「けふっ、けふ…っ! ごふ…っ!」
雲ひとつない晴れた日。とある田舎の村長家に響く嫌な咳。
静まり返った部屋の中では思いの外、咳が反響していた。
その咳はベッドにうずくまった十歳ほどの男の子が発したもの。
近くには同い年くらいの少女が手を握り、心配そうな顔を向けている。
「大丈夫…大丈夫。お父さんが薬を買いに入ってくれているから…」
少年も少女も、薬があれば症状が良くなると知っている。
薬は比較的容易に手に入るものだったが、星降る夜が訪れてから状況が変わった。
外に買い出しに行かなければ手に入らなくなり、単独での買い出しは不可能になった。
「…は、ふぅ………うん、そう、だね」
少年は弱々しく深呼吸をして少女にそう笑いかける。少女も、笑い返す。
辛そうな表情をしていたのは2人だけではない。
「早く薬を、急いでおくれ…」
思わずそう呟いた隠れて様子を見ている村長の爺は、悲しみに顔を染めている。
症状が進めば、それだけ少年の命を蝕んでいき、果ては命を取られると思っている。
爺は少しでも早い少年の父の帰還、そして孫の元気な姿を見られるようにと外を見やった。
時を同じくして少年の父の帰り道、彼らは走っていた。
運悪く獰猛になった犬に追いかけられていたのである。
向かいあって戦うことも出来たが、戦闘経験の少ない村人達は逃げることを選択した様子。
かなり息が上がり、もうは無理だと誰かが言い始めた。
そのとき、運の良いことが起きる。
走った先にいたのは、君達冒険者達である。
「頼む、助けてくれー!」
大の大人が揃いも揃って口にしたのはその言葉であった。
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このエピソードは「日常系」エピソードです。
イベントメインの戦場から離れた場所が舞台になります。
戦いの喧騒を逃れ、一休みしてみてください。
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●●●舞台・背景●●●
帝都から少し離れた田舎町への道すがら、非力な村人たちから救援を求められます。
その村人たちを助け、田舎町の村長宅にいる病気の少年に薬を届けましょう。
●●●登場人物●●●
・タカシ(少年)
職業:村人
性格:体質的な病弱で大人しいが、本当は外で走り回りたい。
今回はただの風邪なのだが、放っておくと深刻な症状が出始める。
・ミレル(少女)
職業:村人
性格:タカシの幼馴染み。何かと世話焼きで良くタカシの看病もしている。
・モーサ(爺)
職業:村長
性格:田舎町で育ち、自然と共に生きてきた。
大地の感謝を忘れていない反面、村人を守らなければならないと言う責任感を持つ。
孫を溺愛しており、今回の症状がものすごく重いものに見えている。
・ガンタ(父)
職業:次期村長候補
性格:文系で非力。しかし、子を思う気持ちは誰より強い。
・村人
職業:村人
性格:逃げるが勝ちと教えられて育ったため、非常に臆病。
数 :2名
●●●敵情報●●●
名称:犬
性質:薬の匂いに引き寄せられて追いかけている。
弱点:攻撃に対する耐性がなく、1度でも攻撃を受ければ逃げてしまう。
●●●その他●●●
Q:ウチのキャラクター、田舎町とかに行かないんだけど?
A:その辺りは依頼を受けた帰りとか、帝都に向かっている途中など理由付けしていただければと思います。
Q:子供の病気は根本から治せますか?
A:体質的なものなので治せません。ですが、治そうとする気持ちが彼の心を和らげるでしょう。
Q:幻想的絶頂カタストロフィーは面白いですか?
A:もちろん、面白くしていきます。あなたの楽しもうと言う気持ちで、より面白くなるでしょう!
