プロローグ
透き通る空。終わりの見えない荒野。広がる山の連なり。
照りつける太陽は作物を育て、通り過ぎる雨は涼やかな風を運ぶ。
そんな平和を体現する世界に、異変が起きたのは何時の頃だったろうか?
【星降る夜】の訪れがこの世界に新たなるものを与えました。
フラグメント鉱石。年に数回、世界のあちこちへ降り注ぐ未知なる星。
そこに秘められし力は人々に錬金術による発展を授け、対価として軍事競争を招き入れました。
しかしそんな対価も払い終わった今。
人々は更なる富を求め、未開の地を開き、星を魔法という力に変える技術を得てゆきました。
もし神様がいるのなら、きっと平等を愛しているのでしょう。
それは富に等価を求めるかのように、この世界に人々の脅威となる存在を誕生させるのです……
さて朝日も登り。
貴方は眠い瞼をこじ開けます。
今日も今日とて、貴方は仕事の予定が入っています。
それは魔物の討伐かもしれないし、鉱石の研究かも知れない。はたまた夜の御馳走の為に畑へと収穫に行くのかもしれません。
毎日が変化に溢れた素敵ライフ。それは貴方に与えられた当然の権利です。
だって、貴方は【冒険者】なのですから。
神秘に満ちたこの世界の秘密を暴く者。
隣の家のおばあさんから町の人気者、果ては国の役人に到るまで、誰の願いも、どんな依頼もズバッと解決!
人呼んでさすらいの何でも屋さん。又は傭兵。沢山の人に頼られる存在。
それが貴方達、でしたよね?
子供達も憧れるダンディーでキュートな皆々様。そんな皆様には、大切なパートナーがいます。
その名はスレイブ。縮めなくてもスレイブ。
人工的に造られた魔法生命体です。
まぁ、一般市民の皆様にも既にスレイブは浸透していますが。
主人となった貴方をお世話し、安全を守り、時に戦闘においても活躍してくれる頼れる相棒。
でも、気をつけて。
まるで人間の様に呼吸し、触れれば温もりを感じられる……実体のあるその存在は主人あってのもの。
主人から10mも離れられませんし、もし貴方の鼓動が途絶えでもすれば、数十分後にはきっと貴方を追いかけ来てしまいます。
ボーイッシュな方もいれば、超絶クールな方もいらっしゃる。
それでも根っこはまるで普通の女の子。スレイブさんには優しさと愛を持って接してあげましょう。
さぁ、長々とした歴史のお勉強でしたが、少しは寝ぼけた頭が目覚めたでしょうか?
まだ眠いという方は、取り敢えずここまでの話をもう3周しましょう。
目覚めた貴方は、もうこの世界の事を思い出した立派な住人です。
さぁ、まずはいつものように、町の【冒険者ギルド】で依頼を確認しに行きましょう!
--------------------
「へぇ……新人の冒険者さん?」
「ああ。新人というよりは、依頼を受けるのが久々だった奴も居たかも知れないがな」
冒険者ギルドにて。
この辺りではそこそこ名の知れた冒険者、【月村 正継(つきむら まさつぐ)】が、ギルドの主人と話し込んでいる。
「2人だったか8人だったか……まぁ忘れちまったが、そいつらはこの依頼を受けて出発したぜ」
主人は月村に、依頼書を提示する。
「人探しの依頼? 場所は……竜の穴!」
「ああ、隣町の貴族さんからの依頼でな。中々の報酬だぜ。何でも知り合いの子供がそこに紛れ込んじまったらしいから、見つけ出して欲しんだと」
(依頼人はマルデ=イヒト。この人は……)
一瞬目を細めた正継だったが、すぐにいつもの笑顔を湛えると話を続ける。
「懐かしいなぁ~。昔はよくあそこに訓練に行ったけ」
「ああ。あそこに生息する【リザードマン】は、群れを組んでいるからな。戦闘訓練にはもってこいだろう」
「そうだね。でも戦闘慣れしてないと厳しいんじゃないかな。結構強敵だし」
「確かに、お前も最初は負けて帰って来たっけなっ!」
「あの時は食糧を犠牲にして来たからね……悔しい思い出だよ」
笑い飛ばされることに頬をかきつつ、正継は話を続ける。
「とにかく、依頼の目的は人探しだよね? 子供の容姿は?」
「6歳くらいの男の子だ。好奇心旺盛な様だから、ケガとかしてなければ良いが……」
「了解。竜の穴だけど、何か最近変わったことはある?」
「特別情報は入っていない。大きな桟橋を超えていけば、たった1つの入口がある」
「あの桟橋、結構揺れるからね。あそこで戦うのは厳しいから注意しないと」
「そうだな。竜の穴の中も変わってなければ、主に3つのエリアで構成されてる。入口付近は開けた空間エリア。戦うには持ってこいだ。東側は暗闇エリア。何かしら明かりを照らさなければならないが、狭い空間だ、2人もいれば捜索出来るだろう。西側はリザードマンの生息エリア。今は繁殖期ではないし、居ても4匹程度だろう。初心者でも多数で1匹を囲めば負けないだろうな」
