プロローグ
・ストーリー
召集されたあなた達冒険者は目を剥いた。ギルド会議場に優雅に佇んでいたのは、見知ったデモニックの礼装した仮面紳士だったからだ。
「お久しぶりですね。初めましての方は以後お見知りおきを。
私はディナリウム財閥の当主【アルファルド】。 恥ずかしながら不肖ギルドマスターの一人を務めさせて頂いております。
故国リンドブルム軍の残党が武装ギルドを乱立させディナリウム内で勢力抗争を起こしています。
これを討伐するのは容易い事ですが、リンドブルムは外国、今いらぬ国際問題への誘発は敵の望むところでしょう。
そこで我々はリンドブルム武装ギルド幹部と、
内政干渉にならぬよう極秘裏に和平交渉を起こし、改めてディナリウムとリンドブルムの平穏と民の安全を確かなものにしたく思います。
うまく行けば今後彼らの力も得ることができるでしょう。
交渉の席は私の持つ店舗、【冥土貨幣(メイドカフェ)】 にて宴席を設けさせて頂きましょう。
是非私達と冒険者ギルドの皆さんで、宴を盛り上げ、和平交渉を無事成功へと導きましょう」
解説
・解説
依頼者は冒険者ギルドの常連【レディ=アン】。 彼女の母国でもあるリンドブルム軍残党の武装ギルド幹部達を取り込む為、彼らと和平交渉を取り付けます。
交渉編パート、宴席編パートの二つに参加して、それぞれディナリウム側、またはギルド冒険者としての立場で無事乗りきって下さい。
・交渉編(武装ギルド和平交渉)パート
リンドブルムは冒険者ギルドのあるディナリウム国の領地ですが、かつて連合軍として共に戦った際、
裏切りを起こした為、形のみ存続を許された外国でもあります(ワールドガイド参照)。
その為犯罪者などが逃げ込んでもディナリウムの法が届かず人々を苦しめてきました。
レディ=アンは実はリンドブルム王家の娘で国と国民のため、その混乱の平定を願い今回の和平交渉を、その皮切りにするつもりでしょう。
武装ギルド幹部達がレディ=アンの強い嘆願を通じてアルファルドの召集に応じたのは故国リンドブルムへの強い想いがあるといっても過言ではないはずです。
ディナリウムとリンドブルムの悲劇の歴史を鑑みて
「平和」「王国」「地位」「民」「名誉」の観点から交渉会談に参加し、
和平交渉がより理想的な形で決するよう積極的に発言して下さい。発言は小分けにしても、一つにまとめても構いません。
・宴席編(冥土貨幣・メイドカフェ)パート
アルファルドの手配したメイドさんスレイブ達を手伝い和平交渉の宴席を盛り上げます。
和平交渉会談開催地となるリンドブルムには華やかな妖精街があり、宴を楽しむありとあらゆるサービスが整っています。
劇団やアイドルを呼んでもよし、オリジナル会食メニューに凝るのもよし、冒険者達で隠し芸を披露してもよし、出席者一同で是非楽しんでみて下さい。
方向性として、やはり来賓であるリンドブルムを尊重・配慮した内容が固いかもしれません。
ゲームマスターより
・GMより
カタストロフィでははじめまして。EXITと申します。
今回はより政治的な日常編のストーリーになります。
一見複雑に見えますが、ここで簡単におさらいをさせて頂くと、
・交渉編パート
かつてディナリウムとよくない関係のある故国リンドブルムの為に集まった武装ギルド幹部達が心から納得して有利に和平交渉を進めるために
「平和」「王国」「地位」「民」「名誉」に関して、
より相手の満足度が高くなる発言をして下さい。
・宴席編パート
PC、スレイブにメイドさんの格好をしてもOKです(本家メイドさんはもちろん)。
色んな催し物、出し物やカフェレストランメニューなど考案してプレイ&プロデュースを楽しんで下さい。
注文の多いメイド喫茶カタストロフ エピソード情報
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担当 |
EXIT GM
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相談期間 |
8 日
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ジャンル |
