるわけにも行かず、地に伏せることで薙刀をやり過ごすコーディアス。
 だが、ウリュリュは止まってくれているわけでは無く、両手を広げてコーディアスへと飛ぶ。

「タイムアップ! 勝者コーディアス!」
「あだっ」
「負けたーっ!」

 コーディアスへ触れる前に時間切れになるも、慣性の法則に従いウリュリュはそのままぶつかる。
 積み木のようにコーディアスの上に乗ったウリュリュはその場でカラカラと笑っていた。

●●●決勝戦、交わる赤と白●●●
「いっくよー!」
「負けませんわ」
「鬼、フランベルジュ!」

 意気込みを短く言い合うフランベルジュとアンネッラ。
 鬼が宣言された瞬間に鎖をアンネッラに向かって投げるフランベルジュ。

「その技は先ほど見ましたわ!」
「わお!」

 アンネッラは魔法を放ち、鎖を失速させて体に触れないようにした。
 見たからと言って即対応ができるわけではなく、ほとんど賭けであったようだ。
 若干の安堵がアンネッラから漏れていた。

 フランベルジュは驚くが、防がれることはある程度想定済み。
 鎖を手繰り寄せつつアンネッラへと突撃をする。

「っ!」

 ウリュリュとの戦いで削れた体力は万全に戻っているわけでは無い。
 しかし、弱音を吐いている場合でもないとアンネッラはバックステップでフランベルジュの攻撃を回避。

 続く剣戟を防ぐため、手元から鏡を取り出して太陽光を反射させる。
 実は魔法での相殺は賭けだったが、鏡での反射は練習をしていたのだ。
 そしてうまくフランベルジュの目元に光を持っていくことに成功。

「まぶしっ!?」

 思わず声を上げるフランベルジュだが、攻めの手を緩めずに剣を振るう。
 けれど目測を狂わせられた攻撃はアンネッラに届くことはなかった。
 後悔するのは一瞬、次は鎖による攻撃を選択したフランベルジュはアンネッラの胴を狙う。

 アンネッラは飛んできた鎖を避けるために杖を横に突き出し、石像に当てる。
 その反動を利用して鎖をやり過ごすが、少々無理があったのか地面へと転がるアンネッラ。

 再び鎖を手繰り寄せたフランベルジュは好機とみて、鞘に入ったままの剣を振るう。
 黙ってやられるアンネッラではなく、無理やり体勢を変えて剣の攻撃を回避。
 しかし不利は曲がらず、フランベルジュの手がアンネッラの腕に触れる。

「鬼交代、アンネッラ!」
「……やりますわね、フランベルジュ様!」
「アンネッラさんもね……っ!」

 触れた瞬間に弾かれるように逃げるフランベルジュは背を向けずに石像を上手く避けていく。
 一歩間違えれば石像に背中が当たり、逃げられなくなってしまうが反撃も警戒する必要がある。
 その効果はあったようで、アンネッラが放つ魔法を見逃さず、難なく避けることができた。
 だが、アンネッラは隠しナイフの投擲をしており、ちょうどフランベルジュが避けた先に到達しそうであった。

『おおおっ!』

 当たるかと思ったナイフをやり過ごしたフランベルジュに驚きの声が観客から上がる。
 歯を食いしばったフランベルジュは近くにあった石像を剣で薙ぐ。
 それにより、予想地点から少し手前で止まることに成功していた。

「そこですッ!」

 無理に体勢を整えたフランベルジュへと、杖を前に突き出しながらスライディングをするアンネッラ。
 咄嗟にフランベルジュは真横へと転がり、アンネッラの杖を避ける。
 が、距離が稼げず、そしてアンネッラが杖を振るい、フランベルジュの足をかすめた。

「そこまで! 勝者、アンネッラ!」

●●●表彰、輝く金色●●●
 最終戦が終わってからも観客席のざわめきは止まず、盛況であったと体現しているようでもあった。
 鬼ごっこ運営委員会のスタッフ達も不思議な昂揚感を感じながら表彰の準備を進めていた。