「敵は素早いトカゲ戦士。囲むには何か作戦を立てないとね。武器も取られないよう注意……っと」
「おっと、そういえば最近またリザードマン達がその辺で拾ったものを巣に持ち帰っているそうだぜ」
主人から情報を聞き終え、月村はすらすらと行動計画書を書き上げる。
(マルデ=イヒトは人助けをするような貴族じゃない。それが高額の報酬を出すということは、子供が何か見てしまったか、リザードマンに何かを盗られてしまったか……まぁ、それは余力があれば……だよね)
彼は視線をあげると計画書を提出し、冒険の旅へと赴いていく。
気をつけろよと言い見送る主人は、書類に目を通すとめんどくせぇなとぼやきながら、行動を起こす。
【目標:子供と新人冒険者の救出
心情:ナイトとして困難に立ち向かう人を見捨ててはおけないしね。
貴族のことも気になるけど、取り敢えずは全員の無事を最優先に行動したいな。
行動:(1)桟橋を渡って穴に侵入。子供を見つけ出して全員で脱出するために必要な事をしよう。
まずは桟橋だけど、揺れる桟橋では行動が制限されてしまうし、もしそこで襲われたらを考えて用意をしておくよ。
(2)洞窟内で不安なのは東エリアの捜索方法と、リザードマンに遭遇した際の対処法。
松明と簡単な治療具を用意しておこう。もし他の冒険者が襲われるようなら、中型盾と片手剣で囮を引き受ける。
広間でなら全員を相手に出来るけど、東側は夜目の利く敵が有利。押し込まれないように……っと。
リザードマンとは戦闘経験があるから最悪1人でも大丈夫だけど、油断は大敵。他の冒険者の動きに合わせて臨機応変に。弱点の場所を共有して倒せるなら倒してしまおう。
(3)子供を発見したら、いち早く脱出を提案。もし敵が残っているなら殿を務めるよ。
不安がっているようなら、気がまぎれるように飴玉を渡してあげようか。
推察:貴族の依頼の目的は何だろうか。実情がどうかは知らないが、もし貴族の秘密に関する何かを見つければ対処を考えないと。子供の引き渡しに問題を感じればそれを止める。問題の何かを軍に突き出してもいいかもしれない。
無事に帰ることが出来たら、折角の機会だ。冒険者の皆さんと祝勝会でも開いてもらおうかな。ご主人、準備宜しくね!】
さぁ、貴方達の冒険が始まります。
貴族マルデ=イヒトの依頼は、竜の穴に紛れ込んだ子供を見つけ出すこと。
桟橋を渡り、竜の穴を捜索し、無事に子供と共に帰還出来るのでしょうか?
捜索方法とリザードマンへの対策を忘れずに、是非この依頼を完遂させましょう!
解説
このエピソードはpbw初心者の方向けです。
今後の皆様のプラン作成における一助となるよう作りました。
どなたも参加可能ですが自分がpbw慣れしていると思われる方には、抽選漏れ等を考えるとあまりオススメ出来ません。
必要な行動は、ありがちな捜索・戦闘を用意してあります。
参加者の皆様は是非、プラン全採用を目指して下さい!
以下、私目線のアドバイスとなります。他GMの方とは裁定が異なりますので予めご了承下さい。
A:内容と難易度から目標設定!
難易度は5段階、今回はその内最も低いものです。
子供救出が主の内容であり難易度は低いですから、よほどの事が無ければ救出可能です。
しかし出来る事はそれ以外にもあります。リザードマンと戦う事を主の目的としても良いですが、その難易度は決してとても簡単ではありません。
出来る事を考え、難しい事に挑戦する場合は仲間としっかり行動を考えましょう。
物語の破綻を防ぐ為にも、時には諦めも肝心です。
B:プロローグから推測!
通常RPの範囲を狭めないために、少し穴の開いたプロローグが多いと思います。
例えば今回リザードマンの弱点が皆様には分かりません。
戦いの最中に話し合ってもいいですが、事前に話し合いの上狙いを定めておけば効率的な行動が出来ます。
また、子供を救出するにもケガをしているか否かで行動に違いが生じます。
色々な想定のもと、対応策を用意すると行動が上手くいきやすいです。
C:行動は広げ過ぎず!
描写はプランに比例しますが限界はあります(多くて1人当たり800字程度)。
例示した月村の記載では、物語全体を通して行動出来る代わりに各描写があっさりとします。
力の入れ具合を考えましょう。
D:物語に貴方の色を!
行動だけでは物語は完成しません。心情や自由設定があればPCの行動が生き生きしますし、物語の背景や未来を考えるとGMも想像し得ない結末が生まれたり、大成功や超成功が待っているかも知れません!