【創造の光・歪】薬を子供に届けて! エピソード情報 | |||||
---|---|---|---|---|---|
担当 | 御宮 久 GM | 相談期間 | 7 日 | ||
ジャンル | --- | タイプ | EX | 出発日 | 2017/7/10 |
難易度 | 簡単 | 報酬 | ほんの少し | 公開日 | 2017/7/20 |
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参加者一覧
ナイトエッジ( シース ) | |
ヒューマン | ウォーリア | 17 歳 | 男性 |
ジーン・ズァエール( ルーツ・オリンジ ) | |
ヒューマン | ウォーリア | 18 歳 | 男性 |
エルカ=ファンセ( レー ) | |
エルフ | クレリック | 22 歳 | 女性 |
四季神楽・冬夜( 櫻花 ) | |
ヒューマン | クレリック | 20 歳 | 男性 |
星野秀忠( みくり ) | |
エルフ | メイジ | 36 歳 | 男性 |
エルヴァイレント・フルテ( アルフォ ) | |
ドワーフ | ウォーリア | 19 歳 | 女性 |
蛇神 御影( 陽菜 ) | |
ヒューマン | グラップラー | 20 歳 | 女性 |
ワイアット・R・ジェニアス( クーサモラエスクワックェルクラントーム ) | |
ヒューマン | シーフ | 52 歳 | 男性 |
リザルト
●●●接触、冒険者の力●●●
助けてくれ、その声が聞こえたのが先なのか、ジーン・ズァエールは獰猛な犬に向かって走り出していた。
その勢いに犬が怯えて急停止をし、運よくジーンの両手剣の攻撃を免れる。
ジーンは舌打ちをし、不機嫌さを隠すことなく怒声を発すると犬は三々五々逃げていった。
中には尚も村人たちに向かう犬がいたが、エルヴァイレント・フルテが両手剣で横薙ぎをし、追い払う。
蛇神 御影も村人たちの所には行かせまいと、格闘術を用いた一撃を犬のボディーに見舞う。
二人の動きについていけない犬たちは次々と撤退し、追ってきた犬たちはいなくなっていた。
安心してへたり込む村人たちを守るように展開していた四季神楽・冬夜とエルカ=ファンセ。
冬夜は村人を落ち着かせつつ、ケガがないか確認をしている。
犬が去っていったのを確認してから、目線が合うようにしゃがみ込み、村人の状態を確認するエルカ。
近隣の村から連絡を受けて駆け付けた星野秀忠とナイトエッジ。
道すがら犬たちを追い払ってきたようで、衣類に犬の毛が付いている。
そして、急いできた様子であるものの、息は乱れておらず村人はちょっとした感動を覚えた。
村人たちの息が整ってから冒険者たちは詳しい話を聞く。
ジーンやナイトエッジは興味がなさそうな顔をしていたが、エルヴァイレントは一番に口を開く。
「それなら、うち雇わへん? 道中何があるかわからんし、うちが護衛するんよー」
「これも神の思し召し…………私は博愛なる神の使徒として一刻も早く助けに向かわねばならないのです……」
たまたま通りかかった冒険者にお願いをするのは気が引けていた村人たち。
雇うという形でも冒険者側から提案されるのはありがたいものだった。
それに財源が豊富とは言い難い田舎の村。提示された報酬も良心的な物だった。
ガンタは村人の前に出て、頭を下げる。
「助けてもらって感謝をしている。すまんが道中よろしくお願いする」
●●●襲撃、引き寄せられるモノたち●●●
小休止を経て、村に向けて出発をする。
敵に襲われるかもしれないという中、疲れた人間を連れて歩くのは自殺行為である。
……というのもあるが、冬夜とエルカがそのままの行軍に猛烈に反対したのも大きい。
「ガンタさん、ご無事で何よりです」
ガンタに歩きながら話しかけてきたのは秀忠だった。
実は以前、秀忠は嫁と一緒にガンタにお世話になったのだという。
