プロローグ
とある廃村。
人気が無い筈のそこに、10人の集団が潜んでいた。
時刻は遅く、空に掛かる月明かり以外では、集団が囲む焚き火ぐらいしかない。
場所は、村の中央に開かれた広場である。
そこに、四方を1人ずつが警戒する中、リーダー格の男に質問がなされた。
「それが、オーパーツですか」
オーパーツ。
それは、この世界の今の時代には似つかわしくないアイテムの総称だ。
数百年、下手をすれば1000年以上進んだ技術で無ければ作ることなど叶いそうもない、超越的な技術によって作られている。
魔石の反応が高い場所にある事が多く、この集団も、それを頼りにこのオーパーツを手に入れたのだ。
質問を受けたリーダー格の男は、首輪の形をしたそれを見詰めながら返す。
「そうだ。これは機能から、支配の首輪と呼ばれているそうだ」
「支配の首輪、ですか?」
「そうだ。この首輪を付けられた者は、付けた者に服従するようになるそうだ。たとえ人が、デーモン相手に使ったとしてもな」
僅かに、息を飲むような気配が返ってくる。
人よりも高位の存在であるデーモンを支配するなど、通常は叶う話ではない。
それを可能にするオーパーツは、やはり尋常なアイテムではないといえるだろう。
「それさえあれば、あのデーモンを完全に従わせる事も可能ですね」
意気込むような声が、先ほどから質問をしていた若い男から上がる。
「あの勝手気ままなデーモンを支配できるかと思うと、胸がすっとします」
「それは上が決めることだ。我々は、これを持ち帰るのみ」
たしなめるように返すリーダー格の男に、若い男は気落ちしたように黙る。
それを慰めるように、リーダー格の男は続けた。
「気持ちは分からんでもないがな。こちらの持っている資料と引き換えに、あのデーモンは協力を持ち掛けてきたが、ろくにこっちの命令を聞かんからな。殺せといった相手は、つまらないから止めたとか、ふざけたことを言うしな」
「やはり、その首輪を使うべきでは?」
「上の判断次第だ。このオーパーツの機能を解析し、巧く量産できれば、我らでも好きに使えるかもしれんが」
「……その時は、ぜひ使わせて欲しいですね」
にちゃりと、嫌らしい笑みを浮かべ若い男は言う。
「凌辱されるデーモンの泣き叫ぶ声を、一度聞いてみたかったんです」
「……そうだな。その時は俺も混ぜさせて貰おう。量産できれば、デーモン以外でも使えるだろうしな」
下卑たことを、楽しげに言った。
それを耳にしながら、その場にいる者は、誰も嫌悪感を抱いていない。
それどころか、同じく下卑た笑みを浮かべていた。
今ここに居る者達は、つまりはそういう輩である。
彼らは、神の手と呼ばれる秘密組織に属する者達だったが、中にはこういう者達も平然といるのだ。
「とにかく、それもこれも、このオーパーツを持ち帰ってからの話だ」
リーダー格の男は、静かに言った。
「アルゴーさまの戦いで、我ら神の手への捜索の手は伸びている。しばらくここでほとぼりを冷ましてから、戻らねばならん」
再び、手にした支配の首輪に目を向け、続けて言った。
「これと一緒にあったという、スティック状の物も、手に入れられれば良かったな。恐らくあれは、なんらかの記録媒体だったのだろう。これと一緒に有ったことを考えれば、機能のより詳しい詳細や構造が記されていたかもしれないというのに、残念なことだ」
リーダー格の男の言う通り、そのスティック状の物は記録媒体であり、彼らが支配の首輪と呼ぶアイテムの詳細が記されていた。
それは、次のような内容だった。
お買い上げ有難うございます!
この首輪は、プレイ用の首輪です。
いつもいちゃらぶな2人だけど、ちょっと最近はマンネリ気味。
そんなアナタ達にぴったりのアイテムです!
大好きなアナタと私でレッツプレイ!
この首輪を付けられたアナタは、付けた大好きな人の命令に逆らえません。
怖くない?
でも大丈夫! 好意を寄せる相手同志でなければ、効果は発揮されません!
見知らぬ相手に付けられてもなんの効果もありません!
付けてる途中で、嫌いになれば効果は発揮されなくなります!
だから好きに命令できるからって、調子にノったらダメだぞ!
マナーと相手のことを想いやって、楽しくプレイしましょう!
なんだこれ?
