プロローグ
● うたかた蛍をご存じ?
帝都から少し離れた場所に小さな森がある。
歩いて数時間でぬけられるほどの森だが、沢山の生き物が住んでいた。
その森の奥地に、泉があって、その周辺には草原が広がっていて。
月の光を受けるとそこは、うたかた蛍のステージと代わるらしい。
蛍は、リンと音を鳴らして、暖色系の色を瞬かせ、夜を楽しく謳歌する。
その光景は幻想的で魅惑的、その光景を目の当たりに下なら、誰しも踊り始めてしまう。
そんな夜会が、今脅かされているらしい。
「と言っても、それは蛍ではなく妖精の一種なんだがね」
薬剤師クレーヌは小枝ほどの杖で糸を巻き取りながら告げた。
小さな鍋から沸き立つ煙をくるくる巻き取ると、煌く糸が出来上がる。
「この材料に、うたかた蛍のお砂糖が必要なんだがね。ここで本題」
まどろっこしい説明で有名なクレーヌ。
彼女が本題に入るころには君たちのカップの中味はからになっていた。
「最近、夜の森に夜盗が出るらしいんだ。奴らは間抜けだから今のところは蛍たちは捕まっていないみたいだ……森がぴりついているが、決定的に何か壊れた感じはしないからね」
ただ、その夜盗たちが蛍の捕獲に成功してしまうとまずいらしい。
「妖精たちは怯えて姿を見せなくなるだろうね、そうなるとこの紐を作れなくなる」
そうクレーヌは君たちの口に、鍋から巻き上げた糸を押し込んだ。それは口の中で解けると上品に甘く、美味しかった。
「この素材は魔術の基本的な触媒で、数が必要なんだ。でも、蛍たちに姿を隠されてはその採取も難しくなる」
なので夜盗を退治してきてほしい。
そう言う話だった。
「あ、ただね。せっかく行くのだから妖精たちと仲良くしておいで」
そして一緒に謳ってお砂糖、もといお星さまを分けてもらってきてほしいとクレーヌは言った。
「小さな小瓶を持って行って、歌を披露してやれば、気に行った妖精は星をくれる。その星を溶かしてこの糸を作るのさ。ちょうど在庫が切れそうなんだ。頼んだよ」
そう、クレーヌが告げると。君たちはお店からとっとと追い出される。夜には荷物をまとめて出発するように告げられて、一行はいったん店先から散った。
● 夜盗について
夜盗は森の近くを根城にしているならず者の部隊のようです、装備は皮の鎧やなまくら刀。よいとは言えません。構成員は六人程度。全員が魔術も解さぬ蛮族ですが。
体力には自信があるそうです、圧倒的に弱いですが、機動力とチームワークに優れているので確固撃破に注意してください。
また攻撃は単純な、斬りつけると言った行動のみ、技術もない様子。
● 森について。
森は半径数十キロにわたる広大な面積を誇りますが。そのほとんどが草や木に覆われていてまともに通れません。けもの道が数本あるようです。
中央の泉がある場所は半径百メートル程度の円状で。ここに妖精と夜盗が出ます。
対処をお願いします。
● 妖精について
妖精は基本的に害意を察知し身を隠してしまいます。と言っても、身を隠したとしても光は抑えきれないので暗い夜では見つかってしまいやすいのですが。
この妖精は、歌が好きで、リンリンと常に歌っています。皆さんも一緒になって謳うときっとお星さまのように光り輝くお砂糖をくれることでしょう、たくさん集めると依頼主が喜びます。
解説
目標 夜盗退治 お星さま集め
● ポイント
今回は作戦の目的が二つあります。
PCたちは、どちらをメインにするか決めることで対処しやすくなるでしょう。
夜盗退治と。お星さま集めのどちらかです。
わかりやすく言うと、夜盗を倒すのは最低条件。お星さま集めは大成功に結び付く要因です。
夜盗退治は純粋な戦闘です、森の中の立ち回りに注意すれば一対一はおろか。二対一でも負けることはないでしょう。
こちらをメインに対処するか。
お星さま集め、妖精たちと戯れ、歌い踊る役回りです。
楽器などあるとより喜ばれやすいと思います。
こちらをメインに対処するかですね。
ゲームマスターより
今回は夢のようなお話を作りたくてやってしまいました。
なかなかファンシーなシナリオをやる機会がなかったのでとても楽しみにしています。
それではよろしくお願いします。
うたかた蛍に祈る歌 エピソード情報
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担当 |
鳴海 GM
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相談期間 |
