プロローグ
「お祭りですかぁ~」
とある冒険者ギルドの受付嬢、【アンジェリカ】が気の抜けた声を出す。
彼女の持つ依頼書には、【第二帝都完成記念祭典へのご協力のお願い】と記載されていた。
「なになに~。平素は大変お世話になって……この辺はいいかな。えっと、近々第二帝都完成記念祭典を行います?」
先日の大規模戦闘で危険が去った事もあり、第一帝都からも多数の市民が流入してきていた。
折角町も完成した事だし、ぱーっとパーティーでも開きましょうという趣旨である。
「祭期間中には多くの出店出展や、花火やパレード等の催し物を予定しております。是非周辺各地の皆様にもご協力をお願い致したく……」
依頼主は、ディナリウム帝国宣撫(せんぶ)省広告係。
公式文章特有の長ったらしい内容に、彼女はうんざりとし始めていた。
だが、そこは流石に我らがお役所の御通達……無視する訳にはいかなかった。
「ん~……。取り敢えず色々準備してほしいって事でいいかなっ」
なんとなく納得したアンジェリカは、まず依頼書を新しく作ることを決めた。
だってこんな面倒な文章を読みたい人なんていないじゃないですか。とは彼女談。
自身のギルドで依頼し創り上げる催し。折角なら、楽しいものにしたいじゃないか。
そんな彼女の筆は止まることなく、つらつらと依頼を書き連ねていく。
「出店、屋台……まずは美味しいものですよねっ」
美味しい物が食べたい。取り敢えず食欲。
☆A:祭りの出店に関するお仕事☆
【お祭りやります! 美味しい出店をやってください! 皆で食べに行きますっ!
縁日とか楽しめるものが良い? あー、それもいいですね! 景品は美味しい物を期待してますっ♪】
最近は、ゲートという移動手段が確立されたおかげで、特にボーモンの美味しい食材が帝都にも出回り始めていた。
前もって海や山の幸を取りに行ってもらうのも良いかもしれない。
そんな思いを込めて、まずは1枚。依頼書を掲示板に貼り付ける。
「ふふふ~。これでお腹は満腹ですね! 次はぁ~♪」
☆B:祭りのパレードに関するお仕事☆
【皆様の英雄譚を再現しちゃいます! ブロントヴァイレスの剥製を用いた模型を使って町を練り歩いてもらいます!
バケモノだけじゃ寂しいので、兵士役とか木の役とかも募集しちゃいますっ! 皆様の戦いを演舞風に再現しちゃいましょう! 皆さんのカッコいい姿を期待してますっ♪】
これなら串物片手に手軽に見られて楽しめるよね!
内心ではそんな目線のアンジェリカ。どうやらお客様として祭りに参加する気満々の様だ。
~~~
翌日、依頼書を見た貴方達。
アンジェリカらしい文章になっているそれは、正直内容が全く頭に入ってこない。
なんとか解読できたのは【祭りの準備とその運営に協力しろ】という最低限のルールのみである。
頭を抱える貴方達。だが改めて考えてみれば、依頼は依頼。報酬も出る。
最低限のルールが分かったのだ。ならば後は当日好き勝手にやれば良いのだろう。
そう判断が済めば後は一直線でした。
ある者は祭りを盛り上げるため、ある者は祭りを楽しむため、この依頼に向き合いました。
~~~
時は流れて。楽しかったお祭りも最後の時を迎えます。
まさか期間中にあんな出来事が起こるとは、ギルドで依頼を受けた時の貴方達には知る由もありませんでしたが……
それはまた別のお話。
嵐のような事件が過ぎ去って、冒険者の貴方達にも祭りの空気感は帰ってきました。
そこには静けさなど微塵もありませんが、代わりに楽しさが最後の華を咲かせます。
出店で。パレードで……貴方達は、このお祭りにどんな華を咲かせたのでしょうか?