この場に居る彼らが知れば、そう思うこと間違いなしの内容だった。
しかしそんな事とは知らない彼らは、どこまでも本気で、このオーパーツを持ち帰ろうとしていた。
そんな彼らを、いまアナタ達は囲んでいます。
村の周囲は、まばらですが木が生えているお蔭で、気付かれずに隠れることが出来ています。
なぜ、アナタたちが居るかと言えば、神の手がここに居るという情報が手紙でもたらされたからでした。
その手紙にはこう書かれていました。
なんか人にエロいことしようとしてる奴らが居てキモいから売っとくね!
一応、仲間でボクは手出しできないから、そっちでどうにかしといて!
セパルより。
そんな手紙が朝起きると枕元に置かれていた、ディナリウムに属する斥候2人は頭痛を堪えるような気持ちで、自腹で冒険者である貴方たちに頼んだのです。
斥候2人は、ディナリウムに伝えに行かなければいけない情報があるので、現場にはいません。
斥候2人の依頼は、次の通りでした。
オーパーツの奪取と、ディナリウムへの受け渡し。
神の手の殲滅。
可能なら、情報を確保するために生け捕りにして、ディナリウムに引き渡して欲しい。
引き渡しの相手は、事前に伝えた相手にお願いする。
冒険者の身の安全が第一なので、オーパーツの奪取と受け渡し以外は、余裕があればで構わない。
ということでした。
この依頼ですが、アナタ達はどうしますか?
解説
状況説明
廃村に居る神の手からオーパーツを奪取して下さい。
成功条件
オーパーツの奪取
成功度の上昇条件
神の手を1人も逃さず殲滅する。
あるいは、生け捕りにして引き渡す。
敵
神の手 10人 逃げてるせいか、疲れているっぽい。
リーダ格の男がオーパーツを所持。近接戦闘タイプ。明らかに強そう。1対1では不利かも? あと頭は悪くはなさそう。
その他の男達。そこそこの強さな感じ。囲まれなければ大丈夫っぽい?
近接戦闘タイプが数人と、あとはメイジとシャーマンっぽいのが居る。
四方を1人ずつが見張っているので、単純な不意打ちは通用し無さそう。
上記の情報は、村の周囲で神の手たちを見張っている間に見て判断できたものとします。
戦闘不能にするほどのダメージを与えれば、気絶になります。
その他の条件
敵を木に隠れて見張っている状況から始まりますが、この時点では相手はアナタ達に気付きません。
戦闘を始めると、気付きます。
隠れている場所から、相手に気付かれる場所に移動するまで数秒かかります。
そこから近接戦闘が出来る距離までは、更に数秒かかります。
時刻は夜の9時。月や星の明かりや、敵の焚き火で戦うのには支障のない明るさがあります。
神の手が居る広場は、混戦になっても支障の無い広さです。
その周囲に、まばらに家屋が建っています。
ご注意
今回は廃村なので、火を点けるなどの策はありと言えばありですが、必ずしもプラスにはならないのでご注意ください。
火が周囲に引火して火事になり、そのどさくさで逃げられる、とかも在り得ます。
また、流れ的に火事になりそうだなという判定になると、火事を消す必要が出てきます。
その他
オーパーツの詳細がアレですが、神の手は知らないのでガチで持ち帰りに必死です。
オーパーツの詳細は、あくまでもPL情報なので、PC達は知りません。
以上です。
では、ご参加をお待ちしております。
ゲームマスターより
おはようございます。もしくはこんばんは。春夏秋冬と申します。
今回、奪取する事になるオーパーツですが、アレな感じのアイテムです。
他のオーパーツは、こんなんばっかじゃないのでご安心ください。
機能がアレなので、神の手に持って行かれてもすぐにどうこうは無いでしょう。
それでも構造解析などされて何かに応用されると、なにが起こるか分かりませんので、ぜひ奪取をお願いします。
では、少しでも楽しんで頂けるよう、判定にリザルトに頑張ります。
【祭典】オーパーツ支配の首輪を奪取せよ エピソード情報
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担当 |
春夏秋冬 GM
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相談期間 |
7 日
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ジャンル |
戦闘
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タイプ |
ショート
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出発日 |
2017/10/21
