【祭典】はぐれ道、混じる道(鳴海 マスター) 【難易度:とても簡単】




プロローグ


● 祭りの中ではぐれる。
 祭りの喧騒も遠く、オレンジ色の提灯が揺れた。
 出店の群の端の端。折り返しであり入り口であるその場所で、あなたはふと立ち止まってその光景を振り返った。
 一直線に並んだ出店とその向こうに吸い込まれるように消えていく人波、それをじっと眺めていると自分が世界から取り残されてしまったようなそんな感覚に陥る。
 ただし……だ。
 そんな不思議な感覚を楽しんでいる間もなくとある異変にあなたは気が付いた。
 あなたのそばにいたはずのスレイブがいない。
 そう、はぐれてしまったのだ。
 これほどに人にあふれた空間で手を繋いでいなかったのが間違えだった。
 君は茫然とあたりを見渡す。
 もはやここまで来ると、スレイブの性格やいきそうな場所を推理して探し出すしかない。
 皆さんは歩みを進める、明確な目的を持って人ごみをかき分け進んでいく。


● 迷子のスレイブを探せ

 今回皆さんは迷子になってしまったところかおはなしが始まるのですが。
 ただ、迷子になるのはスレイブでも主人でもどちらでもいいです。
 なので最初に探す方と迷子になる方を決定してください。
 その後お祭り会場を回って探してもらうのもいいのですが。
 ここまで長くはぐれたこと、物理的な距離があいてしまったことも久しいと思いますので、不安だったりするのではないでしょうか。
 今回はそんな心の揺れが描けるといいなと思っています。
 そしてその後再会しますが、この再会でも意味を持たせられると楽しいかなと思いますのでシチュエーションを用意しております。
 

●再会場所一覧
・路地裏
 暗い路地裏であなたはパートナーと再会します、その横顔に影があるのはこんな場所のせいでしょうか。
 そしてパートナーはなぜこんなところにいたのでしょうか。
 謎が深まります。

・盛り上がっている居酒屋
 人がたくさんいる居酒屋の中に混じっているかもしれません、きっとあなたのパートナーはちやほやされているでしょう。そんなパートナーを見ると嫉妬というかもの寂しさを覚えるかもしれませんし、その飲み会に混ざっちゃうかもしれません。
 
・城壁の天辺。見張り台。
 城壁の外にはブロントヴァイレスによる攻撃の爪痕がありありと残されています。そんな外界を見下ろしてパートナーは何を思っていたのでしょうか。喧騒から離れることであなたとパートナーは二人きりです、いろんな話ができることでしょう。

 
・自宅
 はぐれて捜索を諦め、自宅に戻ってきているかもしれません、自宅の電気はついているのでしょうか。パートナーは元気でしょうか。想定によってパートナーのテンションにさがありそうでです。




解説


目標 スレイブと再会を目指せ。

 今回はスレイブとの会話をメインに据えようと思っております。
 スレイブも主人も言いたいこと、言っておかなければならないこといろいろあるでしょう。
 お互いをどう思っているか整理する機会にもなるでしょう。
 カタストロフィーは新章に突入するので、その前の感情整理にぜひぜひお使いください。

 


ゲームマスターより


 皆さんご無沙汰しております鳴海でございます。
 私他社でも同じように二人で一セットのPCなゲームでMSしているのですが。
 パートナーものはとてもいいなと、思いました。
 自分のPC内で感情が動かしやすいですし、何より賑やかでいいですよね。
 そんなパートナーものPBWの面白さを皆さんにお届けできるように、まずは関係性をはっきりできるようなシナリオをと思って用意しました。
 ぜひともご参加ください!



【祭典】はぐれ道、混じる道 エピソード情報
担当 鳴海 GM 相談期間 4 日
ジャンル 日常 タイプ ショート 出発日 2017/10/11
難易度 とても簡単 報酬 なし 公開日 2017/10/21