ちょっとだけ、覗いてみましょう。
※このエピソードは、大規模作戦『栄光の影に』の連動エピソードです。
イベントで起きた様々な大事件の陰で、隠された物語をエピソードにしています。
歴史の狭間、真実の隙間を埋める物語へ参加してみてください。
なお、『栄光の影に』にて選んだ選択肢と関係ないお話でも参加可能です。
解説
今回は大規模作戦で行われたお祭りを、掘り下げるエピソードになります。
楽しい方向性のエピソードになりますので、気楽にご参加下さい。
一応大規模作戦の選択肢『宴を盛り上げる』に連動した内容となります。
A:出店
その名の通り出店経営です。世界観的に難しい部分もあるかと思いますが、基本何でもOKです。
余程の無理が無い限りは、世界観に合うよう細かな改良を加えてご希望を叶えたいと思っています。
メタ的にはこんなこと出来るの? といった戦闘アクションの疑問をぶつける内容の縁日等も可能です。
GM毎に裁定の違いはありますが、どういった処理がなされるかの一例を描写させて頂きます。
B:パレード
こちらはそこそこ人数を必要としており、宣撫省からも要請が強い部分です。
グランドプロローグを再現する感じで踊りや演技を行いながら、街中を練り歩きます。
あの時にあった自身の描写を深めるプランや、参加出来なかった自分は実はこんな事をしていた!
等々、グランドプロローグ時のPCを振り返るパートとなります。
もしこうだったら~といったifストーリーや捏造も可能ですよ!
※但しリザルトの史実と異なる場合、PCが誇張をしてる、という表現は入りますのでご了承下さい。
※グランドプロローグに実際に参加された方は、プランかフレーバーにてどの選択肢に参加したかをご記載下さい。
C:お客様
A・Bに該当しない内容はこちらになります。
お祭りを自由に楽しみながら、スレイブや他PCとの友好を深めて頂ければと思います。
お祭りは出店やパレード以外にも色々と催しがありますので、そちらに参加するのもいいでしょう。
また、喧騒から離れた街外れでゆったりするのもいいかもしれません。
特にご指定が無ければ、AやBのPC達と絡みながら楽しく過ごす感じの描写になります。
ABC共通事項として、プランに記載のない交流を必要とされない方は【アドリブ不要】とご記載下さい。
ゲームマスターより
プロローグに興味を持って頂きありがとうございます。
私のエピソードに関する注意点は個人ページにございますので、お手数ですがそちらをご覧下さい。
このエピソードは、時間軸的には大規模作戦終了後の祭り最終日となります。
大規模戦では祭りを楽しめなかった方々もいらっしゃると思います。
もし宜しければ思い出作りにでもご利用下さいませ。
【のとそら】も【幻カタ】も、まだまだこれからの世界ではあります。
ですがゆっくりと着実に成長していっておりますので、2つの世界と、皆様と一緒に、私自身も成長していければと願っております。
プランに関しては何も浮かばなければ、お祭りに対するキャラクターの心情を簡単に書くだけでも大丈夫です。
世界が全力でおもてなしするよう、出来るだけこちらで上手くプランを活用させて頂き、喜んで頂けるよう精一杯頑張ります。
それでは、リザルトにて皆様にお会いできることを楽しみにしております。
【祭典】祭りの中の騒がしさ エピソード情報
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担当 |
pnkjynp GM
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相談期間 |
3 日
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ジャンル |
日常
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タイプ |
ショート
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出発日 |
2017/10/10
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難易度 |
とても簡単
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報酬 |
通常
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公開日 |
2017/10/20 |
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【B】 交流や絡み歓迎 対応は陽気、気さく
踊りはルゥラーンと組んでセクシー+アクロバティックに リードは僕、踊るの大好き 「ルゥいくよ」 要所で声を掛けてタイミングを合わせる 背中合わせてしなやかに踊ったり 腕を取ってルゥをターンさせたり アクロバティクに僕が手指組んでそれを足場にルゥが空中一回転させたり
観客の反応が良ければ 拳揚げたり手を振ったり女の子には投げキスで応えたい
どこかのタイミングで一度抜けて燃料補給に出店で何か食べたい ステファニーさんの店にも寄りたい へぇかわいい仕掛けだね キャンディ購入してその後の踊りの投げキスの演出に使用したい ルゥのほっぺでも試してみる? させてくれるかな
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キャンディストア出店。 キレイにラッピングされた小さな袋には虹色の飴が詰まってる。 口に入れて喋ると周囲にハートや星や動物や花火、丸四角三角と、色とりどりの光が漂う魔法のキャンディ。 「魔法のキャンディはいかが?貴方をステキな光りで彩る、魔法のキャンディをどうぞ」 自分達も飴を食べながらの実演販売。 カップルが飴を食べながらキスすると、周囲に大きなハートが漂う仕掛けあり。 これも時々実演。
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空屋( シロア )
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ヒューマン | シーフ | 23 歳 | 男性
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プランCでシロアと一緒に食べ歩きをメインに珍しい料理やお店などを巡る、その後パレードなどを鑑賞する
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蛇神 御影( 陽菜 )
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ヒューマン | グラップラー | 20 歳 | 女性
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【心情】祭りの敵は撃退したしダラダラする 【行動】C、お客様で動く 食べ歩きをする せっかくの祭りだし色々な店を回って飲み食いする
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C:お客様として参加。 皆さんのお祭りの状況を、「どんな感じなんだろう~おぉ!!」 って初めて見るパレードにスティレットと、 きゃっきゃして楽しみます。 もしかしたら、ディナリウムにいる雑貨屋のお婆ちゃんがパレードにきてるかもしれないので、 探して回ります。 会えたら、冒険者になって依頼をこなして楽しかったこと、嬉しかったこと、新しい発見とか話します。
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B パレードか、皆の不安を払拭するための催しものだし派手な方がいい。 そのための参加ならするべきだけど、あの時の再現って何をすればいいんだ?