ガンタはそのときのことを思い出し、感謝とともに質問を投げかける。
「星野さん、アンタ奥さんは……?」
秀忠の隣にいるスレイブ、みくりを見てガンタは違和感に気がついていた。
その言葉に秀忠は悲しさと嬉しさと懐かしさがない交ぜになったような笑顔を作る。
秀忠が首を横に振ると、ガンタはそうか、と奥歯をかみ締めた。
「おい、クー。いくら行先が田舎だからって露骨にいやそうな顔をするんじゃあない」
村人たちの左側を歩くワイアットは膨れっ面をしながら歩く自らのスレイブを注意する。
クー、というのは愛称で本名をクーサモラエスクワックェルクラントームという。
言葉をかけられてもなお、表情を崩すことなくワイアットをにらみつける。
「どんな場所でだって人は生活をしとる。そういう出会いも旅の醍醐味ってもんじゃよ」
「ああ、それなんだかわかります。偶然の出会いはプライスレスだから」
冬夜も人との縁を大切にしているようで、ワイアットの言葉に少なからず頷いた。
だろう?と満足気な顔をしたワイアットであったが、クーにはお気に召さなかったようだ。
冬夜がクーに話しかけようとしたとき、先頭を歩いていたジーンが咆える。
「正面と右! 俺は正面に行くぜ! 死にさらせ犬共!」
「ああ……なんて可哀想な犬たち……あなたたちには神罰を受けてもらわねばなりません……」
いいながら走っていたジーン。横にいたグラマーなシスター、エルカはその場で祈りをささげ始める。
ジーンのスレイブ、ルーツ・オリンジは柔和な笑みを浮かべるが、少しばかり寂しそうに写る。
戦闘と自分の利益になること以外に興味を持たぬ主人を見て。
そんな主人は噛み付いてこようとした犬を一閃。
次の瞬間には別の獲物を捕らえ、流れるように蹴りを繰り出し、次々と犬を撤退させていく。
最初の印象も相まって、村人たちはまるで嵐の暴風のようだと思い、逆らわないよう心に決めた。
「遅れてきた分だ、たっぷり味わえ」
「雑魚に興味はないわ。さっさと失せなさい」
右に躍り出るのはナイトエッジと御影である。
両者とも戦いに身を置き、その力を持って目的を成功へと導いていく。
ナイトエッジは片手剣を用いて切り込んで行き、時に地面に片手剣があたることを厭わず攻撃を繰り返す。
強者との戦いを望む御影にとっては物足りぬ相手ではあるが、護衛の依頼はしっかりこなすつもりの様子。
ナイトエッジが対応しきれぬ犬を的確に撤退へと追い込んでいく。
着実にこなしてはいるものの、その攻勢と一致しないほどのやる気のなさが顔に浮かんでいた。
「皆さんはできるだけ動かずに、でも何かあったらすぐに逃げてください」
冬夜は自分も逃げ出したい気持ちを精一杯抑えながら村人に指示を出す。
村人たちも声は出さずに首肯して敵を、周囲を見る。
素早い速度で撤退させられる犬たちを見ながら、逆に申し訳なくなりもしつつ。
「まあ犬とはいえああ暴れられてはな」
ワイアットも村人たちの警護に回る。
左や背後から来ないという保障はどこにも無いのだ。
それとは別に、苦笑気味に一人つぶやくワイアットであった。
「あとは大丈夫かな? おつかれー、ありがとさーん」
団体の背後、殿を勤めるエルヴァイレントも露払いを行なっていたが、ほとんどの犬は撤退していた。
村人たちとつかず離れずを保ち、要人を守る位置を保ちつつ、周囲の警戒も怠らない。
先ほどガンタから聞いた薬が容易に手に入らない状況を憂いたその顔にはやる気が満ちていた。
「ほら、これでこっちへおいで」
残った犬を秀忠は手懐けようと知識を動員させて、まずは餌付けをしようとするも、興味を示されない。
ガンタの、正確には薬の匂いの方が気になるようで、低く唸り威嚇をし続けている犬。
視線を合わせ、手懐けはどうもうまくいかず、最終的には逃げられてしまった。
スレイブのみくりは秀忠を慰めるように身を寄せる。
「学者さんはすごいなー、挑戦は大事っちゅーことかー」