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難易度 |
普通
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報酬 |
通常
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公開日 |
2017/10/31 |
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仲間が罠を設置後、敵が気づかないところから雷魔法で1人ずつ倒していく。
敵の数が自陣の数を下回った、または敵が罠にはまったあたりで全員で敵の元へ突入。戦いの中盤でリーダーを倒しにかかる。 オーパーツを奪取したら、スレイブのみくりにオーパーツを預け、みくりにディナリウムへ向かってもらう。 敵は全員生け捕りまたは殲滅したい。逃げた敵は容赦なく追いかけ殲滅する。生け捕りにして今後のために何かしらの情報を引き出す。
基本は魔法で戦うが、近接戦闘は一子相伝の蹴り技「タイキック」。
もしも火事になりそうだったら水魔法とかで消火もしていく。
ディナリウムでは、引き渡し相手に今回の敵の特徴や気づいた点などを事細かに報告。
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リーダーを捉えオーパーツ奪還を第1に 他は最悪逃げられてもいい
気付かれないよう罠設置 2班に分けて遠距離攻撃で一人づつ集中攻撃(事前に狙う順を決める。出来ればここで2人減らす) 敵が反撃しようとして罠にはまった辺りで突撃 敵が5人に減ったらリーダー攻撃
各々の細かい所は他の方の指示通りに
「ミクシーナさんとサークルさんが見張ってるから大丈夫と思うけけど、リーダーは逃がさないようにしなくちゃね」
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誘い込む場所に罠を設置 背後から気配を消しリーダーを監視 余裕があれば既に倒された神の手の外衣を着てリーダーの隙を窺ってオーパーツを掏るか 罠にはまったところでオーパーツを奪取 逃げそうなら「ドロップトラップ」で誘導
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キヒヒッ…神の手だなんざ知らねェが斬ッて斬ッて殺せるんだろォ? だッたらワタシが全部ブッたぎッてやんよォ…? オーパーツだッけェ…ナイフみたいなもんだったらワタシがもらいてェがセーレニアがうるせェからどうでもいいがァ… 他の探索者共も居るんだろォ…? なら強襲、奪取、強奪は得意分野だッてのォ…
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オーパーツですかあ…実に興味深いですねえ…ふふっ… 殲滅に関してはアーレさんが、それと他の探索者の方々が片付けてくれるでしょうしねぇ… とりあえずはアーレさんが斬り殺した神の手さんからの持ち物押収、出来ればオーパーツも頂きたいですねえ… オーパーツ、と言っても様々な物がありますからねえ… っと…そうです、忘れていました…アーレさん…とりあえず他の探索者の方には見つからない様にしてくださいねえ…? それと…もし他の探索者の方が先にオーパーツを入手した場合、傷を付けないように出来れば奪取してくださいねえ…?
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アレス( ディム )
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ケモモ | グラップラー | 12 歳 | 男性
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【目標】 オーパーツ奪取&神の手捕縛
【行動】 基本的にチームの作戦で動きます 前準備、こちらと広場の途中に簡単な転ばし罠をこっそり仕掛けよう 罠自体はバレてもいい、とにかく暗闇に何かあると思わせるのが大事 「場を支配できれば、多少の戦力差は覆せる」 これは師匠の言葉 戦端が開いたら遊撃、【考え】に沿って動くよ
戦闘時はマテリアルチェイン、ディム(スレイブ)に支援してもらうのを忘れずに もし焚き火を消すなら、ディムの知覚も借りよう 「むー…スレイブ使い、荒い…」(むくれ顔)
スキル『車輪』は、殴ったヤツが他の神の手を巻き込むようなタイミングで使うよ
臨機応変、情報は共有 アドリブ大歓迎!
