プロローグ
遂に完成した【第二都市ディヘナ】。
この世界において急速に勢力を広げたディナリウム王国の、次なる伝説の始まりとなるべく作られた場所。
その誕生は、たくさんの人々の歓喜に包まれながら、祭典として祝われる事となった。
振り返ってみれば。
正式な完成を迎えるよりも前、既にこの都市には多くの人が集まっていた。
帝政時代から存続する第一都市ディナリウムから、一攫千金の希望を持ってやってきた者。
そんな彼らを温かく向かい入れる住居や商店、サービスを管理し維持する労働者。
王国国境付近という都市の立地を生かし、諸国との貿易で成り上がりを夢見る商人。
裏切られ、何かに敗れ、何かを失った先に辿り着いた流浪人。
どんな団体にも属さぬ代わりに、一時の金でどんな色にでも染まる傭兵やギャンブラー。
正義と秩序を誇りとする貴方達、冒険者……。
こうして集った者どもの想いは、誰にも気づかれぬままに清濁混ざり合い……
混沌という魔物をひっそりと生み出していた。
この化物はたった一枚の城壁という檻の中で、弾け出す瞬間を心待ちにしていたのかもしれない。
そんな時……この檻に蠢く人々の元に訪れたのは【創造の日】と【栄光の影に】という2つの出来事。
この街の中心を動かし、中枢を据え代えた物語。
それは檻のカギを解き放つに、充分過ぎる前奏曲。
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「ふっ……くっははははっ」
静まり返るディヘナの街並み。人々は眠りにつき明日への英気を養うようなこの時に。
祭典が終わってしまったという寂しさすらもまだ、うっすらと残るようなこの街の中心で。
遥かな高見から、安穏を嘲笑う男がいた。
「どうされました、リゴレット様?」
彼に付き添っていた従者は、突然の事態についていけていないようだ。
「其方は我が主の御意思を感じられぬか? ならばそれもまた……主からの啓示であろうな」
リゴレットと呼ばれた男は、まるで何か見透かしたかのように呟くと、銀色のローブを纏う。
「主は我らに恵みを与えられた! それはこの世に顕現されし力の片鱗。我らは主の手足となって、有象無象へすらも愛を持ち、厳正なる審判を与えなくてはならない!」
まるで何かに憑りつかれたように、早口でまくし立てる男。
その言葉には一切の迷いが感じられない。
薄く開いた眼は、深淵に小さく灯る炎のような昏い朱色で従者を射抜く。
「ヒイッ!?」
「……恐怖。其方に猜疑と不信がある限り、曇りくすんだその濁心は永劫に救われることはない。くくくっ」
蔑みの冷笑を湛えた後、従者への興味を失ったリゴレットは短剣を手にし、身支度を整える。
「さぁジルダよ。親愛なる盟友、アイーダがその身を捧げて創造せしめた神への道……愚鈍な彼の者に代わり、この道化が標を紡いでゆくとしよう」
彼の言葉に反応して、突如暗闇から少女が現れる。
「御心のままに」
それだけ会話を交わすと、2人は夜陰に紛れて自分達の根城である塔を出発した。
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『オーパーツ?』
聞き馴染みのない言葉に、集まった冒険者達は声を揃えてそう言った。
それに応えるのは、今回彼等に依頼をしてきたディナリウム軍の将校ディオニソス。
「簡単に言えば、我々の理解を超えた品物……という事だ。まずは実物を見てもらった方が早いだろう」
ディオニソスの指示により談話室に持ち込まれたのは、直径1m程の大きな一枚鏡だった。
「見た目はただの鏡だが、これには不思議な力が備えられていてね」
彼が手に持つ魔石をかざすと鏡の表面は水の波紋のように揺れ動く。
揺れが治まる頃には、その中にこの場に無い物が映し出されていた。
「見ての通り、この鏡には他のオーパーツを感知し表示する力があるようなのだ。どういう原理かは解明出来ていないが、これを用いて数点のオーパーツ回収に成功している」
つまりここに映る四角形の何某かもまた、謎の力を持つアイテムという事だ。
「我々はこれを【未知なる虚像(ミラーミラージュ)】と呼称している。既に分かっていると思うが、今回君達には鏡の示すオーパーツを回収してもらいたい」
余程重大な事なのだろう、ギルドを通さず直接依頼がなされた訳を聞く冒険者達。
「ミラージュが示すのはあくまでオーパーツの外観と、それが眠る場所を示唆する映像のみ。だが我々にはもう一つ、分かっている事がある」
ディオニソスが再び手をかざす。
すると鏡もまた再度波紋を生み出し、新たな何かを映し出す。
そこに映されたのは、第二帝都郊外にある長距離転移門……ゲートだった。
「こいつが映す物の回収には、危険が付き物という事だ」
以前の戦いでゲートそれ自体は確かに守られた。
しかしそこで繰り広げられた戦いの余波の影響もあり、付近には未だ立ち入りを制限される危険区域も多くあった。