シリアス
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タイプ |
ショート
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出発日 |
2017/10/17
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難易度 |
普通
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報酬 |
通常
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公開日 |
2017/10/25 |
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議論が膠着状態になった時に冒険者の一人として発言。 「ここで一度整理して、相互理解を深める為にも一先ずは お互いの考える平和、王国、地位、民、名誉について教えて頂けませんか?」 宴席編では出し物としてお互いを愛情を込めて付き合う健康ツボ押し創作カンフーエクササイズを指南。冒険者と武装ギルドメンバーと組んでもらってお互いを回復させて仲を深める。メイド忍者さんも実演に参加して もらいセクシー度も何故か上昇。
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・目的
交渉…できるかなぁ
・動機
わたしもディヘナで育ったからさ、リンドブルムの事はよく知ってるよ。 よくない所もね。 でも、そういうのって難民にきちんとした住処と仕事がないからでしょ。 ギルドの人達同士で争っているからでしょ。
平和:武装ギルドが纏まって自警すればいいじゃない。 王国:妖精街、好きだよ。あれが皆の望む王国じゃないの? 地位:何で今それを決めるの。王国を建て直した功績で決めないの? 民:人はいっぱい居るから、国が…建設とかお仕事作るとかさ。難民も、もう民だよ。 名誉:って、他の人から誉められる人が持つものだよ。
・行動
思い切って↑みたいな事言ったら大変な事になるから、まずレディさんに伝えてみるよ。
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ワシはそれなりに世界を見てきたつもりだ。 戦争ってのはまあ、いろんな感情が渦巻いて簡単なもんじゃない。 が、起きないに越したもんじゃないってことには変わりはない。
交渉ってのは双方に益がなけりゃいけない。かつての王国の裏切りも考えなしだったわけじゃない。 事実、自治区としてはリンドブルムは生き残ったし、レディも生き延びた。 ベストではなかったかもしれんが、できる限りの事をした結果だった。
その結果も、無理な反抗をすれば潰され、無に帰る。王家の祈りも潰えるってことじゃ。 物事は一足飛びには片付かんよ。 故郷を想う気持ちがあるならば、リンドブルムとして公に認められる状況から作っていくべきではなかろうかの。
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目的 交渉が成功するためにそれぞれの国に合う料理・スイーツを用意する
メニュー それぞれの国にあったメニューを考える 季節にあった食材を使ってメニューを準備 スイーツ(ぶどうタルト・梨のガトーショコラ・モンブラン) ワインを二種類用意(国にあった飲み物) メインディッシュ(肉は貴重な鶏肉を用意する)
行動 メイドカフェにいち早く出勤し下準備を行う 準備を行う際、食材が足りているかフレイスと確認 交渉が始まり、機嫌を損ねないように料理をタイミングよく出していく 軽いものが食べたいというなら、即興で魚のカルパッチョ・お茶漬けなど食べやすいものを作る カロリーにも気にして作る
フレイスと連携を取る
機嫌もよくしながら料理を出す