【面識あり】 星野さん
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2班に分けて遠距離攻撃中に一人づつ順番に集中攻撃できるように探知と飛び道具や遠距離魔法にたけていそうな賊とメイジとシャーマンをもし追い付いてできそうなら足払いで徹底的に転ばせて狙いをつけやすくする。または罠のところに放り込んでヒットアンドウェイで撤退し再び皆と合流し集中攻撃フォーメーションに戻る。
敵が反撃しようとして罠にはまった辺りで突撃して 敵が5人に減ったらリーダーに集中攻撃して、その際 オーパーツ奪還が目的だが 他が逃げられそうになった時、木を敵に向かって切り倒し疲れなどで弱っているところを一網打尽にする。 スレイブと合流できていたらスキル車輪を移動と攻撃に作戦目的と戦況ごとに使い分ける。
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作戦などは他の皆さんにすべてお任せします。 始めは隠れており、戦闘開始と同時にリーダーがオーパーツを持ち逃げしないように張り付いて邪魔をすることとします。 進行方向にまきびしを撒いたり、足を狙って投げナイフを投げたり、色々試してみましょう。 戦闘は、ショートソードの二刀流で戦います。 速さを活かしたアクロバティックな一撃離脱戦法で撹乱しつつ攻撃。
味方との連携重視。 周囲の状況もよくみながら、不意打ちをくらいそうな味方には声で注意をしたり、襲いかかりそうな敵に投げナイフを投げたりします。 主目的はオーパーツを奪い取ること。 敵は生け捕りにするように殺さないように戦います。
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参加者一覧
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アレス( ディム )
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ケモモ | グラップラー | 12 歳 | 男性
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リザルト
○攻撃開始
月明かりと焚き火の炎が周囲を照らす中、オーパーツを所持した神の手の一団は変わらず廃村に佇んでいた。
周囲は明かりで照らされているが、幾らか離れれば闇の中。
そこに誰が居るか、分かるものではない。
だからこそ、周囲の警戒に当たっていた神の手だが、集中力は無限に続く訳でもない。
疲労が溜まり、物音もろくに聞こえない中、周囲への警戒が薄れ始めた、まさにその時だった。
冒険者たちの、一斉攻撃が始まったのは。
「連絡が来ました。3秒後に、攻撃を開始して下さい」
マテリアルチェインにより、自らのスレイブである【みくり】の連絡を受け、メイジである【星野秀忠(ほしの ひでただ) 】は、雷系のジ・アビスを展開。
「ぴかーん★……なんてね」
周囲を見張っていた神の手の1人に、長距離射撃を叩き込む。
予想もしていなかった不意打ちに、神の手はまともに食らう。
衝撃で動きが止まった所に、追撃で【セーレニア=シャゴット】が、ジ・アビスを叩き込む。
「ふふ、当たりましたねえ」
攻撃を受け倒れ込んだ敵に、セーレニアは笑みを浮かべる。
そんな彼女に、スレイブの【クエスチョン】は言う。
「じゃ、始めようか。こちらの予定通りにね」
「ふふ、もちろん、そのつもり」
セーレニアは笑みを浮かべながら返し、クエスチョンと共に動き出す。
その動きは、他の冒険者達が事前に話し合った物とは違う。
彼女の目指す先は、【アーレニア=シャゴット】と、彼女のスレイブである【アンサー】の元。
冒険者たちの作戦では、神の手達の周囲を囲う形でシーフであるアーレニア、そして【Simple(シンプル)】がスレイブの【Sample(サンプル)】と共に罠を張り、その上で遠距離攻撃手段を持ったメイジが先制攻撃をするというやり方である。
その上で、敵のリーダー格に当たる相手には、既に【ミクシーナ】がスレイブの【ミヤコ】と共に見張り役で就いている。
この作戦の精度を上げたのが、【サークル=クロスロード】だ。
「連絡役、お疲れさま。もう少し、続けてくれるか?」
「ええ。それは構わないけど、敵の攻撃には気を付けなさいよね。怪我、しちゃダメなんだからね」
サークルは自分のスレイブである【ソファー】に頼み動いて貰い、神の手達の動向と周囲の状況を把握している。