アレスディム
 ケモモ | グラップラー | 12 歳 | 男性 
【アレス】捜索

街中を駆けながら、ディム(スレイブ)にされた「夢」の話を思い出す
『私たちはこの広い空を翔ぶの』

別世界の彼女と主の事
主はボクではないが、とても似ている事
この城壁より高い空を二人で飛ぶ事
いつも楽し気な事

空のよく見えそうな所…城壁の天辺へ

彼女を見つけ、湧きあがるのは、嫉妬と不安…罪悪感
何も言えずにただ抱きしめた
背を撫でられ涙が出そうになったけど、それだけは我慢

胸の痛みが治まったら、祭りの続く街中へ誘ってみよう
「あー、まだ出店とかやってるだろうし、その…遊んでいこうか?」
手を差し出し反応を伺おう…と思ったけどやめた
もう手を繋いでしまおう
それが一番わかりやすい
ボクはディムが大好きだって
ゆうカイリ
 ケモモ | バード | 15 歳 | 男性 
再会・路地裏
迷うのはゆう

物珍しい屋台に惹かれ、気づくとカイリが居ない
どうせカイリが探すとほっていたが、いつまでも気配が無い

「何やってんだ…」
「スレイブの停止」について思い至ると同時に、『助けろ』という声が頭の中で反響
頭痛を堪え、舌打ちして「分かってるよ!」と叫び、探し始める

路地裏でカイリを見つけ、「何やってんだよ」と毒づく
カイリに指摘されて頬に手をあて、
自分が泣いていることに気づく

「……嫌なんだ」
ゆうがぽつりと呟く
普段の口調と違い、不安げに

「もう、壊したくないんだ」
怯えや哀しみが、ゆうの表情を崩していく
「おれのせいで誰がが、誰かの大切なものが壊れるのは、もう嫌なんだ!」
絶叫し、ゆうは気を失う
Shades=Dawntonalite=douceur
 デモニック | メイジ | 32 歳 | 男性 
第二帝都ディヘナで、お祭りを観ていた所……人混みに流されて……離れ離れに成りました。
そんな経緯なので……特に、どちらが迷子に成った……という訳でも無いんですけれど、捜索するのはPC(シェーズ)の方で。

念の為、祭りではぐれた時は……借りている(宿をとった)宿屋の自室にて、落ち合う事にしてある。
はぐれた為、一旦自室に戻り……スレイブ(トナリテ)が還って来てない事を確認して、書置きを残して……再び、人混みの中に捜しに行く。
再会は、宿屋の自室にて……休眠状態のスレイブを見付ける感じに。散々……人混みの中を捜し回って、疲れて……仕方無く帰って来た所で。

(※アドリヴ大歓迎)
ナイトエッジシース
 ヒューマン | ウォーリア | 17 歳 | 男性 
【主人がはぐれた】
気が付いたらナイトエッジがいません。
いつの間に…もうっ!と探しにいきます。

ついさっきまで一緒にいたんですから遠くには行ってないでしょう。
そうなるとここら辺で彼が行きそうな場所は…あれ?思い当たらない。
依頼を受ける時や戦う時は言葉を交わさず、時には視線すら交わさなくても分かるのに、今、彼が行きそうな場所が分からない。
突然不安に駆られ、それを誤魔化すよう自分に言い聞かせて走り出します。

そうやって探していたら城壁の天辺に彼が、急いで駆け寄って話しかけます。
事情を聞いて注意したら、ナイトエッジの視線を追って城壁の外を見ればそこにあるのは刻まれた戦いの傷跡。
それを見ながら話をしました。

参加者一覧

アレスディム
 ケモモ | グラップラー | 12 歳 | 男性 
ゆうカイリ
 ケモモ | バード | 15 歳 | 男性 
Shades=Dawntonalite=douceur
 デモニック | メイジ | 32 歳 | 男性 
ナイトエッジシース
 ヒューマン | ウォーリア | 17 歳 | 男性 