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宴席編パートにて主に活動。 スレイブのミヤコ共々メイドで参加。 交渉中は料理に専念するので、出来れば参加は致しません。 私が準備する料理は少し変わったお茶と料理。 ジャスミンティー、ウーロンティー、プーアルティーなどの温と冷を選べるお茶。 ティーポットからカップに注いでまわります。
お料理の方はエビチリ、エビマヨ、焼き餃子、皿うどん等。 これらの料理は、かつて戦争をした国同士が、その後に国交を結び、お互いの文化を学んだ結果出来たお料理の数々です。 今日の為に古い文献を読み解き、準備して参りました。 これらを召し上がって感じられることはそれぞれだとは思いますが、どうか皆様の何かしらの一助になれば幸いに思いますの。
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う~ん…でぃなりうむのきしだんのひとりとしてまねかれたけどわたしはせーじとかわかんない~… えっと~…そーだ!えんかい?だっけ!そこでえんそーするね~! りんどぶるむのひとたちがくるんだよね?ならわたしもすきなりんどぶるむのみんようの「ようせいのまい」をえんそーするよっ! じかんがあればほかのりんどぶるむのおんがぐとかもえんそーする!! わたしのえんそーでみんながなかよくしてくれたらいいな~っ♪
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参加者一覧
リザルト
もともとこの地には、リンドブルム王国という小さな王国があった。
当初、反ディナリウム連合軍の一翼を担っていたが、ディナリウム軍が自国領土に接近してきた際、連合軍を裏切りディナリウム軍に大きな勝利をもたらした。
しかし、この戦争の際、終盤に連合軍に裏切りが発覚しリンドブルム王家の者は、ことごとく捕まり処刑されてしまう。
唯一の生き残ったのが当時0歳だった赤ん坊で、ディナリウム皇帝は、裏切りの代償として約束していた領土安堵と独立を赤ん坊に与える。
当然の事ながら、0歳の赤ん坊に国を統治することはできず、難民がなだれ込み、犯罪者の巣窟になってゆく。
故国リンドブルムの志士はそれに決起し、武装ギルドを各地で打ち立てる。
しかして現在、リンドブルムは、ディナリウムの領土の中にポツンと取り残された外国という位置付けだ。
ディナリウムに籍を置く冒険者の救いの手が、武装ギルドによる自治、犯罪者の武装による排除から、やがては武装ギルド同士の勢力争いとして騒動が激化するに発展して困難になってゆく。
都の攻勢による被害者や難民、犯罪者等、行く当てのない者たちが集まり、独自の文化形成を成しているが、表面的には妖精街を中心に明るく華やかな印象の土地柄である。
一方で、町外れの奥地には、現地人が寄り付かないエリアがあり、取引が禁止されている交易物を取り扱う闇市、犯罪者が多く住まうと言われる危険地域などが数存在するのだという。
当時0歳だった唯一のリンドブルム王家の赤ん坊も、今は二十歳を過ぎた立派なレディに成長していた。
しかし、一度失ってしまった国の統治は、武装ギルドと犯罪者たちに奪われたままだった。
一応、妖精街と呼ばれる長さ100mほどの繁華街が、彼女が存在し支配する全てで、辛うじて治安を維持し平和を保っている状況だ。
赤ん坊だった彼女は、今では通称『レディ・アン』と呼ばれ、数少ないまっとうな住人たちに慕われている。
妖精街は、飲食店と宝石を扱う店が並ぶ街で、名前の通り妖精種が多く住んでおり絢爛豪華の反面、どこか儚い輝きが虚ろで今は……あまりにも、とても静かだ。
―――
取り分け現世一きらびやかと思われるリンドブルムの妖精街において、その寂れた喫茶店は異彩を放っていた。
古く色褪せた煉瓦でできた店舗がある。
深夜に客のいない店内で、うつらうつらと微睡みに包まれながら『ワイアット・ロビン・ジェニアス』が薄目を開けると、カウンターで古いが露出の高いメイド服に身を包んだダークエルフの美女が彼の飲み干したコーヒーカップに新しいコーヒーを注いでくれた。
「ありがとうよ、『エスプレンダ』新店長。若女将姿もまた随分サマになって、ますます色気にも磨きがかかったな」