その上で、各自に適切に伝えているのだ。
スレイブは主人から離れすぎると機能が停止するが、そのギリギリを見極め、各自にリレー形式で伝達。
マテリアルチェインを利用すれば、同化した武器を介して意志を伝えられるため、神の手達に気付かれずに連絡を取ることが出来る。
それを今も可能な限り行うことで、作戦の精度は上がっていた。
作戦も、その精度を上げるために動くサークルも、実に巧いやり方である。
今回の戦いにおける、最適なやり方の1つを取っているといえた。
この時点で冒険者たちは、かなり有利になっている。
だが、その中にあって、セーレニアは不穏な動きを見せたのだ。
「オーパーツ、実に興味深いですねえ」
笑みを浮かべながら動くセーレニアの目的は、アーレニアと共にオーパーツの強奪。
アーレニアが、見つけた神の手すべての斬殺をする後衛で、魔法を撃って援護し、死体から色々と漁るつもりなのだ。
その動きに合わせ、動き出す者が。
【アレス】と、彼のスレイブ【ディム】だ。
「予想通りになったね」
「うん。だから、ボク達は助っ人に動くよ」
軽やかな動きで、セーレニアに気付かれないようアレスはディムと共に、後を追いかけるように動く。
それは、セーレニアとアーレニア、2人の普段の様子を伝え聞き、そこから2人の動きを推測していたからだ。
「ディム。余裕があったら星野さんと連携したいから、そっちの動きも良く見ておいてね」
「良いよ~。でも、あの2人も見ておかなきゃ、なんでしょ?」
「うん。助っ人するためには、必要だもん。お願いだよ」
「いいけど、なんか今回は、スレイブ使いが荒くなりそうな予感がする~」
息の合ったやり取りを交わし、2人は動く。
アーレニアやセーレニアが神の手の抹殺に動く前に、横から殴り付ける形で『助っ人』をするつもりなのだ。
この動きにより、場合によっては第3勢力として動きかねなかったセーレニアとアーレニアは、結果として遊撃役になる流れが生まれていた。
その間も、冒険者たちの遠距離攻撃は続いている。
「うん、命中」
ジ・アビスを、神の手の1人に危なげなく命中させた【ステファニー】に、彼女のスレイブ【クラリス】が声を掛ける。
「敵が、こちらの動きに合わせて退避行動を取り始めてます。逃げられないよう、踏み込みますか?」
普段は無口なクラリスだが、戦いの中では大事な主のため、一生懸命に周囲の状況を伝える。
そんな彼女に、ステファニーは安心させるように返した。
「ミクシーナさんとサークルさんが見張ってるから大丈夫と思うけど、リーダーは逃がさないようにしなくちゃね。場合によっては踏み込むから、狙撃に集中している間の状況の把握、お願いね」
「はい、任せて下さい」
ステファニーの言葉にクラリスは返し、頑張って周囲の状況把握と、マテリアルチェインによる攻撃力の上昇をこなしていた。
そうしてメイジであるステファニーと秀忠の遠距離攻撃により、神の手1人は倒され、間髪入れず更に1人が大ダメージを受ける。
この状況に、敵のリーダーは声を上げた。
「散開しろ! 狙撃だ! 固まっていると的にされるぞ!」
リーダーの動きは素早く、廃屋の家屋の影に、狙撃されないよう隠れる。
リーダの傍に居た4人は、同様に素早く動くが、残りの5人はその限りではない。
1人は既に倒され、もう1人は倒れる寸前。
残りの3人は、廃村からリーダーを置いて逃げ出そうとする。
「馬鹿が……」
敵リーダーは苦々しく呟くが、止めることはしない。
既に手遅れだと判断したからだ。
実際、村の外れに辿り着いた神の手の1人は、アーレニアに斬り裂かれ叫び声をあげる。
「キヒヒッ……神の手だなんざ知らねェが、斬ッて斬ッて殺せるんだろォ? だッたらワタシが全部ブッたぎッてやんよォ……?」
ドロップトラップを使用し、設置していた罠に神の手が掛かり、動きが鈍った所で斬り掛かる。
避けることなど出来ず、斬り裂かれていく神の手。
「オーパーツだッけェ……ナイフみたいなもんだったらワタシがもらいてェが。ああでも、セーレニアがうるせェからどうでもいいがァ……」
斬り裂きながら、この先の予定を楽しむように声を掛けるアーレリア。
そして止めを刺そうとした瞬間、横合いからアレスが車輪を叩き込んだ。
「吹っ飛べー!」
突撃する勢いも込めた拳が、アーレニアに首を切り裂かれそうになった神の手に減り込む。
重い打撃音をさせながら、殴り飛ばされた神の手は、近くに居た神の手を巻き込む形でぶつかった。
「助っ人に来たよ! 残りもやっつけちゃおう!」
助っ人の形で、神の手の止めを刺すのを邪魔されたアーレニアに、連携のために近付いていたセーレニアが言う。
