プロローグ
● 試作型OS無料配布
皆さんは最前線で戦う冒険者たちである。
何で私がいきなりそんなことを言うのかと言えば、それが大前提となって皆さんは希に得をすることがあるからなのである。
今回はそんなケース。
ラストエイジは最前線でスレイブを扱うことからデータ収集効率が良いので今回無料で試作型の、新しいスレイブOSをもらえることになった。
新しいユーザーインターフェイス。処理を軽くするために最適化されたプログラム。過去の良いところを残しつつ悪い部分を改善したそんなOSを皆さんにプレゼント。
最前線で使いつつデータを集めてくださいね。そしたら製品版が出ますからね。
そんな企画がこちらなのである。
ただ、こちらのOSスレイブとの日常生活も意識している。日常生活のサポートはもちろん、スレイブに接しやすい属性を付与することもできる代物なのだ。
画面上のボタン操作で簡単に、スレイブたちの性格を切り替えることができる。
それがあんな悲劇を生むなんて誰が想像できただろうか。
皆さんはOS中和用のプログラムを求めて今街中を疾走している。自身のスレイブに襲われる恐怖にさらされながら。
● 性格破たん
その異常性を感じ取ったのは新しいOSをいれ新機能を起動してから、24時間経過した頃。
明らかに挙動がおかしくなったのだ。
理性が働いていないというか、自生できていないというか。
あなたの事が大好きであるという気持ちは伝わってくるのだが、その表現方法が怖いし、何よりあなたの言葉が耳に届いていない。
おかしい、何かがおかしい。
長年培った皆さんの感がそう告げる。
なので、このOSの提供元に連絡をすると、万が一のためにOSの機能を無効化する技術が研究所にあるという。
君は研究所に向かうことを決意したのだが。
スレイブがいかせてくれない。
家から出してくれないし、あなたの腕や足に絡みついて先に進ませまいとしてくる。
皆さんは言い知れぬ不安に突き動かされ家から脱出し、街中を抜け研究所までの道を走らなければならない。
●新型OS、その名はET-07。
今回皆さんはレーヴァテインから優先的に新型OSを回されました。そのOSの使い心地はそれなりにいいものでしたが一つ問題があったのです。
それがスレイブの暴走。
おそらくこのOSの特徴的な機能である『追加性格』機能による制御不能だと思われます。
この追加性格を含む新型OSの向こうかプログラムをレーヴァテイン中枢にある研究所で保管しているのでこれを取りに向かうのが今回のシナリオです。
追加性格『大好き』
ご主人の事が大好きになってしまう追加性格です。愛情が抑えられず盲目になるだけではなく、御主人の言動や行動を全て好意的に解釈してしまってその愛情はとどまるところを知りません。
「そんなに私から逃げるなんて、きっと私のそばにいると胸が苦しくなって辛いのね、そんな初心なあなたも大好き」
そんな感じの性格になります。
追加性格『エンヴィー』
ある程度の嫉妬というのは気持ちの良いものですが、この嫉妬は度を超しています。主人が異性同性。誰と話していてもとにかくイライラしますし、自分だけの事を見てほしくて、主人を監禁してしまうかもしれません。
ちょっとヤンデレやキレデレが混ざってるかもしれませんが、とりあえずやばい性格であることは理解していただけるかと思います。
「あなたが私の視界外にいることすら耐えられない、ねぇ私の事を考えてくれてる? 夕飯のメニューですら、あなたの頭の中に浮かぶことが耐えられない。ねぇ私を見て」
そんな感じの性格になります。
追加性格『共鳴衝動』
貴方となんでも一緒にしたい、一緒にいたい、という衝動です。
本来であればスレイブに自発的に一緒にいることを促したり寂しがってもらったりするための機能ですが、これも振り切れているので。
異常なまでにあなたと離れたがりません。ずっと腕に引っ付いています。
それだけではなく、服装や身の回りのモノもあなたと同じものにしたがります。
もし、あなたと同じにできなかった場合、泣きだしてしまうことでしょう。
追加性格『フリーダム』
一切の理性が働かず欲望のまま行動するようになります。これはシャイなスレイブや、なかなか一線を越えられないご主人のための後押し機能として開発したのですが、フリーダムさが振り切れ過ぎて、普段から思っていることや主人に対して感じていることが口からダダ漏れになります。
まだ試作中であるため、追加性格については一つの効果しか適応されませんので注意です。シナリオ中に切り替えることもできますが。スレイブにふれて直接操作する必要があるので危険です。
● 状況説明
今回皆さんは、自身のスレイブに追われて街中を疾走することになります。
今回の依頼に距離感は関係なく、自身のスレイブの追撃を回避するプレイイングを書くことで先に進めます。
チェックポイントは三つ。《自宅》《街中》《研究所前》です。
・自宅
先ずスレイブをだまくらかして、自宅から出ないといけません。
皆さんのスレイブの性格を考慮して、外に出るためにはどんな手段が有効か書いてください。
・街中
街中は人で溢れかえっています、そのためどこからか皆さんのスレイブが皆さんを襲ってくることでしょう。
家に連れ戻すために様々な手段を講じてきますが、それは皆さんのスレイブの性格に寄ってくるでしょう。