「あはは……そうですね、今回は失敗してしまいましたけど……」
ほど近くで見ていたエルヴァイレントは驚いた顔をしながら、秀忠を褒める。
苦笑をしつつも秀忠は次に機会があればと思うのであった。
●●●報酬、その価値は●●●
村に着いたのは日が落ちて辺りが紅に染まる頃だった。
ガンタを先頭に、そう広くない村の中心にある村長宅までまっすぐに向かう。
途中、ガンタに付いてきていた村人は冒険者に礼を言い、それぞれの家に帰っていった。
「おおっ、帰ってきたか! ……して、そちらの方々は?」
「遅くなった。道中助けてもらった冒険者だ。すまないが、タカシに薬をやってくる」
村長宅につくや否や冒険者たちの紹介もそこそこに、ガンタは奥の部屋へと消えてく。
残された村長である老人は情けないような、安心しているような顔になる。
立ち話もなんだ、と来客用の広めの部屋に案内され、冒険者たちから事情を聞いた。
「左様でしたか。挨拶もない愚息に代わり、厚く礼を」
「なんもー、事情が事情だから仕方ないよー。敵もそんなに強くなかったしねー」
「ガンタさんは子供思いのようですからの仕方あるまい」
村長は深々と頭を下げ、自ら報酬を用意する。
エルヴァイレントはぱたぱたと手を振り、ワイアットもまた柔和な笑顔で、うんうんと頷く。
「待った。様々な事情があったとはいえ、戦える奴を一人も連れずに出歩くとどうなるか、わかってたんじゃねぇか?」
「同感だわ」
「大事な村人と身内を守れたと思えばそれぐらい安いだろ」
そう言いながらジーンは報酬額の追加を提示し、御影もそれに乗る。
村長が確かに非があると言ったとき、ルーツからここはお手柔らかにとの言葉が発せられる。
ジーンはルーツの顔を見、ため息をこぼしながらも折衷案を提示。
「今回の教訓を活かすと誓うなら、まけてやらん事もねえぞ」
「この村には戦闘ができる者がそう多くございませぬ。ですが今後、戦闘訓練を取り入れましょう」
「ったく、世話の焼けるこった」
村長の言葉にジーンと御影はしぶしぶながら納得し、当初の報酬を受け取った。
●●●田舎の村、夕暮れの語らい●●●
報酬を受け取った後、エルヴァイレント、ワイアット、冬夜、エルカはタカシの様子を見に来ていた。
薬を飲ませた少し後、容態が安定したため会って大丈夫だろうということになった。
「こんにちはー。タカシ君、大丈夫ー?」
「ん……お姉さんたちが、お父さんの言っていた冒険者さん?」
「そうそう、うちはただの冒険者ー。ちょっと、薬を届ける道中の護衛を頼まれてなー。気になったから、様子だけ見に来たんよ」
ベッドから体を起こした状態で冒険者の来訪を迎えるタカシはぺこりとお辞儀をした。
声をかけたエルヴァイレントは安心した様子で笑顔になる。
「ひとまず、落ち着いたみたいやね……よかった」
「これも皆様のおかげです。あつくれいを」
「私からも、ありがとうございます」
再び頭を下げて、それこそ村長と似たようなことを言うタカシ。並んでミレルも頭を深く下げる。
そんな我が子と我が子の幼馴染を見たガンタは驚き、目頭を熱くしている。
「お父さんとタカシ君が、がんばったから俺たちも頑張れたんだ」
そういいながらタカシの頭をなでる冬夜。
くすぐったそうにしながら、照れているような表情になる。
「そうだ、少し心得があるから、診させてもらっていいかな?」
「はい、願ってもないことです」
ありがとう、と冬夜は自分のスレイブ、メイド服を着た櫻花に手伝ってもらい問診をはじめる。
問診の最中、櫻花にしかわからない程度に一瞬怪訝な顔をする。
その顔をタカシに見られることもなく、問題ない、とタカシには伝える。
「何、大丈夫さ。今回のそれは風邪だが、君が治そうと思い努力するなら、必ず良くなる」
「そう、でしょうか。長いこと、こんな状態なのですが……」