「何が起きるかは想像も出来ない。だがこれだけは肝に銘じておいてくれ。油断すれば必ず血を見る羽目になる」
必要な武器は、以前同様こちらから貸し出そう。検討を祈る。
ディオニソスから激励の言葉と支援を受け、冒険の旅へと赴く貴方達。
そこに待ち受ける、新たな脅威との邂逅は、一体何をもたらすのであろうか。
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「ジルダ。解析は終わったか?」
「はい、ご主人様。これは魔石毎に秘められた魔術を具現化、強化し出力できる機能を備えています」
「それは素晴らしい。この軽さ、そして重さ……得物としては心細いが見た目によらぬな」
「ご主人様、不要な接触は危険です。内蔵される高純度の魔石にアビスが確認されています」
「そうか……ならば、これを備える持ち手が必要であるか。……くくくっ」
「……ご主人様?」
「ああ、すまない……ふふっ、我ながら何ともくだらない事を考えてしまったものだと思ったのでねぇ……」
リゴレットは、声を押し殺すように笑う。
「我が敬愛する脆弱な同志、アルゴーに無能の烙印を焼き付けた者達がいただろう?」
「はい。冒険者の介入があった事は確認済みです」
「真に不本意ではあるが、同志が受けた借りを返すのは、人として当然の礼儀……」
突然、彼は含み笑いを止めると、遠く見据え呟いた。
「ならば、我々【神の手】の障害となった異端者共の……その手を奪ってしまうとしよう」
「かしこまりました。ではそれまで私が管理致します。ご主人様、この物質の呼称は何と?」
「因果を歪めし小さな魔術器。神の祝福、穢れた血が刻まれる黄泉の闇…………【創造の碑】、それこそがこのオーパーツに相応しい」
照りつける太陽が映し出す影は、暗い敵意を心に秘める。
今ここに、オーパーツを巡る戦いの幕があがる。
※このエピソードは、大規模作戦『栄光の影に』の連動エピソードです。
イベントで起きた様々な大事件の陰で、隠された物語をエピソードにしています。
歴史の狭間、真実の隙間を埋める物語へ参加してみてください。
なお、『栄光の影に』にて選んだ選択肢と関係ないお話でも参加可能です。
解説
今回の目標は鏡が映し出したオーパーツ、【創造の碑】の回収です。
皆様にはゲート周辺の立ち入り制限区域を捜索、調査して頂きます。
今回皆様には、
・各冒険者から申請があった物数点(武器以外基本自由ですがあまりに特殊な性能の物は不採用となります)
・手のひらサイズの魔石1つずつ(魔石の光は生身には毒となりますので、スレイブに持たせる形となります)
が貸し出されます。
区域は以前、ブロントヴァイレスの雷撃により崩落した研究所の瓦礫や剥き出しとなった岩肌が多くあります。
体格のある方でも身を潜めたり、一時的な盾として利用する事などが可能です。
ただその分高低差が生じており普通には動きづらい地形である他、気をつけないとケガをします。
捜索範囲は結構広いですし、多少の荒事は致し方無しと帝都からお目こぼしをもらっていますので、地形を利用するも、魔法等で破壊するも自由です。
これまで【未知なる虚像】に映し出されたオーパーツは回収される際、何かしら捜索隊に悲劇をもたらしてきました。
備えあれば憂いなしですので、様々な事態に対処できるよう、パーティーで役割や持ち物を分担しておくと良いかもしれません。
【創造の碑】は片手で持ち歩けるので、人数が少なかったとしても回収可能です。
魔石はオーパーツに近づくほど震えるのでソナーの役割を果たします(但し性能はあまり高くありません)。
回収出来た際は帝都に献上して頂き、今後の為に研究されることとなります。
オーパーツの使用や回収方法に関する制限は帝都側から出ていませんが、なるべく無傷の方が好ましいでしょう。
今回遭遇するであろう敵の事はほぼ不明です(PC的には全く知らない状態でのスタートとなります)。
人数は2人ですが未知の強さを秘めています。
猛攻に耐えきれば、必ず活路が見出せるはずです。
ゲームマスターより
プロローグに興味を持って頂きありがとうございます。
私のエピソードに関する注意点は個人ページにございますので、お手数ですがそちらをご覧下さい。
今回はグランドプロローグ・大規模作戦の結果を受け、生まれたエピソードになります。
今後神の手とオーパーツに関わる依頼も増えてくると思いますので、是非最初の一歩を踏み出して頂ければ幸いです。
現状出来ない事や上手くいかない部分もあるかと思いますが、皆様次第で未来は大きく変化します。
なるべく採用する所存ですので、自由な発想でやりたい事をご提案ください。
皆様の冒険が素敵なものとなるよう、精一杯務めさせて頂きますので、どうぞ宜しくお願い致します。
それでは、リザルトにて皆様にお会いできることを楽しみにしております。
【祭典】暗躍する新たな脅威 エピソード情報
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担当 |