5 日
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ジャンル |
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タイプ |
EX
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出発日 |
2017/7/14
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難易度 |
普通
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報酬 |
通常
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公開日 |
2017/7/24 |
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メイン:お星さま集め スレイブのシースに妖精と一緒に歌ってもらい俺はハーモニカで伴奏しよう。 シース頼む…いや、そんな私に振るの?って、頼むよ俺はシースの歌好きだよ?とちょっとおだてながら歌ってもらおう。 ハーモニカが邪魔になるなら吹かないけど大丈夫そうかな。 歌が上手くいったらそのまま踊ってもらおう。歌って踊れるなんて凄いじゃないか、俺はシースの踊りも好きだよ?とか言って頑張ってもらおう。 はっ?俺も歌って踊る?勘弁してくれ…あ~、シースと一緒なら頑張るよ。
星を十分もらったらお礼に飴玉をあげよう、似たようなものだし気に入るかなって思って。
サブ:夜盗退治 片手剣の二刀流で夜盗を一人一人排除しているラングと連携しよう。 流石に三体一以上になると多勢に無勢で厳しいだろうしラングが戦う敵の数を減らすように攻撃して囮になる。 夜だし森の木々に自分や剣をぶつけないよう注意しつつ立ち回ろう。
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◆退治 照明器具は用意しておくが退治中不使用 獣道を利用し移動 木々の死角に注意し闇に紛れる様行動 夜盗を複数名確認出来た場合木々の死角を利用し一名ずつ排除を試みる 排除時敵に気づかれていない場合は静かに近づき背後から盾で後頭部を殴打し意識を奪う 武器が無い場合は締め落とし、気絶させにかかる 気絶させた盗賊は物陰に引き込みダフネに縄で縛らせる
敵に発見され、かつ複数を相手する場合は盾を構え距離を取りつつ相手をする 掛かってくる敵には盾で弾いてから手足を切り付け動きを鈍らせてから無力化を計る 3人以上と相手する場合は無理せず一旦退くが、人数差を付けて余裕をこいていると分かる敵が居れば即座に距離を詰め盾や背負い投げで無力化を 開けた場所での戦闘では囲まれない事を第一に置く
ナイトエッジさんとは余り距離を置かない様にし危機の際には駆けつけ加勢出来る様にする ◆服装 暗い色の修道着 フード付き
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参加者一覧
リザルト
プロローグ
『スヴェン・ラング』はその道を歩いたことがある気がした。
それは幼い頃、そうだ、その時は体が熱病のように熱かった、同時に少し歩くだけでもひどく体が痛んだ。
それでも、目の前に続く闇は暗く、濃く。
今目の前に広がっているのと同種のものだった。
スヴェンは森への道を行っている。
長い草の根をかき分けて、暗がりをわずかな灯りのみ頼りに先に進む。
だがあの時のように心細くはないのだ。
だって、仲間がいるから。
「大丈夫? スヴェン」
そう冷や汗を流すスヴェンに『ダフネ』が語りかけた。
「いや、なんでもない」
そんなスヴェンの手を取って、ダフネは瞳をまっすぐ見据えた。
「大丈夫よ、スヴェン。あなたは、あなた自身を大切にしていいの」
その瞳だけがなぜか暗がりでも確かに輝いて見えたのだ。
「そんなに暗闇が怖いなら、火をともそうか?」
暗がりで立ち止まる二人の前で『ナイトエッジ』が立ち止まりこちらを眺めていた。
その言葉にスヴェンはかぶりをふると、真っ直ぐ前を見据えて、再び歩き出す。
そんなスヴェンに道をあけるナイトエッジ。スヴェンが目の前に大きく垂れ下がった木の葉を避けると、そこは光で満ちた湖が広がっていた。