「コレくらい平気だ、問題ない。そう言って病気であることから目を逸らさない事が大事だよ。人の体というのは思ってる以上に素直なんだから」
冬夜の柔らかな雰囲気ながらも真剣なその言葉を、胸にしまうようにタカシは自らの胸を押さえる。
そっと、添えるようにミレルもタカシの手に手を重ねる。大丈夫、と後押しをするように。
「ああ……神よ……穢れなきこの子より悪しき病魔を祓ってくださいませ……!!」
冬夜と同じくクレリックのエルカは邪魔にならないように移動しつつ、祈りをささげていた。
人のために祈り、人のために在る。その姿はシスターらしさを体現しているとも言える。
「お姉さん、タカシのためにありがとう。私もよく祈るんだけど何か利くお祈りはあったり……しませんか?」
エルカの姿を見たミレルは真剣な目をしてエルカに問う。
良き隣人に会えたときのような、なんともいえない嬉しさからエルカは安堵する。
では、と様々なお祈りを伝授するエルカ。勉強は苦手なのか、飲み込みは悪いが一生懸命に習うミレル。
「まあ世の中思い通りにいかん事も多い。だがそれでもなんというか、いい感じに生きてる奴もたくさん見てきた」
「いい感じ……ですか?」
「ああ、そうだ。坊主、嬢ちゃん。お前さん方、何か夢とかないかの。行きたい所とか、あれをしたい、とか。」
「僕は……」
ワイアットに夢を問われると、仄かに熱い視線をミレルに向けるタカシ。
幸い、エルカにお祈りを教わっているためミレルは気が付いていない。
クカカ、とワイアットは笑い、冬夜とエルヴァイレントもつられて微笑む。
「そうかそうか、すぐには難しいかもしれんが、それができるようになった時の為にこの爺さんの体験談を聞いておくのも悪くないかもしれんぞ?」
「そ、それって……その、夜の……?」
「ん? ああ、坊主が想像していることは、ちと刺激が強かろう。もう少し大きくなったら話してやろう」
顔を赤らめていたタカシにワイアットは意図を察し、その話題は避ける。
察せられてもいいはずのガンタは不思議そうな顔をしていた。親としては頼りないかもしれない。
そうして、ワイアットの体験談が始まり、エルヴァイレントも楽しそうに聞き入る。
「っと、俺はこのあたりで。元気にしてるんだよ、タカシ君」
「っ、はい! ありがとうございました!」
「ガンタさん、少しいいですか?」
体験談の中、冬夜はガンタを連れ出し、できるだけ人気のないところに移動する。
最初は何かと思っていたガンタも、先の問診に何かがあったのでは、と不安に駆られる。
「ガンタさん、よろしければこれを」
「これは……」
冬夜がガンタに渡したのは問診の結果をメモしたもの。
食い入るように内容を見るガンタに、もう一枚追加で紙を渡す。
「簡単な問診だけですので正確なことは言えませんが、こういったことに注意するようにしてみてください」
「ありがてぇ……恩に着る」
冬夜が渡したのは体質に依存する対処法であった。
村長とは似つかぬ礼をするガンタの目には涙が浮かんでいた。
冬夜は微笑み、次を見据える。
「村の方々で体調の気になる方や体調の悪い方がいれば診たいのですが……もしよければ、ご同行願えませんか?」
「……ああ、案内する」
それ以上を口にしてしまえば涙があふれるほど、気持ちが溢れるガンタ。
ガンタの様子を知ってか知らずか、まだ見ぬ人に思いを馳せる。
その冬夜を少し心配そうな目で見る櫻花の視線に気が付き、微笑む冬夜。
「大丈夫だよ、偶然の出会いはプライスレスだから」
冬夜の出張問診も少しばかり続きそうであった。
●●●宵暮れ、食事処にて●●●
ジーン、ルーツ、御影、そして御影のスレイブ、陽菜は唯一の食事処で席を囲んでいた。
特に誘い合った訳ではなく、お互い祝杯とも言えぬが腹を満たすためにここに来ただけ。
幸い、酒も提供しているので不満はなかった。
「あんた、結構やるじゃない」
「はっ、相手が雑魚過ぎただけだ。護衛前の依頼も雑魚だったしな」