皆さんのスレイブはどうやってご主人を研究所から遠ざけようとするでしょうか。
・研究所前
研究所前にたどり着くと皆さんのスレイブが皆さんを通せんぼします。
スレイブは当然警戒心マックス、ただその緊張の糸が一瞬でも途切れればきっと脇をすり抜けることができるはずです。
言葉やしぐさ、物で釣ったりと、一瞬でいいから彼女たちの頭から、あなたを止めるという意識を消し去ってください。
皆さんがスレイブに捕まり抵抗できなくなったときゲームオーバーです。ただ今回の任務参加者の誰か一人でも研究所にたどり着いていればクリアなのでそれほど難しくはないと思います。
解説
目標 スレイブにインストールされたOSをどうにかする。
今回、ちょっとおかしくなってしまった愛すべきスレイブ。そのスレイブとPCの一騎打ち、鬼ごっこ、ちょっと必死なお遊び。
そんなテーマでシナリオを作成してみました。
普段みなさんのPCはどのようにスレイブを扱っているのでしょうか。
PCはスレイブがおかしくなってしまった時にどのような反応をするのでしょうか。
スレイブにいたっても今回は、スレイブの深層意識が表に出るようなシナリオですので、スレイブのキャラクター付にもよいかと思います。
ぜひ気軽にご参加ください。
そうそう、最後に今回の依頼ですが、たぶん一人たりともスレイブに抵抗しない人はいないと思うので。性格の豹変したスレイブ達と戯れるのもいいかと思います。
それではよろしくお願いします。
ゲームマスターより
ご無沙汰しております、鳴海でございます。
今回リニューアルオープンという事でさっそくシナリオを一本書かせていただきました。
まだまだ自分のPcになれていない方も多いと思うので、練習半分で参加できる気軽な物を考えてみました。
この後も、戦闘依頼や大規模作戦と結びついたものが多く続いてくると思います。
そのあたりもご注目ください、それでは鳴海でした。よろしくお願いします。
試作型OSの受難 エピソード情報
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担当 |
鳴海 GM
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相談期間 |
4 日
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ジャンル |
コメディ
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タイプ |
ショート
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出発日 |
2017/9/26
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難易度 |
とても簡単
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報酬 |
なし
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公開日 |
2017/10/6 |
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軸( 無花果 )
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ヒューマン | シーフ | 12 歳 | 女性
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自宅: ダミー人形でも渡して、裏からこっそり出ようかな。見つかったらとにかくダッシュしかないよね…。 場合によっては2階から脱出とかもありか…。「変わり身の術~。なんちゃって~」
街中: 無花果が私の速さに勝てるとは到底思えないし、スピードで逃げ切れないかな。 先回りされたり、捕まりそうになったら、障害物の無い屋根を移動するのが早いよねー。
研究所前: 星野秀忠さんが歌ってくれている間に、叉の下を華麗にくぐって突破したいね。 「緊張の糸が途切れた一瞬がチャーーンス!」「戦いとは常に虚をつくことなのだよ!」
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・自宅 みくりは「エンヴィー」機能になっており、その為、秀忠は二階の自分の部屋に監禁されている。 「レモンパイを作ってくれないかな?」 みくりに頼み、彼女が一階のキッチンへと向かう隙に秀忠はギターと魔導書を持ち、窓から脱出。
・街中 建物の雨樋から屋上に上り、風魔法を使いながら屋根の上を歩いていく。途中、八百屋のあたりでみくりに出くわすが、甘い言葉でメロメロにしてみくりが妄想している間にダッシュで研究所へと向かう。
・研究所前 説得の途中で手持ちのギターで弾き語りをする。スレイブとの何気ない日々が恋みたいにこそばゆい、輝いている物だという歌を歌う。スレイブ達の気がこちらに向いている間に仲間が突入する。
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●心情 新しいOSのせいでルーツがおかしくなっちまった ふざけやがって……研究所に殴りこんでやらぁ!