「アタシにそういう浮いたセリフを吐く男は百年ぶりだね」
「ははっ、コレだからエルフとか妖精ってやつは」
エスプレンダもクックッと笑いながら彼の軽口を流し隣に座った。
エルフの寿命は果てしなく長い。男性とこんなやり取りをしたのも実は、はるか昔というのは本当の話だ。
ワイアットの目がコーヒーに映る自分の顔を見る。
カップに近付くと鼻から全身に甘い苦味が心地よく広がってゆく。カップをエスプレンダの笑みへと捧げるワイアット。
そのまま彼の視線は彼女の奥でコーヒーの豆をひいている、もう一人のメイド服姿の少女に静かに目をやった。
―――
「我らギルド『女王の右腕』! リンドブルムの明日を導く! 」
「俺達はギルド『女王の王冠』! リンドブルムの未来を担う! 」
「僕達は『女王の剣』! リンドブルムの運命を切り開く! 」
交渉の場に設けられたアルファルド邸内の円卓会議場は、武装ギルド幹部達の宣言で混迷を極めていた。
(交渉……できるかなぁ)
『スターリー』の額を冷や汗が流れた。
武装ギルド幹部達は互いに目を合わせ、ニヤリと笑った。彼らの声が重なる。
『そして、このお方こそが! 我らが旗印となるアン王女だっ! 』
彼らの後ろには豪華なドレスを着た気品のある美少女達が控えていた。それぞれの頭には王の冠を戴いて。
アルファルドはレディ=アン、すなわちアン王女の存在をほのめかしギルドの幹部達を集めた。
しかし彼らは、行方不明になっていたアン王女の身代わりを立てて、リンドブルム自治区内でより強い権力を得て保てるか泥沼の争いを繰り広げている事が今発覚したのだ。
アルファルドもレディ=アンも承知の事だったらしく終始無言だ。
ただし、アン王女の姿は震えている。彼女は冒険者としての職業であるメイド服姿のままだった。
救おうとした故郷の民に自身を否定された彼女への一幕にスターリーは沸き上がる怒りを押さえ込んだ。
―――
厨房に集まった『ミクシーナ』、『サークル=クロスロード』、『ピグニマン=レーカラン』は冒険者兼料理長でもある『フェイネス』の掌にある食材を見て唸った。コーヒーの豆。
アルファルドが冥土貨幣(メイドカフェ)などという趣味の自営店を持ち出した疑念が氷解した。
田畑は焼け荒れ、略奪が重なり故国旧リンドブルムの特産品としてはもうそのコーヒー豆しか残っていなかったのである。
妖精街は回ったが純正としてのリンドブルム生産の作物は既にほぼ底を尽きていた。
他の土地の特産ならどんな作物も手に入る。しかしそれでは故郷の味としての再現は難しい。
しかしここで引く訳にはいかない。
交渉の成功の締めを司る気概なくば宴席の成功は遠い。
フェイネスは黒板にコーヒーに合う食材とレシピのアレコレを書き連ねた。
「ひとまず俺は、それぞれのギルド出身国にあったメニューを考えて、季節にあった食材を使って準備する。
スイーツはぶどうタルト・梨のガトーショコラ・モンブラン。
ワインも二種類用意。メインディッシュの肉は貴重な鶏肉を用意して、軽いものが食べたいというなら、即興で魚のカルパッチョ・お茶漬けなど食べやすいものを。当然カロリー計算にも気にしてな」
本家メイド姿のミクシーナがエプロンドレスの裾をつまんで優雅にひるがえる。
「では私はスレイブのミヤコ共々メイドで参加しますの。
交渉中は料理に専念するので、出来れば参加は致しません。
私が準備する料理は少し変わったお茶と料理。
ジャスミンティー、ウーロンティー、プーアルティーなどの温と冷を選べるお茶をティーポットからカップに注いでまわります。
お料理の方はエビチリ、エビマヨ、焼き餃子、皿うどん等々。どうぞごゆるりとお楽しみ遊ばせ♪ 」
サークルの手の上で塔のように重なったコーヒーカップがクルクルと回る。
「それでは私はそのコーヒーを活かしたオリジナルブレンドと、ちょっとレクリエーションとして平和的な出しものを一つお披露目致しましょう」
ピグニマンが後光に輝き笑顔でVサインを繰り出す。
「う~ん……でぃなりうむのきしだんのひとりとしてまねかれたけどわたしはせーじとかわかんない~……
えっと~……そーだ! えんかい? だっけ! そこでえんそーするね~!