ゲームマスターより
長々とお付き合い頂きありがとうございます。
今後皆様が参加された物語で素晴らしい活躍を出来るよう、この物語を良い踏み台にしてもられば幸いです。
私の書き方としては、PCの協力と関係性の親密化を第一にプラン優先で物語を構築します。(今回であれば仮に皆様が子供を見捨てても、それを描写した上で子供は月村が何とかします)。ですが難しい内容ではそうも行きません。
そこは皆様の協力があってこそです。作戦掲示板を有効利用して下さい。
NPCより皆様PCに活躍して頂きたいのが本音ですので、目標が独自路線のPCを活躍させたい場合は、それとなく全体の目標を意識してもらえれば活躍出来る可能性が広がります。
エピソード終了後は是非、雑談掲示板などで知り合ったPCと交流をしてみて下さい。
きっと貴方のPCの色が鮮やかになり、この世界への愛着も深まるはず!
以上、pnkjynp(ぱんくじゃんぷ)からでした。
宜しくお願い致します。
ようこそ新世界へ、【初めて】の人探し エピソード情報
|
担当 |
pnkjynp GM
|
相談期間 |
6 日
|
ジャンル |
冒険
|
タイプ |
ショート
|
出発日 |
2017/9/28
|
難易度 |
とても簡単
|
報酬 |
通常
|
公開日 |
2017/10/7 |
|
|
●動機 6歳くらいの男の子が行方不明に! 私もその年くらいの時は好奇心旺盛だったな~。 今も…?あははっ!そうかも~。 ●目的 私が男の子ならリザードマンの生息地に興味を持つかなぁ。 で、いつのまにか奥の奥までいっちゃうみたいな…。 だから、取りあえずそこまで行ってみよう! ●行動 竜の穴…行ったことないなぁ。 何があるんだろうね?スティレット。 多分私が男の子なら、リザードマンの生息エリア(西エリア)に興味を持つかな。 桟橋…かぁ。もしかしたらリザードマンの門番がいそうだね。 いたら私に任せて皆さんは先に! その後は西側エリアに行こう! リザードマンも賢いと思うから、攻撃にフェイントを入れつつ大剣で【ダブルエッジ】!
|
|
|
|
武器は両手剣。非常用武器兼便利ツールとして、ナイフも持ち込んでおく。 龍の穴に侵入する際の桟橋では、スレイブのアルフォと共に警戒に務める。桟橋で襲撃にあってしまった場合、可能であればきちんとした足場へ味方を誘導するよう務める。 龍の穴内部では主にリザードマンの生息エリアである西側を探索。 戦闘になった場合、他の冒険者と連携しつつ対処。立ち位置は前衛。突出しないよう注意しつつ、リザードマンへ攻撃を加える。 西側エリアで子供を発見した場合、保護した後、他の冒険者と合流して脱出の提案。子供がいなかった場合、手がかりがないかどうか巣の中を調べ、他の冒険者と合流。
|
|
|
|
子供ォ…?ハッ…どうでもいいねェ… さてとォ…ワタシはトカゲ共を狩らせてもらうよォ…? どんな色の血を流すか…死ぬ前にどんな表情をするかも知りたいしねェ…キヒヒッ! さあ狩りの始まりだァ…!!
|
|
|
蛇神 御影( 陽菜 )
|
ヒューマン | グラップラー | 20 歳 | 女性
|
|
|
【目的】子供の救出 【持ち物】簡単な医療品 【洞窟内】洞窟の西側を探索に向かう 戦闘はなるべく回避 子供がいた場合は救出し仲間にも知らせそのまま撤退 ケガをしていたら応急処置しおぶる 敵が襲ってくるようなら子供をおぶって全速力で逃走 仲間が子供を見つけた場合は撤退のサポートを行う いなかった場合で戦闘が避けられない場合は入り口付近に引きつけて戦闘 【戦闘】弱点を探しながら攻撃 分かったらそこを狙う 東側に押し込まれたり囲まれないよう全体を見て動き回りながら戦う 仲間と協調し情報共有を行う 【戦闘後ないし余裕があったら】リザードマンが巣に持ち帰った物を探して調べる 【救出後】子供の貴族への引き渡しに問題がありそうなら止める
|
|
|
|
さて、まずは桟橋か…見通しは良いが、逃げ場がないともいえるな。 うまい事罠にでもひっかけて水に叩き落せればいいんじゃが、そううまくいくかのぅ。 ま、備えだけはしておくとしよう。 戦いやすいと言われとる入り口エリアまで戦場をうまく動かせればそれに越したことはあるまいよ。
冒険家たるもの灯りの類は常に携帯するのが基本。ワシは東側を調べよう。 できる限り戦闘は避けたい所じゃが、念のためここでもトラップの仕掛けは考慮しておくとしよう。 どうにもならんなら罠で時間稼ぎして広場まで戻る事も考えねばな。 ま、手早く探索するとしよう。
坊主が見つかったらまずは落ち着かせる事じゃな。 すぐに帰れるという事を理解させてやらんと。
|
|
|
|
目標 子供の救出 心情 一人で危険な場所にいるなんて…とても不安でしょう…早く救い出して安心させてあげたいですわ!