●行動 《自宅》 出かけるから倉庫に物を取りに行かせ、入ったのを見計らって閉じ込め、その隙に外出
《街中》 殺気出しながら襲撃してきたから応戦 襲撃理由に呆れるが、時間もねえから軽くいなしながら研究所へ向かう 周囲の被害? 知らん、管轄外だ
《研究所前》 他の奴がスレイブの気を逸らすというので、それに乗って研究所へ突入 それでも止めてくるなら抱き寄せてから当て身で気絶させる。無茶しやがって……
研究所で中和プログラムを受け取ったら、それとは別に賠償請求 こっちは大事なスレイブダメにされかけたんだから当たり前だよなぁ?
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ははは。何時にも増して手厳しいね(と表面上平静を保ちつつ、もしや試作OSが原因ではと推定 さて、ちょっと買い出しに出かけてくるよ。昼食の準備をしておいてくれないか 今日は薄力粉が安いんだ。そろそろタイムセールの時間だからね(本当にあるので行きに買う予定 さて…(出かけるが早々に櫻花の尾行に気づく) (数十分の間、10m以上離せば休眠する筈だ (早歩きで人混みの中を進み、大型店に入り全速力で別の出入り口から出て研究所へ急ぐ おや…巻いた筈…(薄力粉は購入 うーむ、ぐっさりと刺さる刺さる。なるほどねぇ、普段からそう思ってたんだ(櫻花に生活上の問題等を強く避難され ふぅ…わかったよ。じゃあ、帰ろう。(アッサリと降参
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ステラは片手剣、革鎧装備。エノンも同じ装備。 試作OSの追加性格は『エンヴィー』。
自宅ではステラは、エノンが煎れてきたお茶が飲みたいと言って気を逸らして脱出。 街中ではステラは路地裏を進みつつ、エノンに対して剣を交えて強引に突破。(傷付けるつもりは毛頭無いけど) エノンは……。割と力尽くで連れて帰ろうとするでしょうか? 研究所前では皆さんと合流して、歌で気を逸らした隙に突破したいところですが、 一瞬の隙を突いて、剣でエノンの剣をはじき飛ばしてその隙に突破しましょう。 私のエノンを元に戻して貰わないと……!