剣の小道具を持って踊ればいいのか?まあお祭りだし派手にやればいいか。 あの時の事を思い出しながら剣で斬りあうように踊れば、脳裏に立っていた戦場の光景が蘇る。 よく生き残れたよな、たぶん一人じゃ死んでた。 だからこの踊りが終わったら、共に戦ってくれたシースに礼を言っておこう。 先ずはパレードをしっかりと終わらせないと、皆が元気になれる手伝いにならないからな。
パレードが終わったらそのまま露店を見て回ろう。 キャンディ?周りに幻が出るんだ、面白いな。一つ貰おう。 ほら、あーん。
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参加者一覧
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空屋( シロア )
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ヒューマン | シーフ | 23 歳 | 男性
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蛇神 御影( 陽菜 )
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ヒューマン | グラップラー | 20 歳 | 女性
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リザルト
第二都市ディヘナの完成式典。
それは七度の日の巡りをもって終焉を約束されていた。
最後の刻、貴方は今宵誰と何を為すのであろう?
これは貴方の一時が、別な一時とそっと結びつく物語。
●セカイを見つめて
ディヘナは四方を城門に囲まれたある意味で閉鎖的な空間であった。
何せ最初に人がこの場所に住み着くようになってから未だ十数年。
現在大きな勢力を誇る【帝都ディナリウム】の第二都市といえど、付近には未開である部分も多く、魔物を始めとする危険の存在は決して軽視することは出来ないからだ。
だが、今だけはその限りではない。
明かりで飾り付けられたその門はあらゆる人々の来訪を快く向かい入れる。
ごった返す人並みの中で【空屋(カラヤ)】は溜息を漏らす。
「まったく。祭りとはいえ、一体いつまで騒いでいるつもりなんだ」
「そうですね。でも……私はこういった空気感も嫌いではありません」
「そうか……なら、良い」
彼は隣に立つ【シロア】の微笑みに、何か癒されるようなものを感じていた。
彼はこの微笑みを見るためだけに、事件の起きたあの日同様この騒がしい世界へ再度足を踏み入れていたのだ。
「空屋様、今日は北側のお店に行ってみたいのですが……」
「ああ、キミが行きたいならどこへでも」
祭りが行われている区画は大通り公園と言われる場所だ。
出店はそこから少しだけ離れた通路に所狭しと開かれていた。
通路の幅は50m程、2kmの範囲で四方へ広がっているためとても一度に回り切れるものではない。
前回は東西にかけて見て歩いた2人は、今度は南から北方向へ出店を巡っていく事に決めた。
「空屋様! これ、本当に食べられるのでしょうか?」
「ん? ああ、それはウナギだ。まぁ正確にはその名前じゃないかもしれないけどな」