pnkjynp GM
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相談期間 |
6 日
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ジャンル |
戦闘
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タイプ |
ショート
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出発日 |
2017/10/13
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難易度 |
難しい
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報酬 |
通常
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公開日 |
2017/10/23 |
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武器は取り回しを重視し、メイン装備のミドルソードを使用。 その他持ち物は、発煙筒(赤煙・白煙、可能なら人数分)、火付け用のマッチ、ランタン、オーパーツが入るくらいの箱。 それらを大きめの背負い鞄に入れていく。 探索では他の冒険者と協力して、警戒しながらオーパーツを捜索。立ち位置は前衛。 北の方を中心に捜索を行う。 可能であれば、オーパーツを見つけた場合、白煙の発煙筒で合図。万が一戦闘になった場合、赤煙の発煙筒で合図、と事前に決めておく。 人数分用意できたら発煙筒をそれぞれに配布。
戦闘の際は、積極的に前に立ち、スキル「ダブルエッジ」で攻撃を仕掛ける。 オーパーツを先に確保出来ていたら、離脱も念頭に入れておく。
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ケモモの野生の勘頼りにダウンジングを用いゲート付近を探索し スレイブが魔石の反応を確認
オーパーツを発見次第白の発煙筒を焚き オーパーツをスレイブが魔石と一緒に保持 敵を発見次第赤の発煙筒 敵を挑発し基本回避で一挙一動を観察しながら罠へ誘導
罠に敵が嵌っても気を緩めず回避行動 目くらましに手近な瓦礫や石礫を投げ攻撃支援
ここまでで敵が上手でコチラを見下すようなら 敵に圧倒され弱った振りで油断を誘う 攻撃に見せかけワザと外し周囲の瓦礫や岩盤を脆くしながら最終的に「車輪」を岩盤にたたき込み 崩落に敵を巻き込ませダメージや身動きを取れないようにする
他の冒険者が作った敵の隙に「車輪」攻撃
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オーパーツ…ですかあ…とっても興味深いですねえ… この手帳に描き写した紋章との関連性も調べたいですからねえ…くくくっ… っと…アーレさん…出てくる魔物は殺しても構わないですが他の冒険者の方には手を出しては行けませんよお…? なるべく穏便にしたいですからねえ…まあもしいくつかあるようでしたらバレない様に持ち帰りましょうかあ… ああ…早く見つけて…調べたいですねえ…くくくっ…
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あァ…オーパーツなんざどうでもいいだろォ… まあいいやァ…聞くところによりャあ悲劇が襲うんだッたかァ…? キヒヒッ…魔物の匂いがするんだよなァ… もし何か出てきたらワタシの獲物だァ…邪魔するんだッたら冒険者共でもいいんだぜェ…? セーレニアァ…早いとこ見つけてその悲劇ッてのを調べようぜェ…お前調べるの大好きだろォ…? キヒヒッ…
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持ち物は発煙筒、通信機、携帯音楽プレイヤー、サングラス。
探索時はフィールド環境とオーパーツの特徴を加味しながら、ありそうなところを探索する。罠も設置していく。 探索には携帯音楽プレイヤーのラジオ機能で砂嵐を利用しての探索。砂嵐が途切れたり、変化したところは探索してみる。ラジオは魔石の補助的役割。
オーパーツ発見時は基本的には発煙筒を焚くが、敵がいる場合は光魔法で目くらましをし、オーパーツを奪取する。その際、失明しないようにサングラスをかける。発煙筒は逃げる際に、逃げた方角と逆の方向に赤の発煙筒を投げる。 近接戦闘は一子相伝の蹴り技「タイキック」だが、基本的には魔法で戦う。
逃走時には爆破魔法で対抗。
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◎装備 武器はファデルタ。防具は篭手 道具は発煙筒を要望