御影から話すのは珍しいと陽菜は思いながら、今日の戦闘を見ていると納得できるような気がした。
幼少の頃から格闘術を学んでおり、強者と戦いを求めている御影にとっては相手が強ければ興味を持つ。
そもそも、クールに見えるのは興味を持っていないからである。
御影に対しジーンは本当に歯ごたえがなかった、とフラストレーションを露わにしている。
周りからはどんな組み合わせに見えてるかわからないが、強い弱いと言い合いながらご飯を食べる二人。
「……何なら表で一戦してみるかしら?」
「……悪かねぇな」
ニィ、と嗤う二人にルーツと陽菜はまたか、という感じで見ていた。
ご飯もそこそこに、勘定を済ませて表で模擬戦が始まる。当人たちにとっては『戦い』なのだが。
余興が少ないこの村に面白そうな二人が戦う、というのは十二分に見世物になる。
窓から身を乗り出す者や、ジョッキをもって観戦する者もおり、店員も表にテーブルを出すなど大わらわ。
「怪我してもしらねぇからな」
「それはどうかしら。案外、怪我させられたりして」
「言うじゃねぇか!」
口火をきったジーンが突撃し、それをふわりと避けて反撃をする御影。
しかし、見えていたかのようにジーンは反撃を避ける。
お互い初撃をはずしてしまったが、それでこそと闘志の燃え上がりを感じる観客。
「面白れぇ……なら、これならどうだ!」
「……っ! 大味な攻撃、だけどこれなら……」
「つっ!? なるほど、やるじゃねえか」
「あんたもね」
一撃当たっては一撃を避け、一撃避けては一撃を見舞うジーン。
それに対し、御影は一撃受けて一撃を与え、一撃を避けては一撃を避けられる。
対称的では在るものの、村人たちから見ればその実力は拮抗し、よい試合をしていると感じていた。
興奮のあまり、二人が流している血の量を考えるのを忘れるほど、すでにイベントになっているようであった。
「みくりさんとは、ここの店でレモンパイを食べたりしましたね」
そんなジーン、御影のを他所に秀忠は店の中でみくりとともにレモンパイを頬張っていた。
外が騒がしいが、亡くなった嫁との思い出が掠れるわけでもなしに、その味をかみ締めていた。
秀忠は犬を連れて帰れないことに悔しがっていたが、みくりとここに来られたのは僥倖であった。
もともと新婚旅行の思い出めぐりとしてこの村の周辺を回っていたのだから、いつかは来ると思っていた。
しかし、世話になったガンタにある程度お返しができ、息子のタカシも大丈夫そうであった。
命の巡りを感じながら、酸味があるものの、甘くおいしいレモンパイをもう一口、とするのであった。
●●●帰路、その次を●●●
報酬を受け取ったナイトエッジは次の依頼へと出発をしていた。
ナイトエッジにとっては近くに救援依頼があったから出向いただけ。
向かうのは次の場所。それが町なのか、はたまた帝都なのかはわからない。
けれど歩みを続ける。それが正しいのだと信じて。
村長宅ではタカシは少し興奮気味であった。
「少なくともワシに比べればお前さん方には無限といっていいほどの可能性がある。だから、焦らずできる事をすればいい」
そう言って村を出発したワイアット達冒険者の背中を見送った。
ワイアットの話した体験談が気に入ったようで、ミレルやガンタ、村長にそれは楽しそうに話していた。
時折入っていた、エルヴァイレントの話もまた、楽しそうに語っている
体験談や話の多くは村の外のお話。タカシにはそんな体験をしてみたいという、夢ができた。
もちろん、元からあった夢はそのままで。
ミレルもエルカから教わったお祈りの数々を随所で使うようになった。
エルカにとっては万物、万人のためのお祈りだが、ミレルはその終着点がタカシになっている。
何がミレルをそこまでするのか、ミレル自身にはまだわかっていないようであった。
そんな二人を見ながら、ガンタは幸運に感謝していた。
あの後、冬夜と村を回り、何人もの人を問診していた。