りんどぶるむのひとたちがくるんだよね?
ならわたしもすきなりんどぶるむのみんようの『ようせいのまい』をえんそーするよっ!
じかんがあればほかのりんどぶるむのおんがぐとかもえんそーする!!
わたしのえんそーでみんながなかよくしてくれたらいいな~っ♪ 」
『お、音楽か? それはイイネ?? 』
一同思わず同時に面食らったが、華やかに宴に流れる夢の調べは格別だろう。
―――
「んごぉー♪ すぴー♪ むにゃむにゃ」
スターリーにもたれかかるようにして円卓中央で呑気に爆睡するピグニマン。
幹部達が気勢を削がれ歯噛みすると、アルファルドはおかげで空気が和んだと高らかに笑った。
「ようこそ私の邸へ。歓迎します。
何、極秘裏の交渉です。お互い胸襟を開いて 、じっくりと今後の事を話し合いましょう。
交渉の席も今日で終わりというわけではありませんし。そう、お互いが心より納得するまで……」
幹部達がたまらず、その言葉に食って掛かる。
「我らを囲おうとしても、そうはいかんぞ! 冒険者ギルド! 」
「そ、そうだ! そもそもアン王女の名を出せば我らがのこのこと姿を現すと思ったか! 」
「貴方達冒険者ギルドこそ、僕達リンドブルムのギルドに入るべきです! 女王の名のもとに! 」
スターリーが円卓をバンと叩いて立ち上がる。
「いい加減にしなよ!
ここに集まったのは武装ギルドの一部であって全部じゃない。
どこかについても、どこかと構えて永遠に終わらない! 見渡せばどこもかしこも戦災の難民ばかり……!
わたしもディヘナで育ったからさ、リンドブルムの事はよく知ってるよ。
よくない所もね。
でも、そういうのって難民にきちんとした住処と仕事がないからでしょ。
ギルドの人達同士で争っているからもあるでしょ!
武装ギルドが纏まって自警すればいいじゃない。例えば妖精街、好きだよ。
あれが皆の望む王国じゃないの? 」
図星を突いたのだろう。一同が押し黙る。サークルが静かに口を開いた。
「どうでしょうか、ここで一度整理して、相互理解を深める為にも一先ずは
お互いの考える平和、王国、地位、民、名誉について教えて頂けませんか? 」
その言葉にアルファルドが恭しく頷いた。
「それにはやはり、ギルド代表として王女自らの言葉で語ってもらいましょう。いや、この場合王女達自ら……といった方が正しいかな」
『なっ……!? 』
武装ギルド幹部達と背後の代役王女達が色めき立つ。
「アルファルドッ! 私はそういう意味で言ったのではありません! 」
慌てるサークルをいさめ、スターリーがハッとして席を立つ。
「それイイネ! ねえ皆、私と……アン王女達だけで少し話をさせてくれないかな? ちょっと休憩も挟みたいしさ!