●行動 探索時は廃墟の東側へ行き、ルーツに持たせた魔石の反応を見て移動 オーパーツを発見したら発煙筒を使って知らせる 回収はルーツに任せる
・戦闘 味方からの連絡があったら急行
自分が遭遇したら適当な会話(ここに来た目的や何者か)をして敵の情報を引き出す 攻撃してきたら瓦礫を利用して防戦 相手の攻撃手段や戦闘方法を観察しつつ赤い煙の出る発煙筒を使い敵が来た事を知らせる
戦闘時はルーツを武器に同化させ、そのまま支援させる 篭手などで防御しつつ隙を見て急所へ斬撃を加える 味方が罠を使うなら誘導。成功したら一気に攻勢に出る それでも勝てないならイチかバチかオーパーツを使う
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心情 未だ謎の多い未知の物体の捜索とは…とてもワクワクしますわ! 今回探すオーパーツがどのようなものかは存じ上げませんが、精一杯探しましょう
行動 トゥルーにきちんと持っていることを確認した後、異変を感じたらすぐに伝えてもらうように頼みます 頂いた情報を基に南の方を探索いたします 発煙筒も用意し、何かあったら使うとして、すぐ異変に気付けるように空はこまめに確認しないとですわね 上ばかり見ていたらトゥルー…注意をお願いしますわ
戦闘 弓を使用します 弓の技術は【ジ・アビス】の風属性でカバーしますわ 短剣は隠し持ち、危険な状態になりましたら、投げるか防御に用います 魔法で対応できそうなときは、なるべく魔法を使います
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●持ち物 短剣、ランタン、グローブを装備。リュックの中に罠の道具と通信機、発炎筒を入れます 私のスレイブのクローバーに魔石1つを持たせます
●目的 創造の碑の回収
●作戦 探索前に来た道にトラップ仕掛けて進みます(敵を発見したらそこに誘導するため)
手分けして探索します。反応があった場所を発炎筒又は通信機で知らせます (通信機、発炎筒が使えない場合はスレイブに探索任せて他の人を呼びに行きます)
創造の碑を発見したら敵襲を警戒しながら来た道を辿って帰還します もし敵襲を受けたとき罠へ誘導しながら戦闘します
●行動 基本、作戦通りに行動。北東から探索します 勝ち目がない時は回収した帰還を創造の碑を優先するように伝えます
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参加者一覧
リザルト
●戦場の傷跡を前に
「【未知なる虚像(ミラーミラージュ)】、不思議なものもあるもんやねー」
「そうだね……エルさん」
ディオニソスからの勅命を受けた冒険者一行は、ディヘナ郊外にあるゲート目前へと歩を進めていた。
そんな中【エルヴァイレント・フルテ】の呟きにスレイブの【アルフォ】が相槌をする。
「確かに。あの鏡、『これ』とは違った構造をしているようです。未知の技術が使われているのは間違いないでしょうね」
代々学者の家系に生まれた【星野 秀忠(ほしの ひでただ)】であっても、かの鏡の正体は分からない。
彼がこれと称した物は、ある研究をしているうちに出会った手のひらサイズのクリスタル結晶である。
黄色く輝くこれは、魔力を流し込むと魔力の種類や出力に応じて音楽が自身の耳に聞こえてくるという変わり物で、『ハーモナイザー』と名付けるほどに秀忠お気に入りの一品であった。
彼の様にクリスタル結晶を個人所有している人間は少ないが、結晶自体はそう珍しいものでもない。
例えばディオポリスにある巨大結晶は魔法テレビジョンと呼ばれ、帝都側が定期的な魔力補給を行うことでその日の天気予報や近隣の魔物出現情報等を、映像と音声を添えて映し出している。
そのほとんどに『アイドル』と呼ばれる少女達が現れアナウンスをしてくれるため、それを目当てに各地の結晶を巡礼して回る者もいるほどだ。
「さて、面倒だが捜索エリアは広そうだ、どう探すか決めないとな。各人がクリスタルを持っていれば魔力による相互通信なども出来るだろうが、流石にそうも行かねぇからな」
魔力投影が出来るクリスタルは基本的に希少だ。【ジーン・ズァエール】は思わず肩を竦める。
そんな彼に同意を示すように【Guts(ガッツ)】も声をあげる。
「本当ならゲートにあった通信機が使えれば良かったのだけれど。大型据え置きのあれでも国単位の予算と技術者が無ければ用意出来ないらしいわ。全く嫌になっちゃうわね!」
「ガッツ君の言う通りですね、結局は己の武技と魔術を駆使していくしか無さそうです」
秀忠は大きな溜息を漏らす。
もしここに操作ひとつで視界が変化し、温度を敏感に捉えたり普段知覚できない光線を視認出来るようにするアイテムがあったのなら。
こうした探索はぐっと楽になるのだが……。
だがそんな特殊な性能の物があるとすれば、それこそオーパーツと言える代物だろう。