「うん、薬も大丈夫そうだね。怪我をしてるなら言ってくれ。簡単な応急処置は出来るさ」
疲れているはずの体を使い、それでも笑顔を絶やさない上に、本人や保護者に対処法を渡していた。
外界との接触が途切れた今、情報の伝達も著しく悪くなっており、最新の情報をつかめない状況にあった。
それに例えガンタが言ったとしても、専門外のことで、その情報が正しいかすらわからなかったのだ。
これを機に、クレリックへの道を目指し始めたガンタであった。
食事処の前にできた簡易的な囲い。
それを設置したのは村長であったが少しばかり懸念材料でもあった。
あの夜、ジーンと御影が模擬戦―――とは言いがたい本気の戦闘―――が繰り広げられ、大いに盛り上がったというのだ。
方や両手剣のウォーリア、方やナックルのグラップラー。
一進一退の攻防戦を前にして村人たちは知らなかった戦闘への欲求の高鳴りを覚えたと。
その言葉のすべてを信じるわけにはいかないが、戦闘訓練を増やすと約束してしまった手前、ちょうどいいとも思えた。
囲いができた翌日から使われたが、どうにも盛り上がらないことが多かった。
しかし、その場に集まった若い者たちが「どうすれば盛り上がるのか」と考え議論を展開していた。
その姿を見た村長は変革の時代が来たのだと、悟る。
そうして、ひとつの村が大きく変わるきっかけとなった冒険者達。
その名前は少しばかりの間、村に知れ渡ることとなったのでした。
依頼結果
成功
|
依頼相談掲示板
【創造の光・歪】薬を子供に届けて! 依頼相談掲示板 ( 18 ) | ||
---|---|---|
[ 18 ] 四季神楽・冬夜
ヒューマン / クレリック
2017-07-10 22:26:51
|
||
[ 17 ] 星野秀忠
エルフ / メイジ
2017-07-10 11:00:37
|
||
[ 16 ] エルヴァイレント・フルテ
ドワーフ / ウォーリア
2017-07-10 00:32:25
|
||
[ 15 ] ジーン・ズァエール
ヒューマン / ウォーリア
2017-07-08 20:06:40
|
||
[ 14 ] エルヴァイレント・フルテ
ドワーフ / ウォーリア
2017-07-06 23:06:31
|
||
[ 13 ] 蛇神 御影
ヒューマン / グラップラー
2017-07-06 21:57:30
|
||
[ 12 ] 四季神楽・冬夜
ヒューマン / クレリック
2017-07-06 21:40:06
|
||
[ 11 ] ワイアット・R・ジェニアス
ヒューマン / シーフ
2017-07-06 18:45:32
|
||
[ 10 ] 星野秀忠
エルフ / メイジ
2017-07-06 16:07:26
|
||
[ 9 ] エルヴァイレント・フルテ
ドワーフ / ウォーリア
2017-07-06 13:27:44
|
||
[ 8 ] 四季神楽・冬夜
ヒューマン / クレリック
2017-07-06 10:18:15
|
||
[ 7 ] ジーン・ズァエール
ヒューマン / ウォーリア
2017-07-06 09:49:54
|
||
[ 6 ] ナイトエッジ
ヒューマン / ウォーリア
2017-07-05 09:36:41
|
||
[ 5 ] 星野秀忠
エルフ / メイジ
2017-07-05 09:00:33
|
||
[ 4 ] ワイアット・R・ジェニアス
ヒューマン / シーフ
2017-07-04 23:55:19
|
||
[ 3 ] エルヴァイレント・フルテ
ドワーフ / ウォーリア
2017-07-04 23:18:40
|
||
[ 2 ] 蛇神 御影
ヒューマン / グラップラー
2017-07-04 22:05:28
|
||
[ 1 ] 四季神楽・冬夜
ヒューマン / クレリック
2017-07-04 21:55:53
|