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効果フリーダム 自宅 スレイブは普段黙って見守っていて言えなかった主人の自身への過小評価、消極的な面を積極的に行動し自信を持っていいと思っていた それで主人のいい面をツラツラと無心で大声で言い始める そして昔の思い出を語る際に目を瞑り照れ始める隙を見て気配を消して家を出る
街中 大声で主人のいい面を言い続け追いかけてくる 静かで気配のないスレイブが大声で場所がわかり 普段話さないので言葉に詰まったり咽る隙に逃げる スレイブよりAGLがあるので人込みの中へ気配を消し走る
研究所前 冒険者と集合 歌を合図に気配を消し全速力抜ける 無効化の中和用プラグラムを受け取り起動
クリア後 あまり知らなかったスレイブの気持ちがわかり感謝
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フリーダム効果 スレイブの欲望エロ駄々洩れ
自宅 入浴のふりで(着替え確保)スレイブが下着を漁り興奮状態の隙に逃走(着替え済み)
街中 追い付かれそうな状況は他の女性のスカート捲り スレイブの足止め
研究所前 他の冒険者と集合し歌に合わせ走り抜ける それが無理そうな場合 脱ぎたて下着を投げ注意を引き走り抜ける
クリア後 街の人(女性)に謝罪しながら帰宅
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空屋( シロア )
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ヒューマン | シーフ | 23 歳 | 男性
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なるべくは一緒に研究所に行って貰えるようにシロアに頼み込む、無理だったら、デートと言う名目で連れ出して買い物をして服などを選ばせてる間に離脱、研究所前では歌を歌ってるみたいなのでその間に研究所に行く
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参加者一覧
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軸( 無花果 )
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ヒューマン | シーフ | 12 歳 | 女性
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空屋( シロア )
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ヒューマン | シーフ | 23 歳 | 男性
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リザルト
● 心配性のスレイブ
りりりーんと自宅のベルが鳴る。普段から診察依頼の連絡が来ることが多くあるために『四季神楽・冬夜』は作業を中断し素早く受話器をとった。
「はい、四季神楽」
電話の向こうの人物は帝都の研究班を名乗った。
「そうだね、ちょうど連絡しようと……思ってたんだ」
そう流し見た視線の先には『櫻花』がいた、いつも自分につき従っている可愛いスレイブ。そのはずなのだけど目元は吊り上りほっぺは膨らんでいる。
端的に言えば怒っている。
なぜか。その答えが電話口からもたらされた。
声には出さなかったが冬夜は、なるほど、と納得していた。
「また、無償診察ですか」
電話機を置くとさっそく櫻花が声をあげた。
「まだ何も言ってないじゃないか、患者でもないよ」
そう穏やかに冬夜が言って見せても、櫻花は機嫌を直してくれない、というかすねている。
「冬夜様は人が良過ぎですよ! この前も無償で診断をして……収入源は限られているんですよ!」
「ははは。何時にも増して手厳しいね」
「当たり前です! 冬夜様はもう少し金銭感覚というのを……」
先ほどからおかしいと思っていたのだ。だが全ての納得がいった今や彼女をどうにかしなくてはいけない。
「さて、ちょっと買い出しに出かけてくるよ。昼食の準備をしておいてくれないか」
「あ、はい分かりました。野菜炒めで宜しいでしいですね?」
そう言うところは律儀なんだなぁと冬夜は櫻花を眺めた、どんなに機嫌が悪くても、嫌なことがあっても、このスレイブは自分に尽くしてくれるのだ。
「ですが何を買いに……?」
そう首をかしげる櫻花。
「今日は薄力粉が安いんだ。そろそろタイムセールの時間だからね」
そうチラシをひらひらさせると冬夜は身支度を整える。
「行ってらっしゃいませ、一人で大丈夫ですか?」
「近いし、帰ってきてからすぐにご飯を食べたいしね」