そこには美しい光景も。
「これがうたかた蛍か」
舞い散るひかりは色とりどり。月の光を映す湖にその光が淡く反射して、とても鮮やかなステージと化している。
思わず息を飲んでしまうようなステージだったが。
不吉な予感もまた、四人の背後に忍び寄っていた。
「敵襲か……」
ナイトエッジは静かに刃を抜く。まだこちらには気づいていない影が森の中を疾走して、こちらに向かってきているのだ。
第一章 迎撃。
スヴェンは敵の気配を感じ取ると闇にまぎれた。
光は使わない。もう闇は怖くないから。
そして闇に蠢く敵も、この静けさならよく感じ取れる。
スヴェンは今木の上で息をひそめている、自分たちが利用したけもの道を走って伝うものが三人ほど見えた。
敵の人数は圧倒的に多い、しかもその三人だけではない、気配は森の奥の方にも、そちらにはナイトエッジが向かった。
「……私のなすべき事をしよう」
スヴェンはそう刃を構える。そして、木にぶら下がるように躍り出て、最後尾の夜盗に一撃加えた。
盾による一撃、そしてその野党が倒れ込む音に合わせて、スヴェンは茂みの中に身を滑り込ませた。
大の大人一人が倒れ込む大きな音。振り返る野党たち。
刃を抜き、襲撃を警戒し、男を抱きかかえて頬を叩く。
何があったどうした。
話を聞きだそうとする。
その時である。
スヴェンが暗がりから躍り出た。
二度目の奇襲。戦闘歩いていた男めがけて刃を振るう。そのまま茂みの中に足を踏み込んだスヴェン。
スヴェンは背後から襲う斬撃を盾ではじく。
火花が散った。男の横顔が照らし出される。
ぎらついた瞳の男だった。
これから人間を殺せると思っている男の顔だった。
二対一。奇襲に失敗した時点で多少不利。しかし負けられる戦いではない。
「ダフネ……」
小さく相棒の名前を呼んだ。
刃と盾に魔力を通す。
その出力は筋力をサポートして大木すら切り倒す一撃を実現する。
だが敵も素人ではない。
スヴェンの、斬り伏せ。切り上げ。回転切りの連撃を見事さばき、幹に足をかけた薙ぎ。幹を駆け上がり上空からの斬撃でスヴェンを翻弄する。
「スヴェン!」
スヴェンはダフネの声で振り返った、見れば最初に昏倒させた男が立ち上がりつつある。
スヴェンはそれを見てギアをあげた。
背後に回った男にチャージ。ショルダータックルからの盾突出し。
呻いた男の右手首を抑え剣を振るえないようにしたうえでの接近。そのままくるりと男を投げ飛ばして茂みを走った。
昏倒してた野党が呻きながら立ち上がる。
「サルン!!」
後ろで男が誰かの名を呼んだ。その声に反応できず夜盗は、スヴェンにその首を刎ね飛ばされた。
血液が、スヴェンの修道服を彩った。
その血の生暖かさを感じて、スヴェンは目を細める。
首から噴出する血の勢いはとどまることを知らない。
当然だろう、心臓はまだ動き続けている。届くはずのない心臓に血を送ろうと必死に。
しかし、もうその心臓が用をなすことはないだろう。なぜならもう死んでしまっているのだから。
「この野郎!」
逆上した男が切りかかってきた。その刃を振り向きざまに弾き、スヴェンはバックステップ。闇にまぎれる。
「そんなことしても音でわかるんだぞ!」
夜盗が茂みに向けて刃を構えてそう叫んでいる。
「それは、俺も知っている」
そんな夜盗の背後にまわり、そしてスヴェンは刃を閃かせた。剣を叩き落とし腱を切り付け、後頭部を盾で殴った。
「ひぃ!」
その声に恐れの声を上げたのは、先ほどから地面に転がっている夜盗の一人。その夜盗を見下ろして、スヴェンは盾を振り下ろした。
意識を失い倒れ込む夜盗。
一気に森が静まった。
そんな森の片隅に向けて、スヴェンは声を投げる。
「縛っておいてくれるか?」
ダフネが茂みから顔を出した。
「大丈夫、でも、スヴェンは?」
「血を洗い流してくる、この格好のままでは妖精を怖がらせるだろ?」
そうしてスヴェンは川を探して歩き出す。その横顔はひどく寂しそうだった。
第二章 星集め。
夜盗の本体を相手にしていたスヴェン、彼が別働隊に襲われなかったのには理由がある。
ナイトエッジである。その双剣が左右から迫る夜盗の攻撃を捌き、先に進ませることを許さなかったのだ。
斬撃を弾き、踏み込む。切りおろしを肩に担いだ剣で受け止め。腕を伸ばす要領で剣を弾き飛ばす。
後ろから迫る斬撃をしゃがんで回避。回転しながら立ち上がって、太ももや腹部を切りつけた。