「アーレさん、どうしますかねえ? 下手な事したら、他の冒険者にバレちゃいそうですねえ」
「……どうもこうもねェ。斬り裂く相手、横取りされるより先に、ブッたぎってやんよォ……」
アレスの動きで、冒険者にバレずに動くことは出来なくなり、それならばと少しでも多くの神の手を斬り裂くべくアーレニアは動く。
それに追従するように、セーレニアは後衛から魔法を叩き込んでいった。
そうして逃げ出そうとした神の手は次々やられて行くが、1人が仲間を置き去りにして走り出そうとする。
そこに、ステファニーがジ・アビスを叩き込む。
「逃がさない!」
不意打ち気味に受けた神の手は、逃げる速度が遅くなりよろける。
しかし、それでも逃げようとする神の手。
だが、秀忠が前に立ちはだかった。
「逃げるは恥なんですよ」
秀忠は逃走する敵にドロップキック。倒れ伏した所に雷系のジ・アビスを食らわせ逃げる余力を奪う。
「できれば貴方を殺したくないので、吐いていただけませんか?」
敵の顎を持ち、くいっと上げながら言う秀忠に、敵は呻き声を上げるばかりだった。
そうして神の手を倒していきながら、昏倒させた相手は拘束して逃げられないようにしていく。
一連の動きを、神の手の悲鳴で知った敵のリーダは、逆の場所からこの場を離脱しようとする。
しかし、その前にミクシーナが立ちはだかった。
「邪魔だ! どけ!」
「お断りですわね」
普段のメイド服ではない、戦闘用のくの一装束を身にまとったミクシーナは、スキルを使い瞬時に3人に攻撃する。
1人は足に投げナイフを受け動きが止まり、その瞬間に一気に踏み込んだミクシーナは、ショートソードを2本振るう。
舞うかのような動きで振われる左右の2刃は、神の手の腕と腹を切り裂いた。
ジョブレゾナンスを行い、ミヤコによるマテリアルチェインにより攻撃力が上がったその斬撃は、鋭くも優美だ。
一度に3人にダメージを与え、敵集団の動きを止めた。
その瞬間、ミクシーナは大きく後ろに跳ぶ。
ほぼ同時に、ミクシーナの居た場所を薙ぐ敵リーダーの拳。
当たっていればただでは済まなかったであろうそれに、退避するように更に後ろへと逃げるように動く。
だが、それは味方との連携を意識した動き。
そうとも知らず踏み込んで来た神の手の1人は、ミクシーナが事前に撒いていたまきびしを踏み、痛みでよろけた所にSimpleの罠にかかる。
足首まで埋まる小さな落とし穴にはまり、バランスを崩しこける。
こけた先には地面に杭が埋め込まれ、左手に半ば食い込むように刺さる。
「ひっ!」
痛みで声を上げる神の手に、背後に近付いていたSimpleが声を掛ける。
「降参して。でないともっと痛い目を見るよ」
「うおっ!」
なんの気配も感じない所に背後から声を掛けられ、傷を受けた時よりも更に声を上げる。
「な、なんだお前! 幽霊か何かか!」
そこに更に、Simple以上に存在感が薄いSampleが無言で背後に居ることに気付き、悲鳴を上げる神の手。
痛みと恐怖で混乱する神の手に、Simpleは攻撃を加え制圧していった。
次々にやられて行く神の手。
それに危機を抱いた敵リーダーは、オーパーツを持って逃げるべく、立ちはだかるミクシーナに攻撃を叩き込もうとする。
後衛には無傷のシャーマンとメイジを置き、強化と遠距離攻撃も合わせて攻撃を重ねる隊列。
それが機能すれば、冒険者たちにとって著しい脅威になっただろう。
だが、サークルの一撃が、それを防ぐ。
「こっちだ!」
ミクシーナに向かう敵の注意を引くために声を上げながら、車輪を敵シャーマンに叩き付ける。
殴りつけられた敵シャーマンは、勢い良く殴り飛ばされ、敵メイジにぶつかり動きを阻害する。
「貴様ら!」
敵リーダーの怒声が響く中、最終決戦が始まった。
○オーパーツを奪取せよ!
「邪魔だ! 貴様ら!」
敵リーダーは、暴風のような勢いで拳を振るう。
狙う相手はミクシーナとサークル。
前後を挟む形で襲い掛かってくる2人を振り払い、逃げようとしているのだ。
「当たりませんわよ」
ミクシーナは一撃離脱の体勢を取りながら避け続け、挑発で敵の注意を引く。
倒すよりも、敵を引きつけ味方の攻撃をし易くするような動き。
連携を意識した動きに合わせ、サークルも攻撃を重ねる。
「どこを見ている!」
ミクシーナに注意が向いた隙を捉え、動きを封じるように足を集中して攻撃を続ける。
2人がかりの攻撃を受けながら、敵リーダーの動きは衰えない。
ミクシーナの投げナイフを拳で払い、サークルの蹴り技に合わせ足技を放ち防御する。