リザルト


● スレチガイ
 空に花火がうちあがる。ぱんっと景気のいい炸裂音だが。まだまだお天道様も高い時間帯なので色味はわからない。
 単純に今からお祭りが始まりますよという合図だが、もっと穏やかなものはなかったものか。
 そんな風に想いながらも仲睦まじく寄り添い歩く二人がいた。
 街中にさっそく出向いたのが『Shades=Dawn』と『tonalite=douceur』で。
 きけば珍しいフルーツを並べた屋台もあるそうではないか。
 人々の放つ陽気に当てられて二人は、揚々と屋台の群に突撃した。
 のだが……。
「トリナテ!」
「シェーズ~」
 人の塊が波となり、二人の間に流れゆく。
 Shadesもtonaliteもその流れに逆らうことができずに。あれよあれよという間に僻地へ。祭り会場の端っこへ追いやられてしまう。
 気が付けばお互いに迷子。かといってまた人ごみの中へ紛れていくというのは気が引ける。
「…………そうだなぁ」
 Shadeは考える……確かこんな時のために宿をとっていたはずだ。疲れた時の休憩所として機能すればいいかと思い借りたのだが。はぐれた時の合流地点として使うという事も取り決めてある。
 宿は祭りの通りから数本外れているので、たどり着けないという事もないだろう。
 ため息交じりにShadeは宿の扉にてをかける。
 ひょっとしたら、匂いや気配でスレイブが察知して出てくるのではないかと少し想像もしたがそんなことはなく。
 扉をあけ放った先にはがらんどうの空間があるばかり。
「自室かな?」
 鍵を懐から取り出してShadeは階段を上がる。あてがわれた部屋に鍵を突き刺してあける。
 やはりそこにも彼女はいなかった。
 Shadeは室内へと一歩足を踏み入れた。机の上に置かれていた紙とペンを手に取って、さらさらと何か言葉を残す。
 すると踵を返して扉を閉めた。誰もいない室内に鍵をかける重たい音だけが響く。
 昼の光が窓からふり。空気中を漂う埃を浮かび上がらせていた。
 遠くに靴音。それは緩やかな足取りで遠ざかり。
 やがて、扉を閉める音が聞こえてきた。
 静寂が再び宿を支配する。
 だが、いくばくも時間がたたないタイミングでだ。
 階段を駆け上がる音がした。軽やかに一段飛ばしに向かってくる。
 その足音はShadeの部屋で止まるとかちゃりと鍵を開け。中に入る。
 tonaliteは不思議そうな表情をして室内にひょっこり顔をのぞかせた。
 疲れているのだろうか。真っ先にベッドによこたわるも、枕をモフモフしている間に机の上に視線がいき。
 置き手紙を見つけたようだ。そろそろと机まで歩み寄って。その紙をびらりと広げた。 
 そこにかかれていたのは Shadesの文字。文面は、ここで待っている旨、何かお土産を買ってくる旨。
 そんなところだった。
 tonaliteはその書置きを元に戻すとベットの上に横になる、天上を見つめているtonaliteだが、普段の疲れが出たのか、すぐに睡魔に襲われて。
 やがて眠りの淵へと落ちた。
 そんなtonaliteだが扉の開く気配で意識を取り戻す。瞼はまだ明けない。単純に眠たいからだ。二度寝ができる状況か確かめたい。
 そんなtonaliteの瞼の向こう側からさすように光が降り注ぐ。
「ここにいたのか」
 Shadesのため息が聞こえる。おおかた。散々……人混みの中を捜し回って、疲れて。
 仕方無く帰って来た所だろう。
「お戻りですか?」
 そう上半身だけを持ち上げるtonalite。
 そんな彼女にShadesは袋を差し出した。
「買ってきたから一緒に食べよう」
 tonaliteは外を眺める。すっかり暗くなってしまった町。
 それを眺めた後にtonaliteはShadesを見て言葉をかけた。
「いただきます」


● 星空に伸ばす指先
 なぜ、この手を離してしまったのだろう。
 不安になるくらいなら。こんなにも胸を痛ませるくらいなら。
 決して離れないくらいに強く握っていればよかったのに。
「ディム……」
『アレス』のつぶやきは夜の闇に溶けて消える。
 アレスは人ごみをかき分けて、その小さな背中を探した。
『ディム』の姿が見えない、いつの間にかはぐれてしまったのだ。
 この無数の人の波。その中で彼女をどこかに置き去りにしてしまった。
 アレスは駆ける。彼女がどこにいそうか、必死で考えながら。
 そんな中アレスは一つ。彼女の言葉を思い出すことになる。
 それは、ディムが何気なく口にしていた夢の話。
「私に別のご主人様がいる夢を見ました」
 ここではないどこか。その世界は陸地がないそうだ。
 その代りにここより空が近い。
 ディヘナを覆う城壁の、それよりもっと高い場所。
 そこを二人で飛んでいる夢だと言った。
 その世界の主は、アレスに似ている。
 けれど全くの別人で。
 その夢の中にいる間は、すごく。
 すごく楽しかったとディムは夢見心地に告げた。
 その言葉を思い出して、アレスは城塞の天辺を見た。 
 苦虫をかみつぶした表情で見あげたそこに、きっと彼女がいる気がした。
 同時に、本当にそこにいたらどうしようか。
 そんな風にも思う。だって。
「ボクと一緒にいるよりも。そのご主人といる方が楽しかった?」 
 ギュッと拳を握りしめる音が嫌にはっきり聞こえた。
 