そう告げてドアを開け冬夜は振り返る。
「いってきます」
「……いってらっしゃいませ」
不服そうな櫻花へ手を振って、後ろ手に扉を閉めた冬夜は考えこみながら足早に目的地を目指す。
(数十分の間、10m以上離せば休眠する筈だ)
食料品店までは数分と言ったところ、その店内にいったん入り、全速力で別の出入り口に向かう、そこから研究所に一直線。
そう算段をつけるのだが。世の中そう甘くは行かなかった。
「はっ!? いえ、いけません。このままでは……」
パスタをゆでていた櫻花は日を止め、エプロンを脱ぐ。パタパタと足早に玄関に出てそのまま主の後ろを追った。
そんな櫻花は主の考えを予測。結果。
冬夜と櫻花はスーパーの裏手でばったり再開することになってしまった。
「やっぱりここに来ると踏んでいましたよ冬夜様!」
「おや……撒いた筈」
その表情は苦痛にゆがんでいた。それは胸の痛み、大切な人から避けられたと感じた、胸の痛み。
その表情を見て冬夜の握る薄力粉の袋が、ギュッと音をたてた。
「いえ、流石は四季神楽の名を拝命するだけはあります……ですが、目的地さえ判っていれば先回りは容易です!」
なるほどと、冬夜は納得する、不思議と悪い気はしない。
「そもそも冬夜様はもう少しスレイブである私に命令をして下さい! 優しければ全て収まるとでもお思いですか!」
そう一歩前に進み櫻花は迷いを振り払うように手を振った。
おそらくは、怖いのだろう、人に自分の感情を伝えるのは怖い。普段しおらしく主につき従う性格をしている櫻花ならなおさらだろう。
バグだらけのシステムによる後押しを受けても怖いものは怖いのだ。強い言葉を吐いて嫌われるのが。
「私は貴方のお役に立つ為に居るのですよ! それを妹のように扱うなどと……!」
「わかった、ごめん、そうだ、君の言うとおりだ」
そう告げて冬夜は薄力粉を差し出す。
「うーむ、ぐっさりと刺さる刺さる。なるほどねぇ、普段からそう思ってたんだ」
そう微笑みを向けると、カァッと櫻花の表情が赤く染まる。
「ふぅ……わかったよ。じゃあ、帰ろう」
そうあっさり降伏した冬夜のあいた手を櫻花はとる。
「これからは沢山命令して下さいね? 絶対ですよ?」
そして二人は仲良く帰路につく。
櫻花にインストールされた人格データはどうにもならなかったが、まぁ誰かが研究室から届けてくれるだろうと思い直し、素直な彼女との一時を楽しむことに決めた。
● 感想会
『Simple』はその場に正座させられていた。
最初はたまの休日のんびり過ごそうかとも思っていたのだ。だが先日から少し調子のおかしかった『Sample』がついに爆発したことで、その平穏がくずれさる。
「そ、そこに座ってください」
久方ぶりにきいた相棒の声にSimpleは驚き姿勢を正す。
それから延々と彼女のお話が始まった。
普段話をしないのでよく言い間違え、よく噛む。
そんなたどたどしいお話をもうどれだけ聞かせれているのだろうか。さっぱり時間の感覚がない。
「大体、Simpleは」
スレイブは普段黙って見守っていて言えなかった主人の自身への過小評価、消極的な面を積極的に行動し自信を持っていいと思っていた、そんなことを告げる。
「ただ、いいところもあるけど」
そうそっぽを向いてまくしたてるのは、Simpleの良いところ。
「そう言えばあの時もかっこよくて」
そう頬をピンク色に染めながら昔の話を語りだすSample。やがて話が過激になり目を瞑って照れながら話すようになるとSimpleはそっと立ち上がる。
案の定気が付いていない。
気配を殺し、そっと玄関に向かい。そして外に出た。
Simpleには分かっていた、彼女に異変が現れ始めたのは研究所に言ってからだ、だから研究所まで走ってOSを元の状態に戻してもらえばいい、そう考えた。矢先である。
「みなさん! 私のご主人は素敵な方なんです」
そう声を大にして突撃してくるのはSample。彼女が方々に吹聴するは、先ほどSimpleもきかされた彼の良いところ。
その口をふさぎたい衝動に駆られるSimpleだったが、それでは彼女の思うつぼ。
人ごみをかき分けて進み研究所までわき目もふらずに走った。
● 愛情増し増し
「へ、へんたいさんです……」
『Apaiser』は思わず扉の影に身を隠す、お風呂でも入ろうかなと、実質に着替えを取りに来たApaiser、そんな彼女が見たのは『Reposer』が自分の箪笥からパンツを二枚取り出し、一方を頭に、一方を花に当てて、大きく深呼吸している図だった。
最近Apaiserは思っていたのだ、スレイブの様子がおかしいこと。
こちらをじっと凝視して息を荒くついてみたり、お風呂に入っている間に脱衣所で何かしていたり、そして極め付けにはこれである。
「はぁはぁ、……したい」
「え? なにをしたいの?」
Reposerの独り言が気になり耳を澄ませるApaiser。
「ベットに押し倒して、犯したい」
(ストレートすぎますわ!)