先人によって創り上げられた数々の技術と道具。
今でこそそれは、材料を集め工程を知りその物に見合った時間をかける事さえ可能ならば、たった1人でも創り上げることが出来る。
それは魔法も同じ事。
世界の理を知り、その流れを都合の良いよう上手く引き出すのが必要なのだ。
理を捻じ曲げるには、それに見合った魔力を捧げ、時には陣を準備し贄すらも捧げなければならない。
様々な研究をしている彼が一番分っている事ではあるが、それでも人間の追求欲は留まるところを知らないのだ。
いつかそうした人間の限界を塗り替えていく事も、星野家悲願の1つである。
「んじゃ俺の案なんだが……」
「あ、うちにも考えがあるんよー」
ジーンとエルが同時に出したのは白と赤の発煙筒であった。
2人がディオニソスから借りた分を合わせれば、丁度全員に両色1本ずつ当たる数だ。
「こりゃあいい。オーパーツを見つけたら白。んで……」
「何か危険があったら赤。やね」
「あはは。お2人とも気が合いますねー」
空色の髪を揺らす少女の名は【たくみ】。
落ち着いた口調に柔和な笑顔は人を和ませる。
そんな彼女とは対照的に【アーレニア=シャゴット】には苛立ちが垣間見えていた。
落ち着きのなくなりつつある彼女を【セーレニア=シャゴット】が宥めにかかる。
「オーパーツなんざどうでもいィ……ワタシはいい加減血が見たくて仕方ないんだよォ……!」
「まぁまぁアーレさん……他の冒険者の方に手を出してはいけませんよお……? 悲劇を呼ぶというオーパーツ……興味深い一品ですからあ……研究はなるべく穏便にしたいものです……くくくっ……」
「チッ。セーレニアァ……だったら早いとこ見つけてその悲劇ッてのを調べようぜェ……オマエそういうの大好きだろォ……?」
「ええ……分かりましたよお……」
そういうや否や、セーレニアはジーンの背後に回り込むと、赤白の発煙筒を1本ずつその手から抜き取る。
「それじゃあこちら、お借りしますねえ……ああ大丈夫ですよお? 何か見つけたらちゃんと知らせますからあ……信じて下さいねえ……私は貴方達の親友ですもの……ふふっ。じゃあアーレさん……どちらへ行きましょうかあ?」
「キヒヒッ……西だなァ……魔物の匂いがプンプンしやがる……」
2人は奇妙な薄ら笑いを浮かべながら、危険区域へと足を踏み入れていく。
「なんだあいつら? 片方はどうにも胡散臭えし、片方は殺しを求める幽霊か鬼、ってところか……俺以上にマイペースなやつとは珍しいもんだ」
「まさかアーレニア様にご姉妹がいらっしゃったとは驚きでしたけれど……セーレニア様の方はまだお話が出来そうですわね」
「そうやね~。まぁ邪魔さえせんかったらいいみたいやから、変に気にしなくても大丈夫やと思うんよ」
「なるほどな。仕方ねえ、俺達は俺達で連携して探すとするか」
かつて別の依頼でアーレニアと面識のあった【アンネッラ・エレーヒャ】とエルの言葉に。ジーンは納得する。
「えっと……では私達はどう分かれましょうか?」
「ではたくみ君は私に協力してもらえますか? やってみたい事があるのですが、少々人手がほしいもので」
「分かりました秀忠さん」
「ありがとうございます。では私達は準備を済ませて、ここで狼煙の合図を待っています」
「かしこまりましたわ。残るは私達の分担となりますが……」
「今うちらは鏡が示した景色の目の前にいるわけやし、ここから180度の範囲で放射状に探していけばいいと思うんやけど、どうやろか?」
「エルの案に賛成よ。なら私はさっきの彼女達と反対の東側を捜索するわ」
「流石に1人じゃ危険だろう。ガッツ、俺もそっちへ行くぜ」
「あら、エスコートなんて嬉しいけど君は私について来れる?」
「ケモモとしての自信か? 面白れぇ、人間だってやれるって所を証明してやる!」
「決まりやね。そしたらうちらは残る北側を探索するとしますー。ええやろか? アンネちゃん」
「分かりましたわ! ご期待に応えられるよう、精一杯頑張りますわ!」
「相変わらずお堅いんやね~。うちの事はエルでええんよ」
「は、はい……! では、え……エル、様……と!」
「くすっ。 ま、一歩目はそんなとこやんね。宜しゅう頼みますー」
こうして残された一行は3チームに分かれオーパーツ捜索に繰り出したのであった。
●備えあれば……
捜索に向かった仲間達を見送った秀忠は、白衣のポケットから石灰石を取り出すと地面から手ごろな石を拾い魔法陣を書き始めた。
書き終えては新しいものに黙々と書き進める彼を、たくみは不思議そうに眺めている。
「何をされているんですか?」
「ちょっと保険でもかけておこうと思いまして……よし、次」
秀忠が書き上げたものは光魔法の魔法陣。
「たくみ君にはこれと同じ魔法陣を、投げやすいような石ころに書いてもらいます。大丈夫、ただ真似して書くだけですから。【みくり】、彼女が書いた魔法陣のチェックを頼む」
秀忠は自身のスレイブにたくみの世話を任せ作業へと戻る。