行動 桟橋はなるべく物音を立てぬよう素早く渡りますわ 西側は…十分に警戒して捜索いたしましょう もし出会いましたら、戦闘しやすい入口付近になるべく移動してからがいいでしょうね…私は特に魔法を放ちますし 弱点は不明なのでとりあえず色んな属性の【ジ・アビス】を放ちますが…属性的な弱点があるのでしたら早く発見したいところですわね 物音を頼りに移動します…大きな声は出すと目立ちますので、少々抑えながら子供に呼びかけますね
隠れやすそうな所(影になっているなど)を探しながら、子供の捜索頑張りますわー!
|
|
|
|
・アストラム
両手剣(状況的に借物)を持っていく。
目的は子供の救出だが、こちらは基本、戦闘が主になる。
広間で戦うほうがいいか。 リザードマンを威嚇するように両手剣を大きく構え、簡単には近寄れないよう工夫する。
子供を見つけたら救出を優先する者はいる。なら、こちらはその時に近寄れないよう前にでて、撤退するまでの時間稼ぎでもするとしよう。
子供の撤退が完了したら、他の者の撤退が同時期に終わるならこちらも撤退する。
子供から、情報は聞き出したほうがいいだろう。
・レステリア
敵の位置、速度から次にどの敵に対応するべきかアストラムに指示するといかんかね。 仲間から離れすぎないよう注意も必要。一人では勝てんのだよ。
|
|
参加者一覧
|
蛇神 御影( 陽菜 )
|
ヒューマン | グラップラー | 20 歳 | 女性
|
リザルト
●依頼を受けたらまずは……
冒険者ギルドには、毎日毎日様々な依頼が舞い込んでくる。
これは裏を返せば、冒険者達がどれだけ信頼されているかということの証明とも言えるだろう。
今回貴方達が選んだ依頼は、実に簡潔な内容であった。
【子供を探してほしい。場所は危険な魔物の出るというところだ】。
この言葉から、ある者は子供を助ける事を願い、ある者は魔物への興味を向ける。
様々な想いが混じり合う中で、依頼の解決までという一時を、貴方達はどう過ごしていくのだろうか。
~~~
依頼を受け冒険者達は、指定の場所に集まった。
開口一番、元気よく挨拶をしたのは【フランベルジュ】だ。
「フランベルジュと申しますっ!」
綺麗な赤髪のツインテールが地面につきそうなほど、深く深くお辞儀をした。
「フランって呼んでくれたら嬉しいかな? えへへ……皆さん、今日は宜しくお願いしますっ!」
その後に待ち受ける人懐っこい笑顔は、少女の可憐さもあってこれ以上ないほど魅力的だった。
彼女の横では、スレイブの【スティレット】が今日も元気な主人の様子にご満悦の様子だ。
「おおっ、フランちゃんは相変わらず元気ええね~。ほんなら次はうちの番。うちは【エルヴァイレント・フルテ】っていうんよ。そのままだと長いから、気軽にエルって呼んでなー」
フランベルジュに続き自己紹介をしたエル。
ちらりと見える八重歯はほのかなやんちゃさを醸し出す。
かと思えば、口元に指をあて相手の様子を伺うさまは冷静さの表れか。
見えない本性は正にミステリアスと言ったところだろう。
「ほんでこっちが【アルフォ】。うちのスレイブ―。まぁスレイブ言うても、妹みたいなもんやけどね」
「えっと……よ、よろしくね」
白いワンピースに赤いリボンの髪飾りが良く映える。
少し緊張で固くなっている様子が伺えた。
だが、それはアルフォだけではない。
「私は【アンネッラ・エレーヒャ】と申します。同じ依頼を受ける縁を頂けましたこと、嬉しく思いますわ。呼び方はご随意にどうぞ」
胸元に手を当て、ゆっくり小さくお辞儀をする様は様式美すらをも感じさせる。
だが、それは齢16歳に見える娘の挨拶にしてはいささか気張り過ぎているにも思えた。
そんな様子に、彼女の保護者役であるスレイブ【トゥルー】はあらあらと言わんばかりに見つめていた。
「なんじゃ? プラムにバイオリンにアンコじゃと? 最近の小僧共は珍しい名前をしとるもんじゃな~」
「ちょっと! それを言うならフランにヴァイレントにアンネ! まったく、人前で恥さらしてどうすんのよ!」
スレイブである【クーサモラエスクワックェクラントーム】に説教を受けているのは、主人の【ワイアット・R(ロビン)・ジェニアス】。
御年52歳に見えるほどながらも、長年の旅で培ってきたその筋肉は未だ衰える事を知らない。
しかし。人間衰えるところは肉体だけではない。