踏み込んで刃をクロスさせる、そのまま踏み込んでナイトエッジは斬撃を放った。
十字に刻まれたその傷から血が一斉に吹き出て、当たりの緑を鮮やかに彩る。
緑と赤のコントラストが美しい。それを一瞥して。
ナイトエッジは残る敵に向き直る。
奴は剣が吹き飛ばされたために、腰にあるナイフでナイトエッジの相手をしなくてはいけなくなった。
「降伏しろ」
首を振るう夜盗。
「そうか」
ナイトエッジは静かに頷き。そして。
疾風のごとく距離を詰めたそしてその柄にて腹部を強打。
くの時に折れ曲がった夜盗の首筋に手刀を叩き込んだ。
崩れ落ちる夜盗の体。
それを見送ってスヴェンは、刃についた血を払う。
森に満ちた悪意は、全てなくなっていた。
* *
泉の周りには先ほどよりも妖精が溢れていた。
その妖精の中に混じって『シース』が舞い踊っている。
笑い声が聞えた。その笑い声を彩るようにナイトエッジはハーモニカを吹かせる。
大きな石に腰を乗せて、そしてシースへと語りかけた。
「シース頼む……」
「え? 私にふるんですか?」
「頼むよ俺はシースの歌好きだよ?」
「そ、そう? でしたら」
そう嬉しそうな顔をして歌いだすシース、その音色が気に入ったのだろうか、妖精たちがシースに集まり始めた。
それがなんだか楽しくてシースはまた笑った。
「まぁ、素敵ね!」
そうダフネが両手を組んで目を輝かせていると、スヴェンが彼女の隣に立つ。
スヴェンはダフネの隣でフードを脱いだ。その美しく輝く白い髪。それが夜空いっぱいに広がって、ダフネはその光景に目を奪われた。
「どうした?」
スヴェンがダフネにそう問いかける。
「いいえ、それより、ねぇ踊りましょう」
そうダフネはスヴェンの手を取って舞う。シースの歌に合わせて身を揺らした。
「俺はこういうの、よくわからないんだが」
「大丈夫、あなたもすぐになれるわ。一緒に楽しみましょう」
それを見てナイトエッジも笑う。
「なぁ、シースも」
「え! 恥ずかしいですよ」
ナイトエッジが言いたいのは、そう……シースも踊ればいいのにという話。
だがすでに謳うだけで精一杯のシースは顔を赤らめて、絶対無理と告げた。
「俺はシースの踊りも好きだよ?」
そうナイトエッジが告げると、シースは一瞬考えて、じゃあと、くるくる踊りだす。
「その代りナイトエッジも歌って踊ってください」
シースがそう告げるとナイトエッジは頬をかいた。
「俺も歌って踊る? 勘弁してくれ……」
「私と一緒にです」
その言葉にナイトエッジは少し考えた。
「あ~、シースと一緒なら頑張るよ」
そんな二組を祝福するように森端々から妖精が集まってくる、妖精たちは祝福するように沢山のお星さまをシースとダフネに与えた。
「ありがとう」
そう言ってシースはお返しに飴玉を配る。
それにもまた妖精たちは喜んでいた。
その夜の宴は盛り上がっている雷s九、収まる様子を一切見せない。
そんな光景を少し疲れたナイトエッジは遠くから眺め佇んでいる。
シースが楽しそうだ、それだけでナイトエッジは嬉しそうだった。
そして夜空を見上げる。たまにはこんな時があってもいいだろう。
そう思って星を見つめる。
「……ちょっと最近忙しすぎたか。余裕なかったのかもな」
そんな風に日々の生活を振り返りつつ、穏やかな気分のまま、またハーモニカに唇をつける。
エピローグ
二人が帰路についたのは夜が明けるころにだった。
訪れた時には不気味に見えた森でも、その奥地に住まうのが木のいい妖精だとわかるともう何とも感じない。
ちなみに夜盗たちだったが、彼らは帝都の役人に引き渡すべく森の入り口に縛り付けてきた。
夜盗たちはここ最近数を増やしている盗賊団の一員のようだった。
『闇魔界』と彼らは名乗った。そして闇魔界の一段に目をつけられたとも言っていた。
彼らは決して舐められっぱなしにはならないらしい。圧倒的な戦力差があったとしても、相手に致命傷を与える、与え続ける。それが彼らの身上だと。
不穏な空気がここにも流れているのかと思うと、ひどくうんざりした。
ナイトエッジ達が帝都へ帰る途中に帝都からの役人たちとすれ違った。
二人は寝不足でしょぼくれた瞳をこすりながら挨拶を返して、家についたときにはすっかり高く太陽が昇っている。
そのまま二人は眠りについた。
それぞれ。月の光を浴びて、妖精たちと戯れる相棒の姿を瞼の裏に思い描きながら。
依頼結果
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