拳の一撃一撃が重い代わりに動きが僅かに遅いため、今の所は辛うじて避けられているが、まともに受ければただでは済まないだろう。
先んじてサークルがシャーマンに攻撃を加え、敵リーダーの強化を防いでいたから良かったものの、そうでなければ今以上の苦戦は間違いなかった。
「なにをしている! とっととまじないを掛けろ!」
じれる敵リーダーが味方シャーマンに声を上げるが、冒険者たちに囲まれそれどころではなかった。
「キヒヒッ……もっともっと斬ッて斬ッて……ブッたぎッてやんよォ」
敵シャーマンに、真っ直ぐに突っ込んでいったアーレニアが、無数に刃を振るう。
腕を、頬を、身体を、何度も切り裂かれる敵シャーマン。
それに距離を置いて、中距離攻撃のスキルを叩き込もうとしていたシャーマンに、セーレニアのジ・アビスが突き刺さる。
「ふふ、貴方はオーパーツ、持ってないんですかねえ?」
ジ・アビスを受け、動きが鈍った敵シャーマンの懐を探るようにセーレニアが近付こうとするが、それに気付いた敵シャーマンは逃げ出そうとする。
だが、その前にアレスが立ち塞がった。
「残念、通行止めだよ!」
敵シャーマンが反応するよりも早く、車輪を叩き込む。
拳が腹に突き刺さり、ぶっ飛ばされた敵シャーマンは、味方のメイジにぶつかるとそのまま地面に倒れ伏す。
そのせいで、魔法を放とうとしていた敵メイジの攻撃は中断され、その隙を突くように攻撃が叩き込まれた。
「今です」
クラリスの声に導かれるように、ステファニーはジ・アビスを放つ。
状況を見極めていたクラリスのナビゲートは功を奏し、不意打ち気味に敵メイジは喰らう。
「当たった! ありがとう、クラリス!」
ステファニーは礼を返しながら、続けてクラリスのサポートを受けながら攻撃を重ねていった。
神の手たちは、リーダー以外が次々倒される。
そのタイミングに合わせ、秀忠は敵リーダーに跳び込む。
「この距離でメイジが俺に挑むか!」
「メイジだからって舐めた真似をすると痛い目にあいますよ」
秀忠は、舐めて掛かった敵リーダにタイキック。
予想以上の鋭さに、敵リーダーは思いがけずに動きが止まる。
敵リーダの注意を引きつけ、味方の動きをサポートするような動きを見せる秀忠。
それにリーダーが意識を向けた瞬間、Simpleが敵リーダーの懐に跳び込んだ。
「貴様!」
即座に気付いた敵リーダーは、すかさず拳を振るう。
拳の風圧を受けるほどギリギリで避けたSimpleは、更に後方へと跳ぶと、手にした首輪を掲げて見せた。
「これが、オーパーツかな?」
敵リーダーに踏み込んだ一瞬で、シーフでもある彼女は、敵リーダーが腰に着けていた首輪を掏り取ったのだ。
「貴様ああっ!」
激昂し、跳びかかろうとする敵リーダー。
だが、その隙を冒険者たちは逃さない。
Simpleは奪われないように距離を取り、万が一にも近付いてくれば設置した罠に嵌められるような位置取りをする。
ドロップトラップで敵リーダを誘導し、足首が埋まるほどの落とし穴に嵌めた。
動きが止まる敵リーダー。
そこに一斉攻撃が叩き込まれる。
「そろそろ終わりにしましょう。面倒ですし」
ミクシーナは、足を目掛け投げナイフを放つ。
Simpleの罠で動きが鈍っていた敵リーダは、避けることが出来ない。
更に追撃でサークルが足を目掛け、鋭い下段蹴りを叩き込む。
「さっきまでの勢いは、どうしたんです?」
重い音がするほどの一撃に、敵リーダは更に動きが鈍る。
しかしサークルの挑発に乗ってしまい、無理に動こうとした。
幾度か拳を放つが、今までのキレは無い。
そこに、アーレニアが斬撃を放つ。
「キヒヒッ……斬り応えがあるじゃんかよォ……もっとブッたぎッらせろよォ……」
幾度も振るわれる斬撃は、次々に斬り裂き、血の赤を撒き散らす。
それでも敵リーダーは倒れない。一気に踏み込み、斬撃を受けながらカウンターの一撃を放とうとする。
そこに、アレスは跳び込んだ。
目前に踏み込むと、自分を攻撃するように誘導する。
それに敵リーダーは反応し拳を放つも、鈍った体では当たらない。
「こっちだよ!」
アレスは巧妙に避けると、死角に潜り込み、車輪を叩き込む。
敵リーダーの分厚い筋肉に減り込んだ一撃は、メイジたちが攻撃のし易い場所へと殴り飛ばした。
一連の流れで、詠唱を終らせていたメイジたちは、一斉に魔法を叩き込んだ。
「ふふ、貴方には殺す前に、オーパーツの事を喋って貰いたいですねえ」
セーレニアは、オーパーツの情報を得るために、即死しないよう氷系のジ・アビスを叩き込む。
そこに十字砲火の形で、ステファニーがジ・アビスを追撃で撃ち込んだ。
連続して放たれる冒険者の攻撃。