 汗にまみれるほどに長い階段を上りきると。意外とすんなり彼女を見つける。
 華奢な体。可憐な髪。夜の闇ではなく、瞬く星々を眺める彼女がいた。
 ディムである。
「見つけた!」
 彼女は自分の主が近くにいることを察し振り返る。
 その笑顔はいつもと変わらずアレスに向けられた。
 そんな少女を見て。湧きあがるのは、嫉妬と不安……罪悪感。
 何も言えずにアレスはディムを抱きしめた。
「あ、あれ? アレス?」
 戸惑う少女、強張った体が次第に溶けていく。ディムの両腕が背中をなぞった。
 耳元でディムが囁く。
「夢の話を憶えていてくれた?」
 震えているアレスの体。それがたまらなく愛おしくてディムは同じ力で抱きしめる。
「どこかに行ってしまうかと思った」
「私はずっとここにいるよ?」
 開いた目蓋。アレスの目尻には涙が。ディムの瞳には青空が重なっている。
 遠い場所、遠い未来。どこかであったかもしれない。そんな可能性。
 だけど、手の届かないそんな物語より、今は彼の想いを大切にしたい。
 一見支離滅裂で矛盾を抱えた思い……だがそれが『心』なのだろう。もちろんキレイと言えないモノもある。
 だけどそれら全部含めて彼なら。その全てが愛おしい。
 そうディムは思った。
「アレス。私は青空も好きですけど。夜空もすごく好きですよ」
「え? ああ、そうだね。今日は町が明るいからあまり星は見えないけど」
「それでも私は、今日見あげた星空をきっと忘れないでしょう」
 一人きりで見あげた星空は綺麗だけど。一緒にいたいと望んでくれる彼がいるから。
 だから。
「今日はありがとうございました」
 そうアレスの表情を覗き見て微笑むディム。
 そんな彼女を見て、ため息をつくアレス。
「どうしたの?」
「いや、しょうもないことを考えてたなって思って」
 アレスはわずかな迷いの後。そう告げるとディムの手を取った。
「あー、まだ出店とかやってるだろうし、その……遊んでいこうか?」
 見下ろす町並みはまだ煌々と明かりを焚き。まだまだ眠りは遠いのだと主張してくる。
 そんな祭りを楽しみ直そうと提案する。
「いいですね。はい。お祭りリベンジです」
 そうディムはアレスの手を握り返す。そしてディムは立ち上がり、階段までゆっくり歩む。お互いの顔を眺めながら、あいたてを手すりにかけてゆっくり降りる。
 譲りがたい思いを繋いだ二人の手。いつか態度だけでなく、言葉でしめそう。
 そう思いながら二人は灯りの袂へ歩んでいく。
(ボクはディムが大好きだって……)
(私はアレスについていく……)
 二人のシルエットは人波に溶けて消えていった。
 しっかりと、手を繋いで。もう二度と離れないように。もう二度と別れないように。