「うちのおじーちゃんが変な事言って悪かったわね。ちょっと年なだけだから気にしないで。私の名前すらクーって簡略化してる位だし」
「うるさいわい。ワシは覚えられんのじゃなくて、覚える気がないだけじゃわい」
「初めて会ったころ私の名前聞いて『こんなん覚えられん!』っていってたじゃないの!?」
まぁまぁお二人さん、お熱いのはそこまでにしとこうぜ、と呼びかける【ティラエル・レクス・ファンデルファヴニル】の名前が最も長いのは言わないでおこうと、彼のスレイブ【エストレーヤ・ラクリマ・メリディエース】は思っていた。
「ほら貴方達、行くなら早くしましょう。このまま子供を放っておいたら危険度が増すだけよ」
「ちょっとマスター! この流れですし、せめて自己紹介くらいしないと……!」
「そう。【蛇神 御影(へびがみ みかげ)】よ。宜しく」
「私はマスターのスレイブ【陽菜(はるな)】です! マスター共々宜しくお願いしますね!」
「これでここにいる自己紹介も終わったことやし、ほなら出発しよかー……って、あんさん、何しとるん?」
いざゆかんとしたその時、エルの視線の先には一行から少し外れたところで、地に片足をつき点を見上げる男がいた。
「ああ、神よ。私に今日も生きる道を御示し下さる貴方の慈悲に感謝します。その恩義に報いんがため、私は今日もこの聖道を歩み抜くことを誓いましょう……」
「神に祈るのなど無駄なのだがな……すまない。アタシ達もアンタ達と同じ子供救出作戦の一味なのだよ。ここで仰々しく残念な事をしているこやつの名は【アストラム・ジュノー】。そしてアタシは【レステリア】。こやつが神が云々言い出したら適当にあしらってくれて構わんよ」
「……残念な事とは聞き捨てならないが、神が命じられている。早く歩を進めるとしよう」
すっくと立ちあがったアストラムは、先程とは打って変わった冷静さでいち早く目的地へと歩き出す。
一行もそんな彼においてかれまいと、急ぎ進行を開始するのであった。
●地の利を得よ!
人は空を飛ぶことは出来ない。
船を使って一刻の間中空を彷徨い得たとしても、きっとこの先も人は踏みしめる大地と共に生きていく。
敵を知り己を知れば百戦危うからず。だがそれは己も敵も共通である立つべき舞台を知っていてこそである。
これから未知の場所に踏み入れる冒険者達。
だがそれは全く未知ではないのだ。
【竜の穴】と【それに続く桟橋】、その名やどんな危険があるかだけは、風の噂で耳にしているはず。
危機を避けようとする第六感は、時に未知なる未来を、まるで今見る景色の事のように言い当ててしまうのだから。
~~~
しばし歩くと、一行の目の前には桟橋と大きな山のようなものが見えてきた。
桟橋の先、山の側面には大きな穴が開いている。
穴の奥からは竜の雄叫びのような音が聞こえて来るのだった。
「ふむ。予想通り桟橋の先まで良く見えるのう。いい見通しじゃ。逃げ場が無いとも言えるがのう」
「恐らくこのような土地柄の影響でしょう。気流の流れがこの竜の声を作り出しているようですわね」
「ここまで結構な山道だったしね。少し水音が聞こえるから下には川があるのだろうけど……橋から落とされたら簡単には戻って来れなさそうよ」
ワイアット、アンネッラ、蛇神がそれぞれ現状を分析する。
「あ! 皆さん見て下さい! あそこにリザードマンがいますよ!」
そしてフランの指さす方向、竜の穴の入り口から少し離れたところに奴はいた。
どこで拾ってきたのだろうか。ボロボロになった片手剣と片手盾を持っている。
「よ~し。あいつは私に任せて皆さんはお先に!」
「ほんならうちも残るんよ。もしフランちゃんが橋の上で挟まれたりしたら大変やしね」
「では気づかれるのが遅くなる様、橋は素早く渡ってしまいましょう」
こうして一行は作戦をフランとエルを先頭に真正面からの突破と決めた。
勿論アンネッラの言う通り、気づかれないのに越したことはない。
物音をなるべく立てないよう、小走りで橋を渡っていく。
「皆気をつけろ、横風に煽られるなよ」
いささ対岸まで距離のある橋の上は風の通り道。
左右に揺れるその場所で戦うのは、本来の実力を出せなくなってしまうだろう。
ただ渡る分には冒険者ともあろう者が落ちる事など無いであろうが、アストラムは配慮を怠らない。
橋の中ほどを過ぎる頃、見張りのリザードマンが一行の存在に気づいた。
桟橋上で迎え撃とうとかなりのスピードでこちらへと走って来る。
「シャァーー!!!」