海上貿易などで栄える海の町、ボーモンから仕入れられたというその魚は、妙なテカリと細長くニュルニュルとした動きで見る者を驚かせる。
こんな機会でもなければ、これほどの数を見ることないであろう高級魚として扱われていた。
出店には多くの人だかりが出来ていたものの、無事に最後の2つを手にすることが出来た。
「蒲焼きか。どんな世界でもこいつを喰うならこれが良いのかもしれん。美味いか?」
「ええ! この甘味あるタレと弾力のある肉、そして仄かに口の中に広がる調味料のピリっとくる感覚……不思議な美味しさです。空屋様はあちらでもこれを?」
「ああ。俺は白焼きの方が好きだったりするけどな。美味いのに変わりない」
「私も……貴方様と一緒に元の世界へ行けたなら良かったのですが……」
「シロア。言ってるだろ? それは無しだ」
空屋は言う。自分は異世界人であると。
例えそれが真実だったとしても示す手段など何処にもなく、例えそれが嘘だったとしても証明するのは悪魔にすら不可能であろう。
人は不可解な物に敏感だ。
それに利用価値があり許容出来るものならば、それが常識となる。
それに恐れを感じたならば、全力を持って排除する。
どちらにせよ、珍しがられるのも忌み嫌われるのも面倒な事には変わりない。
そんな窮屈さあふれる世界で彼は彼女に出会った。
最初は距離を置いていた。
だが、彼女はそれでもついてきた。
彼にとってはそれで十分だった。
自分をただ真っ直ぐに受け止めてくれる少女。
真っ白な髪のキャンバスに光る赤い瞳には、信頼と誠実が宿っていた。
ならば自分は、ただその想いに応えて生きていこう。
それに場所なんて関係ない。
「空屋様! これは何でしょう?」
「待てシロア、それはくさやと言って……」
とはいうもの、この見知らぬ世界には妙な懐かしさを感じる事もある。
時にはそれを探してみるのも一興かもしれない。
そして伝えるのだ。世界には、こんなにも自分とキミとの繋がりが溢れていることを。
●Dance with Peace
大広間にほど近い場所にある大通り公園とも言われるこの広場。
これも中々の大きさを誇っており、それに連なる通路も道幅は105m程度、長さは1.5kmとパレードをするには十分だ。
辺りは整備された芝生や花壇で彩られ、夜灯りに可憐な色を添えている。
この場所が無事であったことを、デモニックである【コ―ディアス】は安堵していた。
「キミ達には感謝しきれないよ。ありがとう【ナイトエッジ】君、【シース】さん」
「別に。俺は俺が守りたいものを守っただけだ。それに奴を倒せた訳じゃない……」
「少なくともこの場所は守られた。僕達にとって大切な場所である、この舞台がね」
「今この平和を謳歌できる事、それを彩るお手伝いが出来る事、それだけで私達には充分過ぎるくらいなのです」
彼とパートナーの【ルゥラーン】は互いの手を取ると、2人に恭しく一礼する。
「僕達はダンサーを生業としていてね……魅せてあげるよ、キミの守ってくれた輝きってやつをさ」
ウインクひとつをその場に残し、ピンクのサイドテールをなびかせた彼は、彼の戦うべき場所へと向かっていく。
彼が出演するのは、パレードの始まりを彩る神と神官の行進。
ダンサーとして1週間、ずっと踊ってきたもののまだまだ表現し足りない。
(この神は、奇跡のような魔法の力を持つ魔石を司る神だと言う……敬う神がいるのなら、それに感謝を捧げればいい!)