何のひねりもない欲望のだだ漏れのスレイブに背筋を寒くしながらApaiserは忍び歩きでその場を後にする。
風呂場のシャワーを出しっぱなしに、脱衣所に脱いだ服を偽装してApaiserは家を飛び出した。
ただ、欲望の権化となったReposerをその程度で欺けるわけもなく。
「これは! 脱ぎたての香りじゃないよね!」
そう言って飛び出したReposerにApaiserはあっさり補足された。
「こ、こうなったら!」
逃げ切れないと思ったApaiserは最後の手段に出る。
「申し訳ありません!!」
姿勢を低く手刀を地面と平行に。風を切るイメージで、道行く女性のスカートを次々めくっていった。
「これは! パラダイス!」
普段スレイブが言わない低俗なセリフと共に、何かがはじけるような噴出するような音が聞えた。
「申し訳ありません、いろんな人に本当に申し訳ありません」
次いで上がる悲鳴を無視してApaiserは走り去る、目指すは研究所、そこまで行けば正常なReposerへ戻す方法が見つかるだろう。
だが、しかし、Reposerの執念は素晴らしかった。
「ここは、通さない」
「Reposer! あなたさっきのところで死んだはずでは!」
道行く人が、クレリックを呼んでいたのでてっきり再起不能になったと思ったのだがReposerは鼻血で全身を汚しながらもそこに立っていた。
「ここから先にはいかせないよ! ボクと今晩添い寝して、寝ぼけたApaiserの服を徐々に脱がして、そしてぐふふふする前」
「うわあああ、き、気持ち悪いですわ」
ドン引きのApaiserである。
「さぁ、大人しくして、家にかえろう。僕らの愛の巣へ」
ただ、Apaiserは非力である。このままではReposerに押し倒されかねない。最悪この場でことに発展するかもしれない、だったら。
そうApaiserは少し屈む。その動作にReposerは首をひねった。次の瞬間華麗な動作でスカートの中に手を突っ込むとなんとApaiserはパンツを脱いで指にひっかけた。
「な! なな」
キョドるReposer、世誰でも垂れ流しそうである。
「とってきてくださーい」
それを投げ捨てると、Reposerは普段みせたこともないような俊敏な動きでパンツへと走った。
Apaiserは涙目でスカートを抑えつつも走り研究所にたどり着くことができた。
● 大天空から騒ぎ
「はあ!? 新しいOSのせいでルーツがおかしくなっちまった? ふざけやがって……研究所に殴りこんでやらぁ!」
そう受話器を叩きつけるように置いたのは『ジーン・ズァエール』である。
ジーンはその身にまとわりつく『ルーツ・オリンジ』を眺めてそう言うことをかとため息をついた。
「また戦いに行くんですか!」
「だからいかねぇっての! 視界から少し外れるくらいで不安になるんじゃねぇ!」
「最近マスターは戦いすぎです。こんな調子じゃいつか死んじゃいます!