『アインス』、『フレイス』、『ミヤコ』、『クー』、『ソファー』、『オウル』ー! 出番だよっ! 」
その掛け声を合図に彼女のスレイブと他のメイド服スレイブ少女達が水差しとコップを盆にのせて幹部達を取り囲む。
「ささ、どうぞお構い無く。怒鳴りっぱなしで喉も乾いたでしょうし、ね? 」
幹部達の制止の声を振りきり、スターリーは王女達を連れて、邸の厨房へと一目散に駆け出した。
―――
「ご来場の皆様、座りっぱなしでお疲れになったでしょう。
お口直しに、しばし簡素な催し物を前菜にお楽しみ頂ければ幸いです。
日々のしかも健康生活には打ってつけですよ♪
召しませ開眼健康拳! ホアチョウ! 」
「ち、ちょっとサークル!? 私達お料理の仕込みの途中でしてよ!? 」
サークルがミクシーナと彼女のスレイブのミヤコを連れて円卓の間の壇上に躍り出る。
「全身の四肢を伸ばし、古代に伝わる伝説の拳法の型と構えと千の技を応用してお互いの健康のツボを流れるように打ちます、そう例えばこの動き! 」
「こ、こうでしょうか? 」
むにゅう。
「アはんっ☆」
ミヤコの突き出した右掌がやんわりとミクシーナの完熟した胸を下から甘く包み込む。
「ほ、ほらミクシーナ、あなたも右足を深く前に」
「え、ええ? こ、こうですのぉ? 」
「うゥん☆」
ビクンッ!
ミクシーナがミヤコの両の太もものすき間から美脚をせり出す。
ミヤコが反射的に大きくのけぞった。
「さあ、そのまま二人で指先を上から下へ、下から上へ☆
空いた手でお互いを支えつつ腰を素早く何度も回してみましょう」
『ああーんっ☆』
支え合い、高め合い、お互いの指先をお尻に深く沈めて、壇上に桃色の照明を照らしながら爆乳を押し付け合い妖艶に熱い吐息を混ぜてあまりにも淫らに乱れ舞うミクシーナとミヤコ。
予想外の一夜のロマンスに冒険者ギルドの面々も武装ギルドの面々も、事の顛末を忘れて生唾を飲み込み、眼前に展開する手に汗握る連続クライマックスに熱中したのだった。
―――
「大丈夫かのう、サークルのやつ。またミクシーナとミヤコにサンドイッチにサンドバックに料理されそうな予感が……」
「全く懲りないというか……。
とりあえずうまく時間は稼げてるぜ、スターリー」
場所は変わって厨房。心配するワイアットの横でサムズアップしながら戻ってくるフェイネス。スターリーは大きく息を吸い込んだ。
背後のアン王女達に向き直る。大きな答えを得るチャンスは今のこの瞬間しかない。
「……えー、おほん。
和平交渉を受けるってことは、争ってる人達もホントは争う事に嫌気差してるんだと思うんだ。
じゃなきゃこの席に来ないと思うし。
でも、対立する武装ギルドとして今までしてきた事が枷になってうまく話し合いできないかもしんない。だけど今日集まったのは、
レディさ……アン王女様のご威光ってやつ、まだあるんだと思う。変わらない妖精街が何よりの証拠だよ。
だからさ、それを広げるだけで……また素敵な国になる筈なのにね。
そう、思わない?
リンドブルムのアン王女様? 」
気丈にも、幹部の用意したアン王女の一人が静かにスターリーの前に進み出た。
「冒険者の皆様は、名誉についてどういった考えをお持ちなのでしょうか。
私達リンドブルムの民が重んじる名誉と皆様の思われる名誉には強い齟齬を感じます」
「私にとっては名誉って、他の人から誉められる人が持つものだよ。
それが今故郷への誇りと悲しみに置き換えられてるような気がする。多分私だから分かる。私……さ」
アン王女に、彼女達にスターリーは精一杯の笑顔を見せた。
「皆みたいに本当の生まれ故郷を知らないの。第二都市、ディヘナ育ちの孤児なんだ。
私が物心付いた頃からスレイブが傍に居たから、元は中流以上の家庭環境だって言う話らしいんだけどね。
でもそんな事どうでもいいの!
親の顔なんて、そもそも覚えてないんだから。
私には魔法使いの才能がある。これと魔石さえあれば冒険者ギルドからの依頼だってこなせるし、生みの親だって、大人だって目じゃないもん。
任せて、何があったって魔法で解決しちゃうんだから!