「気づかれたみたいやね。フランちゃん、準備ええか?」
「はい、エルさん! 頑張りますっ!」
前衛の二人が装備してきた大剣を抜こうとした瞬間。
目の前の木陰からリザードマンにとびかかる影があった。
それは集合場所には姿を現さなかった冒険者【アーレニア=シャゴット】だった。
彼女は勢いよく体を盾にぶつけると、反動で倒れ込んだ敵の喉元目掛けて何度もナイフを突き立てる。
暫くは抵抗を続けていたリザードマンも、やがて動かなくなる。
「キヒヒッ! ああぁァ……終わっちまったねェ……もっと苦しむ顔を見たかったのにさァ……」
黒地の協会制服に飛び散った青い血を舐めながら、彼女は残念そうに立ち上がる。
一行は何とか渡り切ったものの、その突然の出来事にどう反応してよいものかと困惑していた。
アーレニアは一瞬一行へ視線を向けたが、大した興味を示す事もなく竜の穴へと入っていこうとする。
「さァ……次の狩りの始まりだァ……!」
「おい君。これはどういうことだ。必要以上に刃を突き立て、死した者を汚すその行い……命を粗末にするならば神の怒りに触れるぞ」
「あァ……? 神ィ……? ワタシは自分さえ良ければいいんだよォ、その為には何を犠牲にしてもかまわないねェ……、もしオマエが死にたいならリザードマンより先に殺してやるよォ?」
「ほう……面白い。ならば君に贖罪の心を教えてみせようか」
「待てアストラム。アンタの信じる神様は、こんなところで喧嘩をしろなんて言ってるのかい?」
普段クールな彼も、神への冒涜は話が別だ。
アーレニアとの舌戦に熱くなりかけた主人をレステリアが窘める。
しばしにらみ合う2人の冒険者だったが、小さく息を吐くと、アストラムは剣から手を放した。
「……その通りだ。すまなかったな、アーレニア君」
「……ちェ」
「アーレニアもオレも別にテメェらに敵意はねぇが、わざわざ協力する気もねぇ。オレ達はオレ達のしたいようにするからよ。邪魔だけはすんな」
アーレニアのスレイブ【アンサー】はそれだけ言い残し、主人と共に竜の穴へと消えていった。
そんな様子を見ていたフランは、悲しそうな瞳でその背中を見送っていた。
「アーレニアさん……なんだか寂しそうです。世界はこんなに不思議で楽しい事に溢れているのに……」
「嬢ちゃん、お前さんがそういう優しさを持っているのは良い事じゃよ。じゃが人が何を楽しみとするか、どう生きるかも自由なんじゃ。勿論許されない事は存在するがのう。ワシもまだまだケツの青いガキの頃から世界を見てきたが、この歳になった今でも分からん事だらけじゃ。そんな不思議な世界の中で、時に人と関わり合いながら、ゆっくり自分のしたい事、楽しいと思う事を探していける……こんなに素敵な事はないと、ワシは思うがね。じゃから嬢ちゃんは、そのままの心で進めば良いのじゃよ」
ワイアットの言葉に、フランは大好きなお婆ちゃんの事を思い出す。
「……はい! ワイアットさん、ありがとうございます!」
「全く、何年甲斐もなく女の子口説いてんのよ!」
「なんじゃ、クー。この嬢ちゃんもお前さんもワシには孫みたいなもんじゃて。それにワシはもう浮名を流すような歳ではないでの」
「浮名? とはどのような意味なのでしょう?」
「えっとですね~。恋の噂とかって意味で、浮名を流すっていうと、おさかん? な人を現す言葉だってお婆ちゃんが言ってましたっ!」
「おさかん、ですか? むむ、また知らない言葉が……私もまだまだ勉強不足ですわね」
(アンネちゃんはそういうの知らへんで良いような気もするんやけどなー)
他愛もない話で明るさを取り戻した一行は、全員一緒に竜の穴へと入っていった。
●油断大敵は戦闘の基礎である
世界には様々な脅威が満ちている。
その脅威は時に冒険者に牙をむき、時にはすれ違いによって避けられたはずのものと対峙しなければならない。
ここまで数多の旅をこなしてきた冒険者であったとしても、それは決して油断できるものではない。
己の強みと弱みを理解すること。
敵の強さを見誤らぬこと。
慢心を持たぬ限り必ず活路は開けていくものだ。
慢心のない貴方達ならば、旅立つ前にしっかりとした時間を確保しているはずだ。
仲間と戦略を共有したか?
武器やアイテム等所持品の確認はしたか?
もしも絶体絶命の危機が訪れたら?
最後に頼りになるのは、集いし仲間と自身のスレイブのみ。
頼り頼られ、これらの難関を乗り換えていこう!