「コーディー、出番です」
「OKルゥ、今日はナイトエッジ君達への感謝も込めた舞になる。ここ一番の華を見せよう!」
「はい!」
コーディが身に纏うのは黒を基調とした礼装。
腰回りを中心に所々から覗かせる色黒の肌には、照り返す松明の光がよく映える。
一方のルゥは彼と対称の刺繍が施された白を基調とした礼装。
ゆったりとしたドレスコーデは彼と並べば、まるで姫と執事様。
容姿だけで言えば女顔のコーディと中性的なルゥで衣装が逆な気もするが、そのアンバランスさが粋というものだろう。
それぞれの衣装に共通して施された赤の差し色が2人がパートナーであることを示していた。
「まずは肩慣らし……いくよ、ルゥ」
「お任せをっ」
今宵のテーマは神の前で禁断の愛を誓う悪魔と人間の物語。
コーディはルゥの手を取り、華麗なステップを踏む。
時に背中合わせになりながらすれ違う2人の想いを演出し、舞台の端へと場所を移せば、ルゥはしなだれかかるように反り返る。
「綺麗……だな」
「ええ。本当に」
細身ながらもセクシーな魅力を感じさせる2人のダンスに、ナイトエッジとシースも見入っていた。
「さぁ、ここから情熱的に!」
「うふふ……ノってきましたね」
曲調はアップテンポなリズムに変わる。
悪魔の囁きに心動かされた人間の姫は、惹かれるようにその動きを速めていく。
普段の淑やかでゆったりとした雰囲気のルゥからは、想像もつかない激しさ。
2人の腰元で連なった丸プレートがシャラシャラと音の重なりを広げていく。
「これでfinish!」
「いきますっ!」
そして最後はコーディの手を土台にルゥが大きく空へとジャンプ。
空中で一回転した彼女をコーディは優しく受け止める。
こうして悪魔と姫は種族の差をも、身分の差をも乗り越え結ばれる。
それを祝福するかのように神の像は、その手にもった魔石を現す灯りの光を強めた。
神の加護に捧げる感謝の舞。
2人の作り出したセカイは万感の拍手で迎え入れられたのであった。
「ありがとう! 楽しい夜を!」
コーディは観客へと投げキッス。
ルゥは深く一礼すると2人は控室へと戻っていく。
帰ってきた彼等をナイトエッジ達が称賛する。
「お疲れ様。いい演技だった」
「ありがとうございます。ですが今日は腕の角度がもう3度ほど……」
「ルゥ、彼が言ってくれているのはそういう意味じゃないよ」
天然……と言うのだろうか。
ルゥは気になった部分をマイペースに反省しそうになったのでコーディが窘める。
「どうだろうか? 君の守ってくれたもの、僕らなりに表現したつもりだけど……伝わってくれれば嬉しいな」
「大丈夫だ。あいにく口が達者な方ではないんでね。言葉では上手く言えそうにないが……素晴らしかったさ」
「そっか。ふふっ」
「何だ?」
「ああ、ゴメンね。僕は今の君みたいに素直な言葉が一番嬉しいんだよ。想いを伝えるのに着飾った言葉は要らない。まぁ時にはそれが会話に華を添える事もあるだろうけどね」
さぁ、次は君の番だ。
コーディに背中を押され、ナイトエッジとシースがパレードの列へと加わる。
彼らが担当するのはこの都市の完成前に起きた最大の事件、プロントヴァイレスの出現を再現する演舞だ。
「あの時の再現か。このパレードは皆の不安を払拭するための催し。派手な方が良いんだろうが……一体何をすればいい?」
「依頼されたのは演舞です。周りを見てみて下さい」
シースに促され彼は周りを見渡してみる。
プロントヴァイレスの模型は幅9m、奥行き7m、高さは5mと言ったところだろう。
数十人の大人達がしっかり担ぎ上げており、手足や翼を含め体中が可動出来るような仕組みであった。
頭の部分は実際のプロントヴァイレスの物が使われており、その大きく見開いた目は既に光を失ってはいるものの、おどろおどろしい面影を残している。
(まさかあんな怪物がいるとはな……)
ナイトエッジが実際に戦ったのは、かの龍よりもセンテンタリの兵士が多かった。
当時彼は囮役となり自軍の各部隊撤退までの時間を稼いでいたのだ。
だが、そこからでも見えていた程に奴は強大で凶悪だった。
思い返すほど、当事者としては嫌な思い出が多い。
勿論龍による犠牲も多かっただろうが、彼の脳裏にはデーモンにいいように利用された人々の姿が浮かぶ。
兵士として無理矢理前線に立たされた者。