だから今日は絶対に、何があっても家で休んでもらいます!」
「話を聞け!!」
そんなルーツを何とか引きはがし、仕事だと言いつけて倉庫に向かわせるジーンだったが……
倉庫に入ったルーツの後ろでその戸を閉めてしまう。
「マスター!!」
驚きの声を上げるルーツ。
そのままジーンはつっかえ棒で扉を開かなくしてしまい、そして研究所に向かった。
それと同時期。
『軸』も同じように『無花果』からの妨害を受けていた。
「絶対離れない、一緒にいる」
そう、腰のあたりに巻きついた無花果の頭を撫でながら、もらった連絡の事を考えていた。スレイブのOSそれに以上動作を確認したという事だったが。
「うーん、いつもと変わらないような」
抱き着きながら幸せそうな顔をしている無花果を眺め軸はなんでもなさそうにそうつぶやいた。
「でもこれじゃ、生活しづらいし、ね。無花果。いったん離れて」
「いや!」
「ほら、私にそっくりのお人形をあげるから」
そう軸は特大のぬいぐるみを差し出す、確かに軸にそっくりである、どこで手に入れたのだろうか。
「わぁ! カワイイ。師匠ありがとう!」
そんな喜ぶ無花果の無意識を縫って軸は瞬時に二階に上る。
だが無花果はそれに反応してきた。扉を開けた一瞬の停止時間を狙って。捕まえた! と軸に飛びかかる、すると。
「甘いわ! 無花果。勉強してから出直してきなさい」
ぽわんっとあたりに煙が待って、何と無花果が抱きかかえていたのはもう一つの軸ちゃん人形。
「変わり身の術~。なんちゃって~」
そして悠々と窓を開けて軸は屋根伝いにかけていく軸、それを背後から追う無花果。
そんな軸の視界に入る家で一つ気になるものがあった。窓ガラス越しにスレイブと主人が揉めているのが見える。
『ステラ・ザクセン』と『エノン・ザクセン』の自宅である。二人は何やら物騒なことに刃と皮鎧を見に纏い、今から戦いでも始まりそうな雰囲気を醸し出している。
そんな風に意識をとられよそ見をしていると、いつの間にやら軸の隣に無花果がいるではないか。
「捕まえ……」
「まだまだよ」
次の瞬間軸はふっと体重を下へ。無花果の腕をかいくぐって路地裏へと落ちて行った。
無花果もそれを追い。狭い路地裏で壁を跳ねながらの追いかけっこに興じるが。
その最中にばったりジーンに出くわしてしまう。
「な!」
ジーンも追われているようだ背後から猛然と突き進むスレイブが見える。
「ひと狩り行くつもりじゃないって言いますが……って閉じ込められました!
ひどい……こうなったら意地でも止めますからね!」
そう全力の殺気を滲ませて追いかけてきたスレイブに対し、ジーンは決死の覚悟で逃げ回ると路地裏に追い込まれていた、そう言う次第だった。
「なんでこんなに早く居場所がばれたんだ!」
そんなルーツの叫びがこだまする。そして上空から襲いかかる無花果。二人のスレイブは別段打ち合わせもしていないのに連携して主を捉えることにしたようだ。
これで逃げられるのは前方のみとなった。
ただ、その通路の先からも誰かが走ってくる。
『星野秀忠』である。
彼も今回の事件の被害者だった。
彼のスレイブにインストールされた性格はエンヴィー。その結果何がおきたかと言うと、自宅監禁である。
目が覚めると繋がれていた。目の前にはたおやかな笑みの『みくり』
離してほしいとなんど口にしても話も聞いてくれないために解放の兆しは見えない。
「いつもありがとう。だけど……」
秀忠はスレイブは死んだ妻の代わりだと思っている。だから感謝の気持ちは忘れてない。けれど最近のみくりはおかしい。外出を許可しないどころか、監禁してくる。
秀忠は研究ができず、困惑しながらチャットをしていただけなのに今度はこの始末。
彼女の心が分からない。
そんな中秀忠は思いつく。
「レモンパイを作ってくれないですか?」
「レモンなんて家にありませんよ?」
「買い置きが無かったかな、見てきてくれないか?」
主に頼まれれば断れない、みくりは踵を返して部屋を後にした。その足音が遠ざかるのを聞いて、秀忠はギターを確保、魔導書を持ち窓から脱出。
風魔法を使いながら屋根の上を歩いていく。その最中にレモンを買いに来たみくりに補足されてしまった。
「みくりさんが危険な目に合わないように守っているんです」
と、これまでが秀忠がここにくるまでのあらすじだったのだが。
何ともバットなタイミングで三組は合流してしまった。
「さぁ大人しく捕まってよね、師匠」
無花果が告げる。
「そうはいかないわ」
次いで軸が煙幕を張ると、その隙に三人は離脱、研究室の前まで来た。
だが研究室前ではSimpleとSampleがにらみ合っていて通れない。そのあいだにスレイブ達に追いつかれてしまう。
「マスター、お願いだから止まってください!