~~~
竜の穴に入った一行は、開けた広場へと足を踏み入れた。
「どうやらここが、主人の言っていた空間エリアのようね。となると……あっちが西でそっちが東になるのかしら?」
蛇神の指さす先には、狭く入り組んだ穴と暗く奥が見えない穴があった。
「依頼の子供は6歳くらいの男の子ですよね? それだったら、私はあっちに行くと思います!」
「西の方ね。私もそっちに行くわ。リザードマンに遭遇する危険性が高そうだし、人手が居た方がいいでしょ」
「では私もそちらへ行きますわ。フラン様が大剣、蛇神様が打撃であれば、私は魔法でお役に立てると思いますの」
「うちも西やね。アーレニアさんはもうそっちに言ってるだろうし、乱戦には結構自信あるんよ」
「西が多いようじゃな。ならわしは東じゃ」
ワイアットは、持ち込んだリュックからランタンを取り出すと手早く明かりをつける。
「ほう、備えが良いな」
「冒険家たるもの灯りの類は常に携帯するのが基本。他に持ち込んでいる者もいないようじゃしの」
「ならば俺は退路を担当するとしようか。この広場を探索しつつ、この区域を死守する」
3か所に隊を分け捜索することに決めた一行は、それぞれ先へと進みだす。
~~~
広間に残ったアストラムは、レステリアと会話をしながら子供の痕跡を探していた。
「足跡で探索……するにはあまりにも数が多すぎるな」
「ここはリザードマンの根城なんだ、奴等なら基本的にいつも歩き回って飛び回っているのだろうさ。それよりアンタ、大丈夫かい? 一人では勝てるものも勝てんのだよ」
「何を勝つと定義するかにもよるが、今回ならば勝つ必要はない。あくまで子供が助け出せればいいのだからな」
そう言うと彼は大剣の柄を握りしめる。
「ここなら広さは充分だ。こいつを大きく振るえば威嚇くらいにはなるだろう」
「そうかい。なら敵が現れたなら、どいつを狙うべきか指示するとしようかね」
~~~
「う~む。どうにも探すには不便じゃのう」
「気をつけてよ、もう老眼入ってるんだから」
「そんなもんじゃワシを止められはせんよ。ちょっと目がしょぼしょぼするがのう。クー、お前さんも無理はするんじゃあないぞ」
「……分かってるわよ」
ワイアットはこのような状況でも、いつも頼りになる。
普段は奔放な口調で語り掛けるクーであったが、彼のこうした部分を心から尊敬していた。
「ほう、これは……」
「何、何か私に手伝える事ある?」
~~~
「竜の穴、初めて来たけど……何があるんだろうね、スティレット?」
「お宝とかあったら良いな~」
「そうだね! 男の子を見つけられたらちょっと探してみたいかも……」
狭まった穴を越えた先には、細長い道のりが続いていた。
デコボコとした地面、天井から垂れる石柱は歩きづらさを一層強めていた。
だがフラン達は未知への興味に背中を押されぐんぐんと奥へ進んでいく。
「フラン、あなた1人先行してるわ。危険よ」
「あわわ! すみません蛇神さん!」
「フランさんも男の子に負けず劣らず、好奇心旺盛ですね!」
「あははっ! 陽菜さんの言う通りかも知れないです~」
「おっ、少し開けたところに出れそうやね」
一行が開けた個所に出てみると、3匹のリザードマンとアーレニアが交戦していた。
自身とリザードマンの血に塗れたその姿は、何か幽霊のような恐ろしさを感じさせる。
「とにかく、彼女を助けんと!」
「私も行きますっ!」
「じゃあアンネッラ、捜索はあなたに任せるわ」
「分かりましたわ!」
リザードマンへと飛び掛かる3人は、各々ジョブレゾナンスを発動する。
彼らのスレイブ達はそれぞれ主人の武器に同化すると戦闘が始まった。
魔法で戦うつもりだったアンネッラは、この場所での使用は危険と判断し子供の捜索へと行動を切り替える。
「キヒッ、いいねェ~……燃えるてくるねェ……!」
「そーりゃ!」
囲まれようとするアーレニアを、エルの大剣が救い出す。
「んんん? オマエ……」
「邪魔する気はあらへんよ。狩りをするにも1匹ずつやったらええんでない? 終わったらこっちの分は好きにしてもらって構へんし」
「キヒッ、いいよォ……なら文句は無いさァ……」
「ありがとなー。そんならうちは、この子と遊ばせてもらいます」
エルは大剣を構えると、突くようにして攻撃を繰り出す。
「シャッ!」
「ふ~ん……」
(……また前から来るよ、エルさん。思いっきりやっちゃって)
「アルフォ、信じてるんよ」
前後に大きくステップをするリザードマン。
地形を把握した動きは、大きいながらも障害物にぶつかることはない。
(これならこっちの隙はほとんどあらへんし、倒せないまでも時間は稼げそうやね)
アーレニアは自慢のナイフ技でリザードマンの軽快な動きに対応する。
最後の1匹には蛇神とフランが当たっていた。
「てやっ!」
「シャ!!!」
「あう……やっぱりリザードマンは賢いですね。真っ直ぐ斬るだけじゃ当たらないです」
「ならスピード勝負ね! 私に任せなさい!」
「へ、蛇神さん!?」
フランの一撃を回避したリザードマンへ、蛇神は飛び掛かる。
ここにいる個体は3匹とも武器は装備していない。
となると主な攻撃方法は尻尾と噛みつき、そして体当たりといったところだろう。
「手の内は見切ってるわよ! あんたも私の力の礎となりなさいっ!!」
先ほどまでクールな振る舞いをしていた蛇神だったが、どうやら戦いにおいてはその限りではないようだ。
華麗に尻尾の一撃を避けると、鋭い拳の一閃を送り返す。
「今よ!」
(フラン! いつでも良いよ!)
「任せて下さいっ! いくよスティレット、やああぁぁ!!!」
蛇神の拳が怯ませた隙をついて、フランは全力で【ダブルエッジ】を放つ!