あー……でも、メイジって何だかイケてない響き。
もっと可愛くて、かっこよくて、私だけの呼び方……そう、魔法少女!
私は、人呼んで………さすらいの魔法少女にして、皆の愛する家族のいる故郷を守る世界一の冒険者だから!
どうかな、これが私の、私達冒険者の……! 」
果敢に自身の全てを世界にさらけ出すスターリーを居並ぶアン王女の列から飛び出したレディ=アンが強く抱き締める。
ワイアットが二人の前に庇うように立ち、すっくと居ずまいを正した。
「ワシはそれなりに世界を見てきたつもりだ。
戦争ってのはまあ、いろんな感情が渦巻いて簡単なもんじゃない。
が、起きないに越したもんじゃないってことには変わりはない。
交渉ってのは双方に益がなけりゃいけない。かつての王国の裏切りも考えなしだったわけじゃない。
事実、自治区としてはリンドブルムは生き残ったし、レディも生き延びた。
ベストではなかったかもしれんが、できる限りの事をした結果だった。
その結果も、無理な反抗をすれば潰され、無に帰る。
王家の祈りも潰えるってことじゃ。
物事は一足飛びには片付かんよ。
故郷を想う気持ちがあるならば、リンドブルムとして公に認められる状況から作っていくべきではなかろうかの。
………のう、お前さんがた? 」
ワイアットの鋭い眼光を放つ視線を追った、その先を一同が見ると俯き項垂れたギルド幹部達が男泣きにすすり泣いていたのだった。
「アンタ達の思い、しかと見届けたよ」
レディ=アンの前で、先程スターリーに進言した代役アン王女の体が光輝いた。
そのまばゆい煌めきが消えると、彼女の体は薄い武装を豊満な肢体に身に付けた妖艶なメイド服のダークエルフとして姿を現した。
「この妖精街ギルドマスターの一人、『女王の杯』のエスプレンダが………ね。
アンタ達冒険者ギルドと肩を並べて、アタシ達リンドブルムのギルドは、故郷の昔の姿を取り戻す。
必ず! 」
ようやく通った思いに呼応し、祝福するように精霊達の美しい音の調べが耳に届く。
妖精街から呼び寄せた楽団で、制約通りにピグニマンは………軽やかに爽やかに、それでいて幻想的な妖精の舞いを魅せる。
そして、妖精街の方角から次々に虹色の花火が上がったのだった。
―――
回想を終えたワイアットが座席で大きく伸びをした。いつの間にか眠っていたらしい。
ワイアットが薄く目を開けると、彼のスレイブであるクー、本名『クーサモラエスクワックェルクラントーム』がメイド服で膝枕してくれていた。
「注文が多いというか………和平交渉って本当いろんな事考えないといけないんだねぇ。
もっと簡単にみんな仲良くできればいいのに。
まあ、いろいろわだかまりがあるのは、………わかるけどさ。
でも、スラムとか、無法地帯とか、そういう所ってどうしても………そういう人が集まってきちゃうのよねー。
私もワイアットと色々と旅してみてきて改めてそう思うな。
結局、その辺を解決する一番の手段は乱暴に言っちゃえばお金なのよね。こればっかりは名誉も勝ち目がない。
食べ物が足りない、着るものがない、食べ物がない。じゃあどうする、どうなる?
その辺が何とかなれば全部とは言わなくてもある程度は解決できる。お金持ってる人が強いって言われるわけだわ。
だけど本当の富ってのは奪うだけじゃ手に入らない。長い人生を信念と名誉を持って生き残る財産に目を向けなきゃ。
武装ギルドだったってことは皆少しは強いんでしょ?