もはや倒れる寸前の敵リーダーに、止めを刺したのは秀忠だった。
「チェックメイト」
雷系のジ・アビスをまともに食らい、敵リーダーはその場に倒れ伏した。
こうして、冒険者たちは神の手の全てを打ち倒し、捕虜にした上でオーパーツも確保するのだった。
○戦い終わり
「見て回ったけど、飛び火とかしてる場所も無かったよ。あとは、井戸で水を汲んで火を消せば良いだけね」
神の手達が焚き火をしていた事もあり、事前に井戸の場所を確認していたソファーは、周囲の確認をしてサークルに報告する。
「ありがとう。お疲れさま」
礼を言い、ソファーを労るサークル。
敵の対処だけでなく、火の後始末も考えているのは、実によく考えて動いていると言える彼だった。
そうして、焚き火の後始末に動いているのは、アレスとディムも同様だ。
「むー……スレイブ使い、荒い……」
戦いだけでなく、終わった後も忙しさが続いて、むくれ顔になるディムにアレスは返す。
「ありがとう。やっぱり、ディムは頼りになるね」
笑顔で返すアレスに、ディムはむくれながらも、一緒になって動く2人だった。
こうした冒険者たちの戦闘後の働きもあり、全ては何の問題も無く片付いていく。
そんな中、捕えた神の手に軽く訊問がされている。
「……斬り足りねェ……今からでも良いからァ……ぶった切らせろォ……」
アーレニアのハッタリの無い殺意に、神の手の下っ端は耐えられない。
しかも時折Simpleが、その気配の無さを利用して背後に立ち尋問するのも拍車をかける。
「……知ってること、話して下さいね?」
「ひっ!」
殺す気満々の相手に脅されながら、時折背後に、まったく気配を感じずにポンッと肩に手を置かれ、問い掛けられるのだ。
正直、怖い。
もっともSimpleは、周囲が暗く、焚き火も消される中では近くに誰が居るかも分かり辛くなっているので、思わずSampleが傍に居ることを確かめる。
「近くに、居るよね?」
確認するように小さく呟くSimpleに、そっと寄り添うように傍に居るSampleだった。
そうしてオーパーツの内容を知り、ステファニーは憤慨するように言った。
「人にエロい事するオーパーツなんて、大量生産されたらとんでもないわ。確保できて、良かったわ」
これにクラリスは、不思議そうに小首をかしげる。
「え? どうしたのクラリス?」
「えろい事って、どんな事に使うのですか?」
真面目なクラリスは、本気で他意も無く、不思議そうに尋ねる。
それにステファニーは、くすりと小さく笑うと返した。
「ん? エロい事ってどんな事にって? それはこの後教えてあげるわ。じっくりね……ふふっ」
茶目っ気のある笑みを浮かべ、返すステファニーだった。
その一方で、知的好奇心の強いセーレニアは、神の手から得られた情報を楽しむ。
「支配の首輪ですか……制約も無しに使えるのか、この場で実験したくなりますねえ」
実験動物を見るように、神の手の捕虜を見詰めるセーレニアだった。
そうして得られた情報を聞いて、優しい性格をしているミヤコは、不安そうに言った。
「持って行かれなくて、良かったね。悪用されたら、大変だったもの」
「そうかしら?」
ミヤコを安心させるように、ミクシーナは声を掛ける。
(何だか意外とこれ、下らないおもちゃなだけだったりとか)
今回のオーパーツの真実は知らなくとも、鋭い直感で事実を感じ取るミクシーナ。
けれど、それは言葉にせずに、ミヤコを安心させるように更に言った。
「大丈夫よ。私達が手に入れたんですもの。悪いことは起りませんわ」
この言葉に、ミヤコは誇らしそうに、そして嬉しそうに、大事な主に返した。
「うん。良かったね」
これに笑顔で返しながら、ミクシーナは心の中で呟く。
(この報酬で、当面の生活費にはなりそうですわね。またしばらくは、ミヤコとのんびり出来そうですわ)
表には一切出さず、ぐーたらなことを思ったりするミクシーナだった。
そうして全てが終わり、ディナリウムへとオーパーツを届ける際に、秀忠は学者という職業から得た知識などから分析した、敵の特徴やおかしな点などを報告した。
「ご報告いたします」
それは学者である彼の物らしく、詳細で有益な物だった。
こうして依頼は完遂される。
冒険者たちの見事な活躍で、新たな脅威が未然に防がれるのだった。
依頼結果
MVP
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アレス ケモモ / グラップラー |
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