何かをされてしまったのか、異形と化して襲い掛かる者。
あれだけの戦いだ。当然犠牲は避けられない。
勿論頭では分かっている。
だが……彼の心はそれを許せなかった。
大切なものが自分の手から零れ落ちる事を……完全に認めてしまう訳にはいかなかった。
「ナイトエッジ」
「……? シース?」
普段優しい彼女は、時折このような顔を見せる。
真剣で、ミステリアスで、憂いを帯びた深い黒の瞳が彼を見据えている。
「私達にとってこの場は辛い記憶の甦る走馬燈。龍の姿と祭を楽しむ人々の姿に、思い悩むのは人として当然の事。でも……先へ進みましょう。そうしなければ、貴方の望むものは決して得られはしない」
言い終えると、彼女は大きく息を吐く。
再び前を向いた彼女の顔は、普段の優しさのある顔に戻っていた。
そしてナイトエッジの双剣の一振りを手にすると、彼と向かい合う。
「剣は人を傷つける事もあれば、人を魅了する事もあります。さぁ、私に合わせて下さい」
「ああ、えっと……こうか?」
シースにリードされながら、ナイトエッジは剣舞を始めた。
いざ戦いとなれば、軽快なヒットアンドウェイで派手に立ち回る彼も、リズムに合わせて剣を振るのは中々慣れない。
「剣で戦っていた時は流石でしたが、普通の踊りはやっぱり下手ですね」
「踊ったことがないんだ、仕方ないだろう」
「それだけじゃありませんよ」
「何?」
「もっと楽しいものに目を向けて下さい」
彼は再度周りに目を向ける。
後悔という雑念はシースの演舞が切り払ってくれていた。
演技の最中である彼らに注がれているのは、子供達の好奇の眼差しだ。
「うわカッケー!」
「お姉ちゃんすごーい! がんばれー!」
子供だけではない、大人達も彼らの演舞を楽しそうに見物している。
「ほーら! 兄ちゃんも負けんなよー」
「ありがとうね~。これからも守っておくれよ~」
そんな声が届いた時、ナイトエッジの顔にもささやかな笑みが姿を見せる。
「皆を元気にする手伝いだったはずが……これじゃ逆だな」
「伝わりました? 私の言いたい事が」
「ああ。シース、スピードを上げる!」
「ふふっ、いつでもどうぞ!」
こうして2人の演舞は沢山の人々に元気と活気を与えることに成功した。
「初めてだったらしいけど、君らしさが出ていてとても良かったと思うよ」
「ありがとうコーディ」
「いやいや。君達もこの後は自由だろう? 良かったら一緒に来ない? 知り合いの出店に呼ばれてるんだ」
「同行させてもらおう」
コーディ達はパレードの輪から抜けると出店へと向かっていった。
●想い出数えて
「おぉ~!! 皆スゴーい!!!」
赤髪のツインテールが楽しそうに左右へ振れる。
「みてみて、フラン! 龍が火を吐いてるよ!」
その横では黒髪のロングヘア―がピョンピョンと跳ねる。
楽しそうにパレードを見学する【フランベルジュ】と【スティレット】を老婆は穏やかな瞳で見つめていた。
「良かったねぇ……楽しんどるようであたしも満足じゃよ」
「うん! お婆ちゃんと一緒に来れて本当に良かったよっ!」
彼女達は冒険者となる前お世話になっていたお婆ちゃんと共にこのパレードを見に来ていた。
ディナリウムからディヘナへの道中色々な話をした。
それは真っ赤な華の咲き乱れる不思議な空間に迷い込んだ人を助け出した話から始まって……。
~~~
「んーっとね、皆で赤い向日葵の中を探し回ったんだよ!」
「はえ、赤い向日葵とは珍しいねぇ。フランの髪とどっちが赤かったんだい?」
「勿論フランよ! って言いたいところだけど……あ、でもフランの赤の方が明るくてかわいくて素敵なんだから!」
「ちょっとスティレット! そんなに言われると恥ずかしいよぉ~」
「本当の事だもん。仕方ないでしょ? それよりわたしはフランを肩車したかったのに……」
それは冒険者となって初めて受けた依頼であった。
純粋に楽しいだけが依頼ではないが、やはり興味や好奇心が勝る部分も多かった。
「それでね、お婆ちゃんに教えてもらった紐の方法で無事戻る事が出来たんだよ!」
「他にもフランとは沢山冒険してね、私達猫になっちゃったの!」
「猫? そいつは凄い事じゃないかい。何があったのか教えて欲しいもらえるかえ?」
「うん! 猫探しの依頼だったんだけど、扉の向こうは眠くなっちゃう不思議な場所だったの!」