綺麗に決まった連撃にリザードマンは倒れた。
それを見た他の個体は、穴の奥地へと逃げ帰る。
「や、やりましたぁ!!!」
「うん、上々の結果やね。後は……」
「こちらも見つけましたわ!」
戦いが終わった頃、子供を抱き抱えたアンネッラが姿を見せる。
どうやら上手く岩陰の隙間に隠れていたらしい。
おびえた様子であったが、幸い軽症であった。
「腕、すりむいているのね。治療するわ」
蛇神は持ち込んでいた包帯等の医療品で応急処置を施した。
「これでお終い。ケガしたく無かったら、今後はこんなところに入り込まない事ね」
先程までの感情の起伏が嘘であるかのように、冷静になる蛇神。
いささか不愛想にも感じられる物言いだが、消毒から包帯を巻く作業に到るまでの丁寧さは、彼女の優しさをほのかに感じさせた。
それを感じ取ったのか、子供はおどおどと話し始める。
「ボク……もうダイジョブ?」
「大丈夫ー。うちらはちょっと偉い人に頼まれてな、キミを助けに来たんよー。取り敢えず、こんな狭いとこは、早めに出るべきやね」
「アタシはその子供に興味ないからねェ……後は好きにすると良いさァ」
他のリザードマンを探しに洞窟内へと消えていったアーレニアと別れ、広間へと戻ってきた西側捜索の一行。
そこには既にアストラムとワイアットが待っていた。
「おっ、嬢ちゃん達。無事で何よりじゃ。坊主もちょいとケガしとるようじゃが、健勝で何よりじゃのう」
「さて、子供を見つけた以上ここに留まっていても仕方ない。殿は俺が努める、ギルドへ帰ろう」
「その前に坊主よ、お前さんマルデ=イヒトという男を知っとるかのう?」
「……知ってる。……これ」
男の子は、ポケットから大事そうに何かを出した。
握られていたのは直径15cm程度の石ころで、妙な欠け方をしている部分がある。
「これは……石? 普通とは違うみたいだけど」
「どこかの文献で見たことがありますわ。特殊な魔法で、自然物に情報を焼き付けるのだとか。パスコードとその石にあった欠片をはめれば、その内容が見られるはずですわ」
「微妙にきな臭い依頼主とは聞いとったけど……これが目的だったみたいやね」
「でも……ボク、欠片落としちゃって……」
「おお、それならのう……」
「……っ! アストラム!」
会話に夢中になっていた一行に、突如リザードマンが襲い掛かる。
レステリアの指示に迅速に反応したアストラムは、大剣を巧みに使い体当たりを受け止める。
「あいつら! ……逃げたんやなくて回り込んでた、いう訳やねっ!」
エルも大剣を振るい、アストラムが防ぎ漏らした1匹と対峙する。
「皆様、橋の向こうへ! 私に考えがありますわ……!」
アンネッラの掛け声に、一行は敵と交戦中の2人を遺してその場から退散する。
足の遅い子供は蛇神がおぶることで置いて行かれることはない。
全員の避難を確認後、残された2人も桟橋へと避難してくる。
「アンネッラ君、どうするつもりだ!」
「こいつら、このまま追ってくるつもりみたいなんよ!」
「お任せ下さいっ!」
アンネッラは、自身の周囲に魔法陣を展開する。
周囲には7色の球体が出現し、それぞれが属性の光を放っていた。
(お二人を巻き込まないために出力は調整して……属性は……)
「火だ。火の魔法を使って!」
遠くから聞こえる男の声。
それを聞き彼女は赤い球体を火球へと変える。
「これでお終いですわ……ジ・アビス!!!!」
彼女の唱えた呪文は、見事2匹のリザードマンを追い払うことに成功した。
●未来を掴めば物語は続く
冒険者ギルドに戻ってきた一行。
そこにはマルデ=イヒトが待ち構えていた。
「諸君。無事に戻ってきたようで何よりだよ。それで子供は居たかね?」
イヒトの問いかけに一行は沈黙を続ける。
それを破るのはアストラム。
「残念だが……これだけだ」
アストラムの手の中には、子供が所持していた石ころが握られていた。
「おっ、それがあったか! いや~近くに住んでいる子供でね、助からなかったのは残念だったがそれだけでも渡してもらえるかね? 親御さんに届けてやりたいのだよ」
「そういう事でしたか……」
「なっ、お前?!」
一行の後ろから、月村正継が顔を覗かせる。
「お久しぶりですイヒトさん。残念ですが子供は生きてますよ」
アストラムは石ころを子供に返す。
欠けていた欠片も、ワイアットが見つけていたのだ。
「今のを聞いてはこの子を渡すなんて出来ないわ。私達冒険者が軍に申請さえすれば……」
「分かった! もういい!」
蛇神の言葉に不利を悟ったイヒトは、逃げるようその場を去った。
「まさか僕が到着する頃には全部終わっているとはね。良い協力だったと思うよ! これからも宜しく! ではでは……乾杯!」
しばらくの後、月村の音頭で依頼成功の祝勝会が開かれ各々が楽しい時を過ごすのだった。
「神のご加護に感謝を……」
依頼結果