● 奪われたもの
 『シース』は呆然と立ち尽くしていた。片手には焼きそばなる茶色い食べ物、片手には大きな果物を雨でコーティングしたもの。
 祭りをこれでもか、と楽しんでいる最中。
 気が付けば大切な人がそばにいない。
「あれ?」
 シースは急いで食べ物を処理して両手をフリーにすると改めて人ごみの中首をかしげる。
「ナイトエッジがいないです」
 そう気が付いたら『ナイトエッジ』がいない。
「いつの間に……もうっ!」
 しょうがない人だ、いつもふらふらして。そんな憤りを抱えながら力強い一歩を踏み出すシース。
「ついさっきまで一緒にいたんですから遠くには行ってないでしょう」
 そうあたりを見渡すも人、人、人。でその見知った背中を探すことが難しい。
 ここでシースは祭り会場の中で探すのは無謀だと悟る。
「そうなるとここら辺で彼が行きそうな場所は……あれ?」
 そこでシースははたりとあゆみを止める。まるで心の中に開いた穴を見つけ立ち止まったかのような気持ち
「ナイトエッジがいそうな場所が……思い当たらない」
 シースは思わず頭を抱える。
 こんなこと今までなかった。
 特に戦場や依頼で動いているときは彼のしてほしいことがすぐにわかったし。
 口にしなくても自分の想いは伝わっていた。
 依頼を受ける時や戦う時は言葉を交わさず、時には視線すら交わさなくても分かるのに、今、彼が行きそうな場所が分からない。
 それは、どういうことだろう。なぜそんなことになるのだろう。
「大丈夫、休日で少し気が緩んでただけ」
 そんな風に湧き上がる不安を押し殺し、それを誤魔化すよう自分に言い聞かせて走り出すシース。
 心なしか表情にも不安が現れてきた。
「自惚れていました、今後はもっと彼のプライベートにも関わりましょう」
 心細さをそうなだめて町中を走り回る。ナイトエッジが行きそうな場所は全て足を運んだ。だが見つからない。
 そうしているうちにシースは城壁周辺にたどり着く。
 ため息をついて壁を背もたれに行ったんの休憩。
 何気なく見あげた空は青く、どこまでも抜けるよう。
 この外壁の向こうには外の世界が広がっている。
 だがそれより先に目を引くのはきっと、あの戦いの傷跡。
「あ!」
 そこまで考えてシースは気が付いた。ナイトエッジがいる場所。
 それをきっと見つけた気がした。
 あわてて階段を見つけ、外壁天辺まで上るシース。
 そこにはずっと探していた背中があった。
 ナイトエッジは外壁に腰掛けてのんきに屋台飯を食べている。
「そんなに慌ててどうした?」
 ナイトエッジはシースの気配に振り返ると、ほのぼのとそんな言葉をかける。
「貴方を探してたんです、どうして急にいなくなったんですか?」
 地団太を踏みだしそうな勢いでシースはナイトエッジに詰め寄った。
「偶にはシースが一人で自由に過ごした方が良いだろうと思ったんだ」
 思わずシースはこめかみに指を当てる。
「そういう余計な気遣は不要です、ナイトエッジがいなくなるのは困ります、だから私の傍からいなくならないで」
 そうきゅっと。シースはナイトエッジの袖に手をかける。
「ああ、悪いな。けど……これを急に見たくなって」
 その視線の先には、センテンタリという国。それだけじゃない。
 えぐれて土の色が見えた大地。
 そして振り返り、街中に目をやれば、ブロントヴァイレスに破壊された一帯。それを作り直した公園が見える。
 生々しい戦いの傷跡である。
「こんな戦いが今後も続く、俺はその戦いで現れる脅威を退けて皆を守れるのかなってそう思ったんだ」
 そうつぶやくナイトエッジの背はいつもより、小さく見えて……。
「貴方なら大丈夫ですよ、私も手伝います……共に進みましょう、望むものを手にするために」
 その言葉に頷くナイトエッジ。
 二人はしばらく、その光景を眺めていた。