「あ、扉っていうのは、ホントは依頼主さんの家の扉なんだけど、さっきの向日葵畑とおんなじような空間になってて……」
「ほれほれ、時間はたっぷりじゃ。ゆっくり話してごらん」
「あ、ごめんなさいー。えっとフランが……」
それは不思議な空間で眠気になって猫になってしまったお話。
猫になりすぐ寝てしまったフランに、同じく猫になったスティレットは、ここぞとばかりにすり寄って寝ていたなんて事もあったらしい。
「そうだったのー? 何だかあったかいなぁとは感じてたんだけど」
「あのまま寝ちゃったらフランが風邪ひいちゃうかと思って……」
本当はフランの可愛さを一番近くで見たかったというのが理由だったのだが……スティレットはそれだけは何とか隠し通すことが出来た。
~~~
そして今、会話の話題はパレードから初めての戦闘へと移り変わっていた。
「初めての戦い、敵はリザードマンだったんだけど、私が追い払ったんだよっ!」
「そうかえそうかえ」
「スティレットのおかげでね、大剣もしっかり振るえたんだぁ~! でも、最初は私が下手で外しちゃったんだけど……えへへ」
「そんな! あれはフランのせいじゃないよ! わたしがもっとしっかり……」
「フラン、スティレット」
「何、お婆ちゃん?」
「……怖くはなかったかい?」
「……ホントはね、ちょっと怖かった。剣が当たった時、変な感触がして……」
「私も。一緒に冒険してくれた人達がいたけど……フランがケガしたらどうしようって……」
「2人とも、あたしが昔言った言葉を覚えとるかえ?」
「うん!」
「当たり前よ!」
『フランや、この世界は広いの。まだまだ見たことのないものが一杯あるのよ』
それは昔、彼女達が冒険者を志すきっかけとなった言葉。
「きっとこの先も沢山楽しい事が待ってるはずさね。でもその分辛い事もきっとある。ただどんな時も笑顔を忘れちゃいけないよ。あたしに聞かせてくれたみたいにこの世界の楽しい事、不思議な事を一杯一杯、見つけておくれ。待っておるからねぇ」
彼女にとって、フラン達が元気にこうして話してくれる事が一番の宝物なのだ。
そんなお婆ちゃんの想いを受け取った2人は、また元気な姿で会いに来るとお婆ちゃんと指きりをした。
●甘くて美味しい気持ちの形
出店の並ぶ大きな通り。ここでは【スミレ・ミナヅキ】と【サツキ】の骨付肉のステーキハウスや、【Apaiser(アペゼ)】と【Reposer(ルポゼ)】の食べすぎ対応診療所等、多種多様な屋台が軒を連ねる。
その中でも一際人だかりの多い場所があった。
それは【ステファニー】と【クラリス】のキャンディストアだ。
「一口食べると不思議な光に包まれます、貴方をステキに彩る魔法のキャンディはいかが?」
彼女達は自身の魔術を込めた飴を販売していた。
実演とばかりに1つ頬張ると、ステファニーの周囲にはキラキラとした丸や三角形の図形が浮かび上がり、喋るたびに口からは小さな星々が飛び出してくる。
「どう? 貴方の気持ちにあった面白いものが出てくるわ。 嘘だと思うなら食べてみなさいよねっ♪」
明るく辺りに宣伝を行う彼女に対して、隣に立つクラリスは顔を赤らめながらこじんまりと飴を販売していく。
それは赤いキャンディストライプのメイドワンピが為せる技か。
彼女のグラマーな体系がしっかりとした主張をしつつも、とにかく可愛いらしい。
その羞恥に弾け飛びそうだが仕事は仕事。クラリスも口から兎を出しつつ一生懸命売り子として立ち続けた。
だが彼女も飴を舐めているのであろう。辺りには熟したリンゴの幻が揺れる。
(あぁ~~~、私の可愛いクラリス……あんなに照れちゃって、うふふ♪)
普段は中々見られない表情に思わずうっとりとしてしまう。
そんなステファニーを現実に引き戻したのは、先程パレードで人々を魅了した4人であった。
「やぁステファニーさん、約束通り寄らせて貰ったよ」
「あらコ―ディアスさんいらっしゃい。そちらの方は?」
「俺はナイトエッジ。コ―ディに紹介されてな。宜しく頼む」
「ええ、では皆さんにはとっておきのやつを……」
彼女がとっておきの魔法を込めたキャンディを4人は受け取る。
「うん! これは良いね。何だかステファニーさんの優しさが伝わってくる気がするよ。味はリンゴ飴かな?」