「はい。お任せ下さい。ではたくみさん、こちらの石でやってみましょうか」
「わ、分かりました」
「たくみん、ガチガチね。もっとリラックスしないとダメよ?」
「うぅ……ゴメンねクロ」
初めての本格的な冒険という事もあり、緊張気味である主人を【クローバー】が励ます。
だが周囲の予想に反して、手先が器用なたくみは意外にもしっかりした魔法陣を書き上げた。
「まあ。たくみさん、これまでに魔法陣を書いたご経験が?」
「え? いえそんな! 私雑貨屋の娘ですから、こういう細かい作業が好きなだけで……」
「どれどれ…… おおっ、これだけ書ければ充分。謙遜する事はありませんよ」
「凄いねたくみん!」
「そ、そうかな?」
「ご褒美にナデナデしてあげる! ほ~れほ~れ」
「……えへへ」
「あらあら。クローバーさんとたくみさんはまるで姉妹みたいですね」
「確かに」
「クロには色々良くしてもらってて……クロの方が小さいのにお姉さんみたい、って思うのはおかしいと分かっているんですけど……」
「そんな事はないですよ。私にとってもみくりは妻……のようなものですし、スレイブは自分とずっと共にある存在。誰しも一度は情を抱く事があるでしょう。どのような形であれ、大切なのはどれだけ相棒を信頼しているか、だと思います」
「秀忠さん……ありがとうございます」
「私は何もしていませんよ」
「ふふ……分かりました」
「それより秀忠、わたし達この石ころをばら撒くだけでいいわけ?」
「クローバーさんの気持ちはわかります。本当なら私もすぐ探しに行きたいところですが、分かれて捜索をする以上、ある程度自由に動ける人員も必要でしょう」
「まぁ、それもそうね」
「では私達が書いたこの魔法陣には……一体どのような意味があるのでしょうか?」
「あくまで推測になりますが……このような場所で私達にとって悲劇と言える事があるとすれば、魔物か賊か、瓦礫の崩落くらいのものでしょう。瓦礫は皆さん避けられるでしょうし備えるべきはその他。ということで魔力を込めれば発光する仕掛けを用意してみました。これを投げつければ、一時的に視力を奪う事は可能かと」
「なるほど……!」
「勿論世の中に必ずはありません。どんなに準備しても上手くいくとは限りませんし、今回は準備が無駄になった方がいい。ですが……ここには私にみくり、たくみ君にクローバー君がいます。そして今探索に向かわれている他の皆様も。出来る事を一生懸命に考え、互いを思い合い共に協力し合えば、悲劇くらいどうとでもなりますよ」
秀忠の言葉。みくりの優しい笑顔。
そんな先輩冒険者の姿に、気づけばたくみの緊張はすっかりほぐされてしまっていた。
「私……頑張ってみます! あの、色々持って来てみたんですけど、何かお役に立てるでしょうか……!」
受容的だった彼女が小さな一歩を踏み出した。
愛用の紺色のリュックには、これからどんな物語が詰め込まれていくのだろうか。
●紅き改竄の痕跡
その頃北側に向かったエルとアンネッラは、捜索地域の中でも森の生い茂る北側を捜索していた。
「どうやらこの辺りは以前の戦いで、あまり被害を受けなかった部分の様ですわね……【トゥルー】、魔石の反応はどうです?」
「そうね~。反応は微弱よ。ただし数は複数。かなり近くに点在してるわね」
「ではより一層気を引き締めませんと……! はっ、そういえば他の皆様の合図が……きゃっ!」
気合バッチリ。くるくると辺りを見回していた彼女は足元に入った木の根に躓きかける。
だがそんな彼女の腕をエルが支えた。
「意外とおっちょこちょいなんやね。そういうのは可愛いと思うんよ」
「はぅ……! お恥ずかしい限りです……。もうトゥルー、どうして注意してくれなかったのです!?」
「あらあら、赤くなっちゃって。なら今度からは注意するように心がけるわ。うふ」
頬に右手を当てながら、アンネッラを優しく見守る彼女はまるで保護者のようだ。
一方空にあがるであろう合図の確認をアンネッラに任せたエルは、地面を詳しく捜索する。
「んー、草が邪魔でちょっと暗いんよ……アルフォ、明かりお願いなー」
「……任せて」
エル達は持ち込んだランタンで足元を照らしつつ、魔石の反応を確認していく。
草をかき分ければ、赤く発光する紋章のような物があった。
「これは……一体何なんやろ?」
「何かの魔法……でしょうか? 申し訳ありません。私にも詳細は分かりませんがこの紋章の部分のみ、地面の硬度が変質しているようですわ」
「アンネッラ。あれを」
トゥルーが先程までとは違う真剣な眼差しで空を見つめている。
その先では白と赤、2つの煙が立ち上っていた……。
●邂逅
「私の野生の感、案外馬鹿に出来ないでしょう?」
「ああ、退屈しなくてすみそうだなぁ……!」
女性ケモモのガッツと男性ヒューマンのジーン。
体力に自信のある彼らは、瓦礫が多く不安定な東側の全域を、ほぼ足の力だけで捜索していた。