● 探し物
 色とりどりの行燈に目が眩む。同じ灯りでもガラスや紙の質感や色で、全く違う光となるのだ。
 その灯りを見あげながら『ゆう』は歩いていた。
 一つ買って帰ろうか。そう問いかけるために左手をかく。
 いつもそこにいるはずの『カイリ』、その彼女を感覚のままに手繰り寄せようと手でかいてみたのだが、その左手は虚空を切る。
 そこにカイリはいなかった。それどころか周囲にスレイブの姿が見当たらない。
 いつの間にかはぐれてしまったようだ。
 何せ今日は見たことがないくらいに人であふれている。
 そんな時もあるのだろう。
「どうせあいつが見つけるだろう」
 俺を……だってあいつはスレイブなんだし。自分が探しに行くと行き違う可能性もある。
 そうゆうはたまの一人を楽しむことにした。
 沢山の屋台を見て回った。食べ物。出し物。引き出物。いろんなものを見ては、買おうかどうかスレイブに相談しようとして振り向く。
 そこに彼女はいないのに。
「何やってんだ……」
 苛立つゆう。だがふと。思い出す言葉があった。
 それはスレイブ取扱い説明書。33ページ当たり。スレイブ停止の項目。
 たしか。スレイブは一定距離、一定時間はなれると停止してしまうのではなかっただろうか。
 その時ゆうの指先から血の気が失われた。背筋を冷たさが駆け抜ける。
 そのかわり心臓は熱い。
 次いで脳裏に響くのは『助けろ!』という言葉。それが頭の中で連鎖する頃にはゆうは駆けだしていた。
 頭がひどく痛かった。吐気がする。けれど体は止まることを許してはくれない。
『助けろ』『助けろ』『助けろ』『助けろ』『助けろ』『助けろ』『助けろ』『助けろ』
「わかってるよ!」
 舌打ち、毒づいてゆうは祭会場から飛び出した。
 うんざりするほど長い時間カイリを探していた気がした。
 ゆうはとある路地裏で足を止める。見覚えのある後ろ姿が目の前を過ぎ去って行った。
「なにやってんだよ」
 それを追って走ると、反響する足音にカイリが振り返る。
 彼女は涼しい顔をしていた。憎たらしくなるほどに。
「なんでこんなとこ居るんだよ」
 ゆうは眉をひそめてそう問いかけた。
「それはこっちが聞きたいわよ。……って、泣いてるの?」
 ゆうは反射的に頬に手を当てた。冷たくなってしまった雫が指に付着する。
「泣いてる? なんで」
 そんなゆうをカイリは黙って見据えていた。ゆらりとゆうは後ずさり、壁に背を当てずるずるとしゃがみこむ。
 安堵とそして今まで動き続けるために、無視をしていた感情の群。それがいっぺんに押し寄せて、ゆうの体がガクガク揺れる。
「……嫌なんだ」
 その言葉にカイリは眉をひそめた。
 普段の口調と違う。普段纏っている空気もなく、ただただ怯え縮こまる誰かがそこにいた。
「もう、壊したくないんだ」
 怯えや哀しみが、ゆうの表情を崩していく。
「おれのせいで、壊れてく。皆が、皆の大事な絆が、心が、家族が……」
 はじかれたようにカイリが動く。
「おれがいなくなるから、おれが消えるから、おれが一人になるから!」
 悲痛な叫びが路地裏にこだました。痛みに震えるゆうの体を抱き留めるようにカイリは腕を伸ばす。
「私は大丈夫だから、壊れないから!」
 だが、その言葉はカイリの言葉はもう、ゆうには届いていない。
 ゆうには見えているのだ。カイリが停止した姿。
 そしてそれですら、何かの暗喩で。
「私を見て。ゆう。私を……」
「せめて、『   』、『   』、とうさん、みんな、おれから解放されて」
 か細く響いたゆうの言葉。それがカイリの耳元でずっと揺れる。
 ああ、この人はいまだに。責苦から逃れることはできないのだ。
 そう思った。
「おれのせいで誰がが、誰かの大切なものが壊れるのは、もう嫌なんだ!」
 それが彼の願いなのだろう、魂に刻まれた思い。
 それが呪いとなって彼を戒める、首を絞める。
 やがてスッとゆうの体から力が抜けて、崩れ落ちそうになるその体をカイリは手繰り寄せるように抱いた。
 そのまま力を籠めて抱きしめる。
「また、今の事を忘れちゃうんだよね」
 涙がこぼれた。それでも笑おうとするのは彼のためだろうか。
「ゆうの一番になれなくても。ゆうが『彼女』を永遠に愛していても。私は傍で壊れない、絶対に」
 そうすることが彼のためになるのなら。自分を何度だって殺そう。
 そう、誰にでもなくつぶやいて。そして。ゆうが目覚めるまで二人はずっとそうしていた。




依頼結果

成功

MVP
 ゆう
 ケモモ / バード


依頼相談掲示板

[1] ソルト・ニャン 2017/10/07-00:00

やっほにゃ~ぁ
挨拶や相談は、ここでお願いにゃ~!
みんなふぁいとにゃにゃ~  
 

[3] アレス 2017/10/08-08:43

ケモグラのアレスです。
はぐれちゃうとか…あるんだなぁー。
お互い、ちゃんと見つけてあげられるとよいですね。
よろしく!  
 

[2] ゆう 2017/10/07-14:56

ケモモでバードのゆう。で、こいつがカイリ。
(「じゃ」と終わらせようとして、カイリに殴られ、涙目でにらんでから)

……内容的に絡みは無ぇだろうけど、依頼一緒になったってことで、その、よろしく。