「すでに順位は出ておりますが、表彰式を執り行います!」

 ゴンタが表彰式の宣言をする。
 整列した参加者各位と表彰台に上がる3名。

「今回、冒険者ギルドの力を借りて集まっていただいた冒険者の方々が熱い戦いを―――」

 運営を名乗るからにはこういった口上も必要なのだろう。
 大半の観客は聞き流しているが、これからも続けていきたい熱意は感じ取れた。

「―――という訳で、今回の優勝はアンネッラ・エレーヒャさんです!」

 アンネッラは疲労困憊ではあったものの、杖を支えに何とか立っている。
 が、それを知るのは、あらあら、と微笑んでいるスレイブのトゥルーと実際に戦った者たちであった。

 アンネッラは一歩前に出て綺麗な礼をする。
 観客には凛とした白髪に金の瞳を持つメイジ。そう映っただろう。
 運営委員会の一員、サンコラは証書とタスキを持って表彰台とやり取りができる台に乗り、それをアンネッラに渡す。
 観客から拍手が贈られ、アンネッラは一歩下がる。

「それでは、これにて閉会となります、ありがとうございました! お帰りの際は村の名産の―――」

 昼少し前から始まった全力鬼ごっこは夕方に入り込むことなく閉幕を迎えた。
 例年よりはるかに盛り上がったことをゴンタやサンコラ達に何度も礼を言われた冒険者たち。
 少し寂れた村に、少しだけの活気を取り戻したことをどこか誇らしげに冒険者ギルドに報告をしたのだとか。




依頼結果

成功

作戦掲示板

[1] ソルト・ニャン 2017/10/15-00:00

やっほにゃ~ぁ
挨拶や相談は、ここでお願いにゃ~!
みんなふぁいとにゃにゃ~  
 

[10] クロカ=雪羅 2017/10/22-20:53

プラン提出完了したよ。

トーナメントで当たったとしたらよろしくね。全力で立ち会うよ、とりあえず重傷にならない程度に。  
 

[9] フランベルジュ 2017/10/22-15:33

コーディアスさん、アンネッラさん、エルさんこんにちは!
宜しくお願いします!

鬼ごっこは1対1のトーナメント形式だから、皆勝ち進めば参加者の皆さんと当たるのかな…?もしそのときは宜しくお願いします!
遠距離攻撃ある人は有利そうだな~…。私も頑張ります!  
 

[8] エルヴァイレント・フルテ 2017/10/22-00:09

遅ればせながら参戦ー。
ウォーリアやってるドワーフ、エルヴァイレントっていいますー。
あんまりすばしっこさには自信ないけど、せっかくやし鬼ごっこに参戦するとするんよー。  
 

[7] アンネッラ・エレーヒャ 2017/10/22-00:06

ご挨拶遅くなりまして申し訳ございません。
アンネッラ・エレーヒャと申します。
身体能力には自信がありませんので、お手柔らかにお願いいたしますわ。  
 

[6] コーディアス 2017/10/21-01:17

僕はシャーマンのコーディアス、パートナーはルゥラーンです。
物騒な鬼ごっこだね。
ふむ、全力鬼ごっこというからには全力で挑もうか。
よろしくお願いします。  
 

[5] フランベルジュ 2017/10/19-11:11

だね~楽しそう!
でも武器を使って良い鬼ごっこって怪我とかしないのかな…。

あ、クロカさんも宜しくお願いします!
(狩りで鬼ごっこ…?)  
 

[4] クロカ=雪羅 2017/10/19-01:35

鬼ごっこね。故郷で狩りをしていた時を思い出すかな。

あぁ、そうそう。よろしくね。武器使用アリなんだってね。  
 

[3] ウリュリュ ドレッドメア 2017/10/17-03:37

あ、フランねーねだ!
おにごっこたのしそーだよね!!
ウリュリュだーいすき!!

えーっと…こーいうときはなんていうんだっけ…あっ、そーだ!!
こちらこそよろしくおねがいしますっ!!(ぺこりっ  
 

[2] フランベルジュ 2017/10/15-18:28

鬼ごっこかぁ…。
ディナリウムの近所の子とやったなぁ…。

誰か来るかな~…。
あっ、ウリュリュちゃん!
一緒の依頼なんだね!よろしくね!