勿論2人のスレイブである【Puck(パック)】と【ルーツ・オリンジ】が魔石反応を見ながらサポートをしていたのだが……。
そんな一行は地面に魔術を打ち込む怪しい人影に出会う。
彼らにはそれが味方でない事が分かっていたが、一応名を問えばその人影達の名はリゴレットとジルダと言った。
銀色のローブを纏った男はこちらへ見下すような冷たい視線を送り、並び立つ少女は不思議な何かを腕に持つ。
その何かは石板のような形ではあるが、決して石なんて簡素な物ではないだろう。
つまり、この2人は神の手の一員であり、オーパーツは既に敵の手に落ちてしまっている事が確認されたのだ。
「くくくっ……君達冒険者は礼儀というものを知らぬらしい。出会って早々煙をたくとは。我らが熊にでも見えましたか?」
「まぁそんなところかもな。俺達はここにちょっとした狩りに来たんだ。……面白い事をするなら1人でも多い方が楽しいだろ? なぁガッツ?」
「そうねジーン。それに、私達より君達の方が礼儀がなってないんじゃない? いきなり人様の庭でこそこそやってたの、お仲間さんじゃないかしら? まぁその計画も無様に失敗したようだけど」
「あの仮初めの肉体に嗜好を見出す弱者の事を言いたいのですか……。別に己の庭に何を植えようとそれは所有者の自由。わざわざ人を集めてパーティーを開いてやったのですよ? そこを客人である君達が勝手に荒らしたのです。認識を履き違えている事にも気づかないとは、哀れなものだ」
「どういう意味よ!?」
「あの町の名は【ディヘナ】。【ディオポリス】などという下賤の都市ではない、かの地は我らが神の恩恵が注がれる器として生まれた、絶対に死守されなければならぬ場所! そのための結界を貴様らは無へと帰した! これは万死に値する!」
「はっ! 考えんのは面倒なんだが……要はディヘナからお前らを追い出せば良いって事だろ? なら簡単だ……『やろう』ぜ」
戦いに己を見出すジーンにとって、目の前の存在は魅惑的な餌。
いつまでも舌舐めずりで我慢出来るようなものではない。
彼は左手に装着した篭手の具合を確認すると、愛用のミドルソード『ファデルタ』を鞘から抜く。
「ちょっとジーン!」
「いいんですよ、そんなに無理して時間を稼がなくとも。我々も『腕』を求めていましてね……その穢れた両腕、ここに置いて行って頂きましょう」
ローブの男リゴレットは、服の中から4本のナイフを取り出す。
「ジルダ。お前は適当にあしらいながら作業を続けるのだ。この程度、我がすぐに片づけてみせる」
「分かりました、ご主人様」
「では……ショーを始めさせてもらいますよっ……!」
彼は一瞬屈んだかと思うと、持っていたナイフを4人それぞれに投げつける。
同時に放たれたそれを、ジーンはルーツを突き飛ばしつつ避け、ガッツは装備していたナックル『ハーベイ』でパックと己の身を守る。
「パック、離れてて!」
「し、仕方ないな!」
守られているのに偉そうなパックは、子供のような少しふっくらとした体系を上下に揺らしつつ、その場を離れようとする。
だがガッツを無視したリゴレットは、ローブから新たなナイフを取り出すと一直線にパックへと飛びかかった!
「無視!? ちっ!」
ナイフの軌跡がパックの首元を捉えようとする刹那。
咄嗟にガッツはセンシブルを発動。彼女を武器と同化させることでそれを回避させる。
パックの姿はその場から消え、ガッツの持つハーベイの中に宿った。
(ななな、何たる屈辱! ガッツ、キミの力でとっととやっつけるんだ!)
「言われなくても分かってるわよ!」
パックの力を借りたガッツは、己の武器をいつも以上に使いこなす。
しかし俊敏で華麗な彼女の動きにすらもリゴレットは後れを足らない。
ナイフとナックルのぶつかり合う鈍い音が、辺りに何度も鳴り響く。
「中々やるじゃない! でもアルゴーの巨人に比べれば、重さが足りない! わねっ!」
「紛い物の体に宿る力など高が知れる! 貴様こそ、その程度の早さで笑わせるなっ!」
リゴレットは彼女との打ち合いの中で隙を見つけると、パックが落とした魔石を拾い上げそれに魔力を込めた。
その途端、彼の攻撃はその速度に更なる拍車がかかる。
「なっ!? ちょっとジーン! 助けに入りなさいよ!」
「悪い! こっちも手が一杯だ!」
一方のジーンは、ジルダと呼ばれる少女と戦闘を行っていた。
彼女が想像の碑を指で押すと、瞬時に魔法が放たれる。
その発射速度は尋常ではなく近距離戦闘を主体とするジーンには接近する暇も与えられない。
「なんだよお前! 詠唱も陣展開も無しにそんなもん使いやがって! まさかここまで手練れの魔術師だとはなぁ!」
「否定します。私はご主人様のスレイブに過ぎません」
「スレイブが、くっ! 魔法を使えてたまるかよ!!」
「これが創造の碑の力なのです。皆様のような冒険者にはおよそ理解もつかないでしょう」
「そうか。ならお前達みたいな上物、なおさら逃がすわけにはいかねぇぜ!」
強い者や逆境との闘いは、ジーンをより燃え上がらせる。だが彼の戦意旺盛さに反する様に状況は劣勢。