「そうよ。嬉しいこと言ってくれるじゃない♪」
「正直な気持ちさ。ほら、ルゥも食べてみて、これ僕の好きな味だから。あーん」
「も、もうコーディったら……あ、あーん」
辺りにいるのは知人だからか、前回は断ったあーんを受け入れるルゥ。
コーディからは気品溢れるバラの、ルゥからは紫味を帯びたバーベナが現れた。
「う~ん♪ 人に愛でられる2人らしいわね。そっちは……あらっ♪」
一方ナイトエッジからは剣と天秤を持った女性のような姿、シースからは両の手を広げた聖母のような女性が現れる。
彼女の幻は彼の幻を抱きしめるようにして動かない。
それを見たナイトエッジはふと口を開く。
「これまで生き残れたのはシースのお陰だな。いつもありがとう、助かってる」
「と、突然なんですか!? そう思っているならあまり無茶しないで下さい」
「まぁ……考えとく」
「無茶するんですね……仕方ありません。なら私が貴方を見張ってます。主人に死なれてはスレイブとして困りますからっ」
そんな2人にステファニーはクラリスを引っ張りながら近づくと、隣に立つ。
「そこの初々しいお2人さん、こっちを向いて。さぁクラリス実演販売の時間ですよ~♪」
「ち、ちょっと……!」
ステファニーは周囲に見せつけるようにクラリスにキスをした。
最初は羞恥と緊張で強張っていたクラリスも、徐々に主人へとその身を委ねていく。
拒絶しているように振る舞っていても、心は正直なのであろう、嬉しさで顔もほころび始める。
勿論顔は紅潮の最高潮であるが。
2人の周囲には、淡いピンクの筋が広がっていくと、頭上で1つとなった。
これは誰がどう見てもハートだろう。
「……っぷはっ♪ どう? 2人の想い、試してみたくなぁい?」
「なっ、それは……」
「そうかい? 可愛い仕掛けじゃないか。ほら、面白いよ?」
コーディは迷うことなくルゥの頬にキスをする。
突然の事にルゥも朱に染まるが、まんざらでもなさそうだ。
いたたまれなくなったナイトエッジは、近くの飴を掴むとシースにあーんで食べさせる。
「……仕方ありません、それで誤魔化されてあげます」
●ここまでが祭です
ステファニー達が後に「愛の魔法(キューピット)パティシエール」と呼ばれる伝説の一歩を歩み始めた祭も、遂に終わりの時を迎えた。
辺りの人通りはほとんどなくなり、明日からの生活に備え街は眠りにおちる。
思い出の後先。
消えた提灯。月明りの静寂。散らばる、ゴミの山々。
夜空だけの世界で、【蛇神 御影(へびがみ みかげ)】はゴミ拾いをしていた。
彼女のスレイブである【陽菜(はるな)】もそれを手伝う。
2人はこの日一日ひたすらダラダラと出店を食べ歩いていた。
「マスター、こんなの片付けきれないですよ~!」
「何言ってるのよ。こうして腹をこなしたらまた山籠もり。折角食べた肉なんだから筋肉にしなくちゃ意味ないでしょ。ほら、テキパキ拾う」
「はい~~!」
蛇神は良く言えばストイックだ。
強者との闘いを求め、日々自身の力を高めようと研鑽に勤しんでいる。
彼女は悪く言えば所謂脳筋だ。
肉体強化や技の鍛錬には関心を示すものの、食事は栄養補給としての意味しか持たない場合も多々ある。
そんな彼女に何とか人並みの生活倫理を持ってもらおうと、陽菜はこの場所へ彼女を誘ったのだ。
「折角のお肉ならちゃんと体に味合わせて欲しいのです」
「10kgは食べてるから少しは味わう時間を与えてるわよ?」
「あうう……そういう話じゃないんですー!」
「ん? まぁいいわ」
だが決して通常の礼儀作法や倫理観が欠けているのではない。
その証拠に彼女は自分の分だけでなく、周囲に残されたゴミを片づけるほどには良識人である。
例え彼女が大食いで屋台を20軒ほど壊滅させたとしてもだ。
(勿論食材の在庫という意味である)
「さ、この辺りは大分マシになったわね。次は南側をやってしまいましょう。行くわよ陽菜」
「待って、はぁはぁ。下さぁ~いーー!」
既に足腰にき始めている陽菜を他所に、蛇神はぐんぐんと先に行く。
だがどんなに疲れていても陽菜が離れる事はない。
姉妹のような2人は常に一緒。
2人だけの優しい時間は今日も夜遅くまで続くのであった。
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