その強さを活かして一緒に何か新しく色んな仕事できないかしらね。でも、例えば………こんなお店を生まれも育ちも関係なく、分け隔てなくやるのもいいね」
万感の思いを込めて問いかけるクーの言葉に目を伏せて頷くワイアット。
後で分かった事だったが、レディ=アンが冒険者ギルドに与えたコーヒー豆は実は妖精街がリンドブルム王家に貯蔵した天然オーパーツ、世界樹と配合した特注品で、それを冒険者ギルドが提出した時点で本物のアン王女だと今度こそ確実に証明されたのだとか。
妖精街のギルドマスタの一人、ダークエルフのエスプレンダは同じメイド姿のレディ=アンと、和平交渉のあの日から彼女が新店長を襲名した、この喫茶店『出張版・冥土貨幣亭』で働いている。
改名改装してメイドカフェになっていく予定なのはアルファルドの趣味だが、平和的な冒険者ギルドの出資は現地に心から歓迎された。
アン王女が最初に妖精街のこの場所に来たのは、侍女にして乳母でもある宮廷のメイド服のお古を着てお忍びで露店を出歩くやんちゃな幼いアン王女の迷子探しという、妖精街ギルドに緊急の勅命で送られてきた隠れ住む故国リンドブルム家臣による血相を変えた依頼解決が発端だった。
まだ妖精街ギルド所属の冒険者の一人だったエスプレンダが保護した時に極秘報奨として王家の秘宝を授かり、その記念にこの店を開いたのだという。
運命の偶然か、ワイアットの舌はその味を長い旅先のついでに訪れたリンドブルムの妖精街で、かすかに覚えていたのだった。
この店で注文した一杯のコーヒーの味を。
(こいつが、この味が、この地のリンドブルムの故郷の味を育ててくれるに違いない)
フェイネスとミクシーナは、あれから餃子で新メニューを創作し、このメイドカフェに新たなるリンドブルム特産メニューとして店に置いていった。
餃子の中にスイーツであるコーヒーゼリーを入れると絶品な深みを持つ旨味になるのだ。
ミクシーナによると、なんでもこの餃子という料理の発祥は、かつて戦争をした国同士が、その後に国交を結び、お互いの文化を学んだ結果出来たメニューの一つなのだそうだ。
フェイネスは新メニューとして、その水餃子バージョンも仕上げ、世界数々の和平交渉に招待されて登壇し腕を振るっているという。
厨房に立つフェイネスは、まさしく料理の申し子にして、神だった。
「俺も、スターリーと同じでさ、ディヘナ出身のはずではあるんだけど、記憶の断片のあちこちが抜け落ちてて………自分の名前と一緒に育ったであろうスレイブの名前しか覚えていねえんだわ。
パッと見だが、耳と尻尾のついたケモモだということは、そりゃあ分かっている。
多分、狼のケモモ一族だと思うが家族というものがいるのかってさえ分かんねえ。
本当は、本当の自分が一体何なんか、何者なのかも知らないってオチ。
ただ、冒険者稼業の他にも料理・お菓子作りに関しては上手く誰にも負けない自信がある。意外だろ。
料理やお菓子で子供や大人を喜ばすのが得意なのもあるけどよ、注文を受ければなんでも作れるんだぜ?
もしかして俺の知らない俺は、故郷で料理について何か………。なんてな。
ただその答えが、これから作る俺の料理の中に眠ってるかもしれない」
ちなみにサークルが考案した胃腸改善下剤入り薬膳コーヒーは没にした。
本当に危なかった。
和平の祝砲を大の男達がトイレで上げたとあっては末代までの恥だ。もう少しで冥土喫茶カタストロフとして一生涯語り継がれるところであった。
スターリーはピグニマンとディナリウム聖騎士団のところへ今後のリンドブルムの情勢の回復と発展の交渉の為に、ギルド代表代行大使として向かった。
あの二人ならば必ずや吉報をもたらしてくれるに違いない。
さあ、明日も次の冒険が待っている。
冒険者ワイアットは自分を呼ぶ声に振り向くと、そう、そこにはコーヒーの香りに乗せて、あの時の仲間達の姿が今も………。
〈劇終〉
依頼結果