ぞんざいに扱われる事が多いけど、それでもあなたが大好きです!
あなたがいなくなるなんて……嫌だよぉ!」
ルーツが泣き叫ぶ、そんな彼女の後ろに無花果もみくりも立っていた。
そんなスレイブ達の前に立ったのは秀忠。その手にはギターが握られている。
「みくり、いつもごめん。大好きだよ」
告げてかき鳴らすのは普段言葉に出せない思い。
スレイブとの何気ない日々が恋みたいにこそばゆい、輝いている物だという歌を謳う。
「同じような日々を生きている♪ 『寂しい』と叫ぶけど声は届かない♪ 君はどこに消えたのか♪」
そんな主の想いにみくりははらりと涙を流した。
「嬉しい」
そう微笑む少女は先ほどへのあらあらさも捨てその場に座り込んで歌に耳を澄ませ始めた。
その音楽に加わるのは鋼の内合わさるようなビートである。
見ればステラとエノンが研究所の前で大立ち回りを演じていた。
ここに来るまでにも、決死の戦闘が行われてきたのだが。
ステラは無事にここまでたどり着けたらしい。
「ご主人様、私から逃げられると思っているのですか?ご主人様のことは誰よりも知っているのですよ」
不敵に微笑むステラ。
「ちょっとエノン!? 落ち着いて!」
「冷静じゃないですか! ご主人様!!」
そう渾身の一撃をみまってきたエノン。それに対して。ステラは流すように動いた。
剣を斜めに構えて衝撃をそらし。そのまま剣の腹でエノンの刃を押し飛ばす。
その刃が無花果のそばに突き刺さると、驚いて注意をそれに向けてしまう無花果。
「緊張の糸が途切れた一瞬がチャーーンス!」
軸は動いた、素早く無花果の脇をすり抜ける。
「あーーー。ずるい!」
「戦いとは常に虚をつくことなのだよ!」
同時に研究所入り口にたどり着いたステラ。
「私のエノンを元に戻して貰わないと……!」
「僕は通しませんから」
そう告げたルーツ、そんなルーツへと静かに歩み寄り、ジーンは。
「ごめんな」
そう当身を一撃加える、意識を失ったジーンを担いで、研究所の門をくぐる。
● エピローグ
『空屋』は秀忠の歌を『シロア』とともに聞いていた。
空屋のスレイブであるシロアもおかしくなっていたのだが、連れ出すことに成功していた。
最初のうちは、研究所に一緒に言ってもらえるように必死に頼んでいたのだがむりだったので、デートという名目で連れ出したのだ。
その日は穏やかに過ぎ去った。久しぶりの買い物にシロアははしゃぎっぱなしで、アクセサリーや服を買ってもらえると聞いて笑顔を振りまいた。
まぁその後に置き去りにすることを考えると空屋の胸は痛んだのだが。実際彼女は瘴気ではないのだからそうするしかない。
結果、彼女に服を選ばせている間に離脱。
だがさすが、長年共に歩んだスレイブだけの事はあり、一瞬でシロアは空屋を発見すると、鬼ごっこに発展する。
「ご主人様! ひどいです私を置いていくなんて。私の事好きって言ってくれたじゃないですか!」
今日はそんなこと一言も言っていないのだが、彼女の中では言っていることになっているらしい。
「絶対許しません、今日はずっと私をお姫様抱っこしながら過ごしてくれるまで許しません」
そんな肉体労働は断固としてごめんだったので、全力で逃げ切って現在である。
研究所の前で疲れて動けなくなったところを捕獲された。
「いい歌だな」
空屋はそう空屋の袖を握って離さないシロアに告げる。
「はい、ああいうの憧れます」
「だったら、もう少しおしとやかになることだ」
そう空屋はシロアのおでこを弾いて、中和プログラムが届くのを待つことにした。
依頼結果