そんな主人を見守っていたルーツは、何か出来ないかと精一杯の力で小石を投げて援護する。
「マ、マスターを虐めるなぁーー!!」
「投石を感知、防御」
本来、小石1つではこの状況などどうにも出来ないはずだった。
だが魔法で丁寧に受けるジルダの判断に、ジーンは好機を見出す。
「今だっ!」
彼の全力を込めた一撃は、確かな感触を持っていた。
「ぐうっ!」
「……ご主人様?」
ガッツを弾き飛ばしたリゴレットは、一瞬でその距離を詰めジルダを庇う。
ジーンのファデルタが彼の右肩を貫いた。
銀色のローブが紅黒い液体に彩られていく様を見る彼は、不気味にその顔を歪める。
「……私に血を流させましたね。くくくっっ……良いでしょう。少し、本気をお見せします……!」
彼は自身を傷つけるそれを握りしめる。
手から流れ出す血など気にも留めず、もう一方でパックから奪った魔石を握りしめ小さく呟いた。
「……『スティール』」
リゴレットが何かを唱えた瞬間。
ジーンの剣は粒子のように弾けると、それはリゴレットが持つ魔石へと定着する。
「何ッ!?」
「はあぁ!!」
予想外の反撃をなんとか篭手で受け止めるジーン。
しかし敵の反撃はここで終わりはしない。
「ジルダ!」
「はい。『エクステリアメルト』」
ジルダは創造の碑を使い、魔法陣を作り出すと魔術を飛ばす。
ジーンを庇ったガッツがそれを受け止めたが、紅い閃光を受けた彼女のナックルは融解し、驚いたパックは同化を解除する。
「し、死ぬかと思ったじゃないか!?」
「パック、大丈夫?!」
「これで俺達は武器なし、か……しゃあ!! ここからが本番だからよぉ!!! 行くぜぇー!!」
「馬鹿! 逃げるのよ! ルーツ君も走って!」
「は、はいぃ!!」
不利を悟ったガッツは、ジーンを半ばひこずるようにして強引に逃走を図るが、リゴレットの追撃は止まらない。
そんな窮地から彼らを救ったのは、アンネッラの放つ弓矢の一閃だった。
風を纏いし矢はナイフを吹き飛ばし、魔術とぶつかって相殺される。
「エル様! 私が援護出来るのは後2発が限度ですわ!」
「それで充分なんよ!」
「オマエ、分かってるよなァ……!?」
「大丈夫。あの男はアーレニアはんに任せるんよ」
「アーレさん……オーパーツが優先ですよお……?」
「キヒヒッ! 逃げる前に殺しちまえば関係ないだろォ!!!」
逃げるジーン達の盾になるよう、エルとアーレニアが飛び出した。
アーレニアは一目散にリゴレットへ飛び掛かると、捨て身の特攻を仕掛ける。
そちらの足止めが利いている間に、アンネッラは再度魔力を込めた矢を放つ。
ジルダは魔法で矢を相殺するが、それこそエルとセーレニアの狙いだった。
「うりゃああああっ!」
距離を詰めたエル渾身の【ダブルエッジ】は、目の前の地面を大きく削り取る。
バランスを崩したジルダにセーレニアの魔法が命中、彼女の手から創造の碑が離れる。
「……きゃっ!」
「【クエスチョン】、回収して下さい……! アーレさん、時間ですよおー……!」
「ケッ、詰まらねェ……」
「逃がすと思うかぁぁぁ!!!」
セーレニアのスレイブが創造の碑を回収、エル達は敵に背を向け全速力で走り出す。
それを確認したアンネッラは残された魔力で炎を込めた矢をリゴレットの足元に打ち込んだ。
地面が炎を上げ、一瞬敵の進行を食い止める。
「今ですたくみさん! 思いっきりそれを投げて!」
「はい! クロ、力を貸して……! う~~~、それーーー!」
逃げる一行を後押しするのは、たくみと秀忠だ。
クロと同化した彼女は魔法陣が書かれた石を詰め込んだネットを、口を縛ったロープを使って思いきり遠くへ投げる。
後は秀忠が陣に込めた魔力を解放するだけだ。
「ぴかーん★……なんてね!」
まばゆい光にリゴレットは完全に動きを止める。
「魔石の価値も分からぬ愚か者共があああああぁぁぁ!!!!!」
こうして一行は敵の断末魔を背に、何とか逃走に成功するのであった。
●『スティーラー』
一行はエルの持ち込んだ箱に改めて創造の碑をしまい、クエスチョンがそれを持ち運ぶ。
帰路ではガッツとジーンが持ち込んだ情報を元に各々が意見を述べていた。
「そのオーパーツ、凄まじい破壊力でしたわ……ここまで魔力を持って行かれるなんて」
「アンネさんのお話もまとめますとお……所々にあったあの紋章は崩壊の呪文みたいですねえ……私のメモした紋章とは逆作用のようです……」
「セーレニアの言ってる事はどうでも良いけどよ……アイツ、普通じゃねぇな。あの動き、シーフのそれじゃねぇ」
道中で狩ったリザードマンの血を拭う主人に変わって【アンサー】が考えを言う。
「奴はスティールとか呟いてやがった」
「盗む者、スティーラーとでも言ったところかしら」
「とにかく、あんな状況で皆さんが無事で良かったです」
たくみの安堵した表情に和む一行。
なんとか自分達が任務を達成した事を、実感出来たような気がした。
依頼結果